目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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 作者が四児の母(父)になるからやめてくれ。

「擦り合わせが大切ですよね」でミルクティー吹きかけた。嘘みたいなホントの話です。



キャラメイクを『子作り』って呼ぶのやめろ

 

 

 

 再び、そこに招かれていた。

 

 見る限りごちゃごちゃの、テーマすら乱雑な教会。宗教家から見れば破戒もいいところだろうし、芸術家に見せても多分いい点はもらえない。

 

 そんな場所が妙に落ち着くのは、きっと僕がおかしいからで。夜の学校に侵入するような緊張と、何もしなくていい安心感のようなものが胸に満ちていた。

 

 口ずさむ。安物の机に腰をかけながら、それはまるで鎮魂歌のように。

 

荒野の果てに(Angel we have heard on high),夕日は落ちて( Sweetly singing o'er the plains),妙なる調べ(And the mountains in reply)天より響く( Echoing their joyous strains)……」

 

 歌は下手ではない。寧ろ上手い方だと思う。これでも、歌う機会には恵まれていたから。

 

荒野(あらの)の果てに。讃美歌でしたか。上手いものですね。あなたらしくはないですけれど」

 

 それでも、そんな風に拍手されるのは嫌だ。これは、称賛を浴びていいものじゃない。

 

「これさ、子供の頃に覚えたんだ。頼まれたわけでも、行事に使ったわけでもないけど。子供がこういうのを歌ってる方が()()でしょ」

 

 昔々の昔の話。子供がそんな健気なことをするだけで、大人たちは喜んでくれた。それが嬉しくて、もっと沢山の歌を覚えた。その数が増えれば増えるほど大人たちの反応は薄くなって。『慣れ』というものが、いかに人の喜びを薄くさせるのかを知った。

 

「……なるほど。あなたの初めての『虚飾』というわけですか。それはそれは。貴重なものを聴かせていただきました」

 

「ねぇ」

 

 薄っぺらな褒め言葉を口にする彼女に、思わず問いかける。

 

「僕らしさって、何?」

 

 恐らくは、きっと日本で誰しもが抱いていたであろう自問自答。『群』の認識があまりにも重要視されるあの世界で、一部の天才と履き違えた愚者以外が持つ『当たり前』。

 

 生涯その問いに悩み続ける大勢がいるというのに、目の前の女はそれを笑ってのける。

 

「簡単ですよ」

 

 テーブルの上で簡単に押し倒された。

 

 今まで培ってきた力も、体格も、何もかもを嘲弄されるように簡単に。そして()()()()は僕を見下ろしながら、見下しながら。当然の常識を語るように言ってのける。

 

虚飾()』が、そうです

 

 傲慢にもそう言い切るパンドラ。他の誰だろうと笑い飛ばすその言葉は、しかしパンドラが発すれば納得させられるほどの説得力を持っていた。

 

 その海のような瞳から、目が離せない。それでも心だけはパンドラから離して。離したつもりになって。せめてもの抵抗を試みる。

 

「………不幸だよ」

 

「ええ、知っています」

 

 うるさい。

 

 知らないくせに。わからないくせに。

 

「お前がいない世界は、辛い」

 

「そんな風に言っていただけるなんて、光栄ですね」

 

 そんなこと、毛頭思ってないくせに。

 

お前(厄災)を持つ僕が、その厄災に一番遠くて、近いなんて」

 

「そうです。だから、あなたは許される。一番(わたし)が手に入らない代わりに。永遠に満たされない代わりに。あなたは可哀想(不幸)でいられる。仮初の快楽を無限に享受できる。あなた自身の認識で。あなた自身の想いの在り方で。私という厄災は形を変えましょう」

 

 パンドラの長い髪がしなだれて顔にかかる。当たる物体に対してしなやかに形を変えるそれは、まるで液体だ。耳にかければいいのにそんなことをしないから、髪が白金のカーテンのように周囲を覆い隠して、パンドラしか見えなくなる。甘く輝くカーテン。この世の何よりも美しいそれがただの幕として使われるのは、きっと世界の損失だった。

 

 神々しい、には言葉が負けるだろう美貌。目を焼かれるならまだしも、目に焼き付けてくるあたり性が悪い。仔細に観察すればするほど、吐くべき文句が肺へと押し込まれてしまう。

 

 玲瓏な顔が。出す声が。放つ吐息が。全てが全て、それだけで相手の人生を変えてしまうだろう。(つくづく)、こいつを殺しておいて良かったと思える。殺してしまった自分を、殺してしまいたくなる。

 

 そんな自分が嫌で。見せたくなくて。顔を覆い隠したくて。それでも手はパンドラに組み敷かれたままで動かなくて。それは多分、僕が動かしたくなかったからで。自己制御すらできない自分が、さらに嫌いになる。

 

 いつだって、きっと僕の心は矛盾だらけだった。

 

 パンドラは、自らにすら困惑する僕の姿を見て満足そうに微笑む。何度だろうと死んでやろうと思えるほどの笑みが自分に向けられているのに、ちっとも嬉しくない。

 

 

()きなさい。自らの願望にすら『虚飾』し続けるあなた。何もかもを信じられないあなた。『虚飾』()に縛られ続ける可愛い人。ずっと側で、見守っています

 

 

 その顔が近く。その距離はあまりにも遠く。けれどずっと、ずぅっと近くに。

 

 そうして、ゆっくりとその目が細められて、お互いの体温すら感じられるほど熱く、深く、甘く蕩けて。

 

 

 

 

 

「………超……サイヤク……」

 

 

 目を覚ましてから、身体のだるさと共にポツリとそれだけ溢した。

 

 体温は、少しだけ高かったかもしれない。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 どうも、僕です。

 

 体を完全に治療され(そもそも負ってた傷がなかった)無事上姉様に付き添われて屋敷の庭を歩いてます。

 

 僕だ。

 

 へ?鬼化してた時のこと?

 

 ………黒歴史の話はやめろ。死人が出るぞ。

 

 いや、ちゃうんやって……深夜テンション中のエナドリガバ飲みカラオケくらいハイだっただけなんですって……ちょっとスバル君でも殺しかねないくらい気分高揚してただけだから……そら下姉様もあんなになりますわ………

 

 なんで暴走中も記憶あるんだろうね?消したいよ。スバル君の勇姿も一部とはいえちゃんと見えたから消さないけど。

 

 ちなみに、髪は寝てる間に染められてた。エミリア様に見られたから変装の意味はほぼなくなったけど、バレた様子はないので平気です平気。パックソに見られるのが一番怖かったけど特に無反応。あいついっつも記憶喪失発症してんよな。ドナさんあざぁーっす。

 

「リル、平気?視界は悪くない?ちゃんと歩ける?」

 

「上姉様、心配しすぎ。病み上がりでもちょっと魔法が使えないだけだから。身体の方は寧ろ鈍っちゃうくらい」

 

 そうそう。ゲートさん、無事?損傷。しばらく魔法を使うなとのお達しが来た。まぁスバル君ほどヤワなゲートでもなく、バカスカバンバンアホほど魔法撃ちまくったせいで疲労してるだけなので、一週間程度で治るらしい。元々周囲からマナを取り込むことを前提とした構造の鬼族はゲートも強いんだとさ。

 

 ついでに開発した『ラーヴァ』と『クエーサー』だけど、ロズワールから根掘り葉掘り仕組みを訊かれた。『ぼくのかんがえたさいきょうのまほう』もといオリジナル魔法を独占したかったのもあり、かなりボカしたニュアンスで説明したけど、『ラーヴァ』は完コピされた。はー!天才様流石っすわ〜!!やんなっちゃう。

 

『クエーサー』の方の特許は無事です。どうも爆発のエネルギーを抽出するってのが難しいらしい。へっ!ザマァ!!貴様に使えるわけがなかろう!!

 

 まぁ、アイツ無色のマナとかいうほぼ互換使えるからいらなそうだったけど。メドローア標準装備ってそれマ?

 

 違いを挙げるとするなら『クエーサー』は一度魔法を作ってしまえば爆発までの制御ができることと、陰魔法を使って遠くまで飛ばせることぐらいだろうか。燃費もいい。威力は無色のマナのが断然高いけど。全系統適性持ちはちげぇわ。

 

 でも即興で合成魔法を作ったセンスと『魔獣使い』撃退に関しては素直に称賛された。ま、まぁ?ワイ天才やし、当然よな???

 

 実はそんなこともないけど。陰魔法のスペシャリスト(自称)の僕ですらはちゃめちゃにしんどい『クエーサー』はともかく、『ラーヴァ』は合成魔法とは程遠いし。

 

 本来、合成魔法は陰と陽の『ネクト』やらロズワールの全属性掛け合わせた『無色のマナ』やら、掛け算して倍以上、もしくは特殊な効果を発揮するものだ。比べて、僕の『ラーヴァ』はゴリッゴリの足し算。足し算のゴリ押しとも呼んでいい魔法。それを褒められても、乗算ができる相手に1+1とまでは言わないが100+100を褒められたくらいの感覚である。『クエーサー』は、割と複雑な過程を通しているのでそれに届くかもしれない。

 

 てか、おまけ感覚で作った『クエーサー』だけど、何気にそっちの方が凄いんだよな。どうやったんだあの時の僕。今ですら理屈フワッフワだぞ。使えるけど。

 

「随分と考え込んでいるわね。その眼鏡のこと?似合っているけど」

 

「そう?知的に見える……かな。動きにくいから、早く髪伸ばしたいんだけど……」

 

 そう。現在僕、メガネキャラに転向しています。

 

 落ち着け。メガネ属性ファンよ、まぁ落ち着いてくれ。そんなに興奮しないでください。僕も安易にメガネをかけ始めたわけじゃない。これは苦肉の策なのだ。ちゃんと両手で外すし、適度に綺麗にするし、寝る時には机の上に置く。

 

 それもこれも全部メィリィが悪い。元々『どれだけ切ってもここまでは伸びる』基準プラスで目隠し分の髪を伸ばしていたのに、それを切ってしまったせいで顔がモロ見えなのだ。……よくよく考えれば髪切らずに髪留め使えばよかったな。そっちの方が強キャラ感ある。

 

 これらの上で目隠しキャラを貫き通すなら、これはもう貞子かコルトピになるしかない。流石にごめんである。

 

 とはいえ、顔を隠さないのはちょっとまずいので今は伊達メガネ中。顔を隠すというほどではないので効果はかなり劣るが、かけないよりはマシだ。少なくともポンポン魅了してデバフかけまくることはなくなる。目か?目が悪いんか????なんか光線出してるんか?????

 

 この世界の眼鏡は運動対応でもなんでもないので、激しく動いたら割とポロポロ外れるのが欠点。ふと落としてポロ……からの「目と目が合う〜♪」になったら困るので常用はできない。フレームあたりを弄りたいけど、そんな技術も知識もないので断念。

 

 メィリィ云々で思い出したけど、鼻はまだ利かない。めっちゃ臭かったのだけは覚えてる。刺激臭もあそこまできたらもはや凶器だ。変に熱魔法使って蒸発させたのを思い切り吸い込んだのがまずかったのだろう。エルザは四章で確実に痛い目見せたる。

 

 ……思い出したらロズワールもロズワールで大概な気がしてきた。機会があれば殴っておこう。

 

「それじゃあ、リルは下姉様を見てくる。スバルも、もう起きてるかもしれないし」

 

「………そう。レムは随分バルスを気にかけていたものね。罪作りな男だわ。リルを泣かせたことだし、殺してやろうかしら」

 

 朗らかさすら湛えてクールに笑う姉様。二周目のように怒りに震えるのではなく、明らかに冗談とわかる言い方だ。

 

「ふふ、珍しいね。姉様がリルに冗談言うなんて」

 

「あら。冗談のつもりはないわよ。これでレムまで泣かせたら、本当に殺してやるわ」

 

 ほう。じゃあ死ぬかな、スバル君。辞世の句を詠め。カイシャクしてやる。

 

 にしても、上姉様が身内に冗談を言うようになるとは。姉様も姉様で、ちゃんとスバル君を気に入ったらしい。やることやってるあたりさすがスバル君だよな。高跳びで姉妹落とした某高校生ほどじゃないけど。

 

 上姉様は仕事に戻るようで、屋敷の中へと戻っていく。今回の魔獣騒ぎで村と色々とやり取りしないといけないことが増えたし、伴って上姉様のやることも多い。書類仕事がんばえー!

 

 下姉様がスバル君につきっきりなので、家事は僕の仕事になる。下姉様が戻ったら申し訳なさそうな顔するのが目に浮かんでちょっと気分も乗ると言うもの。

 

 ………いや、どうかな。

 

 もしかしたら、そんな顔もしなくなるかもしれない。スバル君のことだ。それくらいはやってのけるかも。

 

 下姉様はほぼスバル君に落ちかけくらいだった。なにせ、下姉様からすれば十年前から空っぽだった手を取ってくれた英雄だ。結果的にあの日手を取れなかった弟を救って、願いを叶えてくれた。それだけで下姉様が落ちる可能性は十分にある。

 

 ──それはそれで、悲しいものがあるけど。

 

 だとしても、スバル君にならそれもいい。それに、今回の件での収穫はあった。特に『虚飾』が制御可能になったのは大きいだろう。

 

 今や完全に馴染んだこの権能。微調整も思いのままで、今まで思い切ってできなかった自分の体への現実改変も多分できる。やるつもりがないから確証もないけど。

 

 何よりとんでもないのは『不幸』のためのこの力が僕に対しては『死』を『見間違え』にしようが、なんにしても使い放題という点。理由は────察して欲しい。

 

 かと言って万能かと言われれば、どれがどう不幸なのかは僕の認識次第という使い勝手の悪さも備えている。例えば僕と関係のない死人を生き返らせることなんかは無理。僕が『不幸』を認識してからじゃないと、この権能は力を発揮しない。

 

 パンドラの『虚飾』が時系列という縦方向に影響を及ぼすなら、僕の『虚飾』は世界という横方向に延びる。世界ごと歪むように、他人の認識だろうと変えてしまう権能。『不幸』を中心として広がる厄災。

 

 以前の僕ならこの権能にも震えて喜んだだろうが、今はそうでもない。未知に対してならともかく、もう知り尽くした既知に対して、どうして興奮することができよう。

 

『慣れ』は人の感情を薄れさせる。それは喜びに対しても、悲しみに対しても。スバル君が死に戻りを繰り返して死の共感を無くしていったように。僕もまた、この権能への憧れや感動というものを無くしてしまった。

 

 それはきっととても悲しいことで、人間である以上しょうがないこと。……そう、諦め切れれば良かったんだけど。

 

 ──そうはなりたくないから、僕は。

 

 部屋に着くなり、扉を開く前に聞き耳を立てる。扉を半開きにして覗くだけでいいんだから、随分と楽だ。

 

 さぁ、お目覚めの時間だよ。ナツキ・スバル。

 

 君は一体、僕にどんな未知を見せてくれるのかな。




何気なくリル君はドナに似てるよね。畜生なところとか。

次回、二章完結です、

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