目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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今日は二時間で急いで書いたので、ちょっと短めです。


金は命より重い。命が軽いなんて誰も言ってないけど。

 

 

 時刻は進み、徽章の紛失とそれを成したエミリアのうっかりさ加減とそれに類する価値を知り、そしてついでとばかりにエミリアの髪を触った。

 

「なんで突然髪を触ったの?」

 

「いや、未来の女王様候補って聞いたから。なんか、こう。将来的に手が届かなくなったら嫌だから今のうちに粉かけとこうと思って」

 

「未来の女王様候補に、ほんと恐いモノ知らずだよね君ぃ」

 

 恐い恐くないなど知ったことではない。スバルはこれでもゆとり世代だ。目の前の一瞬のために全てを投げ打つゆとり世代。言ってしまえば向こう見ずで考えなしなのだ。

 

「結局、そこの小娘の色香に騙されたってだけの話なのよ。それをまぁよくも口が回ることかしら……」

 

「はっ!今の今まで意識がなかった!まさかそこの悪ロリ、お前が俺の意識に介入して……?悪い幼女、略して悪幼女!」

 

「散々好き勝手やり終わった挙句責任転嫁とかこいつ最悪なのよ!?」

 

「黙れぃ!昼間っから飲酒してるロリに正当性などあるものかっ!そもそもここは何歳から飲酒OKな国なんですかね!はい、レムさん!」

 

 恥ずかしさを誤魔化す意味も含めて青髪のメイドに話を振る。が、しかしその反応は芳しくないものだった。

 

「おーけーとはなんでしょうか、お客様」

 

 腰を折ったまま器用に小首を傾けられる。リルとエミリアは盗品蔵のこともあってわかっている風だが、どうやら伝わらない言葉もあるらしい。

 

 スバルは頭を掻きながら、

 

「そっからか!よろしいですかの意!」

 

 なるほど、とレムは頷き。それからラム、リルと顔を見合わせると、

 

「十四歳からです」

「十四歳からだわ」

「十四歳からだね」

 

「マジで?」

 

「まじとは?」

「まじって?」

「まじ?」

 

「本当ですかとか絶対ですかとか超ぱなくない?とかの意」

 

「「「へー」」」

 

 三人が感心したようにシンクロして頷く。つまり応用すると、

 

「マジで十四歳から飲酒オーケー!?」

 

「「「本当に十四歳から飲酒されてよろしいですかの意」」」

 

 互いの意思疎通が叶い、完璧な翻訳がここに成し遂げられた。

 その歓喜に思わず三人は顔を見合わせ、互いに手を上げると、

 

「「「「イエーイ!」」」」

 

 とハイタッチ。素晴らしきかな友情。

 

 ………これで先程の不審者然とした行動はなかったことになりませんかね。

 

 流し目で見るスバル。が、思いの外空気や話題を一新するという意味では成功を収めたらしく、ニヤニヤとしたロズワールが手を組みながら男と発覚した紫メイドを見ながら発言。

 

「いやいぃや。ラムやレムはともかく。リルが初対面の相手にここまで心を開くのは珍しいことだぁーね」

 

「おー、やっぱりそうなのか。じゃあリルは、俺を信頼に足る相手だと初見から見抜いてたのか?」

 

 スバルとしては人見知りに思えないが、やはりスバルには隠された人徳チート的な何かがあるのではないか、と期待。リルがよりそうであるのなら、一層信憑性が高まるが……

 

「まぁ、そうなるんじゃないかぁな。これでもリル、うちの中じゃベアトリスの次に人見知りなところがあるんだぁよ。一回近づけばあとは早いんだけどね」

 

「誰が人見知りかしら。ベティーは相手を選んでいるだけなのよ」

 

「なんにせよ、俺への信頼が厚いという証!やるじゃねぇかリル!その目、確かだぜ!」

 

 ぐっ、と親指をリルへと立てる。が、リルは特に気にした風もなくガンスルーだ。親しみは一体どこへ。

 

「そーれで?実際のところは?」

 

「はい、ロズワール様。このお客様が怒るようにはどうしても思えませんでしたので、不躾で舐め腐った態度を取りました」

 

「最後の言葉で台無しになった俺の信頼返してくれない!?」

 

 一気に突き崩された。

 

 どうやら、ただ単にナメられていただけらしい。確かにスバルは昔から子供には人気な節があったから納得できなくはなかったのだが。どうやら、人脈チートという線は薄そうだ。

 

「……なんにせよ、だ。その王選に必要な徽章を奪われたって事実だけで、エミリアたん。そしてそれを推すロズワールには大打撃ってわけだ。つまり!それを防いだ俺は超功労者!さぁ、とっとと『なんでもします』と言え!」

 

「うぅーん。耳が痛いけど認めよう。そうとも。私は徽章盗難の件を隠蔽するためなら、どんな手段だって尽くそう。そう、それこそなんでもねーぇ」

 

「ん?よし。今なんでもって言ったよな?言ったな。言質は俺とエミリアたんが取ったからな!」

 

「私って、どちらかというと今ロズワール側の立場なんだけど……」

 

「そうだった!じゃあリル!」

 

「リル、今何か聞いたかぁーな?」

 

「いえ、特に何も」

 

「どっぷり癒着してたー!?」

 

 予想できたメイドの裏切りにがっくしと肩を落とす。そして周囲に公平を証明してくれる味方のいない四面楚歌状態に気がつく。この場にスバルの味方はエミリアに売ってある恩さえ考えなければ存在しないのだ。

 

「冗談はさておいて。出来ることなら私も恩には報いたい。褒賞が払えないから恩人をポイっていうのーは、流石に流儀に反する。エミリア様の気もすまないだろうしねーぇ?」

 

 ロズワールが視線を向けると、エミリアは肯定するようにコクリとうなずく。

 

「大丈夫。スバルは私の恩人だから、そんな不義理はしません。出来る限り希望も叶えてあげたい。叶えるのはロズワールの方なんだけど……」

 

「お気になさらず。エミリア様と私は一蓮托生ですからねーぇ。金銀財宝、それとも何にも勝る名誉かな?さぁ、なぁんでも望みを言ってみたまえ!私はその『強欲』を容認しよう!」

 

 道化はその格好に沿うように盛大に、派手に口上を口にする。

 

 思わず圧倒されてしまいそうな器の大きさ。本当の意味で目の前の男がエミリアの後ろ盾かつ、リルやラム達の主人足る人物であることを実感させられる。

 

「あ、ちなみにリルを娶りたいということなぁら私じゃなくラムとレムを通してねーぇ」

 

「男だと分かった相手を嫁にするほど勇者になったつもりはねぇけど!?」

 

 上げて落とされた。割とノリノリで自分の体を抱くロズワールの背後のリル。これは主人だ、間違いない。

 

 スバルも思春期の男。異世界ものでありがちなハーレムライフなるものに憧れがないわけではないが、いくら見た目がいいとは言え最初から男に走るのは業が深すぎる。

 

 それに、スバルの一番はもうとっくに埋まっているのだ。そんなに沢山の恋心を背負えるほど、スバルは自分に甲斐性があるとは思っていない。

 

「リルのことは置いといて!ロズワールはなんでもすると言った。男に二言はないよな?」

 

「ふむ、凄い言葉だねーぇ。確かに男たるもの、二の言葉を紡がないべきだ。いいとも。男に二言はない」

 

「よぉし、なら俺の望みはたった一つだ……!」

 

 息を吸い、身構えるエミリアとロズワールに向かい、スバルは布石に布石を重ねた要求を突きつける。

 

「ズバリ!俺をこの屋敷で雇ってくれ!」

 

 一瞬の沈黙。受け止め、理解するための静寂。

 

「うわっ」

 

「おいこらそこぉ!!うわってなんだうわって!!」

 

 紫髪のメイドが本気で嫌がるような声を出した。声を放った元凶は、汚らわしいものでも見るかのようにスバルを見下し、蔑みの目で見つめてくる。

 

「露骨に欲望まみれな要望を出されて声を抑える方が難しかったです」

 

「そんなえげつないこと言った!?」

 

「だって今、この屋敷でエミリア様と上姉様と下姉様、リルと師匠を毒牙にかけて酒池肉林な生活を送ってやると口に……」

 

「してねぇ!!『この屋敷で』以降の改竄が酷いわ!酒池肉林の酒の字も出てこなかったよね!?」

 

 記憶違いにも限度がある。惚けた顔の中に綿花かお花畑が詰まっているのだろうか。いや、花畑じゃなく沼か。ついでに枯れ草。

 

 しかも毒牙の対象に自分が入ってるし。そういうところだぞ。

 

「いやぁまぁ。リルも極論ではあるんだけど。そのレベルのお願いでも妥当だと思うよーぉ?雇う位ならなんの問題もなぁいけど、随分欲がないんだねーぇ?」

 

「私も同意見!」

 

「まさかの二度目の四面楚歌!?俺がおかしいわけじゃないよね!?」

 

 本来なら要求が少なくて喜ぶ側のはずのエミリアにまで全否定され、スバルとしては自らの価値観を疑いたい気分になる。

 

「スバル。リルは遠回しに、遠慮が過ぎるって言ってるのよ。私、スバルにはすごーく感謝してる。だから、相応のお礼をしたい。だから、もっと欲を出してくれていいの!」

 

 これ以上は本気で怒るからね!ぷんぷんなんだから!と、実に可愛らしい怒りの表現を見せてエミリアはスバルに詰め寄る。

 

 だが。

 

「悪いが、前言は撤回するつもりはないぜ。俺は男だからな。二言はない」

 

「じゃあやっぱり酒池肉林」

 

「お前は俺に何させたいわけ!?」

 

 茶々を入れられてしまったが、気を取り直して。真剣な懇願が浮かんでいる眼差しに、スバルは正面から向き合った。

 

「エミリアたん。俺は今、心から欲しがってるものを望んでるんだぜ?俺に見通しとか、未来のことを考える理性を求めてるなら相手が悪い。ロズっちへの頼みは、今徹頭徹尾の一文無しの俺に取っちゃ、生活基盤を手に入れるための第一歩なわけよ」

 

「じゃあ使用人じゃなくても食客扱いでよかったんじゃ……」

 

「その手があったかぁぁっ!!」

 

 嘆くスバル。だが、二言はないと言ってしまった以上何か言うこともできず虚しく却下。

 

「だがしかし!結果的には好きな子と一つ屋根の下!暮らせるならこれ以上は無いぜ!」

 

「なぁるほど。確かに、好みの女性と一緒にいられる職場というのは得難いものだ。うまい話だよ、全く」

 

「ま、それにだ。俺みたいなわけのわからんやつは、そのまま放置より手元においとけよ、ロズっち。……さっきまでの会話で俺の器の底は知られた感じがあるけど」

 

 若干遠い目をしながら、心当たりがないなら絶句しそうな言いがかりを口にする。が、ロズワールはまたもその器の大きさを見せて、鷹揚に頷いたのだった。

 

「それはそうとロズっち。これはちょっとした頼みなんだが……今即金で金貨一枚もらっていい?俺の給金からしゃっ()いていいから」

 

「ふぅむ?給金の前借りってことかい?ま、いいけど。何に使うわぁけ?金貨一枚なんて、そこまで大した価値じゃなぁいよ?ここじゃ使い道もないしねーぇ」

 

 言いながら懐のあたりを弄り、当然のように持っていた金貨をスバルへと弾くロズワール。恐らく日本円換算で一万円ほどになろう硬貨は、小気味の良い音を立てながら回転し、寸分違わずスバルの掌に収まった。

 

 ナイスコントロール、と数回手を叩き、手の中の金貨を眺める。ラインハルトをそのまま老けさせたような味のある紳士の描かれた硬貨は、まごうことなき純金でできているようだった。

 

「リル、こっちゃこいこい」

 

 スバルはそのままリルを手招きし、疑問符を浮かべたままスバルに寄ってきたリルに、無理やりその金貨を握らせた。

 

「元金だけで悪いけどな。約束、守ったぜ」

 

 それは、二周目に返せなかった一枚の金貨。

 

 スバルの道案内の対価として無償で贖われたその優しさに、右も左も分からないスバルはかなり救われたのだ。渡された大量の聖金貨は……まぁ、無くなったのでノーカウントとして。

 

 今のリルからしてみれば、自分が何をされているかなど全くわからなかったろう。『死に戻り』で実質的には無かったことになった約束なのだ。

 

 だが、少しでもその意図を察したのか、リルは少しだけ顔を綻ばせ……

 

「お客様。前借りしたお金でチップを握らせるのは流石に……」

 

「そんな見栄っ張り野郎じゃねぇよ俺!?」

 

 スバルの意志は、無情にも全く伝わらないのだった。

 

 

 

 




下姉様イライラカウンター 3
 ・リルを嫁にする話で全力拒否した。(承諾しても貯まる)
 ・リルとハイタッチをした。
 ・リルに対する理解不能な行動。
 

 回避不能な地雷。

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