やっはー。どうも。僕です。
スバル君が思いもよらぬ行動をしてめちゃくちゃ焦ってるよ。
………やっば。
僕だ。
えぇ?三周目って食客扱いになるとこから始まるんとちゃうの……?
原因は………うん。あのガバだよね。
いや、しょうがないじゃん!どうせ戻るならいちいち髪を染め直すとか面倒だし!まさかスバル君がエミリア様の部屋無視してこっち直行するとか思わんやん!!
ぬおぉぉぉ!!やだもぉぉぉ!!スバル君の行動と思考がわからん!!独り言も小さすぎて聞こえなかった!もっと!視聴者に配慮した独り言を!70dbくらいでお願いしたい!それはそれでうるせぇな!?
はぁ………ロズワールが了承しちゃったし、このまま進めるしかないのか……
両姉様も前回ほどスバル君へのヘイトが強くないから、上姉様は不審な目でスバルを見ているだけだし、下姉様もキレることなくピキピキ頭に青筋を十数本立てるくらいで済んでいる。………前回が酷かっただけで、かなりイライラしてるけど。
まぁ、このまま行けばスバル君を殺すこともないわけだけど………うーん…………うーん………
まぁいいや。なるようになるでしょ。(思考放棄)
死に戻りも恐らく制限はない。繰り返せば繰り返した分どんどん僕の臭いが濃くなっていくから、難易度自体は上がってくけど。頑張れスバル君。
さて。とりあえず、早速僕直属の下働きになったスバル君をこき使ってやろうと思うんだけど……
スバル君、どこ行った?
「初日からサボりとはなかなか度胸があるのよ。姉弟の弟にバレてこってり絞られればいいかしら」
「はは、俺みたいな度胸根性無しをそこまで高く買ってくれなくてもいいんだぜ?」
「皮肉ってものがわからないのかしら!?」
「……にしても、あれってなんだったんだろうな。なぁ、お前はどう思う?」
「死ぬほど鬱陶しいからとっとと出ていくか吹き飛ばされるといいのよ」
部屋の中央。スバルが声をかけたベアトリスが、心底不機嫌そうに返す。その少女の不機嫌そうな態度に若干救われた気持ちで、スバルは使用人になった朝からベアトリスの禁書庫を訪れていた。
使用人三人にこんなところで油を売っていると知られれば大目玉だが、幸い禁書庫はスバルとベアトリス以外が出入りできないことは何度かのループで把握済みだ。
「俺とお前の秘密の場所、だもんな」
「なぁにが『だもんな』かしら!勝手に入ってきて盗人猛々しいにも限度があるのよ!」
「おいおい、急にキレるとか大丈夫?カルシウム足りてないんじゃね?小魚とかいる?あ、身長伸ばすためにも牛乳いいぞ牛乳」
「誰のせいだと思っとるのよ!」
むきゃー!と憤慨するベアトリス。こうして反応してくれる分、あの三人と話しているより気は紛れる。
割り切ったつもりだった。これで体験するのは二度目。きっと慣れると思っていた。
それでも、やはり既知で仲を深めた相手から初対面扱い、知り合い扱いされるのは堪えるものがあった。今のスバルが縋れる場所は、ここしかないのだ。
「んで。質問なんだけどさ。お前、すげぇ魔法使いなんだよな?リルに魔法教えてたらしいし」
「………才能が無い癖に気持ち悪いくらい陰魔法が上手くなった男擬きの話はやめるのよ。自分の限界を知ってあれだけ研鑽するのは努力を通り越して変態の所業かしら。不肖の弟子どころじゃないベティーの黒歴史なのよ」
嫌なものでも思い出したように顔を顰め、両腕で体を抱くベアトリス。一体、リルへ教えを与える間に何があったというのだろうか。
その話は追々するとして、話を戻すためにコホンと咳払いする。
「相手を衰弱させて、眠ったように殺す魔法とか──ある?」
スバルが陥った衰弱。あれの状態が一体なんだというのか。それを、確定させておきたかったが故の質問だった。
「──あるかないかで言われれば、ありはするのよ。どちらかといえば、呪術師寄りの手法かしら」
「呪術………?魔法とは、また別なのか?」
「北方の国……グステコ発祥の手法。起源を説明すれば長くなるのよ。要するに、他人を害することに特化した魔法の失敗作かしら」
「──なるほど……失敗作でも、人は充分死ねる?」
「殺すだけなら、さっき言った風なのも出来ると思うのよ。ま、そんなことより、体内のマナを吸い上げた方が早いかしら」
ギロリ、とスバルを睨むベアトリスに、軽く寒気を覚える。やらないと信じるしか道はないが。
……それにしても、グステコ、とはまた。聴き慣れない名前だ。だが恐らく、下手人はそのあたり出身で、その呪術とやらを行使してスバルを殺した……と思われる。ついでに、その容疑者候補第一位があの碧眼の女性。
「よくよく思えばブルー○イズみたいな色合いだったな」
「ブル○アイズ?聴き慣れない単語なのよ」
「俺の故郷に代々伝わるどんな敵でも粉砕する伝説のドラゴンだよ。時代を重ねるにつれ頭がどんどん増えてくる。そして社長の嫁」
「……なんなのかしら、その頭の痛くなりそうな最後の二つは…………ドラゴンなんてルグニカじゃ滅多に口にするもんじゃないのよ」
真実を追い求める別の白くて赤い竜が脳裏をよぎるが、そういえばと追加で質問。
「そういや。髪が銀髪じゃない白金で、碧眼の超絶美少女とかも知ってたりする?」
何気ない質問。銀髪のハーフエルフが有名なら、その存在ももしかして有名だったり、と。当たればラッキーくらいの気軽さでかけた問い。
そんなもん知ったこっちゃないかしら、という返答が大方返ってくるであろうと。そう予想していたスバルだったが。
「───」
呆気にとられたように押し黙るベアトリスを前に、その予想は大きく外れていたのだと知る。
耳が痛くなるほどの静寂。いつかのキッチンで聞いた、耳鳴りがしそうな。時間が止まったような緊迫した空白が、スバルを襲っていた。
「───お前。一体、何処でそれを」
「あん?………あ〜……王都で遠目にチラッと……」
「そんなわけが、ないかしら。そんなことがあったなら、今頃大惨事を招いているのよ」
まるであの少女を知っているかのような口ぶりで話すベアトリス。その言葉の端は辿々しく、何か、ちぐはぐな様子に見えた。
「──それは、あの姉弟の弟から聞いたのかしら」
「は?なんでそこでリルが出てくんだよ。俺が訊いたのは碧眼美少女だぞ?根本から違うだろうが。主に性別!」
思いもよらぬ人物が話に出てきて、素っ頓狂な声が漏れる。
まぁ、確かに見間違えそうな容姿でこそはあるが。なんならスバルは現在進行形でそこが不満なのであって。そうでなければ今頃美少女に美少女が集結するロズワール邸が生まれていたはずなのだ。別段、リルを悪く思ってるわけではないが。
「そう。……ならいいのよ。少なくとも、ベティーはそんな奴を知らんかしら」
「やっぱか、オッケーってなるわけねぇだろ!明らかに何か知ってる感じだったじゃん今の!教えてくれよ頼むよ!」
怒鳴りつけてから即座に懇願の姿勢にシフトするスバル。もしかすれば、それは今後のスバルの生命線になるかもしれない情報なのだ。もし明確な弱点なんかの情報があるなら、今のうちに知っておかなければ死んでも死に切れない。
「…………ベティーは。……ベティーは、そんなやつ知らない。知らない……はずかしら」
「いやいや、ハズって……そんな曖昧なこと……」
「いいから、とっとと出ていくのよ。……恐怖を誤魔化すのも、いい加減できたはずかしら」
言われて、本来の目的であった恐怖の逃避が成功していることに、スバルは震えていない手を見て気がつく。
だが、それ以上に今は襲撃者について追求しなくてはならない。その情報を、なんとかしてベアトリスから……
「……もしお前が、本当にそれを知りたいなら。この屋敷で命を落とすことになるのよ」
「は?そりゃどういう──」
言いかけた言葉は、突如発生した魔法らしき力によって弾かれ、キャンセルされる。無様に転がったスバルは、そのまま禁書庫の出口へと吹き飛ばされた。
ひとりでに開いた出口の扉が、まだ残りたいというスバルを無情にも飲み込み、スバルは禁書庫からロズワール邸の廊下へと弾き出される。
「ぐぶれっしょん!」
視界を逆さにしながら、窓近くの壁に激突。
くの字に折れ曲がりながら目を回していたスバルは、しかし苛立ちを糧に即座に立ち上がった。
「おいこらロリ!いくらなんでもやっていいことと悪いことが!」
つい先ほど追い出された扉を開ける。だがその扉に繋がっていたのは最早禁書庫ではなく、なにやらファンシーなぬいぐるみや小物で満ちた、実に女の子らしい部屋だった。
スバルの私室とは違い、部屋の主人に好き勝手にアレンジされたらしい部屋からは、なにやら甘い花のような芳しい香りが………
「おい」
突然。強い力で背後から肩を掴まれるスバル。顔は見えないが、ドスの効いた少し高い声は、この世界に来てから聞き覚えがありすぎるもので……
「…………そのぉ、リルさん?もしかして、ここって……リルさんの私室だったり……」
ギギギ、と壊れた機械のようにゆっくりと振り向いた先には、恐ろしいほど優しく微笑む紫髪メイドの姿が。
「雇用初日早々からわざわざ指定した教育係の目をごまかしてサボって、挙句秘密を暴きにかかるとは。いいご身分だね、スバル」
「………言わせてくれ。ラノベでは『これには深い事情が』と言って怒られるケースが多い。だがしかし。俺はそんなテンプレに収まる男じゃない」
「その心は?」
「ほんと、ご馳走っす」
「ふんだりゃぁぁ!!」
腕から一本背負い。高い屋敷の窓から投げ捨てられ、宙に舞いながらスローモーションになった世界で、スバルは思う。
───そこまで属性盛られた上で可愛いもの好きとか。お前、どんだけだよ。
と。
「…………なぁ、リル。お前それ、前見えてんの?」
「怒られてからの第一声がそれって神経太すぎない?」
数十分後。メイドの慈悲によって何とか一命を取り止めたスバルは、専属教育係となったメイドを前に庭を歩いていた。
明らかにピキっているメイドだが、スバルが失敗して怒らせたのならともかく、あんな趣味がバレたが故の照れ隠しというのなら、スバルが遠慮するのは逆にお門違いというもの。そしてその手の気遣いをしないのがスバル流だ。
「ふっ……
「いつの間に丸焼けになって死んだの?」
「
相変わらずの態度なメイド。だが、その言葉の裏には必死に話題を逸らそうとする意志が感じられる。
なんだか今まで弄ばれていた分、一矢報いた気になる。そしてスバルは、再び同じ問いを口にした。
「んで。その髪、前見辛くないわけ?明らかに視界の邪魔だと思うんだけど」
リルの前髪は、顔がほとんど隠れてしまうほど長くなってしまっている。止められた赤い二つのヘアピンで隙間こそできているが、そこから見るものにも限度というものがあるだろう。
もしかすればそこには、ファンタジー七不思議の一つ。目隠しか棒線のような目をしているキャラが何故前が見られるのかという疑問を解消する鍵が──
「そんなわけないでしょ。この髪と何年付き合ってきたと………あだっ」
「やっぱ見えてねぇよなぁ!?」
無かった。灯らしき棒に頭をぶつけたその様子から見ると、やはり本当に見えていないようだ。表情も雰囲気と口元で察することはできるが、不便ではないのだろうか。
「髪、切らねぇの?」
「嫌だし面倒だし嫌だしどうでもいいし嫌だ」
「すごく嫌なのは伝わってきた!」
刻むように嫌が挟みこまれる。オセロなら全て嫌に返っているところだ。
スバルと話している間に、片手間で糸を使い庭木の剪定を行うリル。正確かつ迅速に余分な枝を切り落としたその手腕は、前が見えていないということを疑いたくなる。
切った枝をスバルが回収して袋に詰める。この作業はいつも単調なので、庭仕事の中では花の水やりの次に楽な仕事だ。何度もしゃがむから若干足腰が痛くなってくるけど。
しかし、こうして後ろを歩いていると、少年の背丈がスバルよりもかなり低いことがよくわかる。一度それに触れたときには気にしているのか、かなり剣幕で怒られた記憶があるものだが。
こんな小さい体で、よくもまぁこのロズワール邸の激務をこなしているものだと思う。むしろ、この図体でロクに仕事もこなせないスバルが無能なのか………
こんな、身長で。
───あれ、確か。
あの白金の少女の背丈も、ちょうど。
「…………なぁ、リル」
「何?」
振り向く少年。
そうだ。
ちょうど、これくらいの大きさで。
その紫の髪に混じる、
「………髪に、虫ついてるぜ。取ってやる」
「え!?取って!!」
喉が乾いて、自然とそんな嘘が流れるように出た。
喘ぐ。水を求める魚のように。砂漠で彷徨う旅人のように。伸ばされた手は、何もついていない髪へと伸びた。
リルは目を瞑っている。虫が苦手なのか、小刻みに震えている姿が小動物を思わせる。
なんと、
今すぐに、抱きしめたくなる衝動を、必死に抑える。
今この時。油断している今なら。
今なら。
自分が何をしているのか、自分でわからなかった。
止めようにも、止められない。そもそも、止めようとすら思えない。
ただ求めるように。ずっと焦らされていたその暗幕を捲るように。
体はその目を見るために自然と屈み、手はついに、その顔を隠す前髪へと手を───
「───あ?」
キン。という。
ついさっき聞いたはずの、鎖の音を聞いた。
続くのは、ドチュ、という鈍い炸裂音。
突如、視界が赤くなる。真っ赤に染まって、黒くなる。
赤いのだろうか。黒いのだろうか。
そもそも、視界とはなんだろう。赤とは、音とは、一体なんだったのだろう。
見えない。見えない。聞こえない、聞こえない。
考えることも、できない。
だって。
スバルの頭が、どこかに消えてしまったから。
眼球から、目から、脳から。耳から。何かから、伝わってくる何もかもが、全て、なくなったから。
寒い。冷たくて。あああえあえがあごがいがたあかあかあおかえかあきかえかきこうけあそえけこ
遠、い。おとい。いおと。 消える。消え消えきてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
プツリ、と。
電気でも消すように、一瞬で意識が途絶えた。
鉄球パンマン!元気100倍!
下姉様イライラカウンター
リルの私室を覗く 2
リルの素顔を見ようとする 1恒河沙
カウントリセット。
さぁ、ロズワール邸の本領が発揮。スバル君の明日はどっちだ。
ちなみにリル君がファンシーな趣味なのは素ですが、虫が苦手なのは演技です。その演技で大ガバやらかしてんだよな。