逃げていた。逃げていた。
必死に、森の中を駆けていた。
ただ山を抜けるために、足下の坂を印に走り抜けていく。登山時に遭難したときは、確かそれは下策だったはずだ。しかし、たった今降りてきた場所に引き返すわけにもいかず。
スバルはただ、目的もなく走っていた。
「………はっ……ふ、ぐごぶ……ふぅ……はぁ!………げほっ、げほっ……が……」
漏れる息は、とうの昔に切れて荒くなっている。元々マラソン大会程度でしか長距離を走らないスバルは持久力がない。その上、見知らぬ山の中を走るという行為は想像以上にその少ないスタミナを削っていた。
喉に詰まる痰。どんどんと規則性とはかけ離れていく呼吸に、乾燥した空気を吐こうとする咳が混じり合って、聞くに堪えない騒音を周囲へとばら撒く。
───どうして、こうなったのだろう。
ありきたりなセリフだが、それでもスバルはそう思わずにいられなかった。目が覚めてから、全く以て理解し難いことだらけだ。わかったのは、リルがスバルの代わりに呪術を受けて、スバルを守っていたせいで死んで、その姉二人と主人に追い回されていることだけ。
「………マジ……リルのことばっかかよ………ちょっと性格がよくて、ちょっと慈愛の心を持ってて、ちょっと困難を打ち砕けるくらい強くて、ちょっと顔がべらぼうにいいからって、俺の記憶を占領しやがって………俺の本命は……エミリアだっつぅのによ」
褒め言葉にしかならない罵倒を口にして、口元を少しだけ緩めた。
……わかっている。リルのことが多いのは、リルがそれだけ愛されていたからだ。リルという一つの棒を揺らすだけで、触れていた水面が揺らぐように。関わっていた多くの人々が、影響を受けるから。
そして、その棒を奪い去ったのは。間違いなく、ナツキ・スバルの許されざる大罪だ。
「………謝ったら、許してくれっかなぁ……あぁ、くそ。絶対、許してくれるだろうな……何かにつけて面倒な条件出して、それが全部俺のためのものでよ……」
容易に想像できる妄想。もう、決して叶わない夢の雫が、目から流れる液体とともに透明な線を描いて、後ろへと流れていく。
それでも。それでも。
死ぬわけにはいかない。死ぬわけにはいかないのだ。
歩まなければ。立ち止まることは、死んだ彼への冒涜に他ならないのだから。
「………ぶがぁ………ばぁ………あ゛ぁ……」
だが。そうは言っても、人間が常に走り続けていられるわけもない。立ち止まって咽せて、自らの限界を思い知る。
…………その音に気がつけたのは。きっと、その聞き苦しい音の中でも、それが一際澄んでいたからだったろう。
鎖の音。二周目と三周目で耳にした、襲撃者の鳴らす得物の音。
反射的に伏せて、横方向へと跳躍する。着地に失敗して視界が回るが、その中でつい先ほどスバルがいた場所にあった木がとてつもない衝撃に倒れていくのを見て、それが正解だったと悟った。
「───こんなになっても、まだ来んのかよ?空気読めねぇな襲撃者さんよ……」
だが、体勢を立て直したスバルは視界にそれほどの荒技を成し得た武器の正体を見る。
……鉄球だ。鎖と棘のついた、殺意しか感じられない鉄球が、決して細くない木を薙ぎ倒した存在の正体だった。そして、恐らくはスバルを二周目、三周目と死に至らしめたものの正体もそれで。
「……見た、見たぞ………こちとら疲労困憊なんだ……とっとと、正体見せやがれ……いや、見せなくていいから死んじまえクソ野郎!どうせテメェの目的はもう、達成されてやがんだろうからな!悔いはねぇだろ!?」
思う限りの罵詈雑言を吐き捨て、鉄球の繋がる鎖の先を見る。森に隠れているであろう元凶は、身の丈に合わない鉄球を引きずることもなく一息で回収した。
「──いいえ、目的は達成されていませんよ?今から、あなたを殺さなくちゃならないんですから!」
明るい声。この状況下では信じられないほどの朗らかな声音は、どこかエルザのような精神異常者を思わせる。
だが、その相手は、スバルにとってあまりにも予想外なもので。
「…………………なん……で……」
その相手については、まだ納得できた。今のスバルには、彼女に殺されるだけの理由が存在したからだ。
だが。だが。彼女が持っているその武器。その凶器に関してだけは、どうしても。
どうしても。
認めるわけには、いかなくて──
「──なんで、お前がそれを持ってるんだよ……レムっ!!」
「───?」
青髪のメイドは、まるで別人のようにあどけない表情でうっすら笑いながら。
疑問の意味を測りあぐねるかのように、軽くスバルへ首を傾げた。
………はい、どうも。僕です。
はぁぁぁぁ………
鳥さんの気まぐれのせいで、肝心なシーンが見れなかったよ。
……僕だ。
あれだよ。『アニメのちょうどいいシーンだけが録画されてない』現象。上姉様の視界に映ったら、急にスバル君が走り出してるし、上姉様対師匠戦が始まってるし。
萎えるわ〜……いや、聴覚がないから見えてても困るかもしれないけどさ。
あ、ちなみに
尤も、それは上姉様も一緒で。鼻と口から血を流して、一歩すらも動けずにいる。マナ欠乏症の状態で五割程度の力を出したのだから、代償としては妥当だった。
ただ、千里眼を使って下姉様とスバル君を監視をしているようで、大体の状況が見て取れる。大方、スバル君は下姉様が二周目と三周目で自分を殺したことに驚いているのだろう。
『………あぁ、そうかよ。…………そんなに、俺が信用ならなかったのか。リルに近づいたのが、そんなに嫌だったのかよ!?』
『はい!その通りですよ!レムが毎日、毎日、毎日毎日毎日毎日っ!!……どんな思いで、リルのいない夜を過ごしたかわかりますか?リルに抱きついた時も、お風呂の時も、義手を隠さなくなった時も、村に出かけると聞いたときも。ずっと、お客様を殺したくて堪りませんでしたっ!!』
………声は聞こえないけど、なんとなく雰囲気でどんな話してるかはわかるな。下姉様、笑いながら急にキレるのやめない?怖いよ。
『………リルかラムが、止めたのか』
『はい!でも、もういいんです。リルが、リルが………リルが、リルが、リルが……?あれ……?どう、なったんでしたっけ?………まぁ、いいです。そう。レムは、ずっと、あなたのことを殺したかった。リルのことに触れる度、リルの目を見るたびに。ずぅっと、そう思っていたんです』
…………なんかとんでもないこと言ってる気がするな。聞こえないけど、なんとなく病みの気配を感じる。
でも、スバル君の顔が曇ってるから問題なし!!ヨ……あっぶね。失敗フラグ。よしよし。
『……そう、かよ……そう、なのかよ………じゃあ、俺は一体……何のために……』
『あ!そうそう。レムはひとつ、訊きたいことがあったんです!どちらにせよ殺しますが、肯定してくださった方が、より躊躇なく殺せますなら!』
『なん……だよ………今更、俺に……何を……』
『お客様は、魔女教徒なんですよね?』
ん?なんかスバル君の表情が固まった。意外な事実というか、予想外の質問が来たという感じだ。うーん……他陣営との繋がりか、あるいは魔女教関連のことかな。
『今になって、ようやくわかりました!その鼻をつく臭い!あなたは、魔女に魅入られた者!なんでしょう?」
『……なんの、ことだ………風呂はちゃんと入ってるし。そもそもうちは代々、無宗教で……』
『とぼけないでくださいっ!!』
嘘だッ!!
……なんかそれに近いニュアンスだった気がするな。力の限り何かを叫ぶ下姉様。ついでに鉄球が振り下ろされ、無実の木が数本メキメキと音を立てて折れる。これから毎日森を折ろうぜ!!
そんなダイナミック森林破壊を気にも留めず、姉様は続ける。
『そんなに魔女の臭いを漂わせて、無関係だなんて白々しいにも限度がありますよ!……姉様も他の誰も気付かなくても、レムだけはその臭いに気付きます!』
『………何、を……?』
『リルが、リルが、リルが、リルがっ!!あなたと一緒にいるというその事実だけで、レムは怒りでどうにかってしまいそうでした……姉様と三人で会話しているのを覗いている時も……もう、耐えられないんですっ!!姉様をあんな目に遭わせて。リルの容姿を、あんな風に変えて!右腕と角を奪った元凶が!!のうのうとレムたちの大切な場所に……そしてあろうことか、リルに………』
『右腕と……角?顔が、変わった…って……?』
む。愉悦の気配。スバル君の顔が、訳もわからないというように崩れて行く。頭を押さえて叫ぶ下姉様に、何かを恐れるような弱々しい表情で視線を向けて……
『もう、耐えられないんですよ…………姉様とリルが世話をするのを装って、あなたと親しげに振舞っていただけと知っていても!!』
おっと、多分トドメの一撃かな。僕と上姉様の関係が、演技だった的なことを言ったのだろう。
これは、スバル君の精神になかなかの大ダメージが………
『………そう、かよ。………ラムは、そうだったのかもしれねぇな………悲しいよ……すげぇ、悲しい…………』
目元を押さえて、天を仰ぐスバル君。顔こそ見えないが、きっとその顔はぐちゃぐちゃに歪んでいて………
『………だがな、レム。……その言葉だけは、聞き捨てならねぇ……!』
…………ん?
『リルが!!俺にそんな最低な嘘、つくわけねぇだろうが!!』
………え?なんで、逆に姉様を叱りつけてるの?
えっ?えっ?
…………えっ?
「………リルが!!俺にそんな最低な嘘、つくわけねぇだろうが!!」
「……ッ!?」
そう叫んだのは、無意識のうちだった。反射的に。その言葉を聞いた瞬間に。少しの悲しみと同時に怒りが湧き上がってきて、スバルにその言葉を吐かせた。
レムはスバルの反論があまりにも意外だったのか、その顔を驚愕に歪めて一瞬の隙を作った。……逃げ出すとしたら、きっと今だろう。
だが。今ここで、引くわけには行かなかった。
「お前はリルの姉ちゃんなんだろ!?アイツが生まれてから、ずっと一緒にいるんだろ!?なら、そのくらいわかってるはずだ!この四回で、俺もよくわかってる!」
何故なら。先ほどレムが口にした言葉は、死んだリルを愚弄する言葉だからだ。死者を弄び、その意志を騙る。レムらしくもない、最低の言葉だったからだ。その言葉だけは、否定しなければいけなかった。
「……何を、知った風な!」
「知ってるんだよっ!!いいか!?お前の弟は、見知らぬ誰かのために命を投げ打つ優しいやつだ!悪戯が好きな悪ガキで!ちょっと可愛い小物好きの少女趣味で!……二人の大切な姉のためならどんなことでもして、たまに俺を見捨てる冷血漢だ!……でもな!アイツは、嘘をつくのが大の苦手なんだよ!俺にそんな理由で関わってたら、他の誰より俺が気づくわ!!」
威嚇。恫喝と言ってもいいほどの剣幕で、スバルはレムに大声を浴びせかけた。……その手の中の鉄球を一度打ち据えれば、きっとスバルは息絶える。これ以上の言葉を発せずに、肉塊となってその生を終えるだろう。
それでも。スバルはなおも言葉を続け、レムへと言い聞かせた。
「俺の悪口は好きなだけ言えよ!どうせ屁の役にも立たずに、料理も家事も庭仕事も全然ダメな穀潰しだからな!……だが、俺を守ってくれたアイツを!リルを!貶めるのは絶対に許さねぇ!」
「リルを………そのリルを殺したお前が、それを言うんですかっ!?」
腕の中の鎖が、スバルを否定するように渾身の力で以って振るわれる。
……だが。最も破壊力のある鉄球をスバルに当てるには、些か距離が近すぎた。結果的にそれは、鎖でスバルの腹を打ち、その先の木々を薙ぎ倒すだけの行動に終わる。
「うご……うぇぁ………!」
しかし。スバルにとっては、その鎖の一撃ですら重すぎる。皮膚が裂けて、熱を持つほどの裂傷が生まれて。スバルの体をジクジクと蝕み、身の危険を知らせる。
………だが。その程度の傷では、死と程遠いことをスバルは知っていた。
「……あぁ!そうだよ!俺が、俺がリルを殺したも同然だ!だがな!呪いは俺じゃねぇ!そんな力が、リルに守ってもらったちっぽけな俺にあるわけねぇだろうが!!」
「…………ッ……!黙って、黙ってください!魔女教徒っ!!」
再び。振るう鎖が、今度はスバルの背中を打つ。キン、という音と共に背を強烈な痛みを訴えかけた。痛みを声に変えて、絶叫。思わず膝をつき、地面へと倒れ込みそうになってしまう。
………それでも。死には、まだ遠い。
「……誰が、魔女教徒だっ!!そんなもん崇めるくらいなら、お前の弟を崇める!!どんだけアイツがピュアで、いいとこがあって、天使みてぇなやつだと思ってんだ!!性別さえ違ったら惚れてるわ!!」
「当たり前ですっ……!リルは、レムの自慢の弟で……!」
「その自慢の弟は、他人の命令任せに死ぬようなタマなのかよ!?俺みてぇなチンケで、弱っちいやつのショボい術なんかで、死ぬようなやつだったのか!?」
「………うる、さいっ!!うるさい、うるさいっ!!」
二度、三度。鎖が振るわれて、そのたびに苦悶の声を上げる。
──けれどそれが為されるたび、一撃一撃の威力が下がっていることを、スバルはなんとなく知覚していた。
痛みを吹き飛ばすように、大きく息を吸う。そして、レムの肩を思い切り掴んで、呼びかける。
「この際、俺のせいかどうかはどうでもいいっ!このまま殺されようと、文句は言わねぇよ!だが!もしお前の中で、リルが他人の命令に従って関係を持って、演技でニコニコすることができるやつってんなら、俺はそれを絶対許さねぇ!!」
「そんなわけがないでしょう!?リルは、リルは………」
語勢が、弱々しい。鎖を振るう勢いもまた、弱くなっていた。
ついに、レムが腕を振るっても。スバルに鎖が当たることはなくなった。
その柔らかく小さな白磁の手から、ポロリと鉄球の持ち手が落ちる。スバルを二度も死に至らしめた凶器はあまりにも重くて、落としただけで少しの衝撃を感じるほどだった。
「………どうして………どうして、あなたはそんな風に、リルを信じられるんですか……」
それはまるで、恨みごとのような呟きだった。……つい先ほどまでの狂気を顔から霧散させ、美少女らしい儚さで、涙を流しながらスバルを見つめていた。
「……レムが取れなかったリルの手を……どうして、あの日レムが失ってしまったものを、平然と取れてしまうんですか……どうして……どうして……!」
「そんなもん、決まってるだろ」
怨嗟の声を上げて泣くレムに、スバルの答えは一つだった。
一緒にご飯を食べて。一緒に風呂に入って。
夜に恋バナをして。一緒に出かけて。
そんなことをした男友達を、スバルはこう呼ぶ。
「俺が、リルのダチで。リルを信じてるからだよ」
「─────ぁ………」
今度こそ。
レムは、その一言で力を無くした。
膝から崩れ落ちて、呆気ないくらいか細い声を漏らして。
そして。
「………リル……」
そして。
「………………リル、リル、リル、リルっ!!……どうして、どうして……!どうして、死んじゃったんですか………!リル……!」
今更のように、弟の死を悲しんで。
その目から、滂沱の涙を流しながら。
ようやく追いついてきた感情に身を任せるように。
大きく、ただ大きく。
子供のように、わんわんと。
「リル………リルがいなくなったら……!レムは、一体どうすれば………!」
声を漏らして。レムは、ようやくレムらしく、泣いた。
涙を流し、鼻水を垂らして。嗚咽を漏らして、弟の死を悲しんで。
ようやく。ようやく。
姉らしく、泣いた。
「落ち着いたか?」
「はい。ありがとうございます、お客様」
「スバルでいいよ。………リルのことは。信じて、くれるか」
「…………はい。少なくとも、スバルくんがやったことではないのはよくわかりました。レムの短慮です。許してください、とは。口が裂けても言えませんが……」
先ほどまでとは打って変わって、礼節に満ちた様子で一礼をするレム。泣き腫らした痕こそあれど、その姿からはもうスバルへの攻撃の意図は感じられない。
「いや。あの状況じゃ無理ないし、そもそも俺が守ってもらうなんて言わなきゃこんなことにならなかったかもしれない。……これは、俺の責任だ」
「……それは」
「だから。協力、してくれねぇか。本当にリルを殺したやつが……呪術士ってやつがいるんだろ。そいつを探して、全部吐かせる。そうしなきゃ俺の気が済まねぇ。……レムじゃ、ないんだよな?」
リルが死んだ時点で、襲撃者………レムと、呪術士が別個であることは確定済みだ。となれば、一周目でスバルを殺したのも、或いは。
「はい。先ほどまでの態度で説得力があるかはわかりませんが、レムは呪術に明るいわけではありません」
「……呪術士を探し終わっても俺を許せないなら、そん時は殺してくれてもいい。……だから、信じてくれ」
「信じますよ。リルの………お友達の話ですから」
落とした鎖を拾い、やるせなさそうに力を込めるレム。そのじゃらりとした音に二回目と三回目の恐怖がフラッシュバックしそうになるが、今となっては頼もしい。
ふと、レムは思い出したようにスカートのポケットを弄り、とあるものを取り出した。
「………そういえば。これは、何かの手がかりになるでしょうか」
「これ……?」
それは、裏に不死鳥の乗る横長の寺が。表に大きく10の文字が描かれ、そしてその横面に縦縞の入った銅貨。
スバルがリルに渡したはずの、ギザ十だった。ご丁寧に穴が開けられて、ストラップのように紐が通してある。これでは、自動販売機どころかコンビニですら使えない。
「……リルの手に、握られていたんです。義手の右手の方に、固く」
「…………そっか。これ、俺が渡したものなんだ。悪いけど、手がかりにはならなそうだ」
最後の最期までスバルを思い続けてくれていた証に、胸が熱くなる。枯れたはずの涙がまた漏れかけて、泣いている暇ではないと強く拭う。
「レム、これは持っててくれ。……一応、リルの形見だし。………大切にしてくれると、ありがたい」
「………はい」
スバルの訴えかけに何を思ったのかはわからないが、言葉通りにペンダントを首から掛けてくれるレム。今は、その心遣いがありがたかった。
「とりあえず、姉様と合流しましょう。恐らく、この光景も見てくれているはずです」
「ラムか。………怒られるだろうな」
「…………そういえば。前言を撤回していませんでしたね。………姉様も、リルも。スバルくんを疎ましく思っていたことは無かったと思います。寧ろ二人とも、いつもより明るくて。嘘を言ってしまって、本当に申し訳ありません」
「………そっか。それなら、いいか」
思わず肩を撫で下ろす。存外、あの言葉には傷ついた自分がいたのだと、今更ながらに自覚して。あの日々を、ほんの一欠片とはいえど取り戻せたことに少しの安堵を覚えた。
ラムと合流しようと、一歩踏み出し。ふと、思いついたことを話そうと振り返って。
「なぁ、レム──」
突如。
スバルの体を、あまりにも大きな熱と衝撃が襲った。
「…………え?」
レム………ではない。もっと鋭利で冷たい。無骨な何かの不快な感触が生み出す一瞬の浮遊感。動物の爪か何かが、レムによってつけられた傷の残るスバルの胸を、深々と抉っていた。
一切の音すら立たず。一切の気配すら漏らさず。
下手人は、スバルに致命傷を刻みつけた。
「──スバルくんっ!!」
衝撃を殺しきれず、地面にぶつかりながらごろんと二転、三転。転がり落ちて、背中から木に激突する。思い切り打ち付けた肺が反射的に空気を吐き出し、呼吸を乱す。
頭が揺れて、意識が保てない。
…………揺れて、ぼんやりとした視界の中。
スバルを心配して、何か温かいものをかけるレムの姿と。
その背後から迫る、謎の獣のような存在を目に入れた。
数多の動物の体を繋ぎ合わせたような化け物が、音もなくスバルの次に、レムの背後へと迫っていた。
──馬鹿。早く逃げろ。
そう思っても、声は出ない。乾いた声が血を吐いて終わるだけだ。絶えず湧き上がる血潮がスバルの喉を焼き、終わりを如実に知らしめていた。
命が、急速に失われていく。
レムの魔法も、きっと間に合わない。何度も体験したのだ。自分がどんな状態なのか、わかってしまう。
………でも。
「お願い、死なないで、スバルくんっ!!」
………なんだ。
そんな顔が、出来るんだな、と。
やっぱり、殺人鬼なんかじゃなく、普通の女の子じゃないか。と。
そう、安堵して。
首から下げられた銅貨の輝きを目に映し。
スバルは、再びその意識を潰えさせた。
ギルティラウさん!ギルティラウさんじゃないか!
百獣の王!黒き森の頂点!!
ラムの初陣にてボロ負けして「頭が残念」と言われ!
パックには「いろいろ残念だからリアでもなんとかなる」と仄めかされ!
挙句黒蛇の毒に簡単に飲み込まれる!
そしてメィリィからは肝心なところで使えない扱い!
かませで有名な、かませで有名な!!ギルティラウさん!
人呼んで「今一歩のギルティラウ」さんだ!!
ちゃんと活躍してるぞ!おいしいとこもってったぞ!!
ちなみに、あの友達発言をリル君が聞いてた場合
「………へぇ………あっ、へぇ………あ、ふぅん………す、スバルの中で僕がねぇ…………へぇ………あっ、そう………ふーん………………ふぅん…………」
って感じになります。強く押せば押し倒せる。