答え合わせ。まぁ原作知ってても知らなくてもわかると思うけど、
題名から察しろ。
「………お前、どこで、それを」
目を大きく見開き、不機嫌さを消して明らかな驚きの表情を浮かべるベアトリスに、スバルは自らの目論みが成功したことを悟る。同時に投げかけられた問いへの答えを、少しだけ迷う。
何せスバルが
「リルに聞いたって言ったら、信じてくれる?」
「見え透いた嘘かしら。姉妹の弟はその名前について知らないはずなのよ。知っているのはロズワールくらいのものかしら。……あの容姿で、あの力。そしてあの小娘に近づくなんて、因果にしては出来過ぎなのよ」
忌々しげにそう呟くベアトリス。小娘というのは、恐らくエミリアのことだろう。
……リルの容姿と聞いて浮かぶのは、染めているというあの白金の髪と青い瞳。男を狂わせずにはいられないあの美貌の正体こそが、先ほどから口にしている無名宗教なるものなのだろうか。
「………その、ネームレスなんたらっていうのは、そんなに重要なものなのか?」
「そんなことも知らないくせに、なんでその名前を………………アレは、オド・ラグナが生み出すとされる、世界の抑止力かしら。賢者、剣聖、神龍。これと並ぶために……否。世界がそれと同等の役割を成させるために創り出した……」
「ごめん、話長いし専門用語多くてわかんねぇから要約してくんね?」
「お前何様のつもりなのよ!?」
ぶっちゃけちんぷんかんぷん過ぎる話を出されて開始三十秒で白旗を上げたスバルに、今度こそ怒りを露わにするベアトリス。そうは言っても、知らない単語を羅列させられまくるといかにファンタジーノベルを読み漁ったスバルといえど混乱するというものだ。
ゲーム内の言葉や設定は自分で言葉の意義を掘り下げるより他人の綺麗に纏められた考察を見る派のゆとり世代なスバル。近道はできるだけしたい。
「要するに!ほい!今来三行!ほら、せーの!」
「学問に対する侮辱かしらぁぁっ!!」
「うわ、急に大声出すなよ。俺の鼓膜を破るつもりか!?」
「そんなつっかえない耳なんて千切れた方がマシなのよ!多くの!魔法使いたちが!聞くだけで咽び泣くであろう知識を!!折角このベティー自ら!!説明してやっているというのに!!」
地団駄を踏み、ぷりぷりと怒る幼女。その後三十秒ほど、思いつく限りの罵倒の羅列をスバルに向かって吐き散らし、そしてその可愛らしい足でスバルの脛をげしげしと蹴り、全く堪えていない様子を見て疲れたように息切れし始める。
「はぁ、はぁ……これだけ怒ったのはいつぶりかしら……ちょっとは反省したのよ?」
「え、あ、うん。したした。で?結局は?」
「は、腹立たしいこと、この上ないかしら………要するに!あの弟は魔女の天敵で、能力として……瘴気を吸収することができるのよ。そしてそれが
「外出しないからだよ。今からでも筋肉つけてこうぜ、筋肉」
「誰のせいだと……思っとるかしら……」
怒る気力すら失せたのか、怠そうに椅子へと腰掛けるベアトリス。その姿は、まるで話をまともに聞かない若者への説教に疲れた老婆のようだ。実際スバルはそんなものなのだろうけど。
しかしなるほど。
ベアトリスの話が真実とするなら、リルはさながら消臭剤のようなもので、無意識に周囲の魔女の臭いとやらを吸収しているのだろう。そしてそれは、ある程度距離が近くないと行われないから、レムに会う前にリルに会っておけと。そういうことかと納得。
だが、一点だけベアトリスの話に引っかかるところがあった。
「待て待て。その、ネームレスカルトってやつは、魔女ってやつに有効な勇者の証的なやつじゃないのか?なら、なんで呪い扱い?もっとこう、国を挙げて魔女を討つぞ!みたいに……」
「その魔女が封印されていると言っているのよ。アレを創り出すには、あまりにも遅過ぎた。それに、周囲の瘴気を無差別に吸収するなんて魔女関連の厄介事を全部引き受けることと同義かしら。実際、アレのせいで国が滅んだことはいくつもあるのよ」
存在自体が一般的に知られていない上、加護と違って本人に自覚がない分タチも悪いかしら、と注釈を加え、不機嫌そうにベアトリスは手元の本を持ち上げた。
魔女の瘴気。毒ガスに近しいであろうそれを集めるのなら、相応の不幸が襲う、という理解で間違っていないのだろう。
とも、するならば。
「それで、結局のところお前はそれを誰から……」
「──悪い。そんなこと、言ってる暇がなくなった」
「………はぁ?」
今度こそ質問に答えてもらう、と言わんばかりに構え直したベアトリスの言葉を最後まで聞かず、スバルは禁書庫から飛び出していた。
もし、さっきベアトリスが言っていたことが正しいのなら。魔女関連の災厄を、リルが全て引き受けているというのなら。
ついさっき受けたペナルティを、リルも受けている可能性が、ある。
「行かねぇと……!」
飛び出した先は、入った場所と変わりのないロズワールの部屋近くの廊下だった。もしもあれを受けたというのなら。それも、スバルのようにきっかけを認識できずにそうなったとしたなら。未だに動けてはいないはずだ。
自分の予想が外れていることを願いながら、スバルはロズワール邸の廊下を駆け抜けるのだった。
屈辱………僕です。
屈辱だぁ………
殺して……誰か殺してくれ………………
………………スバル君を。
スバル君を殺してこの事実を無かったことにしてくれ。
僕だ。
くっ、殺せっ!!
アイツにだけは!アイツにだけは頼りたくなかったのに!何やってくれてんすか嫉妬さん!shit!(激ウマギャグ)
あぁ、あの世でアイツがせせら笑っているのが聞こえる。
スコーン片手にティータイムと洒落込みながらめちゃくちゃ優雅に笑ってやがる………その側にエキドナいるだろ。その紅茶体液だぞ。ウッザ。コミュ抜けるわ。
…………はぁ。死ぬほど無様な黒歴史を晒してしまった。こんな屈辱、実質二日ぶりだよ!わりと頻度たけぇ。
いっそ『
とりあえず、考察だ。今後こんな無様を晒さないために、何が起こったのかを確認しよう。
まず。何故、嫉妬の魔女がスバル君に与えるペナルティが僕に来たのか。……これは単純で、単純に死に戻りに巻き込まれるために『嫉妬の魔女の権能が僕を干渉しないわけがない』と仮定したからだと思われる。
三章でスバル君の中にいたペテルギウスみたいなもんだ。…………自分でしておいて不快な例えだったので前言撤回。
要するに『死に戻り』を発動する際に僕が変に権能を弄ってしまったせいで、スバル君に行くはずのペナルティが両方、もしくは僕だけに来てしまったと考えるのが妥当だ。これで僕だけだったらキレそう。
そしてスバル君のように感覚だけでなく実際に心臓を潰されたのは………魔女さんがブチギレてたからだろうなぁ……十中八九。
だって僕、スバル君にぶっちゃけ害しか与えてないからね。たまに飴も与えてるけど、両方とも魔女さんからしてみれば嫉妬の対象だ。ヤンデレ怖いっす。
いつかエミリア様にしてたみたいに、今後も物理的に心臓が潰されるとなると命はともかく、精神はいつまで持つことやら。ぶっちゃけ早急に対策が必要だ。
……そして。肝心な時に役に立たなかったまるでパックソのような『虚飾』の権能だけど。
多分、権能が発揮しなかったのは『時間が止まっていた』からだろう。権能自体が発動しようにも、発動して効果が出る時間がないのだ。爆弾をいくら爆発させようが、速さが一億分の一なら、実質的に何も起こっていないのと同じ。
そういう意味では、虚飾の弱点が露見した形にもなる。いや、あれに対応できる権能なんかレグルスの『強欲』くらいだと思うけどさ。
『一度見間違えにした事象にはもう干渉できない』と言うことなのかもしれないとも思ったが、多分その線はない。理由は曖昧だが、そもそもそんな都合のつかない権能ではない……と思う。曲がりなりにも元の持ち主があの女だ。そこまでの不自由になる制約はないはず。
一応、今の持ち主は僕だからそうなった可能性はあるが、僕は『虚飾』の権能を『現実の塗り替え』のように認識している。塗り替えなのだから、重ね塗りだって当然できるはず。……あくまで僕個人の認識を尊重するなら、と言う話だけど。『魔女因子』が持ち主によって姿を変えるというのなら、僕の認識は間違っていないはずだ。
そうそう。今更だけど、多分僕の『虚飾』は、パンドラのものよりかなり劣化している。全容を把握できていないし。条件は不明だが、ところどころで不発っぽい不具合を起こす。……僕が使いたがらないというのもあるかもしれないが。宝の持ち腐れなので、いつかはちゃんと使いこなせるようになろう。いつかね。
さて。現実逃避はこのくらいにして。
…………正直。あんな思いをもう一度するくらいなら、今この瞬間にでも嫉妬の魔女を殺してしまいたい。幸い、『虚飾』の権能は嫉妬の魔女と同レベルのぶっ壊れチート性能だ。
となれば、関係性は先出しじゃんけんのようなもの。殺られる前に殺れ。殺りたいこと殺ったもんがちだ。なんでや!青春関係ないやろ!
ちなみに。今のところ候補で上がっている方法といえば、『虚飾』の権能で嫉妬の魔女を目の前に転移させ、全力の一撃をぶち込んでからすぐ祠に戻して、全力をぶち込んで戻してを死ぬまで繰り返すバンジーボール法か、できるかは分からないが存在そのものを『見間違え』にして世界から追放する
でも、失敗したら後が怖……じゃなく、流石にここで嫉妬の魔女さんを殺しちゃうと色々困り事が多いので実行しないことにしよう。
悪運が強かったな!見逃してやるよ!せいぜいスバル君に感謝しろよ!!
「リルっ!!」
「すいませんすいません調子こきました二度と言いませんわたくしめなどそこらの虫ケラにも劣る芥未満の下等生物です…」
「なんか凄い残念な感じに!?」
なんだスバル君か。てっきり嫉妬の魔女様かと。
………別に、ビビってるとかじゃないからね。警戒することは人間としての本能だから。人間じゃないけど。
てか、ロズワールに報告した直後だから執事服なんだけど、今。キャラが崩れる。
───血まみれでぶっ倒れてたりしたら罪悪感煽れたんだろうけど、ペナルティ使えないとスバル君の今後に響くからなぁ。
遺憾。誠に遺憾であるが、何もなかったフリをしてやろう。くっそ、恨むからなスバル君。それでも好きだけど。
「………なんだ、スバルか。何かリルに用事?今、いざと言うときのための命乞いの練習で忙しいんだけど」
「お前が何に労力を費やそうとしてんのか俺にはわからねぇよ………わかりやすい嘘はつくな。お前にも、その。何かあったんだろ?」
確信めいた表情でこちらを見るスバル君。え?なんで?なんでそんなことわかるんすか。スバル君がペナルティ受けてたみたいでちょっと気は晴れたが、それで僕にも来たってわからんだろう。
いやいや。困るんすよスバル君。これからもスバル君には、バンバン心臓ニギニギされてもらわないと、こっちとしても商売上がったりなんで……
「………別に、何もなかったけど。スバルは一体、何を心配してるの」
「…………もう、いい。嘘つかなくていいから、正直に言ってくれ。あの黒いの、お前にもこう……やったんだな」
スレスレの発言やめてくれ。怖いわ。てか。だからなんでそんな確信持ってるの?師匠でもわからないあのペナルティについて、今のスバル君が何を……
「だから、何もないって……」
「………なら」
………………は?
………いや、泣いてるわけ。だって、ほら。
目元もこんなに湿って、声もガラガラで。なんか鼻水まで出てるけどさ。
でも、こんなん泣いてるうちに入らないっていうか。
四捨五入したら泣いてないみたいなもんじゃん?
泣いてない。泣いてないから。
「………泣いてるわけ、ないじゃん」
「嘘つけ。お前の嘘は分かりやすすぎるから、すぐわかるよ。なんでそんなに隠すんだよ。別に、隠さなくたって……」
…………は?
今、なんて言ったんだよ、お前。
「……じゃあ」
ダメだ。隠さなきゃいけないのに。
こんなの、言っちゃいけないのに。
外れたタガが。感情が。
「じゃあ!このまま全部姉様達に言えっていうの!?心臓潰されましたって!やっぱり、やっぱりスバルのせいだったって!姉様に全部正直に話して、スバルを殺してもらえば、それで満足!?」
なんかもう、おさまんない。
リルがペナルティ食らったのは、ネームレスカルトと虚飾の両方の理由です。ダブルパンチ。
Q.心臓潰されたのにどうして今リルが生きてられるのか、スバル君にどう説明するん?
A.スバル君視点だと、あくまでペナルティは『実際には潰されないけど、潰されるのと同等の苦痛を受ける』もので、まさかリルが実際に心臓粉砕されたとはつゆ知らずです。リルにも同様のペナルティが行ったと勝手に錯覚しているだけです。
あくまでネームレス・カルトというのはリルの三本目の角のことであり、リル自身ではありません。また、広まる理由も判断できる基準もないため、知っている人間は極少数です。
さて、シリアスの混じった罪悪感シチュのお時間だ。
支援絵のご紹介。
mashima towaさんからいただきました!物憂げリル君!
常に思考には好きな男の子のことが……なんて健気なんでしょうね()
ねたるさんからいただきました!メイドリル君です!!
【挿絵表示】
噛み殺しているのは愉悦なのか照れなのか。………愉悦なんだろうなぁ………
微エロを目指すさん(この名前で紹介して本当にいいのか?)からいただきました!風呂上がりリル君です!
こんな可愛い子が普段から自分に優しくしてくれるメイドとか確実に好きになっちゃうわね。
だが男だ。
皆さん本当にありがとうございます!
明日中……明日中に活動報告にまとめさせていただくから……ちょっと待ってね……思いの外時間かかってる……