目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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次回次々回と、多分リル君視点はないよ。

ギャグ的や愉悦的な面やらを考えたらスバル君の方が創作意欲は高くなる。物書きとして書いてて面白いのはスバル君視点。ただ、書きやすさと早さは断然リル君なんだ。




7泊8日の旅行から帰ってきたらクーラーがついていて冷蔵庫が開けっぱなしだった。

 カリカリカリと、部屋に小さく音が響く。動く羽ペンが鳴らす音は、沈黙の流れる部屋にやけにうるさい。

 

 集中。そう思っても、どうしても思考はついてこない。まるで、子供の頃にやった勉強会という名のゲーム大会のようだ。

 

 それもこれも。

 

「む。視線を向けられた気配。さてはスバル、リルに見惚れてるね?」

 

「………その余計な一言さえなきゃ、メイドとして完璧だと俺は思うよ?」

 

 全ての元凶は。ベッドの上で足をパタパタさせて本を読む、紫髪の最強系目隠しメッシュツンデレ自意識過剰ロリ詐欺ショタ男の娘メイドなのだが。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「スバル、集中が足りない。もしかして、リルと一緒にいて緊張してるの?男同士なのに?」

 

「はいはい、煽りが上手いですこと。そういうメスガキ感がまた、お前って感じがあるなぁ」

 

「うわ、急に何?キモっ………キモっ」

 

「陰の者がかなり傷つく言葉連射すんのやめてくんない!?」

 

「急にスバルが口説くから悪い」

 

 不満げにヘソを曲げるメイドに苦笑。………して。その頭をじっと見つめる。

 

 ……髪の付け根。いつか気がついて、そのまま放っていた違和感。

 

 ──やっぱ。あの色、か。

 

 紫の髪に混じるかのように。あるいはそれを背景にするかのように。別の色……美しい白金が、髪の付け根からは覗いている。

 

 それは、スバルの故郷でも別段珍しいことではない。色こそ違うが、金と黒の組み合わせは何度も見たことがあった。

 

 リルは、髪を染めている。

 

 ほとんど確信に近い結論を出し、そうすると納得できるいくつかの事実に目を向ける。

 

 あの夜。二周目のループで死際にスバルが目撃した謎の美女の正体は、恐らくリルだ。髪の長さは、綺麗に纏められた髪型を解けば相応になるだろうし、身長や容姿、特に性別に関しては言うべくもない。

 

 あれは、風呂上がりか何かで素顔を晒しただけのリルだったのだ。どうしてその時に限って髪色を戻していたのかはわからないが、そう考えればロズワール邸にあっけなく侵入していたことも、最期の瞬間に見せたあの表情にも納得がいく。

 

 元々屋敷の住人なのだ。当然、侵入というか、滞在はしていて。スバルを最後に心配しつつも何もしなかったのは、そもそも何も出来なかったから。王都での二と三周目で、リルに魔法関係の治癒手段がないことはわかっている。一度手を下された時点で、リルに為せることは襲撃者の迎撃だけだ。

 

 そして。たまたまスバルの死際に出会った姿形の変わったリルを、スバルが襲撃者と見間違えた。そう考えるのが妥当。少なくとも、リルがスバルを殺す理由も、あんな呪いをかける理由もない。

 

 ………三周……ほぼ二周全てにおいて、屋敷の人間は大半がスバルにリルが懐いている、と言っていた。その目を疑わず、リルが好きな人を殺そうとする精神破綻者である可能性を除けば。答えは自ずとそうなる。

 

「だが………三周目の死因だけが、わかんねぇ……」

 

 リルが目を瞑っていた程度で、侵入者の存在を逃すとは思えない。そこまでの手練れなら正面から潰せばいい。今度は呪いなどで闇討ちする理由が薄くなる。

 

 初日から。しかもあんな真っ昼間に、頭を吹き飛ばされて死ぬような理由がわからない。

 

 状況からして考えついたのは、ある蛇の髪を持つ女の伝説に基づいた仮説。

 

「なぁリル。お前の目って、見た瞬間石化したりとかってする?もしくは、ビーム放てたり」

 

「………スバルはリルをどんな人外にしたいのか知らないけど、リルの目はちゃんとした色の、普通の目だよ。魔眼でもなんでもない。てか、そんな危ないのだったら眼帯とかでもっとちゃんと対策します〜」

 

「………そか」

 

 尤もな反論に、その説も否定。………目の色について明確に言わないのは、一体どんな意図があってのことなのだろう。

 

 ──リルが素顔を隠しているのは、その顔があまりにも美しいからだとか、きっとそんな理由だ。それも、かなりシャレにならないレベル。実感した通り、見た者が正気を失うレベルの美貌と言われれば、たしかにその容姿にも納得せざるを得ない。

 

 ギリシャ神話か何かに、そんな神もいたはず。レムやラムと一緒にお風呂に入っているということは、男性にしか効果がないだとか。そんな効果だったりするのか。それはそれでロズワールの存在が気になったり……

 

「あーもう!わっけわかんねぇ……!」

 

「何の話かわかんないけど、安心していいよ。スバルはリルが守ってあげるから」

 

「その割にさっきからお前俺のメンタルゴリゴリ削ってくよね!?」

 

「精神面の守護は契約内容に含まれておりませ〜ん」

 

 ぶぶー、と顔の前でバッテンを作るリル。……その軽口で、多少なり救われている自分がいることも確かだ。

 

 ロズワールへと要求を突きつけたスバル。意外にもあっさりと承認されたことにより、スバルは現在ロズワール邸の食客扱い。そしてリルは、専属メイドということでスバルと片時も離れずにいた。屋敷の貴重な労働力を、まさかの独り占めだ。

 

 心苦しくはあるが、正直なによりも頼もしい。絶対に守る。その言葉通り、リルはずっとスバルから目を離さないし、肉体的にも離れない。

 

 襲撃者の正体こそわからないが。襲撃の瞬間にリルがいれば、また結果は違うのではないか。それが、リルに絶対的信頼を寄せるスバルにとっての希望だった。

 

 それに。それに、だ。万が一。億が一。リルが、襲撃者なのではないかという考えが、スバルの中では燻っていた。自分でもあり得ないと思っているそれを否定するためにも。スバルは五日目の朝を、どうしてもリルと共に迎えたかった。

 

「てか。散々煽ってくるメイドさんは経験とかあるわけ?そのナリで男なんだから、若いうちに幼なじみの一人でも作っとけよ?ちなみに、小学生の頃に結婚の約束をしとくのが菜月一家のオススメだ」

 

「あるよ?」

 

「へ?幼なじみとの約束?」

 

「いや、そっちじゃなく。だから、初体験の記憶くらいリルにもあるって」

 

 キョトン、とした可愛らしい顔で、ベッド上で惚けるリル。確かに、その面ならモテない理由はないとは思うが。

 

 いや、まさか。そんな。

 

「なん………………だと………?」

 

 異世界ファンタジー。まさか、途中で現れた新ヒロイン擬きがそのナリで自分より遥かに『男』であっただなんてオチは、勘弁してくれないか。

 

「聞きたい?」

 

「是非に」

 

 即答したスバルにニッコリと微笑んだリルは、思い出すかのように語り始める。

 

「リルの初体験はまだ子供の頃でした……」

 

「ゴクリ」

 

「川に飛び込んだリルの透けた服を見て、上姉様は無理やりリルの服を……」

 

「まさかの上姉様っ!?」

 

 衝撃の相手に口をあんぐり。まさかそんなことまでも異世界ファンタジーさんはやってのけるというのか。

 

 と、勝手に戦慄していたスバルの背後から、注釈を加える人物の姿が。一度畏まらないでくれと言ったが最後、下姉とは違いかなりフランクに接してきたメイド。

 

「レムとラムの三人で初めてお風呂に入った時の話でしょう。心配しなくても、リルの純潔は未だ健在だし、それを奪っていいのはロズワール様かラムかレムだけよ」

 

「その人選で本当にいいの!?ねぇ!それはそれで驚愕の新事実なんだけど!?」

 

 ノックもせずに入ってきたメイドは、傲岸不遜にそう告げてお盆に載せて運んできたティーポッドとティーカップを使って紅茶を淹れていく。

 

 ……その額にほんの少しの安堵と汗を発見して、盗み聞きしていたであろうことを推測する。礼を欠かせて部屋に入ってきたのは、らしくもなく慌てていたからか。

 

「──ほんと。弟思いの姉様だよな」

 

「当然よ、お客様。そしてその弟を独占したお客様には殺意が芽生え始めているわ。……弟を下さいとラムに言ったやつは全員生きて帰すつもりはなかったのに」

 

「怖ぇし欠片も容赦がねぇ!弟の将来の相手が心配だよ!?」

 

 冗談よ、と軽く微笑んだラムは、お茶を注いだカップを音一つ立てずにスバルの前に置き、残り一つを持ってリルの座るベッドへ。ちょうどその片側に座り、ぴったりとくっついた。

 

「あんがと。そしてナチュラルにイチャつくなぁオイ」

 

「リルを愛でるのは姉様足るラムとレムに許された特権よ。お客様が同じことをやったら殺すわ」

 

「さっきから発言が火の玉ストレートすぎるわ。てか、リルはそれでいいのか?」

 

「上姉様の行動は全て正しい。よってリルに向けられた行為は全て容認します」

 

「全肯定botね、納得」

 

 全く満更でもなく、というか逆に安らいだような表情すら見せるリルに尋ねたのが間違いだったと悟り、紅茶を一杯。鼻に広がる香りは………

 

「…………やっぱ無理だわ。草の味がする」

 

「この屋敷最高級の茶葉にバチが当たりそうな感想ね、お客様」

 

 どうやっても受け付けない味に、持ち上げた紅茶を降す。どうにも、コーヒーを初めて飲んだ時とはまた別の嫌さがあった。こちらの趣味はよくわからない。

 

「てか、リルの分はねぇのな。てっきり用意すると思ったんだけど」

 

「リルは味がわかるからね」

 

「この程度じゃ満足できないって?………はいはい、自慢ですかそうですか。じゃあこいつはリルに……」

 

「やだよ、草の味がして苦いもん」

 

「味がわかるんじゃなかったの!?」

 

「わかるから嫌いなんだよ。草じゃん」

 

「俺と全く同じ感想!上姉様はどう思われるので!?」

 

「リルが嫌いならこのお茶に存在する価値は無いわね」

 

「こっちもだだ甘だぁ!!」

 

 さっき飲んだ紅茶がシロップに感じられるほどの甘やかしっぷりを見せる上姉。やはりこの姉弟達、ブラコンシスコンすぎる。ここまで仲がいいと逆に清々しい。

 

「それにしても。本当に勉強しているのね。驚いたわ」

 

 スバルの机の上を見て、ほんの少しだけ感嘆の込められた声を漏らすラム。……そういえば、全く集中できてこそいなかったが。スバルは二周目のラムとの約束を守り、ちゃんとイ文字を勉強しているのだ。

 

「ま、初歩の初歩だけど。簡単な童話くらいなら読めるようになったよ。生憎と、弟さんのせいで集中切れたとこで……」

 

「そう。ならいいわ。上達を願っています」

 

「弟に都合が悪くなった途端に話切って揉み消そうとすんのやめね!?」

 

 お互いのフォローにも余念がない。能力を持っちゃいけない人が変に力を身につけてしまって変な方向に使うダメなパターンを目の当たりにしたスバル。

 

「ふふ、やっぱりスバルと上姉様、相性いいね」

 

「まぁ、あのロリよかマシだとおもうけど」

 

「いくらリルとはいえども聞き捨てならないわね」

 

「そこまで言うほどのことだった!?」

 

 スバルとラムのやりとりに、ケラケラとおかしそうに笑うリル。……家族のことになると笑いのツボが浅くなるのか、その顔はさっきまでの二割増しで明るく見えた。

 

 ………その光景が、彼女の琴線に触れたのか。ラムは珍しいことに、一瞬だけ、とても嬉しそうに微笑んだ。皮肉な笑みではなく、美少女然とした、美しい笑みだ。

 

「………ラムは帰るわ、お客様。……リル。レムのことは、ラムに任せておきなさい。遺憾ではあるけれど、ロズワール様のご命令だもの。役目はしっかり果たすこと。いいわね?」

 

「───承知いたしました。上姉様。このリル。契約に従い、全力を以って任に当たらせていただきます」

 

 ベッドから立ち上がり、スカートを摘んで一礼。何度も見たスバルでも見惚れるような堂に入った仕草に、ラムは一つ頷いて部屋を出て行った。

 

「………てか、さっきの話のオチは結局?」

 

「何の初体験かとは言ってないから、姉様二人とお風呂に入った初体験を」

 

「…………まぁ、一般人からすりゃ変な初体験より価値はあるかもだな」

 

 あれほどの美少女との裸の付き合いは、確かに男なら誰でも一度は経験してみたいと言うものかもしれない。そう言う面では、役得と言う言葉を超えるほど少年は恵まれているわけだ。

 

 ………色々と情けなくなってきてしまった。

 

「ま、なんだかんだ、年相応に清く正しく育ってくれたみたいでなによりだよ。それが過保護の影響なのが気になるけど」

 

 負け惜しみ気味に口にした一言。

 

 それに対し予想に反してうーん、と一拍だけ悩んだリル。そうして妖しげに微笑みながら、艶やかに光る自らの唇を指して。

 

「………こっちの初めては、本当に盗られちゃったけどね」

 

 人差し指を立て、内緒話をするように悪戯っ子ぽく破顔したのだった。

 

 

 

「………嘘……でしょう………?リル、さっきの話は本当なの……!?」

 

 

 

 ……が、無事に聞き耳を立てていた姉の耳に入ってしまったようで。バン、と見本のように大きく音を立てて扉を開き、まるで世界の終わりのような表情を浮かべてリルに迫る。

 

「上姉様!?」

 

「一体どこの馬の骨が……リルの周囲にはフレデリカ以外の女は近づけなかったはず……」

 

 リルの驚愕に耳すら貸さずサラッと暴露される過保護性。恐らく今まで弟と接触した異性の名前がスクロールされているであろう思案顔で悩んだ末に、ラムが出した結論は。

 

「まさかガーフ」

 

「片腹痛い」




下姉様イライラカウンター

ラムやリルと仲良く部屋で話す(自分も混ざりたい) 25京
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