いつも通りの遅刻です。最早恒例行事だ。
今日缶のお汁粉を探すために三十分かけました。痛いし痒いし辛い。駅近くのホテル内にあった時は輸送業者に殺意が沸きました。
最終的に業務スーパーで暖かくないのを買い、コンビニ袋とポッドで温めて飲みました。甘くてホッとしますね。
ちょっと迷いましたが、文字数的に上姉様視点はまた次回に回します。
「リル。今の話は、本当なの……?」
「ラム……」
立ち尽くした桃髪のメイドは、信じられないと言わんばかりに弟を見る。………無理もない。大切な弟が余命宣告されたようなものだ。スバルも、自分の身内が明日死ぬと言われれば、同じようになるだろう。
「上姉様……これは、その……」
ラムの様子を見て、言葉を濁すリル。どうやって誤魔化したものか、と思案しているようだったが、第三者は、その気遣いを呆気なく否定した。
「全部本当なのよ。こいつは双子の妹と、ついでにそこの男を庇って呪いにかかって、明日には死ぬかしら」
「師匠っ!?」
「隠し立てしてもしょうがないことなのよ。それとも、明日死ぬまで隠して、姉に後悔だけを残すつもりかしら」
冷酷にそう言い切るベアトリスの意見は、確かに正しい。けれど、その事実はストレートに伝えるにはあまりにも残酷すぎる。
しかし、数秒ほど動かなかったラムは、思いの外冷静に話し始めた、
「……レムが、『千里眼』に映らないの。その呪いと、関係があるかしら」
「レムが……!?」
言われてみれば。確かにスバルは、目覚めてからレムとすれ違ってすらない。リルも同じようで、思考を巡らせて何が起こっているのかを把握しようとしている。
それでも。結論を出すのは、ベアトリスの話を聞いていたスバルが一番早かった。
「呪いをかけた魔獣を、殺しに森に入った……?そうなのか、ベアトリスっ!!」
「………他に、答えがあるのかしら」
肯定よりもなお雄弁に語られたその答えに、スバルは思わず地団駄を踏む。
責任感の強いレムのことだ。スバルとリルが自分のせいで呪われたとしたのなら、まず間違いなくそうするだろう。
それは、共に長い時間を過ごした姉弟も同感のようで、スバルの視線にコクリと頷いた。
「助けねぇと!」
「助けるって……一体どうするつもり?魔獣の群れの中に突っ込んでも、勝ち目は薄いでしょう」
尤もすぎるラムの意見に、しかしそうではないと食い下がる。そんな問題ではないのだ。そんな簡単な理論で片付けられるほど、スバルの意思は脆くなかった。
「………リルが行く。こんな手紙を無視して森に入れば、なんとか……」
思案を重ねたリルがそう申告するが、自分でも無茶なことがわかっているのだろう。その言葉の語勢は弱い。
「ベティーは薦めないのよ。そもお前が森に入る時点でかなりの危険性が伴っているかしら。姉妹の妹を助けても、より殺すべき母数が大きくなって呪いで死ぬだけなのよ。それに、手紙を無視してどうなるかもわからない以上、お前が姉妹の妹を助けようとすれば難易度が跳ね上がるだけかしら」
即座にベアトリスに斬り返され、黙り込むリル。切り札のリルは、ここでは頼れない。なら。
「俺とラムで、レムを助ける、だな」
「バルス、正気?」
「正気を失わねぇとやれないことだってある。違うか?」
普段ならもっと正当性のある言葉を返してきたのかもしれないが、ラムも内心で相当動揺しているのは間違いなく、リルそっくりに沈黙した。
ラムが動揺していることは、四周目を見てきたスバルが断言できる。弟のこと、姉のこととなると冷静を繕いつつも、平静を失うのがこの三人だ。
「どんな無茶でも、今がやりどきだ。レムを見捨てて明日に進もうと意味がない。違うか?」
「………違わないわ。仕方ないけど、バルスの意見に従うしかないようね」
不承不承、といった様子ながらも、ラムが賛同の意を示す。これで残った問題は……
「それでも、リルにかける負担がデカすぎるってことか……」
能力も何もわからない黒幕。あの少女と、さらに群がる魔獣を相手にするリルがかなりの荷を負うことになるということで……
「負けないよ」
スバルとラムの懸念を跳ね除けるように。スバルより一回りも小さいメイドは、明確な闘志を目に強く断言した。
「少なくとも、リルはこんな脅迫状まがいの手紙を送ってくる程度の相手に負ける気はない。魔獣たちにも。負けるつもりがないから、負けない」
その言葉には、心配するスバルを黙らせるに足る自信と自負が含まれていて。思わず、スバルは続く口を閉じた。
そうして何も言わないスバルに、逆に、とリルはスバルに訊ねる。
「スバル。リルは、信じてもいい?」
願いを込めるように、リルの左手がスバルに添えられた。……そこには、自分が手紙の差出人のところへ向かう代わりに、下の姉を探しに行けない悔しさと無念さが詰まっていた。
「下姉様のこと。リルの大切な姉様のこと、お願いしてもいい?姉様を助けてくれるって。信じても、いい?」
その言葉を発することは、少年にとっては屈辱だったのかもしれない。自分より圧倒的に弱いはずの存在に、大切な姉の命を託さなければならないのだ。その不安とやるせなさは、察しても余りある。
けれど。いつか、自分が頼った少年が。自分を助けてくれた少年が。自分のことを必要として。自分のことを、こうして頼ってくれる。
そのことが、スバルにとってはこれ以上ないほど嬉しくて。
もちろん、スバルの返答は。
「任せとけ。運命様上等だ。ここまで来たんだ。全員揃って、円満ハッピーエンドってやつを迎えてやろうじゃねぇか!」
「それじゃあ、作戦を説明するよ。リルがこの手紙の主に会うために森に入る。魔獣達は当然リルの方を追ってくるだろうけど、リルが離れてるならスバルの方にも多少注目するはず。スバルはその前に……」
「……執事服のお前って新鮮でいいな。スタイリッシュで仕事人って感じだ」
「当然ね、ラムとレムの弟だもの」
まともに聞けよ。
どうも、僕です。
現在、執事服に着替えて、上姉様とスバルで作戦会議中。
僕だ。
「メイド服みたいにヒラヒラしてない分、こっちの方が動きやすい。それに、手袋をしてる分糸を遠慮なく使えるから」
「そういえばそんな武器を使える設定あったなぁ」
こら。昔適当にくっつけたけど意外と使う機会がなくて没になりかけだった設定が急に台頭してきたみたいな言い方はやめなさい!確かに使う機会が庭仕事以外なかったけども!
「おっ。その手袋を口でキュッと締めるのいいな。決まってる。てか、なんで普段から手袋しねぇの?」
「何を言っているの、バルス。あのメイド服に手袋なんて似合わないでしょう。リルの価値を下げるわ」
「はは、教えられねぇってわけね。了解了解」
………冗談と思ってるかもしれないけど、それもまた純然たる事実なんだよなぁ……メイド服に似合わないからって理由で普段キャストオフだかんね。宗像先輩もびっくりの緩さだよ。
「纏めると、ラムの『千里眼』でレムを見つけて、俺を撒き餌にそこらの魔獣だけ誘き出すってことね。で、ラムが合図するから、残りはリルが請負ってくれるってことでOK?」
「おーけー。そこにはなるべく近寄らずに、それ以外の魔獣を巻き込みながら黒幕のところまで行ってみる。リルの臭いで結構な量はこっちに来ちゃうと思うけど、目の前に餌があるのにリルを優先するってことはないと思うから。その間に、魔獣を追ってる下姉様をどうにか連れ戻して欲しい」
「餌って……言い方をもうちょい……」
結構ガバ気味な作戦だけど、単純だからこそ悪くないと思う。スバル君はある一定の量の魔獣だけの相手だけすればいい。まぁ、実際はもうちょい魔獣がいくだろうけど、大半はこっちに寄ってくるだろう。メィリィごとぶち殺せばお仕事完了だ。メィリィは殺さないけど。
本来の目的でないにしても、僕を囮にする作戦であるが故に上姉様は渋るが、村民の命をメィリィに人質に取られている以上、動かないのは下策も下策。どちらにせよ森に入らざるを得ないなら、僕の体質を有効利用しない手はない。
悔しそうに歯噛みしながらも、上姉様は僕を数分抱きしめるくらいで勘弁してくれた。これで実行しないって言ったら流石に止めなきゃだったからありがたい。
「んじゃ、先遣隊はちょっくら行ってくるよ。ベア子、エミリアを誤魔化すのは任せたぞ」
「精々、気張ってくるといいかしら」
不満げにみせかけ、不安そうに顔を逸らす師匠。その感情を読み取ったのか、スバル君は少しばかり気丈に振る舞って、騒がしく森へと入っていった。音を聞きつけた魔獣に秒殺されそうだな。
二人を見送ってからはひたすら待った。上姉様とスバル君の無事を祈りつつ、軽く準備体操をして体を温めておく。
そして数分後。森のとある一角で、ポン、という間抜けで、明らかに人工的な音が響いたのを確認した。上姉様の魔法で、下姉様を見つけたという合図である。
「師匠、行って参ります」
「………あれだけ大口を叩いて、死ぬんじゃないのよ」
だいじょぶだいじょぶ。ちょっとメスガキわからせてくるだけだから。
一息に跳躍し、山の斜面ではなく木に飛び移る。そのまま合図があった方向を避け、迂回するように目的の丘まで向かった。
ウルガルムは当然僕を追ってくるが、ならばそれ以上の速さで逃げればいいだけの話。パルクールの要領で木伝いに進んでいけば、魔獣を寄せ付けることなく森を進める。
そうして目的地周辺に差し掛かったところで、集まった魔獣達に『シャマク』をかけて目眩し。動けなくなったところをワイヤーで仕留める簡単なお仕事で殺害。動物愛護団体が顔面蒼白になる勢いで犬達を始末していく。
………ぶっちゃけ、森中の魔獣を相手にしようが時間さえあれば多分全滅させられるんだよね。今回はその時間がないってだけで。
そんな作業を何度か繰り返しているうちに、ほとんど無傷で丘に着くことができた。
開けた場所だ。これと言った突起物や木もなく、肉弾戦をするならともかく、ワイヤーを使うには少々厳しい。1対1のVSをするならともかく、大量の魔獣を相手にするには最悪と言っていい立地だろう。
「お兄さん、いらっしゃあぃ」
そして、待ちわびていたかのように、甘ったるい喋り方をする幼女が僕を出迎える。青い髪を三つ編みにして下げた少女は、見間違えようがなく、手紙の差出人。
調子乗ったメスガ……メィリィ・ポートルートだった。
距離は少し遠く、森と丘の境目ギリギリくらいの場所だ。魔獣をけしかけて、すぐに森に逃げ込むつもりだろうか。
「あらぁ?今はあのメイド服じゃ無いのかしら。凄く似合ってると思ったんだけどぉ」
ムッカチーン!
皮肉か!?皮肉か幼女!許すまじ!
そして、当然のように従えられた魔獣達が、背後から現れる。予想通り、その中には高位の魔獣(笑)であるギルティラウも……
ギルティラウ、達も。
………ん?
ひぃ、ふぅ?
……みぃ……よぉ…………ごぉ………ろぉ……………にじゅう。そしてメィリィのそばにいるあと一匹で二十一体。
…………ちょっと、あの?
「漆黒の森の王さん、繁殖力高くないっすか……」
王様が何匹もいていいのか。いいわけないだろ。いくらなんでも多スギィ!
しかもその背後には、ギルティラウだけではなく、大量のウルガルム、
いくらなんでも、臭いだけでこの量が集まってくるとは思えない。恐らく、メィリィがかき集めてきたのだろう。
「大丈夫!このギルティラウちゃんたちぃ、みんなお兄さんを殺したいってうずうずしてるものぉ。他のみんなもそう。お兄さん、何か魔獣さん達に悪いことでもしたのぉ?」
「ははは………ヤバくね」
今になってから、メィリィの持つ『魔操の加護』の末恐ろしさに気がつく。魔獣が大量にいる森の中では、無限に戦力を増やせるようなものだ。しかも上限無し。
例えるなら、世界中の動物を好き勝手に操作できるようなもの。サバンナから肉食獣達を連れ出せば、人間の百や二百、余裕で殺せるだろう。強力な魔獣に土地を移動させ、操れる。それだけのことが、この世界ではあまりにも強力。
そんなんチートやチーターやん!あ、動物の方じゃなくってね。
「今更身の危険を感じても遅いんだけどぉ。もしも私が退屈したら、この一団をラジーオ体操のお兄さんたちに、ぽいってしちゃうからぁ。お兄さん、頑張って私を楽しませてねぇ」
こいつめ。………でも、確かにピーンチ。
『虚飾』は、姉様が『千里眼』を使って僕を見ているだろうから大っぴらに使えない。しかも、使えばその分瘴気が漏れ出すから余計に魔獣を集める。スバル君の分も集めてこの場に下姉様が来られると守り切れないから、権能は封じざるを得ない。
そしてメィリィを飽きさせれば、魔獣の一部をスバル君達に向かわせるときた。
いくら雑魚もいるとはいえ、ここまでの量が揃えば雪崩と何も変わらない。このスタンピードに呑み込まれれば、二人の命は軽く吹き飛ぶ。
権能抜きかつ、撤退やらゲリラ戦抜きで、ワイヤーの設置場所がないこの平野で黒い絨毯ばりの魔獣達を壊滅させる必要がある、と。
「どう考えてもクソゲーです。ありがとうございました」
「そろそろ始めてもいいかしらぁ?」
『待て』をしている魔獣達に『よし』の指示を与えかねないメィリィを、片手で制して止める。
……まさかここでこの手札を切ろうことになるとは。
でもこのままだと厳しいしやるっきゃねぇ。執事服で来た意味を教えてやろう。
ワイヤーを自分の髪にクルリと巻いて、そのまま思い切り引っ張る。束ねられた長い髪はなんの抵抗もなくプツンと切れて、紫色の束が地面へと水のように落ちていく。同じように、前髪も根元からワイヤーの輪を通して切り取った。
最終的に超ショートカットとでも言わんばかりの奇抜すぎる髪型になった僕に、メィリィは思わず吹き出す。
「いきなり髪を切ってどうしたのぉ?もしかしてぇ、失恋?」
黙れ、殺すぞメスガキ。
キレるコンマ一秒。その間に、頭が少しだけムズムズする感覚と共に、ついさっき切った髪の感触が蘇る。
伸びているのだ。それも、悍ましいほどの早さで。髪を短くできなかった理由の一つがこれだ。自然に伸びる癖して、どれだけ切っても一定の長さまで伸びてきてしまう。
にしても、お菊ちゃん人形みたいで凄く嫌なんだよねこれ。やりすぎて将来ハゲそうって言ったやつは殺す。……気にしてるんだよ。
数秒かけ、腰ほどの長さに伸びて生え変わった
一番重要なのは、僕が
「………う、わぁ……」
あまりにも美しく『虚飾』された僕の容姿に、先ほどまで嘲笑していたメィリィが、陶酔のため息をつく。
落ちたな(確信)
「美しいお嬢さん。頼むから、魔獣を引き連れて帰ってもらえないだろうか」
声のトーンを少し落として、王子様的な声音で話しかける。イメージ?ユリウス。ラインハルトの真似はちょっと……
効果の程はパイセンとガーフで実証済み。異性特攻ニコポ持ちって『虚飾』さんどんだけ………
多少離れていようと、顔が見えて声が届く距離なら関係ない。とは言っても、近づけば近づくほど効果はあるので、顔を赤らめて恍惚とするメィリィに近づいて、そのまま説得を終えようと……
「………く、ふふ……くふふっ!!お兄さん、お兄さんお兄さんお兄さんお兄さんっ!!カッコいい!とっても!とってもカッコいいわぁ!素敵よ!心の底から愛しちゃうくらいっ!」
おっ、これ、いったんじゃ無いっすか。いやぁ、やっぱり人間は顔だよね。人じゃ無いけど。
さて、それじゃあそのまま撤退してもろて……
「その手足を千切って、魔獣ちゃん達にいっぱいカジカジさせたらどんな顔になるのぉ?痛みで歪んだ顔も、絶望の顔も、私にいっぱい見せて!手足を全部無くしてから持って帰って!いっぱいいっぱい、可愛がってあげるわぁ!!」
はい。
だぁぁぁぁ!!やっぱり
むしろ僕の容姿はその戦意を煽ってしまったようで、メィリィは幼なげな容姿には不釣り合いなほど獰猛な笑みを浮かべて、高く振り上げた手を振り下ろした。慌てて距離を詰めようにも、殺すつもりならともかく、殺さない程度に手加減できる自信もない。
そして躊躇したその一瞬で、待ちわびていたと言わんばかりに周囲をぐるりと囲んでいた魔獣達が、一斉に僕へと遅いかかってくる。
メィリィはその群れの影へと消え、完全に見えなくなってしまった。
あぁぁぁぁぁぁ!!もぉぉぉ!!やりゃあいいんだろやりゃぁ!!
そんなわけで!権能武器縛り魔獣無双RTA、始まるよっ!
魔獣使いになんて絶対負けないんだからっ!!メスガキに自分の立場をわからせてやる!!
災厄その4
魔獣百体以上相手に権能武器縛りRTAを強要される。
魔獣ってリソースさえあればほぼ無限に戦力を得られるメィリィって作中でもかなりの強キャラだと思うの。
というわけで。
久しぶりに難易度ナイトメア、始まるよっ!!
次回、メスガキがわからされます!
……fateの方、沢山評価いただけたようで大変嬉しい……この作品と同じく、すごく愛着のある作品なので、よろしければぜひぜひ高評価等お願いします!