メリクリ。サンタさんからの最新話のお届けものだよ。多分朝っぱらだよね。知らんけど。
なんかもうif迷走し始めたのでmemory snowに逃げるのじゃ。長いからお気をつけて。
↙︎タメ↘︎↙︎↗︎+KKK
「……おい姉様。ちょっとリルに近すぎやしねぇか?ここはほら、年長者としての忍耐ってやつで我慢して離れてくださいよ。今弟君は俺とレムで両手が埋まってるんだ」
「ハッ、言動だけでなく頭まで狂ったようね、バルス。リルはラムたちの弟だもの。当然、独占する権利は姉足るラムとレムのものよ。それこそ、余所者のバルスなんかに入る隙なんてないわ。とっととリルを離しなさい」
「ベアトリス様。お言葉ですが、少しばかりリルにくっつきすぎでは?リルも迷惑しています。早急にリルから離れてください」
「何を言うかと思えば。この弟の魔法はベティーが鍛えてやったのよ。つまり、コイツはベティーが育てたと言っても過言ではないかしら。当然、抱きしめる権利くらいはあるはずなのよ」
…………すぅぅぅっっっ(クソデカ深呼吸)
いやぁ、モテる男は辛いっすねぇ。きゃー!わたしのためにあらそわないでー!
周囲をスバル君と師匠と姉様方に囲まれて、うーんwwこれは勝ち組wwww
……………それはそれとして。
この人たち全員、僕の体が目当てなんだよね。
ことは、冒頭より数日前に遡る。
それは、スバルとエミリアのデート予定日の、前日の朝のことであった。
「……………寒いっ!!!」
挨拶がわりに、スバルはロズワール邸のキッチンにて絶叫する。それもこれも、数日前から感じていた肌寒さが、最近になってより一層強くなっているからだった。つい最近まで掛け布団で十分な気温だったと言うのに、今では雪が降らんばかりの冬模様である。
「はい。今朝は一段と冷え込みますね、スバルくん。おはようございます!」
「おう、おはよう!にしても寒いっ!!寒すぎるよ!霜が降りてるのなんか初めて見たけど!!」
健気にも挨拶を返してくれるのは、先の事件からスバルに懐いてくれている青髪の先輩メイド、レムだ。その懐きっぷりはといえば最初屋敷に来た時を考えればありえないほどで、過去の自分に教えても信じてもらえない自信がある。嫌われるのはともかく、好かれる分にはスバルも悪い気はしないが。
そろそろ衣替えでしょうか、と、露出の多い自分のメイド服を見下ろして呟くレム。どうやら、季節によって違うバリエーションがあるらしい。
「てか、上の姉様は?リルも見当たんねぇけど」
三姉妹、もとい三姉弟のうち、スバルの前にいるのは下姉のレムだけだ。サボり魔なラムはともかく、リルが遅刻するのはちょっと想像できない。事実、スバルの知る限りリルは無遅刻無欠席である。
寒いので庭仕事に手間取っているのだろうか、とらしい状況を想像し、それを口に出そうとしたところに、ちょうど噂の人物がひょっこりと顔を出す。
「おはよう、下姉様、スバル。今朝は一段と寒い
件の事件以降からかけている眼鏡をそのままに、寒い今日も薄手のメイド服を着こなすリル。日によってコロコロと変わる髪型はサイドテールで綺麗に纏められたことで、可憐な佇まいに凛とした要素が追加され、その美しさに磨きがかかっていた。そしてこれで男。正直、創造する際の神のうっかりを疑わざるを得ない。
「おう、リル。遅かった………」
とはいえ。そんな頭が痛くなる状況も毎日のことであればいい加減適合するというもの。特にリアクションを取ることもなく、重役出勤であろうあと一人のメイドについての話題を振ろうとして。
「…………大きなお子さんですね」
「大切な姉です」
その背中に、おくるみのように毛布で包まれた一番上のメイド、もといラムが背負われていることに言葉を詰まらせ、なんとかそうとだけ口にする。
弟の背で夢の世界を旅するラムは、この寒いのに心底心地良さそうな寝顔を晒して微動だにしない。そんな自堕落な家族を、リルとレムは愛情たっぷりの目で優しく見守る。
相変わらず、三人はお互いがお互いを甘やかしすぎだ。というか姉としてどうなんだろうか、このシチュエーション。
「にしても、隙だらけだぜ姉様。どれ、今のうちに弱みの一つでも……」
寝言で何か言ってないかと耳を傾け、規則正しい寝息しかないことに少し落胆。そして、ここまでくるといっそ清々しい眠りの深さに逆にどこまで眠っていられるのかと興味が湧く。好奇心の赴くまま、スバルは人差し指で軽くラムの頬を突こうと。
「おぶらばれっちょん!」
その指が触れる瞬間、パッチリと目を開けたラムが、瞬時にリルの背を起点に回転。スバルの背を蹴り飛ばして足蹴にした。
目にも止まらぬ早業に、パチパチと拍手を送る弟と妹。そしてクールに髪をかき上げてそれに応える姉。先ほどまでだらしない醜態を晒していたとは思えないほどだ。
「おはよう、上姉様。まだ寝ててもよかったのに」
「いえ。リルにそんな負担を強いるわけにはいかないもの。寧ろ、今までおぶってくれていてありがとう。あなたの背を借りるダメなお姉ちゃんを許して頂戴」
「そんな!上姉様はリルの自慢の姉様で……!」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。姉冥利に尽きるわ。ラムの半分はレムの優しさ、もう半分はリルの愛情でできていると言っても過言じゃないもの」
「そんな、レムが姉様の一部だなんて……照れてしまいます……」
「上姉様………リルも嬉しいな……」
「リル……レム……」
「なんかいい感じだけどそのやり取りが俺という尊い犠牲の上に成り立ってることを忘れないで欲しいかなぁ!物理的に!」
ラムにここぞとばかりに踏み躙られ、かと言って脱出することもできずに不満を漏らすスバル。さっきのは九割スバルが悪かったけれども、この仕打ちはあんまりではないか。
「あら、バルス。いたの」
「いたよ!ずっとお前の下にいたよ!ってか、ぐりぐりしてるだろさっきから!」
「悪いけれど、ラムにはラムの視界があるから……」
「人それぞれっぽいこと言ってますけど、要するにそれ自分の都合の良いものしか見てないってことっすよね!?」
視野狭窄にも限度があろう。驚いたことにラムフィルターを介してしまえば、ロズワールと妹と弟以外の存在は抹消されてしまうのだ。限定的すぎる。
やれやれ、と言わんばかりに首を横に振られ、ようやくラムの足がスバルの上から退けられる。なんだかんだでかなりの力で押さえつけられたからか、少し背が痛い。体重重くない?的な暴言は、顔面粉砕コースに行きそうなので言わないでおこうと決意。
「……………それにしても寒い……これは、リルとは暫く離れられそうにないわね……」
言うや否や、軽装のラムは愛しの弟に抱きついて暖をとった。ほっぺたがくっつくほどの距離に、リルはくすぐったそうにしつつもそのスキンシップを受け入れる。見た感じでは美少女同士がイチャイチャしているようにしか見えないので、眼福な光景ではあるのだが。
「はいはい、ご馳走さまご馳走さま。あったかそうなおしくらまんじゅうですね」
「スバルくんスバルくん!レムのここも空いてますよ!リルほど暖かくはないですけど!」
レムが両手を大きく開き、自分の胸元に飛び込んでこいと誘ってくれる。健全な男の子としては脳死で飛び込みたいところだが、二人の過保護な姉弟がいるこの現状では、その選択肢は死に直行することだろう。
「うーん。気持ちはありがたいけど、絵面的に厳しいからなしかなぁ」
「そんな……」
レムから生えた犬耳が、持ち主の心を表現するかの如く寂しげに閉じられる。そんな幻視が容易なほど、目に見えて落ち込むレム。代わりとして頭を軽く撫でてやると、嬉しそうに目を細めてくれた。
「てか、リルってばそんなにあったかいわけ?体温高かったりするの?」
「あ、そういえば、スバル君は知らないんでしたね。リルはですね……」
得意げに何かを言おうとしたレム。だが、続きは横から伸びてきた手に口を塞がれたことによって、モゴモゴと言葉にしかならなかった。
手はそのまま容赦なくレムの方を掴み、あろうことか、姉弟まんじゅうへとレムを引き摺り込んだ。ピンクと水色、紫と白金が混じり合って、なんとも目に眩しい光景だ。
下手人である桃髪のメイドは、ピッタリくっつく妹と弟の姿を眺めて満足そうに笑う。
「バルスはこの快適さは知らなくて良いわ。どう?羨ましいでしょう」
「羨ましいか羨ましくないかでいわれたらそりゃ羨ましいけど、一人男が混じってるから絶妙にコメントし辛い」
「それでいい。リルとレムを抱きしめるのは、ラムの特権だもの。同じことをやったら殺すわ」
美人メイドを二人侍らせた傲岸不遜な姉は、至極幸せそうにしながら満悦で二人を撫でる。一体、スバルは何を見せられているのだろうか。
「それじゃあ、ラムはリルと庭仕事に行ってくるわ。本当はレムも連れて行きたいところだけど、そこまでするとバルスがサボりかねないから。一緒に朝食の準備をお願い」
「承りました!」
「行くわよ、リル」
「合点」
リルから一歩たりとも離れることなく器用に団子からレムだけを解放したラムは、ピッタリとリルにくっついて外へと出て行く。一糸乱れぬ動きは、さながら二人のコンビネーション技だ。
そのまま二人が部屋を出て行くのを見届けて、嵐が去ったような気分で一息つき、ふと気がつく。
「……意外だな。寒いからラムは外に出たがらねぇと思ったんだが。弟パワーってやつか?」
「そうかもしれません。それより、いい加減お仕事を始めてしまいましょう!」
「そうだな……料理の一つでもはじめりゃ、多少なりあったかくもなると信じて……」
かじかむ手をなんとか動かし、朝食の準備にとりかかる。この冷たいのでは、野菜を切るのですら一苦労だ。
この日、いつも以上に距離の近いラムが、リルから離れることはなかった。
迎えた翌日。スバルにとっては、エミリアとのデート予定日………なの、だが。
「…………………ぐごぐぐ………」
ケータイのアラーム音を耳にし、ゆっくりと起き上がる。
寒い……なんてものじゃない。なんというか、痛い。外気に触れる肌が、ピリつくような痛みを持ってその温度を伝えてくる。
部屋に備え付けられている机を見てみれば、今度はそれが凍り始めている始末。木製のはずだが、表面にはひんやりとした小さな氷の粒がつき始めていた。
「さ、さみぃ………」
「はい!今朝は昨日よりさらに冷えますね、スバルくん!というわけで、抱き合ってお互いを温め合いましょう!」
「………ところで、なんでレムさんは平然と部屋にいるの?」
「スバルくんのいるところにレムあり、です!」
答えになっていない。
どうやら衣替えをしたらしいレムは、普段より露出が少なく、モコモコしているメイド服に着替えている。ジャージ姿のスバルより何倍も暖かそうな服装に思わず手を伸ばしかけ、そんな理由で手を出してはあの紫のメイドに申し訳が立たないと自重。
スバルもスバルとて、冬用のモコモコとしたセーター付きの執事服に着替える。ジャージよりは幾分かマシな防寒性能だが、それでも寒いものは寒い。
「………にしても、これじゃデートの約束は延期だな……」
この寒い中、無理にエミリアを連れ出してデートすることなど、スバルは望まない。やるならば万全の状態で。それに、目的地であるとある場所も、この気温ではその景色を保っていられるかも怪しかった。
そんなことを考えながら歩いていると、ちょうど目の前には銀髪の髪を靡かせて歩くエミリアの姿が。今日も今日とて私服が可愛らしいなと思いつつ、今日のデートは延期にしよう、と。苦渋ながらも決断。
「え、エミリアたん!」
「きゃぁ!?……な、なぁんだ。スバルじゃない。と、突然声をかけられるからびっくらこいちゃった。おはよう!」
「おはよ。びっくらこいたってきょうび聞かねぇな……じゃなくて!じ、実は……今日のデートのことなんだけど……」
何とか声を絞り出し、今日のデートは延期にしよう、という旨を伝える。およそ三分にもかけて、決して行きたくないわけではなく仕方ないことなのだと熱弁。
それに対するエミリアの反応はと言えば。
「そうよねうんやっぱり延期した方がいいかもだってこの寒さだしスバルがずっと楽しみにしてたのは知ってたし約束だしああもちろん約束してたからってわけじゃなくてそりゃあわたしも少しは楽しみにしてたけどでもこの寒さだし仕方ないわねうん仕方ありませんそれじゃあね!」
身振り手振りで落ち着かず、句読点すらない有様でそうつらつらと並べ立てる。果てには神速で別れの挨拶を切り出し、全力早歩きでスバルの返答を聞くことすらなく、去っていってしまった。
あまりにもわざとらしいというか。なんというか。
「………………………純粋に傷つく」
「やっぱり下姉様に乗り換えたほうがいいんじゃない?気立てよし、愛嬌良しで、我が姉ながら良物件だと思うよ」
にゅっと、お昼のテレビショッピングばりの唐突さで湧いてきた紫髪のメイドが、スバルに通りすがりにそう余計なアドバイスを付け加えてくる。
その服はレムとは違い、未だ薄手の露出多めのスタイル。見ているだけで寒い。そしてその背では対比的に、モコモコと厚着をしたラムが気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「唐突に湧いてきて自分の姉を嫁に勧めてくるなよ………そして、お前はいつまでラムを背負ってるつもりなんだ」
「上姉様は寒いの苦手だから。リルがどうにかしてあげなくちゃダメなんだよ」
「暑いのは?」
「苦手だよ?だからリルがどうにかしてあげないと……」
「だだ甘ぁ!!」
変わらぬ姉弟っぷりにツッコミ。
そしてこの日も。ラムは一秒たりとも、リルから離れることはなかった。心なしか、レムとの距離も近かった気がする。
そのまた、翌日。
スバルは、夢を見た。
天使に出逢う夢だ。
訂正。
天使のような羽が生えただけのロズワールに連れ去られるだけの悪夢だった。
多分、疲れていたからだろう。もうお前も疲れただろう、的なノリだった。
羽の生えた道化師が、そっとスバルの肩を掴む。それは、まるでスバルを慈しむかのように。今までの苦労を労るかのように。
そのままスバルの体を天へと持ち去り、スバルは悠久の眠りへと………
「う〜ん。流石に意地悪し過ぎたかな」
「………ふぇ?」
突如。
春のような陽気が、スバルを包んだ。
手からじんわりと伝わってくるそれは、スバルが感じていた冷気という冷気を溶かし、温め、消し去って行く。
そして、その状態になって、スバルはようやく気がつく。
自分の瞼に霜が付き、ついでに鼻水は凍って氷柱のような有様になり。髪は風呂上がりのお湯を乾かさなかったのかパリパリに。
そんな自分の様相に、遅ばせて。
「ぬぁんじゃこりゃあぁぉぁ!?」
「
「そう。
「ごめんね、スバル……!隠そうとしてたわけじゃないんだけど……どうしても言い出せなくて……!」
どうも、僕です。
そうして、冒頭に戻る。
僕だ。
凍死寸前のスバル君を助け、今はロズワールや師匠、エミリア様含めた全員が集まってどうすべきか会議中。
どうも最近変に物が凍ってんなぁって思ったら、パックソの発魔期が始まってたらしい。
発魔期というのは、まぁ薄い本御用達の発情期のマナ版。増えた余剰マナを発散しなくてはならないので、火属性のパックソの場合は大気を冷やすことでそれを消耗してるわけだ。
上姉様が寒がってたから何となく察しはついてたけどね。
それに気が付けなかったのは、単に僕のマナ属性のせいなんだけど。
「なんでリルだけ平気そうなの?そしてなんでリルの周囲は暖房ばりに快適なの?もうこの快感を知ったら離れられないんだけど」
そう。それが、さっきから姉様とスバル君と師匠の間で僕が取り合いになっている理由だ。ついでに、上姉様がずっと僕にピッタリついてた理由でもある。
要するに。
【速報】ワイ、暖房器具だった。
「火属性魔法使いの利点だぁーね。ある程度熟練さえしてしまえば、温度を操る火属性使いは自らの体温さえも自由にできてしまう。事実、エミリア様や私は平気だしぃー?」
「マジか!便利すぎんだろ火属性!一家に一台欲しい感じだ!てか、それなら俺はエミリアたんに温めてもらいたく……」
「邪な妄想が透けて見えるから言ってやるけど、そこな小娘じゃ精々が自分の体温調整が限界かしら。よほどマナが余ってないと、姉妹の弟のように周囲にまで影響を及ぼすことはないのよ」
「ちぃーなみに?私はちゃぁーんとできるから、恋しくなったらいつでもいいたまーえよ?」
「リルさん神!やっぱり弟しか勝たんわ!」
ロズワールが暖めてくれるとか、上姉様が喜びそう。実際、ちょっとウズっとしてるし。
案の定、上姉様にウザそうにゲシゲシとされつつ、僕の周りには姉様方と師匠、スバル君が引っ付いて離れない。まさかのストーブ扱いだ。夏場は冷やすための氷代わりに使われるから慣れてるけど。
でもほんと、こう言う時は火属性に生まれて良かったと思う。ある程度魔法を使えるようになってから、湿度はともかく気温で困ったことはないからね。しかも、鬼族でマナが多い分温度変化は広まっていく。夏場はひんやり冷たく、冬場はポカポカあったかいというパーフェクトな僕。当然、姉様方からはモテモテのモテだ。暖炉もつけているが、人気はダントツで僕の方が高い。暖炉くん見てるぅ?今どんな気持ち〜?
「てか、パックの発魔期はどうにかならねぇの?こうまで寒いと、日常生活にまで支障が出るだろ。実際、あと何日くらい続く?」
「このペースなら、あと一週間くらいかなぁ?」
「長げぇよ却下!」
しかもこのペースで、だからね。スバル君の惨状を見る限り、あと一日続ければ命の危険が出てくるだろう。生憎と、僕との添い寝の権利は姉様方の独占だし。このままだと、スバル君には死んでもらうことになる。成仏してクレメンス。
「うーん………適度な発散ができれば一番なんだけどね。あぁ、一度ロズワールと戦ったときは凄くマナの消費できたよ。加減を忘れてついつい」
「いぃーやぁ。恐縮でぇすね。初めてエミリア様と会ったときのことでぇすから。丸一日ほどでしたかぁな?」
「そうなるね。と言うわけで、この辺りが更地になってもいいなら出来なくもないけど」
「何がというわけで!?」
猫畜生はちぇー、と拗ねた様子。
ぶっちゃけパックやロズワールの実力だけは本物だしな。実力だけは。地形破壊とか平然と起こすレベルだから、相性の関係でパックはともかく、ロズワールには『権能』抜きだと傷つけることくらいはできても、絶対に勝てない。実際に脅威を相手にそれを発揮できるかは別として。
さぞ未来では活躍するであろう、頼れる戦力だ。あるぇ?まともに活躍した記憶が無いなぁ………本番に弱いのかなぁ??
「他に方法は………」
「あ、今って、発魔期を師匠が屋敷の中に留めてくれてる形なんだよね。流石に、アーラム村まで影響下に入れるわけにもいかないから。屋敷の外はあったかいはずだよ」
「おぉ!それなら……」
「今、外は大雨だけどね」
「………」
僕から離れて屋敷を飛び出そうとしたスバル君が、再び僕の元へと戻ってくる。おうおう、自分ブーメランは楽しいかい?
「そうだ!なら、あったかい状態で過ごしゃあいいんだよ!風呂場に篭って全員で温泉気分と洒落込もうぜ!!」
「今、風呂は下姉様が作りすぎたマヨネーズでいっぱいだけど」
「……………なんて?」
「はい!スバル君のためにこのレム、沢山用意しておきました!今お風呂を沸かせば、熱々のマヨネーズ風呂が楽しめますよ!」
「馬鹿じゃねぇの!?マヨネーズは大好きだけど、溺れたいと思ったことはねぇよ!?」
生粋のマヨラーのスバル君が、この世界に教えた調味料、マヨネーズ。下姉様との合作で完成されたそれは、不思議な風味で以って多くの人を魅了した。
そして今、奇しくもスバル君を苦しめる形となるマヨネーズ。またもブーメラン。楽しい?ねぇ、楽しい??
「ごめんね、スバル。パックのせいで、こんな……」
「エミリアたんが気に病むことじゃねぇよ。てか、発魔期って誰にでもあるわけじゃねぇの?エミリアたんやレムは平気?」
「発魔期はかなりのマナを持つ存在にしかありませんから。レムや姉様はそういうのは……」
「私も、魔法使いとしては半端だからなのかな。そういうのとは無縁……」
「わたぁーしは、普段何かと消費してるし。日々のお勤めもあることだから、うまく発散できてるよ〜ぉ」
「ベティーは、扉渡りと禁書庫の維持で消費してるかしら」
日々のお勤め、のところでサッと上姉様が顔を逸らす。ほっほっほ。昨晩は、お楽しみでしたね。
単なるマナ供給なんだけどね。魔力供給は一部の業界じゃ別の意味を持つ単語だけど。
暫く沈黙が流れて、視線が僕に集まる。あっ、僕か。
「リルはそれこそ、周囲の温度変えてるのがそうかな。普段からこうしてると、そこそこのマナは消費するし」
「ん?ということは、もしかしてパックのやつと相殺できたり?たり?」
「うーん……ごめんね。今は多分できない。限界までマナを使えば屋敷の温度を多少は上げられるとは思うけど…………」
チラリ、と上姉様を見やると、そりゃあもう鬼の形相でスバル君を睨んでおり、口より雄弁に『無茶禁止!』と物語っている。ただでさえ、あの事件以降魔法を使うことをよく思われてないからね。やるつもりもないけど。
ちなみに、下姉様は『今は』の意味を察したらしく、少しだけ顔を翳らせている。へへっ……最近ご無沙汰だったんで……ごちそうさまです……うへへ……
「…………いや、ちょっと待て。………雨……低い気温……もしかして、いけるんじゃないか?」
何かに気がつくスバル君。うん、別にいいんだけどさ。今、君ら全員僕にピッタリくっついてるっていうシュールな状態だかんね?客観的に見て割とカルトってるから。そんな体勢でかっこいいこと言っても説得力ないぞ。
「スバルくん、何か思いついたんですか?」
「………あぁ、あぁ!いけるぜ、レム!名付けて、『第一回!チキチキロズワール邸雪まつり』の開催だっ!!」
おー!と、スバル君と下姉様が二人で盛り上がる。は???尊いが??????スバレム成分たまらんが??????????
てか、今更だけど推しカップルが目の前にいるって情緒ヤバくない?????????
無事か????僕、無事か??????
『第一回、チキチキロズワール邸雪まつり』
スバル君の思いつきで始まったこの企画は、ロズワール邸の中で抑えられていたこの寒さを庭にまで広げることで雨を雪に変え、積もった雪であとは雪まつりしようぜ的なノリである。パックが範囲を屋敷から外へ広げることでマナを浪費できるので、発魔期の期間はより短くなるだろう。
実際、企みは成功。雪はロズワール邸にしっかりと積もり、雪まつりをするには十分すぎるくらいの雪量となった。
アーラム村の人たちも招いて、しっかりと祭りらしい雰囲気を作ることも忘れない。祭りには人数必要だからね。身内だけでわいわいするのもいいだろうけどさ。
ちゃんと雪まつりらしく、雪像の採点も行われている。最もたくさんの点を獲得した者には、スバル君から豪華賞品をプレゼント………という、触れ込み。
さて。ここからは、あくまでメタ的な話になってしまうが。
実はこの豪華賞品というもの、スバル君が異世界から持ち込んだコーンポタージュ味のお菓子なのである。
もちろん、美味しいという意味では価値はあるだろう。しかし、僕にとってはその価値は美味しいだけに留まらない。
十数年ぶりの『故郷の味』だ。食べたい。そりゃあもう、食べたいとも。あの化学調味料をバカスカ使った不健康な味を、久しぶりに味わってみたい。
かといって、そんなことをスバル君に言い出せるわけもない。なら、やることは一つだ。
──勝ちに行く。僕の全てを賭けてでも……!
持てる知識をフル活用し、狙うは優勝。姉様方は、スバル君とロズワールの合成雪像的なアレを作るらしい。
「リルも一緒にどうですか?ロズワール様とスバルくん、合わさればより素敵になるに決まっています!」
「いや、リルはリルでやりたいことがあるから、今回は別々に作ろう。ごめんね、下姉様」
謝罪を入れて、少し離れた場所で雪を盛っていく。雪像というからには、まずは雪が肝心だ。軽く魔法を使って雪をさらに固く。削りやすいように耐久性を持たせていく。
さて。何を作るべきか。ここは無難に、大きな花なんかがいいだろうか。いやだがしかし。アーラム村にもライバルは多い。最終的に勝つのはペトラちゃん、もといスバル君が手がけた『飛行強襲型U-KI-USAGI』とはいえ、他の作品が勝たないという保証があるわけでもない。
なら、一体何を作るべきか。
──
それかネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲か。と、核を使うよりも何倍も恐ろしい悪魔的発想に自分でも戦慄。
だがしかし。それはスバル君に受けこそすれ、他の審査員の人からしたらマイナス評価。悪手も悪手だ。スバル君以外の審査員は村長とロズワール。それぞれが10点を出す30点満点の評価となる。
この中で、一番分からないのはロズワールだ。芸術品など見飽きているだろうアイツを、どれだけ驚かせることができるかがこの勝負の鍵となろう。これが師匠とかエミリア様なら、パックソを作って解決だったんだけど。
と、なれば。作るものは決まった。
微妙に動かしづらい右手をなんとか操りつつ、ワイヤーを使って正確に雪像を掘る。くっそ。今日ほど右手が義手であることを恨んだ日はないぞ。
軽くインチキをして、ところどころを陰魔法で削っていく。削るというか剥離に近いけど、精巧に作るにはもってこいだ。どんどんと形が完成していき、最終的には、多分未来のスバル君が一生見たくなくなるような顔をした雪像が出来上がる。
「よし……完成………!」
遠くから見直し、おかしなところがないかを確認する。………うん、これは会心の出来ではないだろうか。村長次第だろうが、優勝だろうと見えてくるに違いない。布をかけ、来るべき時まで保全しておく。
といっても、スバル君たちが来るまでは少し時間がある。インチキもしたしね。軽く周囲を見て回っていると、ちょうど上姉様と下姉様の合作が披露されているところだった。
…………うわぁ。ロズワールの胡散臭さとスバル君の目つきの悪さが、絶妙にマッチしてない。素材が悪いから、なんかキリッとしてるけどふざけてるよく分からんものが出来上がっていた。
そんなクオリティでも、上姉様は自信満々そうだ。そういうとこ好き。
「じゃあ……残念だけど、5点」
「か〜ら〜の〜?」
「ねぇよ!今後の貴殿のご活躍をお祈りいたしますだよ!」
「なん………だと……!?」
続け様にロズワールから4点との評価を下され、普通に凹む上姉様。ふっ。ニーズを理解してないからそうなるのだよ。出直してきな!甘ちゃんがよぉ!!
それはそれとして、5点はちょっと渋すぎない?わりといい線自体は行ってると思うけどな……
「お、リルもできたのか。どれ、そちの腕前、存分に見せてたもれ」
「ははぁ!此方になりまする!」
布を取り去る。そうして現れた雪像に、スバル君の顔が少し緩み、ロズワールの顔が驚愕に歪んでいく。
ふふふ。上姉様と下姉様のアイデアがいいエッセンスになった。そう。混ぜればいいのだ。それも、相手が好きそうなものを。バランスに注意して、しかし相性のいい二人を選んで混ぜる。
「どうでしょう!リルなりのエミリア様をベースに、禁書庫の挿絵にあった女性のアクセントを加えてみました!」
そう。
僕が混ぜたのは、エミリア様とエキドナの二人である。
黒いドレスに、少しキリッとした、けれど鋭すぎない目つき。胸は少しだけエミリア様に寄せ、かといってエミリア様だけではなく、様々な箇所にエキドナの要素が加わっている。
これはエキドナ好きのロズワールにはたまらない筈!!スバル君もエミリア様の雪像に低い得点をつけることもないだろうし、高得点は固い!!
スバル君の表情的にも良感触!さぁ、どうだ!
「よっしゃ!よくやったぞリル!被写体を選ぶセンスが良すぎる!10点……」
「2点」
ふぇ?
「…………ロズワール?」
「2点だ。まず眉が二ミリズレている。それどころか睫毛の表現が荒いし、全体のバランスが3%ほど右に寄っている。余計なピースを出されることで彼女の美しさが損なわれているなんてぇものじゃない。他にも腰つきと足の角度が……」
厄 介 オ タ ク か。
やっべ。地雷踏んだ。
急いで雪像を溶かそうとすると、背後から右肩を強く握られる。いてででで!!おいこらロズワールてめぇ!上姉様に怒られても知らんぞ!!
「ちょぉっと待ち給えよ、リル。なぁにをしようというんだぁい?」
「いえ、その……これは………こんな2点の雪像でお目を汚したようでしたので……」
HA☆NA☆SE!今から僕は姉様方と三人で仲良く手を繋いでる雪像を作らなくちゃならないんだ!こんなもんに構ってる時間なんてねぇんだよ!
「……こんな?」
思考が……読めるのか……?まずい……!
ち、違います!お赦しくださいロズワール様!お赦しください!どうかお慈悲を!
「よぉし、いいだろう。今からみっちり、どこが悪いか教えてあげるかぁら。安心したまえ。間違いを全て正し、主従二人で完璧な雪像を作り上げようじゃぁないか」
「………はい」
僕の野望は、どうやらここで終わりらしかった。
とほほ。
ここからは、後日談。
一応、雪まつり自体は大成功に終わった。パックは発魔期分のマナを粗方使い果たし、アーラム村の人々も物珍しい祭りに満足げにして帰っていった。ちなみに優勝は『多脚機動戦車式UKI-RABBIT』。スバルが一部、というか大部分に手を加えていたため、ちょっと気まずいけれど。
とまぁ、なんだかんだで祭りを完了させたロズワール邸一同は、慰労会ということで宴の席を楽しんだわけなのだが。
「スバルくん、スバルくんスバルくん。がぶり〜」
「えへへぇ……こんな良いもの隠してたなんて、みんな、じゅりゅい!」
「お酒に弱い女の子って、テンプレだけど可愛いよねって……」
右から体を甘噛みされ、左からずるいずるいと文句を言われる。右のレム、左のエミリア。心から癒される光景に、眼福と心のシャッターを切る。
ついでにケータイで写メを撮った。一生の宝物になることだろう。
現在ロズワール邸では、屋敷の床下から見つかった年代物のお酒を折角ということで開け、酔っ払いが二人。あと酔い潰れるダメダメな保護猫一匹が誕生していた。
「下姉様がお酒弱いのは昔からだから。鬼族はお酒に強い筈なんだけど……」
「ラムはグビグビ行ってるしな。てか、リルは飲まねぇの?」
「ルグニカじゃお酒を飲めるのは14歳から。リルはまだまだ待たなきゃだし、この状況でリルまで飲んだら収拾つかなくなっちゃうでしょ」
「そりゃそうか。その気遣いに感謝だよ」
スバルも日本ではまだまだ未成年。酒を飲むつもりにもなれなかったところだ。お互い大変だな、と。ノンアルコールドリンクで再び乾杯。
残っている面子がさほど騒がしくないこともあって、暖かでゆったりとした空気が流れていく。まぁ、ちょっとばかりエミリアとレムが騒がしいけど。
朦朧としてスバルを噛み続けるレムを見て、しょうがないと微笑するリル。メガネが外れないようクイっと上げるのが最近の彼なりの気合の入れ方らしく、そうしてレムをスバルから引き剥がす。
最初こそ抵抗していたレムだったが、相手がリルとわかると力を無くし、だらしなく体を弛緩させる。そのタイミングを逃さず軽く手を握ると、心地良さそうにレムは目を細める。慣れた風な手つきは、さながら百戦錬磨の母のようだ。
「慣れたもんだな。レムが酔っ払うことって多いのか?」
「まさか。下姉様は真面目だから、酔っ払うことは殆どないよ。純粋に慰め慣れてるってだけ。あやすのはちょっとした得意分野だから」
「そか。家族の絆ってやつとはまた別?」
「どうだろうね。あ、でも家族だから知ってることもあるよ。下姉様がお風呂に入るときにどこから洗うのかとか。あとは、最近下着がキツくなったこととか」
「………それを知ってどうしろと?」
「さぁね。変態スバルは、一体どうするつもりなんだろう。想像もつかないなぁ」
そう言われてしまうと、レムのその胸元に目をやらざるを得なくなるのだが。エミリアよりもなお豊満なそのたわわは、男を惹きつけて止まない魅惑の果実だ。
「スバルくんなら……いいです……レムは……」
「アテレコするなよ!そして声真似うめぇ!?」
「家族だからね。あ、スバルなら下姉様に手を出しても良いよ。下姉様をお嫁にもらっても大丈夫」
徐に、リルはスバルの肩をガッチリと掴むと、深刻そうな顔を作る。
「リルの食事は、質素でも平気だから……ッ!」
「レムがいなくなって心配するのがまず
「リルはできないこともないけど、上姉様と下姉様がやらせてくれないし……」
「ちなみに、得意料理は?」
「……………マヨネーズ?」
「あれは料理じゃねぇ。加工だ。………それに、一夜の過ちを犯すつもりはねぇよ。俺はもう、心に決めた人がいるんでね」
スバルにもたれかかり、ずるいずるいと言い続ける銀髪の少女。彼女のことを、誰よりも守ってあげたいと思うから。だから、スバルは。
「その割に、迷いが長かった気もするけど。リルは結構本気だよ?下姉様も、スバルにならいいだろうし」
「さてな。何にしても、酒の勢いに流されるほど俺はヤワじゃねぇよ」
本当は、結構空気に飲まれかけだったりするけど。そんな強がりを言ってみる。そんな可愛い嘘も彼には良いスパイスのようで、玉が転がるようにコロコロと笑って見せる。
「あ、もしかして、リルの方が好み?」
「毎回毎回誤解を生むからそれホントやめてね!ほら!向こうで姉様が人殺せそうな目で俺を見てるよ!ラムから妹だけじゃなく弟まで盗っていくのかこの泥棒猫!みたいな目!」
「ほら、リルってば純粋だから。誤解生みやすいんだよ」
「純粋は純粋でも純粋な悪意しか感じられなかったよ!?」
毎回その手の話を持ち出してくるのは、彼なりの持ちネタだったりするのか。だとしたら、今後もスルー安定だろう。正直、透けない髪ではなく、透明なガラスでしか隠れていないその容姿で言われるとスバルとしても思うところがある。
「……あーやべ。雰囲気に当てられてっかも。ちょっと外出てくるわ。風浴びて頭冷やさねぇと」
「あ、その前に一個だけ。下姉様に好かれてるのに別の子を好きなんていう罪作りなスバルくんに、忠告しておいてあげる」
再びメガネのフレームを上げて、いつものようにピンと指を立てる。大切なものをスバルに教えてくれるとき、思えば大抵はそうしていたものだ。まぁ、それを本人に応用した時だけは微妙だったけど。
「避妊はちゃんと気をつけて……」
「もういいよ!」
「嘘。人生っていうのは選択の連続だから、後悔のない道を選ぶように。後になって、自分が心から笑えるような。後悔しないような道を選ぶこと。たとえ、下姉様からの告白でも、なんでもね」
軽く茶化した少年は、そう朗らかに笑って、もたれかかるエミリアを回収してスバルを自由にした。
他人を思いやるその姿が、やっぱり彼なのだと思って。
「…なんか、らしくないこと言った気がする。当てられたかな、僕も。後で外に出よう……」
「おう、そんときゃ、とびきりの星の話をしてやるぜ」
立ち上がって、テラスへと向かう。
ふと何か違和感を感じたが、外で退屈そうにするベアトリスを発見し、その微妙なつっかえも霧散する。
外の空は、満天だ。きっと、明日も、明後日も。この空は、星を映しているだろう。
後悔のない道を選ぶこと。か。
少しだけ、胸が痛くて。
「あっちでお前みたいな奴に会えてたら、何か変わったのかな……」
胸に渦巻く少しの棘を、寒空に吐息とともに吐き出した。