目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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遅刻!!!ごめんね!!!

感想欄より。
リル、はリトルの省略語だったり『小さくて可愛らしい』(皮肉を含む)の意味や、月面の土地という意味もあります。

多元世界を渡る流星(スバル)が美しい地球(エンディング)を目指し銀色の月(リル)にぶつかるのは予定調和なのかもしれませんね。

……………………。

……………………もう君が作者でいいよ?


リル君を描いてくれた方々がいるのでこの場を借りてご紹介。

文月さんの描いてくださったリル君。
原作に忠実なめちゃウマです。可愛よが過ぎる。

日々泰樹さんの描いてくださったリル君。可愛い。ほっぺぷにぷにしたい。

結論:リル君は全て可愛い。

感想欄に画像乗っけてくださった方は紹介の仕様が無かった……ごめんなさい……

大変励みになります!更新頑張るね!


「鉄球が頭と入れ替わって死に戻った。今まで得た財産を全て失い、振り出しに戻る」

「─────!!」

 

 声のない絶叫。こうして飛び起きるのは、果たしてこの世界に来て何回目だったろうか。

 

 体を掻き毟る。爪で己の体を傷つけ、熱と痛みで自分を知覚する。

 

 消えていく。自分の存在が空気に消えて、何も見えなくなって、何も観測できなくなって潰える。世界から弾き出されて、何もかもがわからなくなって、自分がいるのかすらわからない。

 

 ひたすら自分に爪を立て、血が出ることも厭わず素肌を痛みという熱で焼く。

 

「───ア゛ガぁぁぁ!!」

 

 獣のように叫び、なおも終わらない死の恐怖から逃亡する。冷たい、冷たい冷たい冷たい冷たい。

 

 こんなものでは足りない。こんなものではわからない。

 

 冷気を熱で塗り潰し、恐怖を痛みで上書きすべく、スバルは抉り取った皮膚と肉のついた指を、何の躊躇もなく自らの眼球へ───

 

「スバルっ!!」

 

「………う………ぇぁ……?」

 

 突き立てかけた手は、腕ごと何かによって妨害される。衝撃と暖かさが、スバルを死から現実へと引き戻す。

 

 認識したのは、紫の髪。そして、所々に混じった白金の線。根元あたりには白金が見えていて、まるで宝石を覗かせる原石のよう。そのメイドは抱きしめる形でスバルを拘束し、その行動を封じていた。

 

「上姉様、エミリア様を!下姉様、お願いだからスバルに治癒魔法をかけて!」

 

「ええ、リルがそう言うなら」

 

「わかりました。そこまで言われたら仕方ありません」

 

 聴き慣れた二つの声が、一つの声を合図にそれぞれの行動を始める。部屋から誰かが遠ざかっていき、スバルの体には暖かい波動が満ちていく。

 

 穏やかな生命の揺らぎが。そして、体を通して伝わってくる少年の体温の暖かさが。スバルから死の概念を遠ざけ、忘れさせる。

 

「………リル……………?」

 

「スバル、怖くないよ。怖くない」

 

 呼びかけに応えるようにして。メイドはスバルの頭をそっと抱きしめ、その胸元へと誘った。

 

「………どんな悪夢を見たのか知らないけど。もう大丈夫。怖くない、怖くない」

 

 あやすように、慈悲すら孕んだ声をかけてスバルの頭をポンポンと叩くリル。硬いだけのはずの胸板が、妙に暖かくて。安心して。

 

 目の奥から、溜め込んでいたものがじわりと溢れ出てきてしまう。今、この時の恐怖が失せたからなのか。或いは、今の今まで堪えていた失った時間への悲しみだったのか。

 

「う、ぇぇぁ………」

 

 どちらにせよ、その全てが堰を切ったように止め処なくスバルの目の縁から流れはじめて。

 

「……怖ぇ、よ」

 

 それを呼び水にして、プライドのダムは呆気なく崩壊した。

 

「……怖い……怖ぇよ………もうダメだ、もうダメだったんだ……!……死んじまったかと、死んじまって……もうわけわかんねぇよ!」

 

 絶対に理解されないであろう言葉が、話しても意味をなさない文字の羅列が。口々に漏れ出ていく。

 

 目の前の少年よりも一回りも歳上のはずのスバルが、情けないことにも抱きしめられて、弱音を吐き続ける。

 

 まるで子供だ。歳下のはずの少年の胸に抱かれて、慰められて。たったそれだけのことで、胸の奥につっかえていたものが溢れ出てくる。飽和して、容量を超えてしまった汚ない感情を、惨めにも吐き散らした。

 

「俺が、俺の大切なもんが……もう、ずっと…!守りてぇのに、それもダメで!どうすりゃいいんだよ……!どうしろっていうんだよ……!」

 

「………そっか………スバルの苦しみは、リルにはわかんない。………でも、スバルは、スバルなりに頑張ったんだよね。………偉いね」

 

「───っ………!」

 

 褒められた。きっと、何もわかっていない子供に、そう一言。慰めに等しい言葉だったのに。胸の奥に秘めて、埋めたはずのものが吹き出して、止まらない。

 

「偉い、偉い。……頑張ったね、スバル」

 

 鼻水が垂れてくる。頭も、口も、肺も、訳がわからないものに満たされて、嗚咽の混じるスバルの泣き声が、さらに醜悪なものへと変わっていく。

 

「まだ、立てる?」

 

「無理………だ………もう、疲れちまったよ……!何をしていいのか、何が悪かったのか!……もう、わかんねぇんだ……!大好きなのに……!大好きだけど……でも!……怖い思いなんて、もう……こりごりなんだ……!」

 

「そう………じゃあ、全部捨てちゃう?逃げちゃうの?」

 

 その言葉が、溢れ出る感情に初めて躊躇を混ぜ込んだ。

 

 それも、いいかもしれないと思う。もう、怖い思いをしないで済むなら。

 

 それでいいのか。本当に、それが正しいのか。あの日々を。優しかったあの日々を。忘れてしまっても。もう、二度と。取り戻せなくなってしまったとしても。

 

 けど。次があるかなんてわからないのだ。

 

 王都では三度死んだ。もしかしたらそれがスバルの死ねる上限なのかもしれないし、或いは残機が6だったのを、もう使い切ったのかもしれない。

 

 これ以上死ねば、もう。死に戻りは、発動しないかもしれないから。

 

 故にスバルは。決定的で、最低な一言を口にした。

 

「……逃げたい……もう、辛い思いなんてしたくない……失いたくなんてない……!失うくらいなら、何も得たくない……!………死にたく、ない!」

 

 今度は、スバルが縋るようにリルの体に顔を埋めた。優しい温度が。金木犀のような甘い香りが、スバルの思考を優しく蕩けさせていく。

 

 あぁ、言ってしまった。そう思った。

 

 あの四日間を。スバルの中で輝かしかったあの日々を。投げ捨てる言葉を、吐いてしまった。

 

 そして、こんなことを言っても、きっとどうにもならないのだ。スバルはきっとまたあの四日間を過ごして、そうして積み上げた全てを。この今日の日の出来事も、無くしてしまう。

 

「───じゃあ、リルが守ってあげよっか」

 

「…………ぇ?」

 

 だから。

 

 その提案は、全く予想だにしない場所から降り注いだ。

 

「──汝の願いを聞き届ける。リルの名において、契約を結ぼう。……さぁ、スバル。君の願い事は、何?」

 

 スバルの頭に手を置いて微笑むリル。………今までの疑いも。これまでの全てを忘れて。スバルはただ、下から見上げるその天使のような貌に見惚れた。

 

「リル、それは──」

 

「下姉様。少し、黙ってて」

 

 止めに入ろうとした他の誰かの声も、まるでノイズがかかったような騒音でしかなかった。今のスバルに見えるのは、その海色(みいろ)の眼を慈悲で満たしたリルのことだけ。

 

 縋るように。スバルは、その願いを口にする。

 

「………リル…………守って………守って、くれ!……俺が、死なないように……もう、怖くないように………側にいてくれ…!それだけで、いいから………!」

 

 なんて、情けない懇願だったのか。大の男が口にするには、あまりにも弱弱しいその悲鳴を。使用人は、嬉しくてたまらないと言った表情で咀嚼し、微笑んで。

 

「───その願いを聞き入れる。誓約は戒律となりて、私と汝を結ぶ縁となった」

 

 厳格な口調とは裏腹に、まるで子供を褒めるようにスバルの頭を撫でたリル。安心させるように、少しだけ強くスバルの頭を抱いて。

 

「だから、もう泣かないで」

 

「………くそっ……ショタに、泣かされちまった……!」

 

「そのショタって呼び方、どうかと思う。リルにはリルって名前があるんですけど」

 

 もう一頻りだけ。調子を取り戻したスバルの涙を、その胸の内に迎え入れたのだった。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 くっ………殺せ!

 

 というわけでどうも。僕だよ。

 

 スバル君をはちゃめちゃに甘やかして駄目にしちゃった!

 

 僕だ。

 

 いやね。スバル君、めっちゃ甘やかし甲斐があるんだよ。甘やかされるってのがそもそも罪悪感を抱える行為だから言うまでもないことだけど。とりあえず基本的な甘やかしスキル使ったら全部ハマんだもんね、ビックリ。お手本のような堕落っぷりだったわ。

 

 うんうん。その申し訳なさそうな顔。いいねいいね、頼むからもっとしてくれ。

 

 依存依存〜共依存〜に見せかけたただの依存〜!

 

 スバル君ってばほんとダメ人間。他人の好意に甘えて腐りやす過ぎるね。野菜室のもやしか何かか?まぁそこがいいんだけど。

 

 …………さて。そこの下姉様。怒ってないがめっちゃ困惑してる感じ出してるけど、怒りたいのはこっちなんだよな。なんで急に殺しちゃってるの?

 

 目が覚めたらナイトメアというか……目を開けたら頭が飛んでったスバル君の体があったって、かなりスプラッタだったんだが?

 

 危うく死に戻りし損ねたわ。一瞬目を閉じて開けたら相手の頭が吹っ飛んでるとかどんな寝起きドッキリだよ。普通に怖えわ。

 

 と、宛先もない恨み節をほどほどに。適当にポンポンとスバル君の頭を叩き、いい加減気まずそうに部屋の前で待っていたエミリア様へ視線をやらせる。

 

「ええっと………もう、良かったりする、のかしら?」

 

「えええええ、エミリアたん!?いつからそこにおわしていらっしゃって!?」

 

 途端、かぁっと顔を赤くして僕の胸元から離れたスバル君。でもね、その後ろで上姉様が人殺せそうな目で君睨んでるんだ。

 

 流石に好きな子にあの光景見られるのは恥ずかしいか。僕としてはもうちょっとくらいああやっててもよかったんだけど。

 

「えっと、ごめんね。二人の大事な時間を邪魔しちゃったみたいで。なんなら、この後私たち部屋を離れるからごゆっくり……」

 

「違うから!そういう関係じゃねぇから!てか、男!男同士のこう……友情的なアレだからさぁ!!」

 

 色々と誤解が生じてる感じで、邪推を繰り返すエミリア様。やめろやめろ。流石に僕もスバル君に処女までやる気はねぇわ。処女になる気もねぇ。

 

 そして言いつつも、僕から極度には離れないスバル君。そりゃそうか。僕もなんだかんだ契約結んじゃったし、今回はしっかりスバル君を守らなきゃならない。

 

 ま、拘束力なんて欠片もないからいくらでも破れるんすけどね。

 

 え?今回は攻めの手を緩めるのかって?ご褒美甘やかしタイムでスバル君を回復させるのに努めるのか?

 

 そんなことを考えるのは愉悦の素人ですよ。ヒーリングタイムはもう終わりました。あれで全部です。本日の営業はもう終了してんだよ。ここで手を休めるなんてとんでもない!

 

 でもこれ、原作とはかなり乖離した感じになっちゃったんだよね。今のところは元の知識が役に立つ場面は少なそうだ。

 

 てか、スバル君の中で僕の扱い一体どうなってんだろ。前回ので、とりあえずあれが僕の素顔ってのはバレたっぽいが。

 

 さてさて、どうしたものか。

 

 と、悩んでいると。発狂引きニートと化したスバル君を心配してか、ロズワールが直々に客室を訪れた。流石に師匠はいないっぽいけど。

 

「ふぅむ、体調は問題なさそうだぁね。それに……リルをそこまで手懐けちゃうだなぁんて。あーもう、妬けちゃうねーぇ」

 

 適当な自己紹介を済ませ、ふざけた態度をとるロズワールに、真剣な表情を作って向き合うスバル君。その横顔には脂汗が浮かんでいて……

 

「………ロズワール。一応俺、エミリアの……お前の恩人ってことで、いいんだよな?」

 

「………あぁ、そうだとぉも。それで?わざわざそれを確認するってぇことは。私に何か、要求することがあるのかなーぁ?」

 

 少しだけ真剣さを増したロズワール。それに一瞬気圧されたスバル君は、しかし臆することなく、要求を突きつけた。

 

「──俺を、この屋敷に暫く置いてくれ。んで、旦那様。ついでに姉様方。リルをその間、俺にくれ」

 

 ──熱烈なプロポーズ、痺れちゃうね、全く。

 

 




下姉様イライラカウンター
スバルが目覚めた瞬間リルの臭いが強くなる 100
リルを盗る 50京
リルに苦言を呈される 8穣

スバルの発狂で怒りより困惑が強い状態です。ドン引きして、地雷の色んなことを見落としてます。発狂してマインスイーパってそれすごい。

さ、スバル君。

…………頑張れっ!!

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