目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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感想、評価、誤字報告等本当にありがとうございます。感想も全て目を通させていただかせていただいております。時間こそないのであまり返信ができないのが気がかりですが……ごめんなさい…

諸事情で作品内の日程が一日ズレたけど誤差よね誤差。


集合写真で一人だけ制服で、次の日から渾名が「勇者」になった。

 メイド姿が、いやに月光に映えるものだと。いつかのスバルは、リルのことをそう表現した。白のブリムやエプロンと黒の服のツートンカラーが、闇に対比してとても鮮やかだったのを覚えている。

 

 今はどうだろう。

 

 いつもとは違う執事服。茶色いベストや黒い上着、白のカッターシャツは乱暴に引きちぎられたのか、切り口が雑だ。返り血をあまりにも多く浴びたのだろう。ドス黒い赤がベッタリと付着し、保有する熱の塊のせいか乾き果てている。それは暴力的極まりないが、黒い服とも言えなくもなかった。

 

 そして。それに対比するのは、血の付着すら許さない滑らかな白金の髪だ。この世のものとは思えないほど美しいその絹は、月光を反射して魅惑的に輝く。誘蛾灯という言葉が似合いそうなほどに艶やかに光るそれは、リルという存在の非日常性をこれ以上ないほどに高めていた。

 

 そして、最後に額の中央から伸びる()()純白の角。髪と相違ないその美しい一本の角は、リルを鬼たらしめる象徴。主の惨状に素知らぬ顔で存在を主張し、圧倒的なオーラを放っていた。

 

 正直に言おう。目の前の存在がリルと知らなければ。或いは、これほどまでに覚悟を決めた状況でなければ。例えば、何でもない夜道か何かで不意打ちに遭遇したら。スバルはチビって逃げる。

 

「あは、ハハハ!!いっぱい!いっぱいいっぱい!殺して殺さなきゃ魔獣魔獣!!燃えて溶かして解けていっぱい……!まだまだ遊べる!!まだまだ球がある!殺せる!殺せるっ!!」

 

 今なお戦うことの快楽に酔い、なにがおかしいのか爆笑しながら、手から何かを生み出す。赤々と発光し、燃えるような熱と共に流動性を持つそれは、まごうことなき……

 

「よ、溶岩とか……マジっすか、リルさん……」 

 

 ボコボコと生み出されていく溶岩。スバルも動画や写真などでしか見たことがないが、その恐ろしさは多少なり知識のある人間なら誰だろうとわかるだろう。

 

 それに飽き足らず、更に生み出されるのは今度こそ正体すらわからない紅の煌めきだ。その威力は推して知るべし。ついさっきの爆発を見てから『わぁい、綺麗な灯り』などと言葉にする度胸はスバルにはなかった。

 

 トドメとばかりにもう片方の手に握られるのは、魔獣をさんざ殺してきたのだろう凶器、ワイヤー。大量の血が滴っており、それが逆にこの夜の中での隠密性をより高めている。

 

 どれもこれも、スバルを百回殺してもなお余裕があるであろうラインナップ。寒気が止まらない。

 

「あはぁ……スバル君、スバル……うひ、あはは!!いっぱい、死んで、あははははは!!魔獣もみぃんな、殺して殺さなくちゃいけないのが……メィリィ……死んで……うははっ!!」

 

 レムとは違い、スバルのことを認識しているリル。だが呼び方すら曖昧なその様子からは、どう希望的観測を行おうが正気を保っているとの結果は導き出せず、変に言語能力がある分こちらの方が怖い。

 

 狂気的に笑い続けるリルのその口から固有名詞らしき単語が聞こえた途端、スバルにしがみつくお下げの少女が小さく悲鳴を上げた。

 

「ひぃっ……!お兄さん!お願ぁい……!今までのこと、全部謝るからぁ……あの化け物をどうにかしてぇ……!」

 

 その少女は、雰囲気こそ違っているがアーラム村にいた少女に違いなく。スバルが森に深入りする理由にもなった原因で。

 

「君が、メィリィ……魔獣使い……リルを呼び出した、今回の一連の黒幕なんだよな?」

 

「……そ、そうよぉ……!捕虜にでも、何にでもなるわぁ……なんなら拷問してもいいから、今は助けてぇ!」

 

 肯定しつつ、泣きながらスバルに必死に助けを求める少女。元はと言えばこの少女のせいでスバルは四度も死ぬハメになったのだし、呪いを受けた遠因でもある。だが、こんな小さな少女に号泣されながら助けを乞われては、それを責める気も失せてしまう。演技の可能性もあるが、これがスバルを油断させる演技なら主演女優賞ものだろう。黒幕をこんな風にしてしまうリルって一体。

 

 かといって。そんな風に助けを求められようと、スバルにこの状況を打破できる気は微塵もしない。ついさっきレムにやったように角に強い衝撃を与えれば正気に戻るのかもしれないが、格闘の心得のあるリルを相手には近づくことすら自殺行為だ。中距離も遠距離も、敵対行為を見せた瞬間あの赤い光がチュドンで蒸発させるだろう。

 

 ………詰んでないか、これ。

 

 先ほどリルへの認識を『激強』にしたが、そんなことはない。これが『激強』程度であってたまるかファンタジー。間違いなく、ワールドランキングとかそういうのに載る感じの強さだ。スバルの中の強さランキングで勝手な偏見によって地位を下げていたリルが、再び一位に躍り出る。

 

「り、リルさ〜ん。君のお友達のスッバル君ですよ〜……もう全部まる〜く収まったから、もう元に戻ってくれて大丈夫ですよ〜」

 

「あは、あははは、あははははひはははははははははははははは」

 

「嘘です後輩で下僕です奴隷です対等な立場とかほんと調子乗ってさぁせんしたぁ!!」

 

 淡々とバイオレンスな笑いで返され、たちまち白旗を上げる。あかん、これもうどうしようもないやつや、と。

 

 何か行動を移そうにも、変化が怖い。

 

 わずか一歩でも動けば。どころか、身じろぎをしてこの膠着状態を解いてしまうことが、何よりも怖い。軽く笑わせるためにギャグか何かに走ったら、その瞬間に首が飛ぶだろう。

 

 自分の背後にいるラムとレムが動かないのも、きっとそれが理由だ。あの二人ですら、この場で動くことを躊躇っている。

 

 恐らく人間二人。そして鬼二人が、あの小さなメイド一人によって動向を完璧に掌握されていた。この場は既に、リルによる絶対的な支配下に置かれているのだ。

 

「あははは、殺す。魔獣も、メィリィ……あは、殺さなきゃ……一杯、いっぱい………たくさん……スバル君……スバル……あは、殺さなきゃ……」

 

 ターゲットがさらっとスバルに変わった。

 

 いつものように呼び捨てではなく、君付けで呼ばれるのに怖気が走る。得体の知れない何かがリルに取り憑いているかのような、二重人格を疑う様子に、ジリ、とメィリィにしがみつかれるスバルが後退する。

 

 事態が動いたのは、その数秒後のことだった。

 

 

 

「悪いのだけど。その子を今殺されると凄く困ってしまうの。回収させてもらうわ。可愛い執事さん」

 

聞き覚えのある、やけに耳に残るねっとりとした声音。それが森のある一箇所から響き、スバルの腕の中のメィリィがその名を強く叫んだ。

 

──エルザぁぁっ!!

 

「あはははっ!!来た!エルザ、殺してもいいやつっ!!エルザ!エルザエルザっ!!」

 

 メィリィの叫びを契機に、リルが爆撃を開始する。紅蓮の星々が次々と生み出され、掛け値なく最高の威力を伴った爆裂が森ごと黒の女を消し飛ばさんと輝く。

 

「アル・クエーサー!」

 

 続けて生み出された光。黒いマントを纏う『(はらわた)狩り』……エルザは、その広範囲の爆撃になす術なく呑まれた。あまりの熱量に森が弾け、炎が辺り一面に広がる。

 

 当然、エルザは塵一つ残らず消滅し、邪魔者を排除したリルは次なる標的を……

 

「爆発するだなんて……素敵。頭が茹だって感じてしまうわ」

 

 そんな色気の含んだ囁きを、スバルは耳元で確かに聞いた。そして、手の中の質量が無理矢理に奪われて、失われる。

 

「この子を守ってくれてありがとう。御礼に、腸を切り開いてあげる」

 

「なっ!?てめ……」

 

 抵抗する間も無く、スバルの無防備な腹にククリナイフが侵入する。闇の中で不気味に光る刃物は、宣言通りにスバルの皮を裂き、その中身を引き摺り………

 

「……残念。引き際ね」

 

 出すのを、()()()()()ワイヤーが防いだ。

 

 いつかの焼き増しどころか、より精度を増したその糸が、ククリナイフごとエルザの右手をなます斬りに切断。生温かい血がスバルの胸にかかり、諦念と死の香りを含んだ吐息が遠ざかる。

 

「っぶねぇ!!助かった……!」

 

「エルザ!エルザぁ……!」

 

「聴こえているわ、メィリィ。こんなに震えて。怖かったでしょう。帰ったら子守唄を歌ってあげる」

 

 跳躍し、木の枝にバランスよく着地したエルザ。その体からはあの黒いマントが消失しており、代わりにメィリィが無事な左腕で俵のように抱かれている。魔法を一度だけ無力化するマント。確かそんなものもあったと、スバルは王都での記憶を引っ張り出した。

 

 その親しげな会話から、二人が旧知の仲か、それ以上の関係性であることが見て取れる。大方、仲間か何かだったのだろう。王都でエミリアの徽章を狙ったエルザとメィリィが結託しているとなると、何か陰謀めいた思惑を感じざるを得ない。

 

「あは、あははっ!!エルザ、エルザ!!遊ぼう!もっと、もっと、もっと遊ぼう!?」

 

「お誘いはとても嬉しいわ。貴方のような可愛い子からのは特に。でも残念。今日はこれで帰らなきゃならないの。また殺りましょう。それまで、私も貴方の腸を想像しながら過ごすことにするから」

 

 リルを見つめ、どこか赤らんだ顔で好意的とも取れる猟奇的な愛のメッセージを一方的に叩きつけるエルザ。普段の何倍も色気を含んだ蕩けそうな声音は、まさしく淫魔のそれだ。

 

 当然、リルがみすみすエルザを逃すはずもなく、再び赤い紅点がポツポツと生み出される。マントを失ったエルザは、今度こそその肉体をバラバラに粉砕させられるかに思えた。

 

「名残惜しいけれど、ダンスはまた今度。次は平静のあなたと。今までの何百倍も愛してから、腸を切り開いてあげる」

 

「ぅぁれぅぁ!?」

 

 だが。そこはエルザの方が一枚上手だった。魔法が放たれる直前、何かの瓶がリルに投擲された。

 

 当然、それは届くはずもなく粉砕される……が。途端にリルは、聞いたこともないような悲鳴と共に地面をのたうちまわった。

 

「──ぁ、う、えっ……ぎぁ……!!」

 

「マコイルの花粉よ。その鼻の良さで揮発したのをマトモに吸ったのだもの。一日は鼻がおかしくなるでしょう。それじゃあ、今度こそ」

 

 臭い液のようなものだったのだろう。鼻を必死に押さえるリルを尻目に、エルザはスバルの視界から消える。襲ってくるかとも思ったが、今回は矛を収めてくれたらしい。

 

 数秒警戒してから、何も起こらないことを確認。静寂が流れて、漸く実感が湧いてくる。

 

「………なんとか……なった、のか?」

 

 イレギュラーな事態でこそあったが、結果的にリルは戦闘不能となり、スバル達は無傷で済んだ。メィリィを逃したのは痛手かもしれないが、それでも全員が五体満足で生き残っている。

 

 漸く、乗り切れたのだ。この長い四日目の夜を。

 

「──ぅ、ぁ………」

 

「げぇ!?ちょ、リルさん!まだ!?」

 

 だがしかし。そうは問屋が卸さない。一度は凶悪な臭いに倒れたはずのリルは、鼻声で弱々しい声ながらも起きあがろうとする。

 

 ここでまたリルが暴れ始めれば、それこそ全てが終わる。そう確信しつつも動けないスバルに、リルはゆっくりとその上体を起こし……

 

「エルシャマク」

 

「────ぁ……」

 

 空から突如飛来した闇の弾が、リルにトドメを刺した。

 

 スバルが展開したものの数倍の密度を持つ闇がリルの姿を一瞬隠し、暫く纏わりついた。内側から何度かリルの悲鳴とも取れる呻き声が上がり、そうして何の音も聞こえなくなったところで闇が霧散。

 

 残ったのは、そのボロボロの体を地面に横たえるリルの姿だった。

 

「………来るのがウルトラ遅ぇよ、ロズっち。ヒーローは遅れてやってくるけど、遅刻し続けたらそれはもう単なるサボり魔って知ってる?」

 

「いやーぁ。いいとこどりをしてしまうようですまない。なにせ、あの状態のリルを止めるのは至難の技でぇーね。一撃で仕留めるのが理想だったから機会を見計らってたぁんだぁけど」

 

「意図的な遅刻ヒーローってもうそれ戦犯だかんね!?……っつつ……ほんと、こちとら死にかけなんだから勘弁してくれよ……」

 

 多分死にかけだ。何度も死を体験したスバルが言うのだから間違いない。あとほんの数発体に攻撃を受ければ、きっとスバルのHPは0になるだろう。あと数ドットといったところか。

 

「……リル、死んでたりする?」

 

「あはぁ。これでも私の可愛い従者だ。殺すような真似はしないとぉも。気を失ってるだぁけ。まぁ、この状態でエミリア様に会わせたら、それこそ死人が出るだろうけどねーぇ」

 

「顔がどうこうでパックがブチギレってことね。納得」

 

 いつもとは違い、白金の髪を剥き出しにしているリルは歩く爆弾そのものだ。実際、エルザはその顔にあてられていたようだし。その点、今回はスバルに影響がないのがよくわからないが。

 

 と、状況を振り返っていると。

 

「──ロズワール様!!」

 

 背後の茂みを揺らしながら姿を見せたのはラムだ。レムに肩を貸す彼女はロズワールの姿に気付くと、今までの不遜な態度が嘘だったかのように賢慮な姿勢をとる。

 

「弟がお手をお煩わせして、申し訳ありません」

 

「いんやぁ、いいとも。君の弟のではなく、私の従者の不始末だぁし。そもそもの原因は私の領地で起きた私の収めるべき事柄だ。寧ろ、三人ともよぉくやってくれたね」

 

 器の大きさを垣間見せるロズワールの労いの言葉に頬を赤くして、ラムは胸を押さえながら厳かに頷く。その二人のやり取りを横目にしながら、スバルは深くため息をこぼす。

 

「───スバルくんっ!!」

 

「ぐぇっ」

 

 そして飛んできた青いメイドに、残りのHPバーを全損させられた。潰れたカエルのような声を出すスバルにお構いなしで、レムはその端正な顔から涙を流し、スバルの体を抱きしめる。

 

「スバルくん、スバルくん……届いてくれた……生きててくれた……リルのことも、ちゃんと助けてくれた……」

 

 感極まっているレムの背中を叩くが、レムはお構いなしだ。体に発生する柔らかな感触と痛みに板挟みになり、感情がごちゃ混ぜになったスバルと裏腹に体は痛ましい悲鳴をあげる。

 

「──ぁぁ、くそ。………でも、やってやったよな、リル……」

 

 ラムに肩を貸されながら介抱されるリルを尻目に、なんとかガッツポーズを取る。スバルに抱きつく前に、レムが起こして預けていたらしい。最優先が弟であることに苦笑し、それでこそレムだとも思う。最低限仕事をこなしてから私事を交えるあたりが特に。

 

 そうして全てのスタミナを使い切ったスバルは、暗い無意識の泉に飲み込まれていく。

 

 遠ざかる意識の最後に。

 

「……スバ……ル……花丸……あげる……」

 

 これ以上ないほどの返答を得て、スバルは暗闇に意識を投じた。




美味しいとこどりが好きな原作チート勢。

活動報告、なかなか指摘が来ないので本当かぁ?と思い確認してみたところ、案の定ガバりまくってたので出来る限りの修正をしました。……他にも『コレがないよ!』とわかる方いらっしゃったら、Twitterでもなんでもいいのでご連絡ください……

明日はお休みです。
更新や質問等作者のTwitterの方で触れておりますのでそちらもぜひぜひ。
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