目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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人間とは愚かなものです。特にお前。

 

 

 

 

 やっほ。なんだかんだ下姉様がスバル君への憎悪を緩めたのを見て複雑な気分になる僕です。

 

 なんか、こう。NTRではないけど、もう娘がお嫁に行くんだな、的な諦観がある。

 

 僕だ。

 

 十年以上ずっと僕にベッタリだった下姉様がついに弟離れをするのかと思うと、色々感慨深い。やはりスバル君をもう何度か殺しておくべきか。

 

 でも寂しくていつもより近くで寝たら寝相のせいでめっちゃ寝技決められた。ギブギブギブギブ。いくら柔らかいものが当たってようが首が締まってたら人間って死ぬんだよ?人じゃ無いけど。

 

 ……これ、下姉様弟離れホントにできるかな。なんかできなさそうな気もしてくる。

 

 まぁ、不安になりつつも四日目の朝。昨日の情報を共有した僕らの中では、『スバル君が膝枕されて泣いた』というのが話題だ。もっと凄いことになっていたのは同じ男の(よしみ)で内緒にしておいてあげよう。

 

 いつも通り改造制服に着替え、主に下姉様のせいで何倍か乱れた髪をしっかりとセットしてもらって起きる。今日の髪型は姉様の気まぐれでお下げだ。どんな髪型でも僕は可愛い……いや、微妙だな、うん。普通普通。

 

「ありがとう、下姉様」

 

「今日も似合ってますよ。可愛いです」

 

「ふふん、やっぱり?」

 

 長い髪になってから色々と不便はしているが、最近はスバル君の反応があるから退屈していなかったり。やっぱり見せる相手がいると違うね。まぁ、あっちはあっちでエミリア様に首ったけだけど。

 

 今日はいい加減スバル君を赦してやろうか。なんて考えながら日課の水やりをしに庭へ出る。門近くの黄色い花々は、そろそろ満開の時期を迎える。あと大体一週間後くらいだろうか。調整していたから当然だが、丁度いい時期になりそうだ。

 

 まぁ、そんなことを考えるのもこれで三回目なんだけど……死に戻りこれマジ心折れそうだな。これプラス人間関係までリセットとか発狂する自信あるわ。

 

「………結局、スバル君が一番メンタル凄い気がするな」

 

 折れても折れても元に戻ってより強くなる。メンタルって骨か何かだったっけ。ポッキリ折れたら戻りにくい印象あるんだけど。

 

 とまぁ、たまにの独り言を漏らしつつ。いい加減飽きてきた水やりを終えて、今度は庭園の掃除を……

 

 む、何奴。

 

「…………えっと、リル。今、話、いいか?」

 

「え?普通に嫌だけど」

 

「そうだよねお前はこう訊いたらそう返すやつだったよ知ってた!」

 

 ハッ!反射的に断ってしまった。シリアスなムードで話しかけられるとギャグに戻したくなる悪癖が出ちゃったわ。

 

 とまぁ、お察しの通り話しかけてきた相手は寝坊助スバル君だ。どうにもバツの悪そうな顔をしているので、話しかけてきた大方の理由はわかるけど。

 

 ………てか、応答したから無視できなくなっちゃったな。まぁ、呼び方が『リルたそ』じゃ無いことについては及第点をくれてやろう。

 

「まぁいいや。用件くらいは聞いてあげる。あの気色悪い呼び方やめたみたいだし」

 

「あ、そんなに嫌だったの!?」

 

 そりゃね。あんなに身震いしたのはロズワールに組み伏せられた時以来だ。ガーフィールはまだしも、ロズワールは一回くらい死んだらいいと思うよ。

 

 よし。とりあえず、スバル君が何を言っても赦してやることにするか。これ以上関係悪化させるのもなんだしな。よし!謝ってこいスバル君!だいたいの謝罪の言葉で僕は落ちるぞ!

 

 ウオオオいくぞオオオ!さあ来いスバル!

 

 スバルの勇気が世界を救うと信じて…!ご愛読ありがとうございました!

 

「その、なんだ……ありがとう!」

 

 ……………

 

 

 ………………

 

 

(´`;)ナンデ?

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 下げた頭を元に戻したスバルは、未だ限りなく困惑しきったような表情を浮かべるメイドを見て『あ、ヤベ。これ失敗したわ』と自らの行動を後悔した。

 

 それもこれも、昨日の夜。醜態を晒したスバルがエミリアの膝枕で目を覚ました際、謝罪し倒すのを止められ、エミリアからかけられた一言がきっかけだった。

 

『ゴメンって何度も言われるより、こういうときはありがとうって一回言ってくれたら相手は満足するの。謝ってほしくてしたわけじゃないし、してあげたくてしたことなんだから』

 

 指を立てて教えられたその一言でスバルはコロっと転びそうになった……まぁそれは初日から七転びどころじゃなくしているのだが。

 

 ともかく。

 

 ………思えばスバルは、弱り果ててリルに頼り尽くした四周目のことを苦に、無意識にリルからの厚意を避けていた。そうされるたび五日目のあの朝の光景が頭に浮かんで、目の前のメイドが死んでしまうのでは無いかという恐怖に駆られたからだ。

 

 だが。何も知らないリルにとって、厚意を婉曲に拒否されるということは、かなりのストレスになっていたのでは無いだろうか。

 

 自分がやってあげたいからとやった行為を無下にされることの辛さは、きっと相当なものだっただろう。それが他でも無い無知なスバルによるものであれば、余計に。

 

 だから。スバルはまず謝るのではなく、伝えるべきは感謝の気持ちだと。そう思って、決死の覚悟で以って特攻したのだが。

 

「…………なんで感謝?」

 

 ………我、奇襲ニ、失敗セリ。

 

 婉曲なスバルの思いは届くこともなく。リルはただ悩むように小首を傾げていた。その顔には怒りこそないが納得の色すらなく、純度100%の困惑が浮かんでいる。

 

「いや、その……ですね。エミリアたん……じゃなく、エミリア様が。その、ですね」

 

 仕方なく、そこに至るまでの経緯を説明するスバルだが。

 

 ──いや、はっず。これ、恥っず……!

 

 そこまでに至る経緯について全て洗いざらい、昨日まで気まずい雰囲気が漂っていた相手に話すというのは、かなりの羞恥心を伴う。何をどう思い、どうしてその結論に至ったかを仔細に話すという行為は、ゴリゴリとスバルのただでさえないメンタルを削っていく。

 

 かといって、説明しないという選択肢があるはずもなく。しどろもどろになりながらもなんとか事情を並べていく。

 

「………というわけで。謝るのではなく、お礼をいう方がいいんじゃないかなぁという、結論に至ったわけで、あります」

 

「へぇ。馬鹿なの?」

 

「直球ドストレート!?」

 

 久々にその暴言が聞けたことが嬉しいのと、ノータイムで罵倒されたことに対する怒りが胸中に渦巻く。ただ、その声には昨日までの棘がないのは確かで。

 

「あのさ。昨日まで喧嘩してきた相手が急にお礼を言ってくるとか、誰だって正気を疑うと思わない?せめて何か前置きをしとくとかさ。それか、謝ってからお礼を言うとか」

 

「うぐっ」

 

「あと目的語がない。何に対してお礼を言ってるのか全っ然わかんなかった。もう一回喧嘩売られてるのかと思ったよ?お礼を言うにしても、やりようは他にいくらでもあるし。なんなら最低くらいのやり方だったんじゃない?」

 

「ぐむむ……!」

 

 ぐぅの音も出ない正論。思わずぐぅと言いそうなほど正論だ。そりゃあ、短慮なスバルが昨日聞いたことを実践しただけだ。そう上手く行くはずがないことはわかっていたけども。

 

 スバルなりに努力して考えた直球勝負が空振りに終わり、思わず肩を落とした。

 

「………でも」

 

 しかし。スバルの頭を、無遠慮ながらもポフポフと触れるものがあって。偉そうな態度で、それでも、優しさを含んだ声が降ってくる。

 

「ちゃんと謝ろうとしてくれたことは、リルに伝わったのでよしとします。はなまるをあげましょう」

 

 四周目で何度も感じた温もり。それが、スバルの硬い髪を優しく撫でてくれていた。労るようなその心地よさに、スバルはふと、今までの苦労が全て報われたような錯覚を覚えた。

 

「スバル、頑張ったね。えらい、えらい。……リルも、ごめんなさいでした。よく、謝りにきてくれました。だからリルも、ちゃんと謝ります。ごめんなさい」

 

 この三日。ずっと聞きたくて、聞きたくて、聞きたくて仕方がなかった音色が、スバルを包みこんで、抱きしめてくれるような。スバルの気持ちに応えて口にされた謝罪の言葉が。和解の印が。なによりも、嬉しくて。

 

「ぁ………ぐ………ごめん………ごめんな、リル……嘘ついちまって……全部知ってて、黙っててくれたのに………ごめんな………」

 

「うん。ごめんね、スバル。酷いこと言っちゃってごめん。バカって言ってごめんね」

 

 それだけの言葉が。あまりにも簡単に、スバルの内面を露出させた。目から溢れ出た涙が、緑の芝に吸い込まれるように落ちていく。昨日出し切ったはずの膿が、スバルの頬を伝って、ぼとぼとと粒になって落ちていく。

 

「ほら。だからそんなに泣かないの。男の子でしょうが」

 

「うるせぇ……お前だって………男の癖に……」

 

「リルは泣いてないもーん。泣き虫スバル。弱虫。いくじは……あったね。うん。そこだけ認めたげる」

 

「……あぁ、ぐっ……おま……何様のつもりだよ……」

 

「先輩メイド様だ。崇めろ、後輩」

 

 こつんと、撫でる指が軽くスバルの頭を叩く。それが、いつかの四日目の夜の約束を思い出させて。また熱い液体が、スバルの目から溢れ出す。それだけの動作が、まるで時間が戻ったかのように嬉しい。

 

「この屋敷で、何回……お前に泣かされたんだろうな……」

 

「回数なんて重要じゃないでしょ。誰だって、辛い時には涙が出る。泣くこと自体が問題じゃない。大切なのは、何のために泣いたかだよ」

 

「………ごもっともだよ。もう、お前ってやつは」

 

 その言葉の節々が。彼が彼であることの証明で。当然であるはずなのに、それがなによりも誇らしくて、嬉しくて。

 

 スバルは小さなメイドに撫でられながら、涙の雨を降らせ続けた。

 

 

 

「だが二度目はない」

 

「……心得ときます」

 

 泣き終わったら正座させられた。よほど呼び名が嫌だったらしい。






支援絵のご紹介。
朱雀紅華さんからいただきました!血みどろリル君です!

 …………なんか、絵で見るとこう、エグいよね……いや、だって……オマエラがやれって言うから………(元々腕は無くなる予定が無かった)可愛い?リル君、ありがとうございます!


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