目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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お久しぶりです。そしてお久しぶりでリル君とパンドラ様が出る番外編、だぞ。

※この話は本編には一切関係がありません。また、原作スピンオフである学園リゼロ!一時間目の設定を踏襲して作っておりますので、原作をご覧になっていらっしゃらない方はそちらをご覧になってからの閲覧をお願いします。

 つまり、リゼロキャラをリル君ごとまるっと学園ものにしてみたよと、そう言うことさ。

 ご都合主義やら死亡キャラ生存やら時系列問題やらしっちゃかめっちゃかですが、それでもいいよと言う方のみご閲覧ください。


【学園リゼロ 】なんだろう、学園リゼロって名前なのに学園生活送らないのやめてもらっていいですか?

「んにゅ………」

 

 目覚まし時計の音がうるさい。というか、眩しい。そういえば、最近最新式の光る目覚まし時計に変えたのだったか。

 

 未だ慣れないから、やけに乙女チックな声が出てしまった。

 

 この微睡みを邪魔するものを許してなるものか。磔刑に処してやる。

 

 そう思って、目覚まし時計を止めるために手を伸ばす。

 

「…………………五時半だ」

 

 平凡な日常。朝起きるという行為に付随する特別なイベントなども一切なく。特になんの変哲もない、穏やかな一日が始まる。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 朝起きて一番にやることは、自分よりも早く起きている姉へ挨拶をすることだ。

 

「おはようございます、レム姉様」

 

「おはようございます、リル。今日は起きるのが少し遅かったですね。そのままずっと寝ていてもよかったんですよ?」

 

「相変わらず起こす選択肢は無いんですね……」

 

 あの手この手で僕を眠らせようとしてくるのやめてほしい。多分僕が起きてからやることが気に入らないんだろうけど、たまに時計を二時間ほどずらされるのは流石に困る。どちらにせよ、行かなくてはならない場所はあるのだ。起きなくてはいけないのに変わりはない。

 

「レムが一番最初に起こすのは、授業中にお昼寝をするスバルくんだと決めていますから」

 

 そして、姉様が朝早くに起きるのはとある人物のために弁当を作っているからだ。こんな朝早くから姉ながら美少女に弁当を作ってもらい、しかも昼寝しても姉ながら完璧な美少女に起こしてもらうなんて、なんという果報者か。

 

 一体、前世でどれほどの苦行を乗り越えればそんな幸せな日々を送ることができるというのだろう。

 

「リルはこのあと?」

 

「いつも通りです、レム姉様。今日はお勤めが早くなるようなので、もしかすれば通学路はご一緒できるかもしれません」

 

「そうですか。リルが目標に向かって一直線なのは知っていますが、最大限、注意は払ってくださいね」

 

 と、く、に!……と、卵焼きを焼いている手を止め、かしこまった表情で距離を詰めてくる。

 

「女性に対しては、気をつけてください。お姉ちゃん、ああいう人はリルに相応しくないと思います」

 

「………考えておきます」

 

 レム姉様や近所の6姉妹から毛嫌いされているとある人物を脳内に浮かべながら、トースターにパンを放り込む。…………別に、いうほど悪い奴ではないのだけど。

 

「レム姉様。台所、半分お借りしますね」

 

「はい。こうしてリルと肩を並べて料理をするようになってから、かなり長くなりますね。………料理をする理由があの女だというのが業腹でしかありませんが」

 

「姉様、姉様。声にドスが効いてます」

 

 だってしょうがないじゃないか。僕が世話しなければ本気で行き倒れるわけだし。一度目の前で栄養不足で倒れられてから、なんだか世話をしなければ落ち着かなくなってきているのだ。姉二人の奉仕遺伝子を僕も受け継いでいたに違いない。

 

 抑えて〜、抑えて〜と手で宥めながら、アスパラガスのベーコン巻きを綺麗に焼き上げる。見た目に気を使う奴に渡す予定なので、味は多少手を抜いても、見た目の鮮やかさと。あとはこっそり、栄養をキチンと摂らせることも忘れずに。かなりの偏食家で、気を抜くとタンパク質や炭水化物の摂取を怠るのだ。

 

「リルの家事スキルが上がっていくたび、レムはお嫁さんを貰うのか嫁ぎに行くのかわからなくなります。ただでさえ、学校でああなのに……」

 

「学校の話はやめてください。ほんとに、心から、やめて」

 

 家族間でこの手の話は二度としたくない。あいつのせいで混沌と化したあの学校を抜け出すべく、僕は姉様を起こす朝と、共に着く帰路という貴重極まりない時間を費やしてバイトをし、物語よろしく飛び級を狙っているのだから。

 

 そうこうする間に手早くレム姉様の弁当が出来上がり、その十数分後に自作の弁当が出来上がる。

 

「うーん、絶妙」

 

 洋風に彩られた弁当箱は、彩りを意識したのもあってとても美麗だ………と思う。美術の評定が2であったとは思えないセンスが冴え渡る。やはりアレか。美術は独特の絵のセンスが評価されてるっぽいな。

 

「そうですね。トッピングにこのハバネロパウダーをぶちまければ赤の彩が出されてより良くなると思いますよ」

 

「レム姉様。多分そうなってもアイツは平然と完食すると思いますし、むしろそれをネタに強請られるからやめて欲しいです……」

 

 ぐぬぬ、とらしくもなく歯軋りをし、どこからか取り出したパウダーをしまう姉様。嫌がらせとしては満点だろうけどね。

 

 こうして弁当が完成したところで、若干冷めてしまったトーストにジャムを塗りたくる。そして自家製ホイップバターの追加爆撃。甘々である。多めが好きなのだが、姉様の幼なじみはパンにマヨネーズだけを塗って食べるというのだから驚きだ。生粋のマヨラー精神。見習いたくない。

 

「レム姉様、リルはこれを食べたら行きますが……んぐっ……姉様はお勉強ですか?」

 

「リル、食事中にしゃべるのは、お姉ちゃんあんまり良くないと思います。………レムはこの後、スバルくんがやっていないであろう課題を筆跡を似せてやる作業があるので、部屋に戻ります」

 

「スバルに対する介護がガチだ……」

 

 これほど幼なじみから愛されている少年も、今時なかなか珍しいものでもあるとは思うけれど。しかもこれで付き合ってないというのだから驚きである。

 

「リル、何度も言っていますが」

 

「はい、スバル兄様(・・)、ですね」

 

「はい!いつそうなってもその呼び方なら困りませんね!」

 

 着実に外堀埋められてるよ、スバル君。大阪城ならぬ菜月城の陥落が見え始めた。歳が歳だからか、最近レム姉様への視線がやらしいし。堕ちるのは時間の問題だろう。

 

「………ご馳走様でした。それでは、リルは歯磨きをしてから行ってきます。いつもの時間帯でしたら、行き道で合流できるかと」

 

「わかりました。それでは、レムは部屋に戻りますね。いってらっしゃい」

 

「はい、行ってきます」

 

 挨拶をして、姉様は自室のある二階へ。ふぅ、と一息つき、僕も洗面所へと向かう。

 

 

 

「あら、おはよう、リル」

 

 洗面所から戻ってきた僕を出迎えたのは、まさに今寝起きといった風貌の桃髪の少女だった。

 

「ラム姉様。おはようございます。冬場だと言うのにお早いですね」

 

「今日はロズワール様が家を空けるそうだから、合鍵をもらうことになっているの。気合も入るというものよ」

 

 ロズワール、というのは、近所に住んでいる売れっ子小説家の名前である。ラム姉様はかなりその方に入れ込んでおり、家事の面倒まで見始めた最近は、合鍵を受け取るようにまでなったらしい。

 

 僕も一度会ったことがあるが………何というか、小説家というのはみんな頭がどうにかしてるのか?と自分の正気を疑うくらいには変人であった。

 

「あまり顔に出すと、ガーフィールが落ち込みますよ」

 

 なんだかんだで純情な、歯が特徴的な同級生の顔を思い浮かべる。純情に姉様を思っているのを見ていれば、

 

「ガーフにはミミがいるでしょう。最近はダフネに目をつけられたみたいだけど」

 

「ダフネさんはなんというか、食欲だけで動いてるのでそういう意図はないんじゃないでしょうか………」

 

 なんだかんだ、本命はミミだろう。最近はガーフィールも猛アタックに満更でもなくなってきた節があるし。問題は二人の姉であるアナさんとフレデリカ先生が関係を認めるかだけど。

 

「そうそう。レムには言っていたけれど、リルにもロズワール様のお宅の清掃を放課後にでも手伝って欲しいの。よろしくね」

 

 いい?だとか、予定を訊かないあたりがラム姉様クオリティである。十年以上過ごせば慣れてくるが、流石の傲慢っぷりだ。嫌いじゃない。今日の放課後はオフにしとこう。

 

「はい、ラム姉様。それでは、リルはこれで」

 

「忙しいのに引き止めて悪かったわね。いってらっしゃい。……レムはああいうけれど、ラムはあの人もいいと思うわ」

 

 最後の余計なお節介に返答することなく、かなりラフな格好でお弁当を持って外へ出る。余計なお世話じゃい!

 

「う……ちょっと寒い、かも」

 

 今は冬が明けたばかりだ。どこもかしこも正月からの三ヶ月が終わり、新生活を前にしてワタワタ、と言った塩梅で、厚着を多少していても吹く風は冷たい。

 

 少しばかりの肌寒さを感じながら、そそくさと目的地へと向かう。家の近所、ほんの少し進んで幼なじみの家の前を通り、そのさらに少し向こう。

 

 豪華なステンドグラスに、少し味が出てきた藍の屋根を持つ神の家。ついでに僕のバイト先でもある、聖ルグニカ教会である。

 

 ルグニカ市の支援を受ける歴とした公共施設であるこの教会は、温和な司教の面倒見と人の良さから、密かな人気スポットと化してい()。……その厳かさを台無しにしたのが、数年前に赴任してきた災厄なシスターなのだが。

 

 正面口に手をかけようとして、嫌な予感。

 

 数秒悩んで裏口に回ろうとすると、庭の手入れをしていた緑髪の男性の姿が目に入る。

 

「おはようございます、リル。そろそろ来る頃だと思っていましたよ。本日も勤勉で何よりです」

 

「おはようございます、ペテルギウス・ロマネコンティ司教。庭仕事はリルの仕事ですからお任せください、と再三申していたではないですか」

 

「いえいえ。いくらお給金を渡しているとはいえ、子供に任せきりにするような怠惰は許されませんよ」

 

 生真面目な表情でそう言うのは、ペテルギウス・ロマネコンティ司教。……宗教上の理由で別の名前を名乗るのが通例なのだそうで、本名はジュースさんだ。人当たりの良い、ちょっと親バカ気味な司教さんである。

 

 若くして厚い信仰で以て司教という高い地位に昇り詰めていながら、本部の空気は肌に合わずこちらへ越してきたらしい。本人はこの生活に満足しているようなので深く詮索するつもりはないが。

 

「そういえば、娘さんが転入したんでしたっけね」

 

「……そう、なのデス………娘が悪い虫につかれないか心配でして…つい仕事を」

 

「娘さん、ルグニカ学園への転入でしたよね?でしたら、リルの姉に口利きしておきましょうか?」

 

「本当デスか!?それはとてもありがたい!……実は既に、欲に飢えた獣のような男が娘に近づいているようでして………私としては気が気でなく……」

 

 うん。やっぱり親バカ気味だ。これでも僕を雇ってくれている恩のある人だし、姉様方にもしっかり言っておこう。……なんだかんだハーレム体質なスバルが悪い虫になる可能性は大いにあるけども。というか、既になっている気がするような……。

 

 じゃあこれで、と急いで裏口に回ろうとするが、失敗して呼び止められてしまう。

 

 しかし、回りこまれてしまった!

 

「リル、裏口から入らずとも正面を開けていますから、そちらから入ると良いでしょう」

 

「ええと……法衣を地下に置いているので、裏口から入らせていただいても?厚着もしていますから。流石にこんな格好では、主もお怒りになるでしょう」

 

「はは、主の器は服装ひとつで憤るほど小さくはあられませんよ」

 

 司教が僕や子供、ついでにあいつを怒るときによく使う「主がお怒りになられる」を盾にしつつ、教会の裏口へと向かう。

 

 ………ぶっちゃけ、最近教会に正面から入ってからいい思いはした覚えはない。子供の頃は普通に入れたが、最近はなかなかややこしい事情が絡まり果てているのだ。僕も最近は若干困っている。

 

 音を鳴らさないよう裏口の扉を開け、身体を薄くして滑り込ませる。………中で音が鳴った気配はない。

 

 チャンスだ。このまま着替えて、教会正面の掃き掃除に徹してしまえば、あとは登校するだけで済む。そうすれば今日は、あいつとあんな風に(・・・・・)会わなくても済むのだ。

 

 そうして、更衣室となっている地下室への階段を下る。ロッカーから法衣を出して、ほうきとちりとりを持って外に出る。我ながら完璧な作戦だと。

 

 ……………そう確信していた。扉を開けるまでは。

 

「……………………………」

 

 そこにいたのは、完璧に整えられた彫像のような少女だった。磁器のような肌が、引き締まるくびれのラインが。全てが完成された完璧な美貌を持つ少女。その吐息、その仕草、その行動ひとつひとつが、まるで硝子のように儚く、美麗。

 

 そんな女性が、全裸でそこに立っていた。

 

「きゃぁぁああぁっ!!」

 

 思わず悲鳴を上げた。

 

「……普通、こういうのは逆だと思うのですが」

 

 僕が。

 

 対照的に、全裸の女性は優雅に、恥ずかしがる素振りもなくその肢体を晒す。……そうして暫く無言の膠着が続いて。

 

 ふと、女性は気がついたように手で胸と局部を覆い隠し、感情の乗らない美声で一言。

 

「…………あら、えっち」

 

「何もかもが遅い!」

 

 腕で胸を覆い隠すようにするが、もう遅い。白い肌も、そこから覗くありとあらゆるものが、しっかり目に焼き付いてしまった。この女、手遅れなことをわかってやってやがる。

 

 ゴン、と一切の加減なく教会の壁を殴りつける。まさか、全て読まれていたとは。見抜けなかった。このリルの目をしても────

 

「………………………今日は何分前から待ち構えてたんですか」

 

「人聞きの悪い。たった今着替えようとしたばかりなのですが?」

 

「わざわざ着替えるために下着まで脱いで全裸でいるやつがありますか」

 

「そういえば私、朝から汗をかいてしまったので下着も着替えようと思っていたんですよ」

 

「今日は寒いでしょう。エキドナと同レベルの体力のお前に汗をかくような労働ができるとは思えないんだけど」

 

「女性との会話で他の女の話をするのはナンセンスですよ。それにお前呼ばわりだなんて。ちゃんと名前を呼んでくださいな」

 

 ─────パンドラ、と。

 

「あぁ、もしかして下着が欲しかったりします?」

 

「ふざけんなクソシスターぁぁぁっ!!」

 

 僕は手に持っていた弁当と脱いだ上着を全力で目の前の破戒シスターにぶん投げたのだった。

 

 ………やっぱり苦労して作った弁当が崩れるのは癪だったので投げなかった。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「さて、今年は私、パンドラが主役を務めさせていただくアニメが放送されていたようで。私が主役だなんてなんだか、照れてしまいますね」

 

「のっけからオチを作るな。もう終わったし、ついでに向こう数年お前の出番ねーから」

 

「あら?一生出ない方が何か……」

 

「こいつ──!」

 

「まぁまぁ、リル、落ち着こうではありませんか!パンドラ様も、あまりリルを揶揄わないでくださいませ!」

 

 パンドラに殴りかかるのを、ジュースさんに止められる。どいて!その女殺せない!それ言ったら戦争だろ!戦争!許せねぇよ!

 

 黙ってろバーカ!バーカ!僕がいないと栄養素すら補給できないくせに!洗濯物も溜め込むくせに!布団も干せないくせに!部屋散らかすくせに!

 

 ………あれ?なんかこいつの家事ほとんど請け負ってないか?

 

「ふふふ、そうやってわかりやすく態度で表していただけると、新生活早々揶揄い甲斐があると言うものです」

 

「新生活を始める前に子供をおちょくるなよ。これでも中学生なんだぞ!ふくし?の大学に通う予定なんだぞ!」

 

「はい、存じていますよ。私、あなたの担任ですし」

 

「こいつに教員免許を与えた馬鹿出てこいぶっ飛ばしてやる!」

 

「リル、神前で口が悪いですよ」

 

「誰のせいだ!」

 

「はいはい。喧嘩はやめてください。そろそろ、朝のお勤めを始めるとしましょう」

 

 額に汗を浮かべたジュースさんが仲裁に入る。それに免じて、仕方なく構えた拳を下ろし、力なく項垂れる。こればっかりはこの人何も悪くないし。いつも迷惑ばかりかけて申し訳なさでいっぱいなんだけど。

 

 対してパンドラは依然として面白がるような表情を作ったまま、教会のシスターらしく修道服に身を包み、優雅に笑っている。そのまま一生喋らなくていいのに。

 

 これでルグニカ教会系列の教皇の娘とかだからタチが悪い。ジュースさんも様付けするほどだ。世界で一番地位を与えちゃいけないのがこいつって知らない?

 

 朝のお勤めというのは、掃除とミサの準備だ。教会はその業務内容と対照的にそこそこやることがあり、また来客やら税金関係の書類仕事もあり。色々な仕事を片さなくてはならない。ジュースさんとて家庭を持つ身。一人で業務をしていては日が暮れると言うことで、雑務やらは僕らがやることが多い。

 

 教会の奥へ引っ込んだジュースさんを横目に、少し悴む手で雑巾を絞る。暖かくなったとは言えこの手の水仕事は冬目には辛いが、この仕事は他のバイトと比べて給料こそ破格。姉様方やスバル君と机を並べるという僕の野望のため、お金は貯めなくてはならない。こればっかりは両親に頼るわけにもいかないし。

 

「………今朝はちゃんと食べたの?」

 

 隣で楽器の手入れとかいう、資格が要りそうなことを平然とやってのけるパンドラに投げかける。だって朝ごはんは流石に作ってられないし、確認しないと食べないんだもん。

 

「あら、今朝見た私の肉付きが心配でしたか?」

 

「ふんっ!」

 

 ヤケクソ気味に雑巾を投げつけるも、あえなく回避。畜生。変なこと言われたから思い出しちゃったじゃないか。

 

 てか、回避性能高すぎるんだよこいつ。生まれてくるときにスペックを『地位』と『顔』と『回避力』に全振りしたに違いない。

 

「冗談ですよ。今朝はちゃんと、ケーキと紅茶をいただいて参りました」

 

「優雅だな。シスターがそれでいいの?」

 

「シスターは清貧であれ、というのは些か時代錯誤な気もしますからね。世界のフォーマットは常に変化にさらされ、画一化されていく。私がやっていることは、その最たるものですよ」

 

「…………難しそうな言葉でまとめてるけど、シスターの自分がやってることは全部シスターとして正しいって理屈じゃないか、それ。無茶苦茶言ってない?」

 

「いいえ、何も。解釈の違いですね」

 

「介錯してやろうか?」

 

「俳句が思いつきませんので辞退致します」

 

「国語教師のくせに」

 

「………あなたへの愛を込めた(うた)なら、いくらでも」

 

「────」

 

「あら、真っ赤」

 

「うるさい」

 

 急にそんなことを言うのはズルいと思う。くそう。クズなのに。こいつ、人間性は最底辺なのに。ちょっと顔が良くて、ちょっと庇護欲を掻き立てるからって。こいつ。

 

 いやまぁ、うん。レジェンドオブクズオブクズは労働の義務すら果たしていないレグルス(顔がいいだけのヒモ)とか不特定多数の純情を弄ぶカペラ(No.1ホステス)だと思うけど。逆になんであいつら生きてるの?そのうち刺されて死ぬよ?下女のティフィちゃんとかにやられそう。

 

 今日こいつの夕飯を作るときはなるべく見た目を悪くしてやろうと決意し、再び掃除に戻る。そうして三十分もしないうちに、教会の奥からひょっこりとジュースさんが顔を出した。

 

「リル、パンドラ様。今日はこの辺りで構いませんよ。あとは私がやっておきますので」

 

「そんな!悪いですよ!」

 

「いけません、リル。あなたの本分はあくまで学業。いくら信仰が厚いからといって、それを怠るのは『怠惰』というものです。それに、本来は私がやるべきことです。手伝いをしていただいていること、まこと勤勉で助かっています。ここは私に任せ、学校に向かいなさい」

 

 神かな?神なのかジュースさん。菩薩か何かの生まれ変わりなんじゃないのかこの人。くそっ!子供と孫とひ孫に見守られながら老衰して穏やかに死ね!

 

 ただ。

 

「だ、そうですよ、リル。ロマネコンティ司教にそこまで言われては仕方ありません。お言葉に甘えて、向かうとしましょうか」

 

「お前がいなきゃなぁ……」

 

 こいつさえいなければ!こいつさえいなければ!そして向かう場所があの学校じゃないなら!これ以上なく感動できたのだろうと思う。

 

 今日も今日とて。パンドラに連れられて登校。憂鬱な中学生生活が始まる。穏やかな日常とはほど遠い、あまりにも凄惨すぎる日々が幕を上げるのだ。

 

 あー!早く姉様やスバル達と同じ高校に行きてぇぇ!!

 

 

 




リル
 現在中学三年生。本来なら小学生の年齢だが、並外れた(年齢的に見て)学力と精神年齢を理由に飛び級している。当然両腕があるし、目の色や髪の色も変わっていない。ちゃんと両姉の名前を呼び、程よく敬語を使う廃スペックな弟。

 近日中にルグニカ学園に入学し、姉達や兄候補と机を並べることが目標。心の中で所属している部活動副部長を見習い、教会の神父様のバイトをやっている。時給は破格。(理由は後述)そして近所の六姉妹と美人なシスターを引っかけ、引きずり、なんとか逃げようとしてプチっと潰される。胃痛ポジ。

 成績とコネに関しては問題なく、あとはお金の問題なのでちょうど数ヶ月後にはルグニカ学園へと転入できる予定。これで担任から逃げおおせられる、とほくそ笑んでいる。

 並の学生であれば疲れ果てて胃もたれを起こすとされる『ゴールデンタイムラバー・レクイエム』……別名ヴィルヘルム校長の惚気を、あろうことか奥さんとのダブルパンチで受け続けたが、半日経ってもホクホク顔で聞き続けていた伝説を持つことから、唯一アレに対応できる者として、校内生からは「エクストラ・オーディナル・コミュニケーショナー(EOC)」と命名され、密かに尊敬を集めている(スバル談)

 好きなタイプはなかなか本心が見えない人。
 年上派、貧乳派。
 色素が薄くて嫋やかな感じの美人に弱い。
 白金の髪で青い瞳の女性が理想。
 髪にアクセサリがあるとより良い。


 パンドラ
 聖ルグニカ協会に勤めるシスター兼、リルやガーフィール達の中学校の教師。リルのクラスの担任。両親がルグニカ協会の系列トップであるため、職権乱用して聖ルグニカ協会に自分をねじ込んだ。結果として現在ルグニカ教会には通常の万倍単位の寄付金という名の貢金が来ているのだとか。なかなか本心が見えない人。胸が控えめな色素が薄い嫋やかな美人。白金の髪で青い瞳を持ち、髪にリボンをつけている。

 一度リルに放置され餓死寸前まで行って倒れた(勿論わざと)過去を持つため、弁当を用意されたり、たまに夕食を作りに来てもらったりとかなり甲斐甲斐しく世話を焼かれている。他にも両親へ顔合わせをしたり、わざとあられもない姿を見せて責任を取ることを要求しズブズブと外堀を埋めるなど、小学生を落とすのに余念がない。レムからは毛嫌いされている。

 なお、ちょうど数ヶ月後にルグニカ学園への転勤が決まっている模様。

今日中にもう一話更新するぞ!がんばえー!

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