目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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 有名な曲以外は通じないし本格的なファンでなければそのうちネタが尽きる!よってその理論は無効!!

 作者の家は田舎だからか身近な火山がないので、実際にどうなるかとか作者に聞かれても困る。ここが違うとかわかる博識ニキは教えてね。


何!?陽の曲を持たないなら、米○玄師は万能ではないのか!?

 (おに)ごっこは、子供の遊びの一つである。子供の屋外遊びとしては最もポピュラーなものであり、狭義には、メンバーから『オニ』を一人決め、それ以外のメンバーは決められた時間内に逃げ、『オニ』がそれ以外に触れば『オニ』が交代し、遊びが続くという形式のものを指す。

 

 そして、鬼ごっこにはいくつかローカルルールによる改変がなされることを、知っているだろう。鬼が触れた分だけ鬼が増える『増え鬼』、隠れることを前提とした『隠れ鬼』。ルールこそ変わるが、『凍り鬼』や『色鬼』など、単純故にそのバラエティには事欠かない。

 

 さて。それでは今現在。『改変』の最もたる権能を持つ本物の『鬼』と、逃げる『子』。奇しくも子供同士、範囲は森という鬼ごっこらしいシチュエーションにて、そのルールはあまりにも単純だった。『ごっこ』の様相は、とうの昔に脱していたが。

 

「あは、ハハハ!!待ってよメィリィ!!ちゃんと捕まえて、殺してあげるからぁ!!」

 

「……ひっ……やだやだぁ!来ないで、来ないでったらぁ!!」

 

 互いに様子は酷いものだ。土塗れ草だらけ。どこかのワンシーンだけ切り取れば子供同士の無邪気な遊びにも見えるそれは、しかし本人達からすれば全く別の様相を模したものだった。

 

『捕まれば死』。自然界で常に行われる弱肉強食が、今この場を支配する全て。強者は『鬼』であり、弱者は『人』。そして『魔獣』だ。

 

 狩られる側は必死の形相で逃げ、狩る側は鬼らしい嗜虐心に満ちた表情を浮かべて追いかける。生死を賭けた獣達に比べて、様相は『追いかけっこ』から『狩り』へと転じようとしていた。

 

「追いつかれる……追いつかれる……!ウルガルムちゃん!!もっと早く!!」

 

「アハハ、アハハハ!!そう来なくっちゃ!!もっともっと、逃げて逃げて逃げて逃げてくれないとっ!!」

 

 メィリィが恐怖に震え、自らの騎乗するウルガルムへと涙目になりながら呼びかける。だが、既にトップスピードで駆け続けているウルガルムは、これ以上の速さを出すどころか息切れして減速し始めていた。

 

 怖いものなど、外の世界にはないと思っていた。『母親』を名乗る彼女の所業に比べれば、魔獣達が守ってくれる外の世界はよほど安心できた。

 

 だがそれがどうだ。あの笑い声一つ、感じる熱一つだけで、体の震えが止まらない。今こうして魔獣の背中に捕まっているのが奇跡と思えるほど、自らの体は恐怖に慄いていた。

 

 追いつかれる。ただそれだけのことが、あまりにも恐ろしい。

 

「ま、魔獣ちゃん達っ!!お願ぁい!!」

 

 後ろからの笑い声。幻聴すら聞こえそうなほど耳に残る絶叫に恐怖し、何度目になるかわからない突進を命じる。小さな小動物、中型の魔獣含めた十数体が、従順にも主人の命令へと従って決死の特攻を試みる。

 

「『エル・ラーヴァ』」

 

『鬼』は、踏み躙るようにその突進を嘲笑した。赤いドロドロとした『何か』が一瞬で魔獣の群れへと広がり、一切速度を緩めることなく飲み込んでいく。

 

 断末魔の悲鳴すらあげられない魔獣達は、そのまま骨すら残さず蒸発する。まるで、この世界にいたことが『見間違え』だったかのように。痕跡を残すことすらなく、呆気なく消滅してしまった。

 

 ずっとそうだ。あの赤い液体に飲み込まれた瞬間。魔獣達は何一つ残さずに溶けて消えた。草木ごと燃やして飲み込んでしまうそれは、紛うことなき災厄だった。

 

「他人で遊ぶだなんて……趣味が悪いったらないわぁ!」

 

「その言葉、お姉様にそっくりそのままお返しするよ!!」

 

 手加減されている。普段なら屈辱のひとつでも感じようものだろうが、猫の手だろうと借りたいこの状況下では、そんな相手の油断一つが儚すぎる救いだった。

 

 思えば、初手にギルティラウを全滅させられたのがマズかった。ギルティラウは高位の魔獣。村の結界だろうと無視して突破できる。それが一匹でも残っていれば、村を突っ切って突破することも、村そのものを人質に取ることだってできた。

 

 だが、今残っているのは精々準大〜中型のウルガルム程度。これでは村の結界は突破できない。だからこそ、こんな風に森を当てもなく彷徨う羽目になっている。

 

 どこに逃げれば。そもそも、自分は今どこにいるのか。それすらわからず、ただ鬼から逃げ続ける。先の見えない逃走は、メィリィの精神をじっくりと蝕んでいた。

 

 さらに恐ろしいのは、時折仕掛けられる細い糸の罠だった。鼻のいい魔獣が教えてくれなければ、メィリィ自身何度首を刎ねられていたかわからない。実際、ついさっきまで隣を走っていた魔獣の首が飛ぶのを、メィリィは目撃していた。

 

 いつ自分が死ぬかもわからない恐怖。先の見えないゴールへと走り続ける疲労感。メィリィの幼い心は、あっという間に限界を迎えた。

 

 だからこそ。

 

「魔獣ちゃんっ!!」

 

 逃走ではなく、迎撃という手段をとったのは当然だっただろう。魔獣が直接挑んだところで勝ち目がないことは見えている。ならばせめて、厄介なその武器の一つくらいは壊してやろうと。そんなつもりだった。

 

 迫り来る赤いもの。それが熱を持って居るのなら、炎と同じように冷やしてやればいいと。そんな安易な思考。

 

「───マ」

 

 水のマナを持つ魔獣達が唱えた魔法によって、迫り来る溶岩に氷の矢が刺し込まれた。氷の壁を作るには、体数が足りなかった。

 

「あ、ばっかで」

 

 そしてそれは、メィリィが思い描いていた理想とは、全く別の現象を引き起こした。

 

 赤いものは、刺し込まれた氷に勢いを一瞬だけ緩めたように思えた。その後、まるでメィリィ達の希望を嘲笑うかのように。或いは、その怒りをより一層高めるかのように。球のような質量を肥大させ………爆発した。

 

 耳を(つんざ)く嫌な破裂音。なおも元気そうに沸き立つ赤い奔流のボコボコという音が、より一層の深い絶望を誘う。

 

 魔法を使った魔獣は予測不可能なその現象に巻き込まれ、爆散するか、体の一部を燃やして苦しんだ後に焦げ死んだ。

 

「大量の氷に溶岩ぶちこむならまだしも、流動してる溶岩にちょっとだけの氷なんて入れたらそりゃあそうなるよ。マグマの水蒸気爆発ってのを知らないのかな。…………アハ、アハハハっ!でもでも!イイなぁ、それ!」

 

 訳もわからない現象に困惑するメィリィを置き去りに、恍惚として何かを思いついた鬼は、その口を三日月のように歪めながら呪文を唱える。

 

「ヒューマ」

 

 氷が生み出される。彼にとって苦手分野である冷却の魔法は、無印の初歩の初歩しか使えない。それでも凍っている物体であれば、この状況では爆弾に他ならない。

 

 そしてあろうことか。『鬼』は先程起こった現象を見ていながら、その氷を自らの近くに浮かぶ赤々と煮えたぎる溶岩へ差し込んだ。

 

 自爆。そう考え、メィリィはほくそ笑んだ。だが、つい先ほどとは異なり、爆発する様子はない。

 

「そしてぇ!これをさらにさらに合成!!爆発の衝撃を止めて圧縮!!外に向く力を全部全部集めて、集中させる!!」

 

 どころか、氷を差し込んだ溶岩は外から強い力でもかけられたかのように、小さく、小さくその質量を縮小させ、やがて小指ほどの大きさの紅い光のようになった。

 

 作り出されたその紅の輝きは、一切の躊躇なくメィリィ目掛けて放たれる。

 

「ウルガルムちゃん!避けてぇぇっ!!」

 

 本能が訴える危険信号に逆らうことなく、避けるよう絶叫とも取れる全力の指示。同じく野生で危険を感じたウルガルムは、全霊でそれを回避する。

 

 瞬間。

 

「────っ!!」

 

 耳が聞こえなくなった。叫び声を何か上げたはずだったのに、それももう聞こえない。耳がビリビリと震え、目が白と黒でチカチカと点滅する。体に衝撃が走って、何が起こったのかも分からず体が宙を舞って転がった。

 

 まるで雷が落ちたような衝撃に、世界ごと回るような錯覚を覚えた。それから数秒経って、ようやく世界は色と音を取り戻す。

 

「あはは!!溶岩が生み出す連鎖的な爆発のエネルギー()()を全圧縮して解放!これぞ爆弾って感じがするよねぇ!!」

 

 見なければ良かった。目の前の光景を認識した途端、メィリィは心の底からそう思った。

 

「森が……削れて……」

 

 おそらく爆心地と思われる箇所。そこを中心として、半径三メートルほどに渡って緑が完全に消滅しているのだ。スプーンか何かでそこだけ削り取ったかのように地層が剥き出しになって、周囲との異様なまでの差異が生まれている。

 

 回避の間に合わなかった魔獣の群れは、体の一部を残して、もしくは何も残さず爆死。自分が乗っていたウルガルムは爆風に巻き込まれ、遠くの枝に体を貫かれて死んでいた。

 

 そして、何より見たくなかったのは。

 

「嘘……嘘、嘘嘘嘘、うそぉっ……!!」

 

 メィリィの視界を埋め尽くさんばかりの、空に輝く赤い煌めきの数々で──

 

「名付けて『クエーサー』ってとこかなぁ!!かわいそうに。頑張れ!困難に負けないで!メィリィ・ポートルート!!アハハハハっ!!アハハ、アハハハっ!!」

 

 赤い輝きを背後に、白金の鬼は狂ったように笑い続ける。自らが作り出した災厄に『不幸にも』巻き込まれた少女を憐れむように、薄っぺらな励ましの言葉を口にして。

 

「やだ、やだ……もうやだぁ……怖いよぉ……助けて、エルザぁ……!」

 

「アハハハハハっ!!あは、ははぁ!!あふはへはははははっ!!」

 

 例えどれだけ泣き言を溢そうと、鬼は止まらない。

 

 その鬼の高笑いが、爆発の音で聞こえなくなった後も。

 

 ずっと、メィリィの耳に残っていた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

『ラム達は、リルに殺されることになるわ』と。

 

 ラムから信じられない事実を聞かされたスバル。思わず問い返したくなったところだったが、恐ろしいほど冷静に、スバルはその事実を受け入れた。

 

「…………なるほど」

 

「……説明の必要はなさそうね。これはリルの心配よりも、敵が塵一つでも残っているかの考察をした方が建設的だわ」

 

 何せ、遠くからどえらい爆発音やら木がなぎ倒される音やらおぞましい笑い声なんかが聞こえてくるのだ。今時のB級映画のサイコ爆弾魔ですらここまではやらないだろう。

 

 この五周で『リル=激強』理論に疑問を抱きかけていたスバルは、即座にそんな疑念を捨てた。リルさん、とても強い!

 

「リルもバーサーカー化ってこれもうわかんねぇよ……どうすりゃいいんだ……」

 

「森でリルに遭遇するまでにロズワール様が戻るのを祈るしかないわね。それか、敵がより長く時間を稼いでくれるのを祈るばかりよ」

 

 敵に祈りを捧げるしかないという状況のカオスっぷりに混乱しつつ、スバルは続けていた現実逃避をやめる。

 

「………さて、こっちはこっちで、レムさん。そろそろ正気に戻ってくれると助かるなぁ、なんて」

 

「あは、あはっ!!魔獣っ!!魔女っ!!あは、あはははっ!!」

 

 目の前で最後の魔獣を倒し切ったレムは、ギョロリと射殺すような眼光でこちらを睨む。もう、逃亡は不可能だろう。当然、正気が戻る気配はなく。しかし、言葉とは裏腹にそれを期待していたというわけでもない。

 

「さぁ、策は成ったぜ……!やるぞ、ラム!」

 

「バルスの作戦というのは腑に落ちないけど……仕方ないわね」

 

 ロズワール邸の新人執事とメイド達。不毛なこの鬼ごっこも、いい加減、幕引きにしよう。

 

 




ロズワール「ここに助けに入るのはちょっと……」

 正直下姉様戦を描写するのが面倒なのでカットしたい欲。それはそれとして書いてみたい感。9:1で揺れてます。


再び『匿名』の方から頂きました!18話、一章『人魚沼ばりにホラーにしたかったけどそうならなかった話』より、顔ぱぁぁぁなリル君です。

【挿絵表示】


リル君が楽しそうで何より。なお、この後……

わざわざ作者のわがままを聞いてくださって、何回もリテイクをお願いした末最高のクオリティを叩き出してくださった『匿名』さんに感謝です……!ほんとに頭が上がらない……!ありがとうございます!

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