愉悦前だからまだまだ楽しんでいってください。
はい。庭に出るということで両姉様と別れてスバル君とエミリア様を庭で運動してもいいところに連れて行っています。僕です。
ぶっちゃけ二人を見ててぇてぇしたいだけ。
僕だ。
ロズワール邸の庭は、体が暖まってくるようなくらいの適温で、程よく涼やかな風が吹いていた。それがエミリア様の髪を揺らし、それにつられてスバル君の視線が動いていく。おい、庭を見ろ庭を。
ロズワール邸の庭を眺めて驚くスバル君に、何故かドヤ顔をするエミリア様。なんでエミリア様がドヤ顔してんの?
「どう?ここ、なかなかのものでしょう?」
「うわ、確かにこりゃすげぇ!原っぱに噴水に……こりゃ庭ってか庭園……ってか国の遺産ものだろ。やべぇ。ここの観察だけで一日は時間潰せそうだ」
ふっふっふ。そうだろうそうだろう。これを作るためにめっっっちゃ苦労したからね!!美術苦手だったのに!!
庭園は洋を中心として、ところどころに和を混ぜた日本人にも馴染みやすいよういいとこ取りにしてある。花は花畑のように全体的ではなく一ヶ所にそれぞれ纏めて、低木は少しだけ遊び心を加え不規則とまではいかない幾何学模様。流れる小川はずっと見ていられるようにメートル単位で様々な要素を取り入れ、工夫を凝らした。
未だ僕の手と下姉様によって発展を続けるこの庭は、いわば僕のロズワール邸での生活そのものと言っていい集大成なのだ。かかった時間も相当で、満足いく出来になったのはそう昔のことではない。
多分、元々のロズワール邸の何倍か見栄えが良くなっているんじゃないだろうか。当然だよね。一時期は家事の類とかより庭を優先してメイドより庭師っぽくなってたし。
「これ全部リルがやってんのか……!とんでもねぇな!」
それもこれもスバル君と、あと一人に見せるためでもある。アーラム村からこれを見るためだけに来る人がいるくらいだ。自信はあったが、やはりここまで褒められると嬉しいものがある。
「全てリルの功績というわけでもありませんが。下姉様と、つい先日までいた先輩のメイドとの合作です」
「はええ……ちなみに、一番のこだわりポイントは?」
「特にで言えば、庭先の花でしょうか。この季節は黄色の花達を育てていますが、今年は種の頃から特別力を入れております。一面に咲く花達をみていると、心が晴れやかになりますよ」
「おお、すごい玄人っぽい返事が返ってきた!」
黄色い、一面の花畑。ついでに種から育てた愛情深い花。あとは……わかるな?
ちなみに、庭園を荒らした人にはおしおきが待ってます。上姉様は一度庭園を手入れという名目で荒らし、二日間僕に完全に無視されてからノータッチを決め込んでいる。
そうして運動ができそうな芝生に着いたところで、早速スバル君が屈伸を始めた。僕としては見慣れているが、この世界では未だ見たことのない動きだ。
「珍しい動きね。何してるの?」
「おっ、ラジオ体操知らねぇのか。よし、そんじゃ二人とも。俺の真似してやってみよう。ラジオ体操第二!足を肩幅に開いて、両足で飛ぶ運動!」
む、第二。小学校の夏休みの朝のラジオ体操でしかやったことないからちょっと新鮮だが、何とかアカペラで歌うスバル君についていく。メイド服でやるのはなかなか辛いものがあるな。スカートめくれそう。
にしてもこう、なんで第二になってくると曲の変調が多いんだろう。合わせるのも一苦労だ。面白いからいいけどさ。
でも後半になると体も覚えているもので、スバル君を真似ずとも合図と共に動くことができるようになった。
「ほい。最後に両手を掲げてヴィクトリー!」
「び、びくとりぃ!」
「ビクトリー」
そこだけ覚えていた最後の改変にも完璧に対応し、見事踊り切ったことを確信。これは80点は固いぞ。
「うんうん、エミリアたんは中々筋がいいな。………リルはあれ?元々知ってたクチ?後半もう俺とほぼ同時にやってたけど」
「こんな摩訶不思議な踊りはやった覚えがありません。が、相手の次の動きを観察して予測する訓練としてはなかなかいいと思います」
「そういうやり方じゃねぇからこれ。めちゃくちゃ殺伐とした理由に結びつけられたな」
割とそういうやり方も出来そうだ。今ならあの『もうこれ別の意味の体操だよね』とされるラジオ体操第四すらやれそうな気がする……多分。確信を持てないあたりが日本人のヤバさを感じる。
さて、体もあったまったしお暇しよう。屋敷の方で上姉様が手招きしてるし。
「それではお客様、エミリア様。リルは朝仕度がありますのでこの辺りで。どうかごゆっくり。お庭の詳しい案内が必要でしたら、いつでもお申し付けください」
「おう、また頼むわ。……にしても、リルのその態度は慣れんな」
「お客様はエミリア様の恩人ですので。ご心配なさらずとも、お客様の目がないところではちゃんと不審者と陰口を……」
「知りたくなかった裏事情!?」
「冗談です。……
最後は友人らしく、礼ではなくフリフリと左手を振って退散する。……スバル君の友人という事実で既に報酬としてはこれ以上無いんだよね。今後のことも含めた意味で。
去り際に、スバル君がエミリア様とラジオ体操の「ちゃんちゃんちゃらちゃん」を唱え合っていた。は?萌えるが????なんだあの可愛い生命体?????
エミリアがその一言を発したのは、精霊が身を宿すらしい精霊石から飛び出したパックを、エミリアを助けたお礼としてモフりにモフっていた時だった。
「………ほんと、スバルって不思議よね。パックに怖がるそぶりもないし。ハーフエルフの私に冗談でも色目だって使える。それに、リルとだってあんなに仲良くなるなんて」
「ん?なんでそこでリル?どゆこと?」
猫を怖がるほどスバルはモフリスト初心者ではないし、エミリアに惚れているのは冗談でもなんでもない。……が、リルと仲良くなる、というのはそこまで珍しいことなのだろうか。
確かにクセこそ強いかもしれないが、あれで人懐こいところがあるし、……他人のために死んでしまえるくらいには他人思いだ。それにあの容姿なら、スバルの世界ではかなりの人気者になりそうなものだが。
「リル、あれですごーく真面目で人嫌いだから。屋敷の人以外に懐くところなんて見たことないの。私もそうだし。あの二人以外で敬語が外れてるところなんて初めて見ちゃった」
「え、嘘。そんなに?」
「そうだね。初対面で失礼なこと……例えば姉二人を馬鹿にするとかすると、もんの凄い怒気で客だろうと威圧してたりするよ〜」
「う、言われてみれば」
呑気に喋る手の中の猫をモフリながら、思い出すのは三周目。あちらにとっては初対面で腕を掴んでしまったとき。あの時はかなり冷たい視線を浴びせられた。
そう考えると、初対面でギザ十を渡そうとした今回のスバルはなかなかに危ない橋を渡っていたわけだ。それに対するリルもリルだったと思うけども。
「にしても、エミリアたんに懐かないってのは?頭小突いてたあたり、仲良さそうだったけど?初対面でドロップキックとかした感じ?」
「そんな失礼なことしません!仲良くなろうとはしてるんだけど……多分、レムが……」
「なんでそこで姉の名前がでてくる……?」
不明瞭な家族関係に首を傾げるスバル。この泥棒猫!的な展開だったりするのだろうか。あながち間違ってない気もしないでもないが。
「まぁ、スバルは気にしなくていいと思うよ。一回仲良くなった相手にはなんだかんだ甘いとこあるし」
「ほうほう、それじゃあメイドという立場につけてあんなことやこんなことやをしても……」
「多分
「マジで!?」
驚愕。いくら年上好きのスバルといえども、ちょっとだけ。ほんの僅かだけど心が揺れ動かないこともないような……
「………パック。やっぱりスバルって……」
「そうだと思うよ?悪戯ってネコ科らしいでしょ?」
「え、なになに。二人だけの秘密トーク!?俺も入れてよ。さ〜み〜し〜い〜!」
二人だけで通じ合ってる感じに嫉妬するスバル。すると一人と一匹は目を見合わせ、エミリアがなんだか優しい目をスバルに向けてくる。
「スバル、世の中には知らない方がいい事実もあるの」
「そんな壮大な話だった?」
お互いの認識に食い違いを感じつつ、頭の中で大量の疑問符を浮かべる。
すると、背後から三人分の気配が迫ってきていることに気がついた。噂をすれば影。
「どうしたの、何か用事?」
エミリアの声を背後に振り返れば、そこにいたのは揃って歩くメイド三姉妹だった。彼女らはどこか落ち着いた佇まいで腰を折り──
「「「エミリア様、並びにお客様。当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうかお屋敷へ」」」
邸宅の使用人に相応しい貫禄とステレオボイスで、それぞれ一言一句違わぬ言葉を口にしたのだった。
ほい。僕だよ。
ロズワールをピエロ扱いするスバル君と、ついでに朝っぱらから酒を飲むロリ師匠に治療してもらったもらってないの
もっとやれスバル君!!実際こいつ道化なんかよりよっぽど質悪いから!!今のうちに殺しとけ!止めないから!!
鬼!悪魔!外道!鬼畜!元僕の両親!陳宮!ロズワール!!
あ、僕は両姉様と一緒にロズワールの後ろで待機してます。え?いつ食べるのかって?両姉様と後で食べる。訂正。食べさせてもらう。
「むぅ、普通以上……どころか、店に出すレベルで美味ぇな。正直リンガしか見てなかったから舐めてたぜ」
かなりきっちりとしたテーブルマナーで食事をしつつ、感想を述べるスバル君。席の位置がエミリア様の横だったり、そもそもその前にロズワールの椅子に腰掛けてたりして一見マナーが悪そうなのに、そういうところだけしっかりしてるのが普通にビックリだ。
やっぱり日常で役に立たないものは極めてるのか、スバル君。嫌いじゃない。
ちなみに今日の料理はいつも通り下姉様が作っている。上姉様は皮剥き担当。僕は味見担当だ。味見と言ってもちゃんと味について忌憚なく口を出したりして働いているので、つまみ食いと一緒にしないでほしい。
割と僕の意見は参考になるらしく、味見をした時は味が一割アップ。今日はお客様がいるということで張り切ったそうだ。あくまでロズワールの為というのが下姉様の主張らしいけど。
「この料理は青髪の……えーと、レムちゃんでいいのか。が作ったの?」
「ええ、その通りです、お客様。当家の食卓は基本、レムかリルが預かっております。姉様はあまり料理は得意ではありませんから」
「ははーん、双子で得意スキルが違うパターンだ。じゃ、そこな桃髪の子は料理苦手で掃除系が得意。んで、リルは全般程よく得意な感じ?」
「はい、そうです。姉様は掃除・洗濯を家事の中では得意としています」
「リルは下姉様ほどではありませんが、家事全般はこなせるようにはなっております」
事実。刃物に触る料理以外なら大体できる。料理も普段しないとはいえ上姉様よりはできるが、下姉様には全然敵いません。あと蒸かし芋では上姉様にも負ける。あの蒸かし芋は僕も大好物だ。
と、それを聞いたスバル君は、ドヤ顔で僕達をパターン分けする。
「じゃ、レムりんは料理系得意で掃除・洗濯は苦手か」
「いえ、レムは基本的に家事全般が得意です。掃除・洗濯も得意ですよ。姉様より」
「姉様の存在意義が消えたな!?……いや、でも俺は諦めないぞ!姉様は庭仕事やらが得意な門番的存在とみた!」
「それはリルの得意な仕事です、お客様」
「姉様の存在意義を悉く!?え、じゃあその桃髪の………ラムちーの仕事は?」
「姉様個人がやるべき仕事は特にありませんね。基本的にはレムとリルでどうにかなります」
「姉様もうちょっと頑張らない!?」
「優秀な妹と
「あけすけすぎるわ!!」
遠慮なく言い切る上姉様。そういうところ好き。
我が姉の美点に感服していると、ロズワールがスバルに好感が持てると言わんばかりにウインクした。顔が悪かったら不審者で刑務所行きのところだ。
「いーぃね、君。ラムとレムの二人は個性が強いから、初対面のお客さんにぃはなにかぁと受けが悪いんだぁけどねぇ」
「俺は割と寛容な方だかんな。まぁ、自分が客って自覚もないし、むしろこんくらいの方がやりやすいわ。主人が主人だしな」
「あはーぁ、怖いもの知らずだぁーね」
両手をあげて
「……にしても、ラムちーの仕事は……もしかして分野が違うのか?リルみたいに戦闘職じゃないなら……いや、ここは夜の御勤め系!?やべぇ、今宵の俺は様々なものに飢えてるよ!」
「お客様の中であらぬ疑いをかけられてますね、リルが」
「お客様の中であられもない姿にされているわ、リルが」
「あはーん、です」
「欠片も向いてないことは理解したし末妹は生贄にされすぎじゃねぇ!?」
実際のところ、姉様は手先関係の繊細な仕事が得意なのでスバル君と一緒で裁縫あたりが得意だったりする。
料理でも最初から最後まで作ると、マズめの料理と共に有機物という概念から外れた汚染物質が完成するが、最後の仕上げなんかは上姉様に任せると上手くいく。原発かな???
と、お家事情をポロポロと吐いていると、自ら発した言葉と上姉様の言葉に齟齬を感じたのか、スバル君が頭を抱えながら手で場を制した。
「ん?ちょっち待って?弟?」
はっ。ようやくか。気づくのが遅いわ。自称ファンタジー知識持ちも落ちたもんだよな?
「スバル、いいの。もういい。何も思い出さなくていいの」
エミリア様がめっちゃ優しい笑みでスバル君を宥めている。おい、それはあと四章先あたりで言って違和感がないセリフだろ。もしくはカーミラあたりが言いそうな。知らんけど。
と、面白いことを思いついたので上姉様の耳を拝借する。
「……上姉様、少しご相談が」
「何?」
ゴニョゴニョ、と囁いたところ、大変いい表情でサムズアップされたので、微笑みで返す。そっち方面になると吹っ切れるのも好きだよ姉様。
「お客人。嫌なことは、記憶の倉庫にしまっておくに限るよ。開けない方がいいものだって、世の中にはあるものさ」
「いいえ、お待ち下さい、ロズワール様。ここはリルが、責任を持って説明させていただきます」
悪夢に魘されるようなスバル君を見て深刻そうな表情を作ったロズワールが口を挟もうとするが、無礼を承知でそれを止める。大丈夫大丈夫、次のやつ見たら多分許してくれる。
「おい……リル………嘘、だよな………?そんなこと、あるはず……ねぇよな?」
「お客様。大変、大変申し訳ありません。リルの口から全てを話すのは酷というもの。……この言葉で、全てを終わらせましょう」
上姉様に視線を送ると頷いた姉様。少しはしたないが、スカートの下から片手を突っ込み、又の間から覗かせる。
「やめろ………やめろ………嫌だ、やめてくれ、頼む、リルっ!!」
見たくないものを見るように手で目の前を覆い隠しながら、迫真の表情で僕を止めるスバル君。
だが、もう。
これで、茶番は終わりだ。
ちょうど股のあたりから出た姉様の手を示し、僕は最大級の爆弾を投下した。
「ぱおーん」
「うぎゃああぁぁぁぁっ!!」
その鳴き声を聴いた途端、瀕死となったスバルが椅子から飛び跳ねて悶絶し、悲鳴を上げて悶え苦しみまくった。
分かる人にはわかる、あの動物である。
あそーれ、ぞーうさんぞーうさん。おーはなが長いのね〜
上姉様と企みが成功したとハイタッチし、下姉様は象さんがツボに入ったのか吹き出しながら顔を背け、ロズワールは痛ましいものを見るようにスバルを眺め、師匠は悲しいものを見るようにスバルを哀れみ、エミリア様は普通に心配した。
うん、地獄絵図。
「というわけで、リルは男なのでした」
「ふざけんなふざけんな!!そのナリと格好でなんで男なんだよっ!?誰がそんな格好をさせた!?」
「私の趣味だぁね」
「ふざけんなロズワールてめぇぇぇっ!!」
おいおい、寛容どこいったんすかスバル君。へーい!スバル君びびってるー!!
「昔からコイツはこうだったのよ。本人が見た目の良さを自覚してるから余計腹立たしいったらないかしら」
「ものの見事に騙されたよっ!!くそっ!!まさか異世界に男の娘文化が根付いていただなんて……!!」
「近衛騎士団の『青』はもっと凄いと思うけどね〜」
「まだ上がいんのかよ!?やっぱパネェなこの世界!!」
てんやわんやで進んでいく朝食の時間。貴族の豪邸らしからぬ騒がしさを伴って、それでもまだまだ、終わらない。
今回は下姉様イライラカウンターがゾウさんのおかげでふっとびました。やったねスバル君!!