目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

72 / 99
 


 序盤はね。序盤は。ね。

 オリジナルの登場人物が出てきますが、ティフィとソアラ以外覚えなくていいです。




フェルト√ バカと鋏は使いよう。使ってくれる相手すらいないボッチは一体どうしたら。

 ここは地獄の揺り籠だ。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 はい。不肖リル、三歳になりました。

 

 あの、その、ね。

 

 …………存外、快適である。

 

 此処がどこかはわからない。『色欲』の大罪司教の、秘密のアジト的な場所である。空飛んでドナられてる途中に気を失ったから地理もよくわかららない。けど、何度か見たお金に神龍やら剣聖っぽいやつの顔があったから、おそらくはルグニカのどこかなのだろう。

 

 親竜王国ルグニカ。『Re:ゼロから始める異世界生活』での主な舞台。北のグステコ、西のカララギ、南のヴォラキアのように、大陸の東にある四大国の一つだ。

 

 そして、その裏で暗躍するのが。

 

「あら、じっとこちらを見つめてどうかした?リル」

 

「ううん、なんでもないよ、エルザ」

 

 彼女(腸狩り)達、だったりするのである。

 

 僕が知っている容姿よりかなり若い、それこそ10代前半の育ち盛りといった容貌の黒髪の女性。『(はらわた)狩り』エルザ・グランヒルテ嬢。

 

 言うまでもなく、凄腕の戦闘員かつ暗殺者である彼女。そして他ならぬ、現在の僕の育て親役だったりする。

 

『色欲』の大罪司教、カペラ・エメラダ・ルグニカは、他人からの愛を欲し、欲し、欲する狂人である。その性質からか、彼女は時折自分を愛させるために子供を拾って育て、息子や娘と呼称して自身の部下にすることがある。

 

 作中に登場する中では、目の前のエルザや、他にはメィリィ・ポートルートなどが当てはまる。他にも何人か見かけるが、少なくとも僕が見たことがあるのは彼女と名前も知らない他数人だけだ。

 

 そして、その息子のうちの一人が僕、この世界での『リル』な訳である。新しく名前をつけたのか、或いはどこかに名前が書かれてたりしたのかは不明。本名なのだろうか。そうじゃなかったら『暴食』回避できるから楽になるんだけどな。

 

 さて、話を戻すが。

 

『色欲』アジトでの暮らしは、ハッキリ言ってすこぶる快適だ。退屈といえば退屈ではあるが、特に痛いわけでもなく、苦しいわけでも無い。人体実験が行われているわけでもないし、カペラの機嫌が良ければ監視付きだが外に出してもらえることもある。エルザやらが訪れてくれるし、一人というわけでもないので人間関係に飢えることもない。

 

 カペラもずっとアジトにいるという訳でもなく、結構な頻度で外を出歩く。趣味の愛の収集とかいうやつだろう。なんなら、アジトにはいる方が珍しいくらいだ。目的のためにとんでもない悪虐非道を働いてると思われるが、残念ながら惨状を目の当たりにしたことは無いので恐怖は湧いてこない。それよりも、拾ってもらった恩の方を多少なり感じている。

 

 機嫌悪かったらたまに身体の一部弄られるのは堪えるけど。一時期某深淵んなぁー的なモフモフになったりしたし。しばらく懇願したら元の姿に戻してくれたのでギリノーカンだ。カペラには逆らわないようにしよう。

 

 元の顔気に入ってるからね。顔の変形が今のところされてないのは幸いだ。赤と青のオッドアイとかもはやカッコ良さの代名詞だろ。それで紫髪とかこりゃもう人生勝ち組では?

 

 とまぁ、こんな風に良いところを列挙してみたわけだが。あのカペラさんがたかが子供だからという理由で放置するべくもなく、ちゃんと労働もさせられている。暇つぶしにはなるし辛いわけでもないから別にいいんだけど。

 

「あ!エルザ!その食べさせ方はだめ!吐いたら喉詰まっちゃう!」

 

「……そう?」

 

「そう!それと持ち方!ちゃんと頭を支える!そんな執拗にお腹も労らなくていいから!」

 

「…………そう?」

 

「そう!」

 

 今のうちから狙いを定めるな。家畜じゃないんだから将来解剖するために育てるとかやめろよほんと。カペラが権能でどうにかしてくれるかもしれないけども。

 

 はい。まぁ大体悟ったと思うけど。現在、ベビーシッター的なアレをやっております。カペラが連れてきた赤ん坊を見れる限りで世話する役目だ。勿論、僕自身三歳児だから限度はある。離乳食作るとかできんし。一応前世で経験があることもあって、扱い自体はそこそこできてると思うけど。

 

 今のところ、赤子は三人。ついでに五歳くらい離れた子達が二人くらいいる。こんなところに連れてこられて目が死んでるかと思えば、特にそんなこともない。あれ?もしかして変な孤児院なんかよりここホワイトなのでは?

 

 おっとりさんの女の子ティフィと、勝ち気で少年らしいソアラ。ついでに赤ん坊たちはヤチェとテルレとタミノ。男の子一人に女の子二人だ。ティフィとソアラも此処出身らしく、僕ほど精神年齢が発達しているわけでもないがお手伝い感覚で頻繁に子育てを手伝ってくれている。遊びたい盛りだろうに。手伝いできて偉い!お父さんは嬉しいぞ!!そしてカペラは無計画に子供連れてくるな!エルザに頼りすぎだよ!

 

「リル、またへんなおかおしてる〜」

 

「いっつも歳上ぶるよな。俺よりまだ六つも下のくせに。言っとくけど、お前だって俺たちやエルザ姉が育てたんだかんな!」

 

「それでもリルはみんなのお兄ちゃん兼お父さんだよ。崇めろ?」

 

「家庭が独裁的!?」

 

 む、難しい単語を知ってるな。ツッコミにも磨きがかかってきておる。この子、僕が育てました。ドヤァ……

 

 にしても、やっぱおかしいよな。こんな三歳児。明らか普通じゃないし。精神面もそうだけど、肉体とか。平均よりかなり成長している。大体七歳くらいに見えるだろうか。五、六年歳が離れているはずの二人とさほど身長や体つきが変わらない。

 

 ………ワンチャン僕、人間じゃない説ある?

 

 いやでも、特に亜人とかそれっぽい特徴はないんだよなぁ……体も違和感とかないし。猫耳が急に生えてきたりするんだろうか。それか尻尾とか。淫魔とか嫌だぞ。

 

「そういうのはやっぱりエルザがやるべきだよね、うん」

 

「何の脈絡もなく頷かれても困るのだけど」

 

 似合うと思う。絶対似合う。ショタとか食って(物理)そうだもん。まだ10代だろうけど、とんでもないわがままぼでぃをお持ちですし。手を出したら手から腸まで裂けるだろうが。

 

 ───なんか、馴染んでるな。

 

 ふと、そんなことを考えられるほど自分に余裕があることに気がつく。初めてエルザに会った時は、赤ん坊だろうと殺されるんじゃないかと身構えていたというのに。今では軽口と妄想ができるくらいには距離感が掴めている。なんなら、姉代わりと言ってもいいかもしれない。

 

 他のみんなもそう。最初こそ馴染めなかったものの、孤児だった僕にとっては全員大切な家族だ。幸せになってほしいと願っているし、その為なら僕は何だってする。

 

 子供は可愛い。故に正義である。なんて。

 

「みんな、大好き!」

 

 二人を目一杯抱きしめる。子供だからか、柔らかくて暖かい。とても、落ち着く。

 

「うわ!?てめ、リル!男のくせに抱きつくなよ気持ち悪ぃ!」

 

「つかまっちゃった〜えへへ……」

 

 はいはい、演技演技。嫌がってるなら逃げればいいのに。身内が痛がるようなことはしない主義だよ、僕。

 

 ………身内の痛がることは、ね。

 

 優しく育ってほしい。健やかに育ってほしいとも。その気持ちは、決して偽りではない。

 

 その反面、彼らの幸せな表情を見るたび、僕の胸中には昏い欲求がふつふつと湧いてくる。生前からの性というやつで、それはどうしようもなく深く根付いた僕自身の根源。

 

 ───この子達のために僕が死んだら、一体どんな顔をしてくれるだろうか。

 

 そんなことを考えてしまったりするわけだ。顔が見れなくなるから死ぬ気はそうそうないけど。でも例えば、骨折したり、顔を火傷したり。そんな生傷くらいなら、と。

 

 

 僕への罪悪感に歪むその顔が、見たくなる。

 

 

 まぁ、今すぐにという話ではない。アジト内に行動が制限されている以上、できることも限られている。多分、あと四、五年はお預けだ。それまでは、精々彼らの幸せを共に見守ることにしよう。

 

「………………」

 

「エルザ、じっとこっち見つめて……どうかした?」

 

 おうおう嫉妬かぁ?混ぜてやらんぞ。僕含めてこの子達は三人用なんだ!

 

「………いいえ、何でもないわ。それより、ほら。あの人が帰ってきたみたいよ」

 

 かぶりを振ったエルザが、軽く顎で合図をする。彼女が『あの人』呼ばわりする人間……人間なのかすらわからんが……は、おおよそ一人くらいしかいない。

 

「さぁさぁ!きゃわいいきゃわいいメスとオスの子供たち!慈悲深く優しいお母様ちゃんのご帰還でやがりますよ〜きゃはは!」

 

 はい、我らが育て親(笑)カペラ・エメラダ・ルグニカ=サンにやがります。ほんと変わんねーな、この人。

 

「おかえり!ママ!」

 

「おかえりなさい、ママ」

 

 エルザは無言を保ったまま。年長の子供二人は、それぞれの言い方でカペラを歓迎する。何故か子供に好かれてるんだよね。少なくともあの二人からは。拾った恩があるからなのかもだけど、教育に悪いからあんまり喋らないでほしい。

 

「おかえり、カペラ(母さん)

 

「ああ、今日も可愛いですねぇアタクシの子供たち!顔がいいのをわざわざ選別した甲斐があったっつーもんです!不細工な子供とか、見る価値すらねぇですし!きゃはは!」

 

 この始末。二度と口開かないでもろて。

 

 カペラは、面食い……もとい、人間結局性欲が全て主義を掲げる狂人である。それは子供に対しても変わらず……ええ、はい。つまりそういうことです。

 

 でも、本当に顔で選んでるんだもんな……僕含め三人とエルザ、ホストとか嬢とかやってそうなくらい美少年美少女揃いだし。僕含め。多分赤子たちも将来的にはそうなると思われ。ほんとこいつさぁ……

 

「今日も愛のために尽くし尽くされてやりましたぁっと。クズ肉どもってばホント単純でだいちゅき!きゃはは!」

 

 カペラは、基本的に僕らに不干渉だ。愛玩動物を飼っているつもりなのだろう。容姿を損ねるものがなく、カペラを母と呼んでいる限りは何もされない。母と呼ばれていれば、彼女は僕らから愛されているという実感を得ることができる。彼女にとって、ここは愛の養殖場的なアレなのでは、と最近予想を立てていたりする。

 

 ──そういうところ、レグルスっぽい。

 

 不躾極まりないことを考えながら、僕はいつも通りの行動を心がける。カペラが去るのを、息を潜めて、心を落ち着けて。じっと、じっと待ちながら。

 

 なんだかんだで慣れ始めたこれが、今の僕の日常。

 

『色欲』の大罪司教に飼われ、外に憧れることもなく。そこそこ退屈ながら、家族と一緒に平和な日々を過ごす。

 

 たったそれだけの、山も谷も、始まることすらない平坦な異世界生活だ。

 

 




 ヒント:約束のネ

 いやぁ、ほのぼのしてるなぁ!きっとこれからもこんな感じが続いて、十数話後くらいにほのぼのして、ぐだぐだで終わるんだろうなぁ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。