目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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最近遅刻続きな気がする。


米研ぐのに洗剤使う派?ヤスリ使う派?

「お、ラムちー!今の見たか!?俺の包丁さばきってば、たったの一日でかなり洗練されてきてね!?才能が開花したか!?」

 

 

「レムりん、見て見て!この繊細な細工を可能とする技量!今、俺の指先にはまさしく奇跡が宿っている!アップリケ!」

 

「エミリアたんってば会うたびに俺の心を掻き乱すな!パックは変わらずもふもふで毛並みも最高だぜ!誰に手入れされてんの!?」

 

 

 ──あぁ。気持ち悪い。

 

 

 自分の言動を振り返り、スバルはそう漏らすしかなかった。

 

 道化を演じる。全く害を及ぼさない、陽気な男を演ずる。………否。今までの、屋敷でのナツキ・スバルを演じる。

 

 

 そうでなくてはいけない。そうしなくてはならない。一秒だって無駄にせず。起こり得る可能性の全てを吟味して、必要なイベントのあらゆる成否をシミュレートして。

 

 ゲームだと思えばいい。徹底的なフラグ管理。得意だったはずだ。会えば会うほどに可能性は上がる。もっとうまく笑えるはずだ。もっとうまく笑わせられるはずだ。

 

 ──今まで、どうやって過ごしてきたっけ。

 

 わからない。それすら、思い出せない。だからこそ、自分を捨てて、起こった事象を再現していく。全てを自分にコンバートさせ、実証する。今までのナツキ・スバルがそうであったように。

 

 でも。

 

 何よりも、辛いのは。

 

「リルたそ!いい加減機嫌直してってば!ほら!この花の綺麗さよ!この美しさに比べれば、俺たちなんてちっぽけな存在だと思わないか!?ないか!?」

 

「……………」

 

「おいおいおいおい、変わらず無視かよ!傷つくなぁもう!はいはい!ちゃんと仕事こなしますから!」

 

「……………」

 

 あれほど仲を深めた少年と。

 

 あれほど大切に思ったメイドと。

 

 あれほどスバルを思ってくれていたリルと。

 

 一言だって、会話が出来ないことで。

 

 悪いのはスバルだ。何もかも、スバルが悪い。だからといって、道化の仮面を脱ぐわけにはいかなかった。

 

 誤魔化して、陽気に振る舞って。そうしていればなぁなぁになって、戻ると思っていた。

 

 もう、遅い。

 

 スバルとリルの溝は、もう底が見えないほど深くなっていた。スバルがそれを埋めようとするたび、それはどんどんと深く、広くなっていく。いつか飛ぶことすら躊躇するほど大きくなっていく亀裂。それをどうにかしようとしても、あまりにも深くなりすぎた。

 

 だからといって、リルにばかり時間を割くことすら許されなかった。

 

 なにも知らないこと、なにもわからないこと、なにも気付かないこと、なにもしないこと。得意だったはずだ。それしかできなかったはずだ。簡単なことのはずだ。笑いながらそれぐらいできたはずだ。

 

 へらへらと、微笑の仮面を張りつけたままで歩く。屋敷の中だ。どこで誰と出くわすかわからない。自由な時間に自由などないと知れ。空白の時間は過去の想起と今後の行動予定を立てることに全て費やせ。

 

 何の意味もなく笑いながらスキップを刻み、踊るように近場の客間の扉を開く。そして、部屋に備えつけられた洗面所へ向かって。

 

「………おぇっ………うぉぶぉぇ……」

 

 スバルは、胃の中身を洗いざらいぶちまけた。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「スバル、見つけた」

 

「………エミリアたん?」

 

 あまりにも重い気分で部屋を出たスバル。そこに声をかけてきたのは、急いできたのか、弾ませた息を整えるエミリアの姿だった。

 

 ──なにか、普段とは違う。

 

 雰囲気からそれを察し、スイッチを切り替える。舌を動かし、口を大きく開いて。大仰に、大声で無能な豚を演じる。

 

「やあやあ!どうしちゃったのエミリアたん!なんでも言って、なんでも命じて!君のためならたとえ火の中水の中、盗品蔵の闇の中だってもぐっちゃうよ!リルに助けてもらうんだけどね!」

 

「………スバル」

 

 スバルの渾身の振る舞いにも、エミリアは呆れるどころか、憂うような声音でスバルの名前を呼ぶだけだ。

 

 そのことが、より一層スバルの恐怖心を煽った。

 

「おいおいおいエミリアたん!スルーはねえよスルーは!それはリルの特権だろ!?俺、ちょっと傷ついちゃうなー!いや、キャラ被りしてもエミリアたんの魅力は薄れないと思うけど、毒舌系ってのはいくらなんでも荷が勝っちゃうかなぁって!」

 

 続ける言葉に対しても、エミリアの反応は乏しかった。

 

 そして、気がつく。彼女の使役していると言う灰色の猫が、他人の感情をぼんやりとでも把握できたという、あまりにも重要なファクターを。

 

 心が読める存在を相手に、上っ面だけを取り繕うことの愚かしさよ。

 

 それに気がつき、スバルの虚勢は瓦解する。

 

 互いに沈黙が続き、目が合うこともなく淡々と時間が過ぎた。

 

 なにもかも見抜かれている相手の前で、それでも気付かれていないと踊り続けたことのばつの悪さ。そして、彼女にだけはそれを知られたくなかったというちっぽけな自尊心が酷く傷付いた。それを気にしている自分も、そんな余裕を感じている自分も。何もかもが嫌で。

 

 口を開こうと何度も試みるものの、言葉が見つからない。そんなもどかしさを抱え込むスバルを見ながら、エミリアは不意に。よし、と小さく呟くと。

 

「スバル、きなさい」

 

「……へ?」

 

「いいから」

 

 いつかリルが、風呂場で自分の手を引いたように。無理矢理、つい先ほど出た客間へとスバルを引きずり戻した。

 

 女性に密室へ連れ込まれる。何も知らないスバルであれば、きっと歓喜しそうなシチュエーションだ。それが思い人であるというなら尚更。

 

 だが。それを楽しむにはスバルの心には余裕が足りていなかったし、そして何より、状況が最悪だった。

 

 なんの偶然か、この部屋は。

 

 リルが一度、命を落としていた部屋だった。

 

「ねぇ、エミリアたん!ちょっと、離して欲しいかなぁって!その、俺ってば今メイド三人にどやされないか必死だからさ!」

 

 強く引かれる腕を振り払って、部屋を出ようと試みる。だが、思いの外強い力で握られているからか、もしくはスバルの力が弱いからか、腕を振り払うことすらできない。

 

「あの三人にはわたしから言っておいてあげる。そんなことより、今はスバルの方を優先しなくちゃ」

 

 スバルを叱るように、そんな言葉を発するエミリア。……だが。

 

「…………そんな、こと?」

 

 スバルが思っているような意図で言っているのではないことくらい、わかっていた。スバルを慮って言ってくれているのだと理解もできた。

 

 ……ただ、それを軽く見られるようなその言葉を。受け入れる隙間が。飽和したスバルの心には、もう全くと言っていいほど残っていなかった。

 

「そんなことって、なんだよ!」

 

 部屋の奥に連れ込まれて、緩んだ手から腕を脱出させて、がむしゃらにスバルはそう叫んでいた。

 

 絶対にそんなことをしたくないはずの相手に、怒号を浴びせかけていた。

 

 傷つけられたプライドから。ちっぽけな自尊心から。溢れ出た感情が、止めどなく声と涙となって、内側から汚らしくも溢れてくる。

 

「スバル?」

 

「そうしなきゃならねぇんだ!そう在らなきゃならねぇんだよ!そうじゃなきゃ、どうしろってんだよ!?」

 

 具体的な主語もない、最悪の八つ当たりだった。困惑顔のエミリアに言おうと何一つとして解決しない愚痴と嗚咽が、滝のように流れ落ちる。

 

「俺がやらなきゃ、どうにもならないんだ!俺が、俺が頑張るしかないんだよ!今そうしなきゃ、またああなっちまう……!もう嫌なんだよ!あんな目で見られるのも、あんな風に傷つけられるのも!あんな風に死なれるのも!」

 

 意味を成さない言葉の数々。ただそれらには、スバルがこれまで積み重ねてきた、堪え尽くしてきた思いが、全て篭っていて。それでも、届かないと知っていたはずなのに。

 

「スバル!」

 

「───っ……!」

 

 鈴のような声音で強く名前を呼ばれて、ようやく言葉が止まった。

 

 ───あぁ、やってしまった。

 

 多少隙間のできたスバルの胸を埋めたのは、遅すぎる後悔だった。

 

 きっと、幻滅されるだろう。彼女の前では、ずっとヒーローでいたくて。かっこいいところを見せていたかったというのに。こんな訳のわからない言葉を浴びせてしまった。

 

『何を言っているの、訳がわからない』

 

 そんな言葉を浴びせられるに違いないと。勝手に妄想。けれどスバルは、エミリアからはっきりと拒絶されるだろう。その時こそ、四周目の誓いすら破り捨ててしまったナツキ・スバルは、本当の意味で孤独になる。

 

 それでも、仕方がない気がした。リルにあんな顔をさせてしまった自分が、誰かに優しくされるわけもない。ずっと誤魔化し続けてきた自分が、救われてはならなかったから。

 

 だから、スバルはせめて。エミリアにまっすぐ向き合って、その拒絶を受け入れようと顔を上げて………

 

「落ち着きなさいっ!」

 

 自分が何か、柔らかいものに包まれたことを知覚した。

 

 それが、エミリアの胸であるなどと。理解するのに、どれだけの時間がかかっただろう。

 

「………は?」

 

「スバル、落ち着く。深呼吸。ひっひっ、ふー」

 

「いや、それは女の子限定で……いや、てか……なんで、こんな……」

 

「いいから。はい、深呼吸」

 

 強くそう窘められて。状況が飲み込めないスバルは言われるがまま、軽く深呼吸をする。

 

 エミリアの香りがする。ほとんど硬直した脳みそで理解できたのは、たったそれだけだった。

 

「………エミリアたんの、匂いがする」

 

「こら、恥ずかしいこと言わないの。……それじゃ、耳を澄ませて。わたしの心臓の音、聞こえるでしょ」

 

 コツン、と頭を叩かれる。またもスバルは言われた通り、耳から伝わってくるエミリアの心臓の鼓動に耳を澄ませた。

 

 とくん、とくん、とくん、とくん。

 

 ほんの少し早い気がする脈動。それは確かに息づいていて、スバルにエミリアという命の存在を知らしめてくれる。

 

「こうやって他人の心臓の音を聴いてると、気分が落ち着くって聞いたことがあるの。どう?落ち着いた?………嫌なこと、ちゃんと話せそう?」

 

「……は、はは……エミリアたんってば、噂如きに影響受けすぎ。こんなの、全然……全然、落ちつかねぇって。嫌なことなんか、無いし。話す必要もないから、さ」

 

 言葉とは裏腹に、スバルは身じろぎすることすらなく、エミリアの鼓動に耳を傾け続ける。

 

 とくん、とくん、とくん。

 

 その短調なはずの音が、妙にスバルの心を解きほぐしていく。硬く閉ざしたはずの本心が、あまりにも呆気なく、エミリアの鼓動によって明かされて、剥き出しにされていく。

 

「辛いこと、あった?」

 

「………いやいや。そんなこと、ねぇって。……ほら、エミリアたん、俺みたいなやつにこんなことしてたらさ、女としての価値、下がっちまうから、無理しなくて、いいって言うか……」

 

 彼女の前で張り続けると決めた虚勢が、呆気なく陥落する。声が上擦り、喉が詰まり、次の言葉が出てこない。

 

「疲れてる?困ってる?」

 

「ぅ……ぁ……ぜん、ぜん……そんな、俺。弱くねぇから……」

 

 とくん、とくん、とくん。

 

 温かな音色が。柔らかな温度が。甘い鼓動が。ナツキ・スバルというガワを。全て、取り払ってしまい。内側のスバルが、浮き彫りになって。

 

 

「大変、だったね」

 

「────」

 

 慈しむように。労るように。愛おしむように。

 

 ただそれだけの一言が、スバルの鬱屈とした昏い感情の全てを。封じ込めたつもりだった、埋めてしまったつもりだった、欠片も消すことのできずにいた、激情の吹き溜まりを、崩壊させた。

 

「大変……だった。すっげぇ、辛かった。大好きな奴らに、嫌われたくなくて……でも、空回りして………めちゃくちゃ悲しくて……怖くて……痛くて、痛くて、たまんなかった……!」

 

「うん」

 

「一生懸命頑張って、今までに無いくらい踏ん張って……!それでも、どうやっても届かなくて……!もう二度と嫌われたく無いのに、失敗して!それでも、必死こいて頑張って……」

 

「わかってる」

 

「この場所が、大好きだった……!軽口を叩いたのも、ちゃんと教えてくれたのも、守ってくれたのも、全部、覚えてるから……!取り戻したいって必死に足掻いて!それでも、嫌われそうになって、そんな目で見られるのが嫌で!……そんな仮定をする自分が、一番、嫌で、仕方なかったんだ……!」

 

 制御しきれない感情が、大量に溢れ出た。盛大に喚いて、訳のわからない感情が涙や鼻水となって、エミリアを穢していく。

 

 あまりにもみっともなくて、情けなくて。子供をあやすように胸に抱き入れられて、大泣きするだなんて。情けないのに、死んでもいいくらい温かいものが胸の中に溢れている。

 

 その相槌には、きっとスバルの思いなど一欠片も届いていないだろう。それでも、エミリアの声には、笑い飛ばすには重すぎるほどの慈愛が含まれていた。

 

 その温かい温もりと、いまだに聞こえる心臓の鼓動に救われた気になって。滂沱と涙を流し、泣いて、泣いて、泣き喚いて。

 

 

 スバルはいつしか、その胸の中で眠りについていた。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 …………???????

 

 あの。その。

 

「えっと……」

 

 どうも僕です、僕だ。

 

 扉を開けたらエミリア様の胸にスバル君が埋もれている件について。顔をつっこんでる件について。

 

 ???????????

 

 What happened?

 

 とりあえず、そっとスバル君の脈に手を置く。

 

「し、死んでる……!」

 

 スバル君は、胸で窒息して死んでいた。本望だろう。

 

「勝手に殺さないの。ちゃんと生きてます。スバル、こうやってなでてあげると、すごーく落ち着いた顔するの。子供みたい」

 

 スバル君のツンツンした頭を撫でながら、面白そうにエミリア様が呟く。

 

 野獣の間違いでは。

 

 いや、その状態で落ち着くってなかなかヤバくないか。スバル君じゃなかったら通報してるよ?

 

 膝枕の代わりに抱きしめた、ということだろうか。ヒェッ……天然って怖っ。自分が美少女って自覚がないのか。スバル君籠絡されてるやん。これが処女ビ……いや、なんでもない。

 

「………スバルには些か刺激が強い気がします」

 

「むぅ、そんなに固いかしら……?」

 

 ちげーよ。マシュマロなんだよ。男をダメにする柔らかなものなんだよそれは。ある意味凶器なんだよ。

 

 そういえば、アニメ版のエキドナ胸大きかったな、などと迷走。書籍版では控えめだったのに。『僕の体を差し出そう』で釣れる男も多そうだ。

 

 …………上姉様、ファイト。三司あ○せ平野と言われても落ち込まずに行こう。ステータスだから。

 

「今日はもう、スバルはお休みかな。働き始めてすぐ休んじゃうなんて、悪い子」

 

 大罪人だよ。現在進行形で側から見たらイチャつく火遊びバカップルか通り魔にしか見えない。胸に埋めるとか絵面が酷すぎるわ。そしてエミリア様の胸元、スバル君の鼻水とかでベタベタだし。

 

「…………エミリア様。スバルの尊厳を尊重するなら、せめて膝に下ろして、ついでにその胸もこのハンカチで拭いてください。後生ですから」

 

「そう?リルがそういうなら、そうするけど……さっきから、パックもうるさいし」

 

 そりゃ保護者としてはこんな光景に突っ込みたくなるわ。全国のお父さんに訊いたら100人中100人が『娘のこんな姿見たくなかった』って言うだろ。

 

 てか、こんなところで後生使っちゃったよ。仕方ない、スバル君の後生ってことでノーカウントにしておこう。

 

 スバル君の頭を軽く持ち上げ、自らの膝の上に置くエミリア様。うん、これなら多少マシ……マシ………マシな気が………うーん……

 

「……とりあえず、リルは姉様達の家事を手伝ってきます。スバルがいなくなった分の穴を埋めなくてはいけませんから」

 

「そう。起きたらちゃんとお仕置きしてあげて。それと………リルも拗ねてないで、ちゃんとスバルと仲直り、してね」

 

 拗ねてないが。

 

 ………まぁ、あの姿を見たら流石に毒気が抜けたと言うか、肩透かしな気分というか。アホらしくはなってきたけど。

 

「善処します」

 

「それ、絶対やらないでしょ。私知ってるんだから」

 

「できたらやります」

 

「もう、それじゃおんなじじゃない!………なんだか珍しいな。こうやって、リルとお話しするの」

 

「機会がありませんでしたから」

 

 ………それと、打算もあるけど。

 

 あんまり僕とエミリア様が仲良くなると、僕がエミリア様の騎士に任じられてしまうのではないかという懸念だ。

 

 ロズワールにそれとなく僕とエミリア様との関係が良くないことは知らせているけど、そんな根回しがないと強さ的にきっとそうなる。

 

 困るわけではないが、それでは僕の中で納得がいかない。やっぱり、エミリア様の一の騎士はスバル君であって欲しい。騎士とか柄じゃないし。僕はどっちかというとメイドでありたい。もう執事であることは諦めたけど。

 

「やっぱり、その体質のこともあって?」

 

「………発言は差し控えますが。大精霊様の怒りを買うことは畏れ多いですから」

 

 恐れが多いよ。死ぬもん。

 

『体質』というのは、単純に僕の容姿のことだ。

 

 普段僕が執事服を着ずにメイド服を普段着に変えた理由もそれなのだが、単純に執事服だと、エミリア様を二周目スバル君の最後みたいにしてしまう可能性が高い。

 

 残念ながら今の僕、男の格好をしていると女性に、女の格好をしていると男性に勝手に魅了デバフを与えてしまう体になっているのだ。『色欲』なれそう。

 

 一応、周囲には『魔女からの呪いで姿が変わった』的なカバーストーリーをそれとなく流して辻褄を合わせている。姉様の魔女教へのヘイトが上がったけど誤差よ誤差。

 

 発覚したのは、執事服の時に突然フレデリカパイセンに押し倒されたことがあってから。それからこんな体質になったことがわかった。明らかに理性がない感じだったし、見逃しちゃうくらい早い手刀で気絶させたので貞操は無事です。

 

 ──メイド服で聖域行った時、ガーフに押し倒されかけたのは焦ったな。

 

 速攻上姉様に捻じ伏せられてたけど。

 

 姉弟で僕を押し倒したことを苦に、先輩は原作より少し早くメイドを辞めた。心苦しいので何度も止めたが、意思は固かった。まぁ姉と弟で同一人物押し倒したとか苦すぎるわな。

 

 エミリア様が来てからずっとメイド服なのは、実はそんな理由があったから。ついでにロズワールの部屋を訪れる時執事服なのも同様。

 

 何故か両姉様に効果はない。血縁だから本能的に避けるのだろうか。助かるけどね。

 

「リル?」

 

「いえ、少し考え事を。……それでは、リルはこれで……」

 

 いそいそと部屋を出ようとすると、ちょうど下姉様と鉢合わせた。どうやら、スバル君がサボっていないか探しているらしい。

 

「リル。スバルくんが見当たらないのですが……」

 

「スバルはあっち。サボり」

 

 あっぶね。スバル君の体勢変えてて良かった……さっきまでの状態だったら、確実に下姉様は苦虫噛み潰しまくった微妙な表情しただろうな。それはそれで見てみたいけど。

 

「姉様。……やっぱり、リルはスバルが悪い人には思えないな」

 

「………そうですか。優しいリルは、そう言うと思っていました」

 

 どこか和やかな笑みを向けてくる下姉様。あ、やっぱり心配されてた?怒るとか超絶久しぶりだったもんな……

 

 下姉様がエミリア様と話し始めたのと入れ替わりに、僕は部屋を後にした。

 

 さて。明日のスバル君はどんな切り口で来るのかな。どんな謝り方でも、まぁ、あの光景見てちょっと満足したし、許してあげなくもないけど。

 

 ………なんか、こうして思うと僕の一人相撲だった気がする。上姉様も下姉様も、僕が怒ってるのにスバル君に特に何もしてなかったし。

 

 むぅ。不満だ。下姉様に同じことしてもらったら、果たして僕の感情は落ち着いたのだろうか。

 

 今度試してみよう。

 




上姉様「キレそう」

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