ほーい。と言うわけで。盗品蔵についたスバルくんが、フェルトと交渉して徽章を買い取………ろうとして、エルザを引き合いに出されてうまくいきませんorzな状態までいきました。僕です。
今は丁度盗品蔵の裏口から観察してる最中です。
僕だ。
いやね、やっぱり名シーンは見逃せないかなぁって。ラインハルトがきたら速攻で退散する予定ではあるから、三秒で逃げる準備はしてるんだけど。でも、さすがに窓から覗き見させていただいてます。エルザがきたら窓とかバレそうだから屋根に逃げる。
屋根……隠れる……うっ頭が。
まぁ、フェルトが逃げたら逃げればいいや。うん。全部終わった後にヒョコッと顔出すことにしよう。
さてさて。そんなこんなで、揉めてる間にお客様のご来店だ。
「───開けるな!!殺されるぞ!!」
「殺すとか、そんなおっかないこと突然しないわよ」
ほい。銀髪のハーフエルフ。スバルくんのずっと探し求めていた、ついでに今の僕の護衛相手である、エミリア様のご登場。
あとパック。
窓とかバンバン割れそうな雰囲気だったので場所を屋根に移し、修理したボロ屋根の一部をちょちょっと剥がして陰魔法で見えなくする。パックなら気づきそうだけど、暫くはエルザにかかりきりになるし大丈夫だろ。
というわけで、即席観客席の完成。おー、頑張れエミリア様!後ろから敵が来てることに気がつかない未熟なエミリア様!
だが、そっちを向いているスバル君は当然気がつく。
「パック、防げっ!!」
と、パックが氷の盾を作って対応と。不意打ちを狙ったのは誰であろう、能登さん、もといエルザだ。
徽章の盗みを依頼したのに持ち主がいるなんて論外だからフェルトごと殺すぜ〜ヘイヘイ!的なことを言いつつ、見事にスバルに時間稼ぎされ、逆にパックに不意打ちを決められる。
「まだ自己紹介もしてなかったね。僕の名前はパック。名前だけでも覚えて、逝ってね!」
やっばり猫が暴力的な言葉を吐くのはいいな。好きだ。屈強な猫は性癖に刺さります。
だが、その一撃は仕込みのマントで防がれる。魔法を一回無効化する術式が編み込まれているらしい。その後はパックと互角の勝負……まぁ若干手加減してるパックが押してるけど、いい感じに渡り合う。
うん、やっぱ人外だよね。僕でもエミリア様とタッグ組まれたらかなり厳しい。実際模擬戦的なことして何回か負けてるし。『虚飾』使えばいけるだろうけど。
と、エルザが足元の広がった氷で一瞬足止めを喰らった。
「無意味にばら撒いてたわけじゃニャいんだよ?」
「してやられたってことかしら」
「年季の差だと素直に称賛してくれていいとも。おやすみ〜」
かめはめ波!と言わんばかりに放たれた氷の柱。それをなんとまぁ、凍った部分を肉ごと引きちぎって回避するエルザさん。ヒェッ。お前は自虐大好きなドMか何かか。ハリウッドのスタントマンでももっと仕事を選ぶぞ。
「女の子がそんなことするのは感心しないなぁ……」
はい。渾身の一撃を躱されたパックさん。残念ながら時間切れで退場。光の粒子になって消えていく。はーつっかえ。そんなんだからパックソとか言われるんすよ。
つーわけで、実質エミリア様とエルザの一対一になったわけだけど。まぁ、こうなるとエルザに天秤が傾く。何回でも蘇る系の人だし、そもそも踏んだ場数が違いすぎる。
ロム爺が割り込んで加勢するが、まぁ以前のようにあっさり撃破。フェルトの割り込みがあって腕こそ千切れなかったものの、かなりの深傷だ。
「悪い子。覚悟も戦う力もない。ならばせめて部屋の隅で、小さくなっているべきだったのに」
エルザが標的をフェルトへとチェンジさせ、その凶刃を振り下ろす………のを。
「はいだらぁぁぁっ!!」
スバル君がフェルトを抱えて回避。わ、凄。命の危機でもそこで動けるんだ。やっぱりいいな、スバル君。そういうとこが主人公だ。
エミリア様が引きつけてる間に、どうにかフェルトを逃す算段を立てるスバル君。………むぅ。流石にフェルトが逃げたら、この場を去らねばならぬ。くそぅ。時間か。
ロム爺の落とした棍棒を握りしめ、エルザへと襲いかかるスバル君。当然躱されるが、その隙こそ狙いだ。
「狙いは上々。殺気が出過ぎて見え見えなのは残念ね」
「残念ながらそれの制御方法は知らねぇや!今だ、いけよ、フェルト──!!」
叫びに弾かれたように、フェルトの矮躯が風に乗って駆け出す。早っ。
氷柱の障害も凍結した床も踏破し、フェルトは出口を目指す。投げナイフが投擲されるが、スバル君がテーブルを蹴り飛ばして防いだ。
………最推しがミラクルを起こしすぎな件。うっそお。あんなのできる気しない。でも、すぐにエルザに蹴られて吹っ飛ばされるんですけどね。
少しエルザにイラッとしたのは内緒だ。
さて。でもそろそろ時間だ。名残惜しいけど、いい加減ここを離れないとな。
「仕方ないわね。ダンスの相手はあなたでいいわ。せめて退屈させないで頂戴ね」
「俺とダンス踊るつもりなら腹括っとけ!教養とかないからバンバン足踏むぜ!フォークダンスで泣かせた女子は数知れずってな!」
精神ダメージを負いながら、なんとかエルザの速度へと追いつき、一撃だけでも防御することを考える。
「こっちのことも忘れないでよね!」
「いい加減、その遊戯も飽きてきたわ」
スバルに向かうエルザを止めたのは、氷塊を浮かべて防御を重ねる少女だ。パックがいなくなってから攻撃の手段が若干乏しくなっているせいで、どうにも決定打が足りない。
「くっそ……禁断の秘められた力とかあったりする?出しとくなら今のうちな気がするけど」
「あるけど、使ったら私以外誰も残らないわよ」
「まだまだイーブン!よっしゃファイト!まだやれるっての!」
………逆に。そういうスバルには、最後の手段があったりするのだが。
出来れば使いたくない。そもそも使えるかが不明瞭だ。切り札と呼ぶのもおこがましい。決まれば間違いなくこの状況は打破できるだろうが。
体をジタバタさせて元気さをアピールするスバルを見て、銀髪の少女は戦いの最中だというのに少しだけ頰を緩めた。
「やらないわよ。まだこんなに一生懸命、あなたが頑張ってるのに。足掻いて足掻いて足掻き抜くの。───親のすねをかじるのは、最後の手段なんだから」
困ったような微笑。それでも、目の前の美少女がやると絵になってしまう。
絵に、なるのに。
「あーもう!ノーカン!ノーカンだ!」
「え?」
「そんな笑みさせたくて、俺はここまできたんじゃねぇもんな!割り切れ俺!」
その笑みを、笑みと認めたくない自分がいる。スバルは、こんな困ったような笑いを見るためにここまで繰り返してきたわけではないのだ。
全く、引きこもりのスバルらしくない感情だ。強い自分を感じさせるその顔が、本当に綻ぶところを、見たいと思ってしまうだなんて。
諦めてしまいそうな、受け入れてしまいそうな、そんな弱々しい表情の変化が、初めて得た彼女の『笑み』だなんてとても許せない。
「もういいかしら。それじゃあ、フィナーレと洒落込みましょう」
ぐっ、とエルザが踏み込み、容赦のない苛烈な攻めが展開される。氷の盾で以って少女が必死に防ぐが、かなり劣勢なのはスバルの目から見ても明らか。
「ああもうクソっ!!結局頼るハメになんのかよ!我ながらなっさけねぇ!」
もう、使えるものは全て使う。そう決めても、やはり躊躇いは残る。が、ここで共倒れになるくらいなら、試さないよりは五億倍マシだ。
「何か策があるの?」
「あぁ、とびっきりのな!できれば使いたくなかったことこの上ないが……」
「そういうのはいいから、自爆技じゃないなら使う!もう長くは持たないわ!」
了解、と一声かけて、ふぅと一瞬息を整える。最後の手段として取っておいたその選択肢を、声高に叫ぶ。
今までの四周での経験から来る仮説を、今現実にするとしよう。
曰く。
「来てくれ!リルっ!」
他人に頼ることができるのは、スバルのいいところなのだそうだ。
………え?
いやいやいや。そこはほら、ラインハルトとかじゃないの?そこでわざわざ僕?
何もしなくても、もうすぐラインハルトが解決してくれるんだよ?そんな高らかに叫ばなくてもさ。
はいはい、聞こえてます聞こえてます。こちらリルですけどさ。参戦するつもりあんまり無いんだけど?
……にしても。
へ〜。ふーん。いざとなったとき、ラインハルトじゃなく僕を頼るんだ。
へ〜、ほ〜ん。
………ふ〜ん。
いやぁ、しょうがないなぁ!スバル君は!
今回だけ、今回だけだからね!そんな名前を呼ばれただけで参上するほどチョロくないつもりなんだけどなぁ!
いやぁ、しょうがないな〜!だって名指しで呼ばれちゃったもんな〜!不特定多数で呼ばれたラインハルトとは違うもんなぁ〜!
「ほんと、しょうがないなぁ!!」
全力でかかと落としを行い、盗品蔵の屋根をぶち破る。
派手な音が鳴り響きながら床、もとい屋根が崩壊し、目下には武器を構えて瞠目するエルザと、意外なものを見たような顔をするエミリア様。
そして、安堵を混ぜつつも少し申し訳なさそうに目を伏せるスバル君。
そんな表情見せられたらね!もう、やる気出すっきゃないよね!おじさん、頑張っちゃうぞ〜!
二転、三転して落下の衝撃を殺し、未だ動かないエルザを回し蹴りでガラクタの山へと吹き飛ばす。足場が安定していないから大した威力にはならないだろうが、吹き飛ばすには十分。
砂埃と廃材を撒き散らし、エルザはゴミの山へと突っ込んで見えなくなる。メイド服で動きにくい今では、これが限界か。
「悪りぃ。やっぱ近くにいてくれたか、助かった!」
「ありがとうございます大変助かりました、俺の身も心もリル様に捧げます?」
「飛び立ったのを疑うレベルの空耳だな!?」
軽口を叩きながらも爪先で床を叩いて皮靴を整え、吹き飛ばしたエルザへ対応するためワイヤーを取り出す。今回はガチで殺すし、映えるからこっちで行くとしよう。
最推しからの期待に応えるのだ。これぐらい格好をつけなきゃ、やっていられない。
「……それにしても、リルを呼び捨てにするだなんて万死に値する不敬だね、スバル。首を落とすよ?」
「ごめん、妹の結婚式があるからさ。その万死、親友の連帯保証人がいるからそっちに肩代わりしてもらっていい?セリヌンティウスならぬ、エルザさんって言うんだけど」
「……承知」
クイ、と歯と両手で糸を張りめぐらせ、準備は万端。
「お客様、せめて良い旅路を。ロズワール辺境伯が従者、リル。全力でお手伝いさせていただきますね?」
あーあ。嫌なお仕事のはずなのに、心の底から笑えちゃうよ、全く。