目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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他人の金で焼肉食べたい。あ〜誰か誘ってくれないかな。断るけど

 ヤッホー。元気を取り戻したスバル君に変なことして悪かったと謝られてます。僕です。

 

 ぶっちゃけ後ろで控えてる姉様方の殺気でそれどころじゃない。

 

 僕だ。

 

「ラムもレムも、なんだ。悪かったな、変なことして」

 

「はい、お客様。ほんの少し若干僅かにちょこっと微かに些か腹が立ちましたが、レムは気にしています」

「はい、お客様。普通に腹が立って腸が煮え繰り返りそうだけど、ラムも気にしているわ」

「………お客様、反省」

 

「あれぇ!?」

 

 なんというか。スバル君、マインスイーパとか下手そう。リアルの方ね。

 

 謝られる時さりげなく右手触られそうになったし、両姉様への謝り方がチャラい。多分土下座しながら泣いて詫びを乞うレベルじゃないと許してもらえないよ。それでもドン引きされると思うけど。

 

 というわけで。一周目を再現しようとするスバル君。食事中での会話も、概ね一周目と大差がなかった。うん、同じ会話を聞いて同じ返しをするって少しだけ疲れるな。

 

 ただ、ぱおーんの下りでもうスバル君が驚かなくなっていたことが違いだろうか。

 

 それはそれとして。

 

 使用人として働くと宣言したスバル君。露骨に両姉様が嫌そうな顔をしていたが。いやいや、そんな顔しないであげて……

 

 使用人服のあれやこれもあったが、そもそも今回は上姉様と下姉様の好感度がウルトラマイナスからのスタートだ。むべなるかな。一周目と同じになるわけもない。スバル君が若干困惑しながら会話していたのが記憶に新しい。

 

 そんなこんなで、とりあえず後輩指導として仕事をやっていた。

 

 ………のだが!

 

「スバル。手を抜かないでもっと真剣にやる!ついでにエミリア様の服を探さない!それはリルのカゴに移してあるから!」

 

「なんだとぉっ!?てめ、リル!一体なんの目的でそんな非道を!」

 

 洗濯物を干しながら、目から血の涙を流して訴えるスバル君。

 

 ………怪しい。いや、マジで怪しい。

 

 多分、なんの予備知識も無かったら不審に思っていたくらいには怪しい。

 

 はたから見ていて、スバル君が仕事に手を抜いていることが丸わかりだからだ。ある程度その仕事に慣れているからこそ、スバル君が所々で加減しているのがわかる。多分、姉様方もこれに気がつくだろう。

 

 この状態で4日間スバル君を生き残らせる?ハッ、それなんて無理ゲー。

 

 マジで。手加減しないでくれスバル君。前回と同じような結果にしたいから仕事へのめり込み方を調節してるんだろうけど、現実はそんなに甘くないんだよ。

 

 そも、現実というのは高度な演算と思ってくれていい。行動が、表情が、空気が。全てが計算式となり、現実という解が生まれる。その計算式に僅かでもズレが発生すれば、当然結果は変わる。例えば1+1の式でも、1をする間に0.00000001の差でもあれば、結果は変わってしまう。

 

 極端に言えばほんの数ミリ手を上げるだけで、その後の未来は変わってしまうのだ。

 

 つまり、スバル君が前回と全く同じ未来を望むのならば、コンマ一秒単位で1センチのズレすら出さず全く同じ行動をし、同じ声音で、同じ表情で、一単語すら違わない会話をしなくてはならない。それこそ無理ゲーだ。

 

 なので。残念ながらスバル君の予備知識と予想は、一切役に立たない。だから早く現実を見て全力で取り組んでほしいんだけどなぁ。

 

 てか、王都で買う果物を変えまくってたのはスバル君の行動一つで他人の行動も全部変わるよってのをアピールしたかったってのがあったんだけどな。気づいてくれなかったか?

 

 そんなこんなで、前回と同じ結果にしようと無駄な努力を繰り返すスバル君。前回の経験があるんだから、多少は上達する。それなのに手を抜くとか、余計怪しまれるわ。

 

「スバル、3回目。手を抜かないで」

 

「いや、だから手なんて抜いてねぇって。気のせい気のせい」

 

 イラッ。

 

 よし。任せる仕事の難易度を三倍増しにしよう。前回と同じ仕事を任せたのがそもそもの間違いだったのだ。

 

「スバル。今から庭園の草むしりを15分以内に。それが終わったら花壇に満遍なく水やりをして、その次に小屋の掃除と窓拭き」

 

「はいぃぃ!?」

 

 黙ってやれや。おら。今宵の僕はスパルタぞ。

 

 手を抜く隙とか与えんと思え。推しだからって言っても必死でやってる目の前でサボられると流石にこっちもクるものがあるのだ。

 

 しかも、スバル君と同じでやってるのは前回の焼き直しだからな?なんならこっちの方が苦痛だ。いっそ仕事に関する記憶を『愛し人の匣』で消して(パンドラって)やろうか。

 

 両姉様もスバル君を怪しみ始めている。これはいけない……もう、ダメかもしれませんね……

 

 まぁ、わりと底抜けに明るいところは姉様も評価しているようだ。最初の好感度減少が大幅すぎて超コンマレベルだけど。

 

 僕じゃなきゃ見逃してるね。

 

 とりあえず、一日目のお仕事はスバル君が死ぬことなく無事に終了した。ひええ。

 

 これであと三日生かし続けなきゃいけないとか、地獄か?

 

「リル、風呂まだだろ?この後、男同士裸の付き合いとかどうよ」

 

「スバルの貧相なものを見るくらいなら下姉様と一緒に入ります。なんならエミリア様と一緒に入ります」

 

「なんですとぉ!?まさかテメェ!一緒に入ったことがあるとか言わんだろうな!?」

 

 やめろぉぉぉっ!!これ以上地雷を踏むなぁぁぁっ!!!後ろで下姉様がワリオのゲーマーばりの視線でこっち見てんだよ!!!胃痛で死ねる!!死ねるぅぅぁ!!!

 

 ちなみにエミリア様と入ったことはないです。多分お父さんが許してくれないよ。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「くっそ……全くリルったら連れない子!」

 

 風呂場で一人、スバルはオカマ口調でひとりごちる。一人だとハイテンションになるアレだ。

 

 男の娘と一緒にお風呂に入るとかいうテンションが上がるしかないシチュエーションに下心が無かったとは言わないが。まさかあんなとんでもないカウンターを残して去っていくとは。おかげで気になって夜しか眠れないではないか。

 

 最近の子はみんなああなのかしら!と独り言。それも、湯船に浸かれば忘れ、別のものへと変わっていく。

 

「………はぁ………三人とも、俺をこき使いすぎだろ……前回より明らか難易度上がってたぞ……」

 

 仕事の難易度は、前回とは比べ物にならない。前回を知っている分、カンニングペーパーを持っている気でいたのだがまぁ使い道がないことないこと。

 

「こんだけ違っちまうと、もう記憶は当てにならねぇのか……?」

 

 そんな弱音が思わずこぼれ、気を取り直すように湯の中に体を沈める。

 

 エミリアとリル。二人と出会った初日の王都………あの濃密な一日を思い出す。細かな部分では毎回、スバルは違った道を通ったが、大筋として起きた出来事はどの回でも共通はしていた。

 

 しかし今回。その大筋は、あの食事以降ほとんどなくなっていると言っていい。部屋選びのベアトリスの扉渡り貫通も、ついでにリルのメイド服云々にも違いはちょくちょくあった。

 

「まぁでも、最終日のエミリアと……あとはリルの約束だな。あれさえやれば、大筋には乗るはず…」

 

 楽観的な思考を組み立て、スバルは労働の辛さで到底思考できなかった方針を決めた。とりあえずは最終日。そこで、なぜ死んだのかの死因を特定する。

 

 決意を新たに奮起していたところ、後ろからかかる陽気で間延びした声が。

 

 どうやらまた、妙なイベントが発生したらしい。

 

「──やぁ、ご一緒してもいいかな?」

 

 それは裸のピエロだった。否、化粧を落としているから、それがピエロかどうかはわからない。ただ、スバルの知識さえなければ貴族の麗人に思えたことは間違いない美貌ではあった。

 

「貸し切りです、お断りします」

 

「私の屋敷の施設で、私の所有物だ。私の自由にさぁせてもらうよ」

 

「だったら聞くなよ。風呂ぐらい勝手に入れ」

 

「おや、手厳しい。それにわぁかってない。確かにこの浴場も私の所有物には違いないけど……」

 

 ロズワールは片膝を突き、湯船の中からじと目で見上げるスバルに体を寄せる。それから伸ばした手で、無抵抗のスバルの顎をそっと摘まみ、

 

「使用人という立場の君も、私の所有物と言えるのではないかな?」

 

「がぶり」

 

「躊躇ないなぁ!」

 

 本気で不快だった手を思い切り噛む。飼い犬に手を噛まれる気分はどうだ。

 

 そのまま背泳ぎでロズワールから距離を取り、スバルは一息をつく。今までの四日間、ロズワールと入浴が被ったことは一度もなかったはずなのだが。

 

「それで?随分遅い入浴ですね旦那様」

 

「少々、仕事が立て込んでいてねぇ。片付けている間にこんな時間だ。もぉっとも、君とこうして語らう時間が持てたのは喜ばしい。初日はどうだったかな?」

 

「かなり酷使されてエンジョイ使用人ライフだよ。俺の筋肉の愚痴を一夜通して聞いてほしいレベル」

 

「残念ながら、今夜は先約がいてねぇ」

 

 ははは、と優雅に一笑いされると、スバルは悔しがることしかできない。

 

 この目の前のお貴族様と、双子のメイドの関係が怪しいを通り越して確信まで入っているのはさすがにスバルにもわかる。恐らくリルも公認ではあるが、手出しまではされていないはず。はずだ。

 

「………はずだよね?」

 

「あはーぁ。何を考えているか大体わかるけど、リルはあれで焼け石だからねーぇ。見た目が美しいからと言って手を出すと怪我をするから触らないかなーぁ」

 

「ふっ、なら俺の方が先だな。俺は今朝リルの手に触れたぜ!……って、男二人で男を取り合ってどうするんだよ!」

 

 文字に起こすとなかなかひどい状況にツッコミ。これも優雅に流すのかと思えば、意外にもロズワールは少し思案する様子を見せた。

 

「………ふむ?それって左手?それとぉも………もしかして、右手だったりするのかぁーな?」

 

「あん?そんなチマチマせずに両手だよ両手。まぁ、手を繋ぐみたいに友好的じゃ無かったけどよ」

 

 思い返してみるとなかなか恥ずかしい行動だった。まさか年下の男に縋るハメになるとは、と顔を赤らめるスバル。それに対するロズワールの反応は、いっそ予想外な方向性の言葉だった。

 

「スバル君。君、リルに相当気に入られてるみたいだぁーね」

 

「え?今の流れで?いやまぁ、あの三人の中じゃ一番仲良くしてる自覚はあるよ?一日違いだけど、時間的な違いもあるし」

 

「………なるほど。自覚なし、というわけだぁーね。これは、あの子も報われない」

 

 肩を竦めるロズワール。スバルとしては、ぶっちゃ訳がわからない。何故触れたくらいで、スバルが好かれているとわかるのか。最低限の触れ合うくらいは出来る仲というのはわかるだろうけども。

 

「それで?ラムとレムはどうかぁな?後輩に対する教え方くらいは、あの二人も弁えているとは思うけど」

 

「概ね良好……とはいいがてぇな。ラムとはそこそこ仲良くやってるつもりだが、どうもレムとはイマイチ。向こうから避けられてる感じだよ。その癖振られる仕事は多い。弟も例外でなく。わたる世間は鬼ばかり。違うのはエミリアたんくらいかな」

 

「………なぁるほど。かなり大変だね。私としては、明日の君の生死が気になるところだけど」

 

「流石に過重労働で死ぬほど落ちぶれちゃいねぇし、この調子で仕事が何倍かになったら過労死する前に倒れることにするよ。そしてエミリアたんに看病を……」

 

 いまだ見ぬナースエミリアに妄想を馳せるスバル。それを奇異な目で見つめるロズワールの思考の裏には、一体何があるのか。スバルは、一向に見抜くことができない。

 

「そういや、話に出てないベアトリスだ。アイツってぶっちゃけなんなん?禁書庫の司書ってのと、リルの師匠ってことだけ聞いてっけど」

 

「へぇ。ベアトリスがリルの師であることも知っているのかーい。うん。その通りさ。まぁ、君が逃したうちの食客兼司書、と言ったところかーね」

 

「なるほどな。リルの師匠ってことは、やっぱ凄腕の魔法使いだったり?」

 

「そうとも。私と同じ、あるいはそれ以上のね。ちなみに、私はリルの体術の方の師匠でもあったりするんだぁーよ。ま、もう超えられちゃったけど」

 

「マジか!?魔法使いの癖に肉体スペックも高いとかとんでもねぇな!しかもそれを超えるリルもリルだし。あいつ、オーバースペックの上に属性モリモリだな」

 

 師匠超えという、まだまだ盛られるリルの属性。既にメイドメッシュ最強系ロリ詐欺ショタ男の娘弟メイドという概念でお腹いっぱいなスバルとしては、底知れぬ彼のスペックに舌を巻く。

 

 そこからは、他愛のない話が続いた。といっても、スバルにとっては貴重な魔法談義について。ゲートの存在を知ったスバルは、早速魔法についてロズワールに尋ねる。

 

「──よぉし、じゃあスーバル君の属性を調べてあげよう」

 

「きたきた!待ってました!なにかな、なにかな。やっぱ俺の燃えるような情熱的な性質を反映して火?それとも実は誰よりも冷静沈着なクールガイな部分が出て水?あるいは草原を吹き抜ける涼やかで爽やかな気性こそ本質とばかりに風?いやいや、ここはどっしり悠然と頼れるナイスガイな兄貴分の気質がにじみ出て地とか出ちゃったりして!」

 

「うん、『陰』だね」

 

「ALL却下!?」

 

 自分の属性が陰という希少なデバフ特化な属性であることが判明。しかも才能がないと才能アリの人間から太鼓判。

 

「くっそぉ……だがデバフ特化といえど魔法……捨てるには惜しいな……」

 

「使いたいなら教わればいーぃじゃない。幸い、『陰』系統なら専門家がここにはちゃぁんといるからね」

 

「いや、そいつはいいや。生憎と、先約があるんでね……まだやってないけど」

 

 意趣返しのつもりでウインク。そう。スバルはリルと約束したのだ。エミリアとデートした後にでも、魔法を教えてもらうと。

 

 例え陰のような稀有らしい属性でも、きっとちゃんと面倒を見てくれるはずだ。

 

「ふぅーん?まぁ、好きにすればいいと思うよぉ。一応言っておくと、専門家というのは私じゃなくベアトリスのことだから、何かあると頼ればいい」

 

「あっぶねぇ!?危うくあのロリに教えを乞うとこだった!!」

 

「ま、リルはそのベアトリスに師事を仰いでいるから、結果としては一緒だと思うよ?仲睦まじいことは美しきかな、というわけだ」

 

 ………どうやら、約束の相手もお見通しというわけだ。本当に敵わないと思いながら、一言かけて風呂をあがって外に出る。

 

「『ムラク』」

 

「ぬぉぉぉ!?」

 

 そんな体が宙へと浮いたのは、風呂場の扉を潜った第一歩目のことだった。踏み出した足がそのまま空へと踏み出す一歩となり、途端にスバルの足は地面を離れる。

 

 その下手人は、髪をハーフアップにあげた白金メッシュの生意気メイド。どうやら無重力というわけではなさそうだが、体が地につかない感触というのはなかなかに落ち着かない。

 

 だが、少し慣れると無重力の宇宙にいるようで楽しくもあり。壁を蹴って推進力を得たスバルは、そのまま飛行を楽しみ……

 

「おしまい」

 

「ほんぐらちゅべりん!?」

 

 背中から地面に墜落した。落下したダメージ自体はないが、下手に勢いをつけていたせいで滑って棚に頭をぶつけた。

 

「スバル、すっぽんぽんで何やってるの」

 

「お前のせいだよ!お前のせいだよね!?」

 

 起き上がってツッコミ。だが、その背後に目端を光らせる桃髪のメイドがいることに気がつき、慌てて股の辺りをタオルで隠す。

 

「ハッ」

 

「なんで鼻で笑った!!」

 

「バルスが貧相なものをぶら下げているから悪いのよ。はいリル」

 

「はい、上姉様。そいやっ」

 

 そうしてラムは、地面に落ちていたスバルの下着をリルへと摘むようにパス。受け取ったリルは、一切の容赦なくそれをゴミ箱へスローイング。

 

「目の前に洗濯しようと籠持ってる男がいるんですけど!?」

 

「ごめんなさい。持ち上げた瞬間、生理的嫌悪感が堪え切れなくて。一秒でも早く手放したくてああなってしまったわ」

 

「同上」

 

「そのわりにトスとシュートが完璧だったッスね!」

 

 泣く泣くゴミ箱の下着を回収。カゴに詰めて、改めて二人に対面する。そして、何か用件があるのかとじっと見つめると。

 

「期待されてもリルは脱がないよ」

 

「そこでラムの名前を出さない辺りがお前らしいよ」

 

 ここで脱ぎだされてもそれはそれで困るけど。

 

「リルなりの冗談よ。ロズワール様の御着替えの手伝いのため。入浴の際はラムかレム、リルが付き添うのが決まりよ」

 

「甘やかしすぎじゃねぇのか。着替えぐらいひとりで出来んだろ」

 

 苦言を呈した瞬間、ピキリと上姉様の額に怒りマークが浮かんだのを見て、スバルはとっさに話を逸らす。

 

 危うい危うい。そういえばラムはどうも、ロズワールへの忠誠心がめちゃんこに高いのだったか。

 

「それより、さっきの魔法は何の意味があったんだ?」

 

「あ、そうだ。それで言いたいことがあったんだった。あのね、スバル」

 

「虚言癖とは救えないわね」

 

「言いたいことは概ね分かったけどまとめ方酷くね!?」

 

 詰まるところ。リルはどうも聞こえていたのか、さっきのロズワールとの会話が気に入らなくて先の魔法をかけたらしい。

 

「いい?スバル。してもない(・・・・・)約束を、安易に口に出しちゃいけないんだよ。それ、嘘をつくのよりもっと酷いことだから」

 

「………そう、だよな。悪い。この後、その約束しようって、思ってたんだけど……」

 

 その言葉が、朝に塞がったはずのスバルの傷口を抉る。

 

 していない約束。

 

 そう。リルの中では、あのやりとりはもう無かったことになっているのだ。あの日々が全て、もう戻らないのだと知らしめられているような。そんな錯覚。

 

 胸の深いところに突き刺さった棘が、またジクジクと痛み出した。少しだけ、目が潤んできてしまう。

 

 だが、傲岸不遜な上姉様は、そんな空気を一切読むことをしなかった。

 

「それよりバルス、この後はなにか?」

 

「……はぁ。なにかも何も、寝るだけだよ。明日も早いんだから当たり前だろ、チキショウ、先輩方、マジ朝だけは辛いッス」

 

 反骨精神と弱音がハイブリッドしたスバルの言葉に、ラムは「そう」と小さく応じて押し黙る。そのまま何も続けない彼女を見つめていると、彼女は「うん」となにかを決断するように自分に呼びかけ、

 

「それじゃ、あとで行くから部屋で待っていなさい」

 

「──は?」

 

 そんな言葉だけを、告げたのだった。




下姉様イライラカウンター 2000京1
・スバルが所々で手を抜く。1
・リルを風呂に誘う 2000京

上姉様イライラカウンター?上姉様は基本的にイライラしてもよほどのことがないと殺そうとはしないのでセーフです。流石に弟と妹のトラウマかつ自らの罪の証に手を出したら殺そうとしますが。


明日はお休みです。ご了承ください。

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