目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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 タグに『ほのぼの』を追加しました。原作リスペクトですね間違いない。

 Q.リル君の三本目の角とかはこの世界線ではなかったりするの?

 A.あります。IF√はあくまで『この時こうだったら』を描くものだと作者が考えているので、リル君のスペック等には一切手をつけていません。

 ちなみに。未だに原作五章を見ておらず、『カペラって誰?』となっていらっしゃる方はこちらの記事に目を通せばわかるかと思われます。ところどころのネタバレもありますが。

 ハッキリ言ってフェルト√は本編やIFの中ではトップクラスでリル君に厳しい世界なので、SAN値はごりゅっと飛びます。さぁ、1D100を振れ。


フェルト√ () (どく) っ て 知 っ て る?

 誰か、笑っていた。誰だったのだろう。みんな笑っていたけど、その声はやけに鮮明に聞こえた。

 

 おかしくて、おかしくて。何か震えていたけど、あまりよくわからない。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 深夜。毛布に包まっていた僕は、何ともなく目が覚めた。赤ん坊達にとって、深夜とはもはや昼間。結構な頻度で起こされるので、それが癖になってたまに起きてしまうのだ。

 

 利かない夜目を擦りながら、なんとか周囲を見渡す。子供達は全員静かに寝静まっていて、どうやらお世話をする必要もないらしい。いつもは一人を当番として決めて、残りの二人は耳栓をして寝るのが常になっているから、今日が当番でない僕の出番は無いはずなのだけれど。

 

「……ん?ティフィ……?」

 

 ふと、ティフィの寝床を確認すると、彼女の姿がどこにも見当たらないことに気がつく。お手洗いだろうか。彼女の歳なら、おねしょということもあるかもしれない。

 

 そう考えてしばらく待ってみるが、彼女が戻ってくる気配はない。こうなってしまっては気になって眠れないので、探しに行くことを決断する。

 

 と、いいつつ。このアジトの中で、見つけられない場所なんてそうない。そもそもの規模が狭いのだ。見つけようと思えば、見つけられ無いこともない。

 

「ティフィ」

 

「………リル?」

 

 そこは、通気孔がわりの小さな穴から出入りできる場所だった。大人であればそうそう入れないだろうが、子供の図体であればギリギリのところで侵入ができる。

 

 そうして抜けた先には外が広がっているのではないか、と。吹く風からなんとなく想像しつつも、試す度胸もなくそのままにしていた。抜けてみれば予想通り。まさに秘密の抜け穴、というわけだ。

 

「知ってたんだ、ここ〜」

 

「来たのは今日が初めてだよ。ソアラに言ったら、絶対来ようとするだろうけど」

 

 外に繋がっている、場所。

 

 それはただ、本当の意味で外と繋がっているというだけの場所だった。

 

 目の前に見えるのは、巨大な岩盤。下には果てすら見えない暗闇が広がっていて、逆に空から見える光すらどこか遠い。足場なんてものは単なる岩で、それも大人が二人もいられない小さなものだ。座り込んでようやく安心できるほどの足場。立って踏み外そうものなら、真っ逆さまに下に落ちる。

 

 …………崖の中に作られた、侵入、脱出共に不能の要塞。

 

 それが、『色欲』のアジトの正体だった。

 

 侵入か脱出ができるのは、飛べるか100m近い壁をロッククライミングでよじ登れるやつだけ。脱走計画は、一度外に出してもらった時に諦めた。

 

「日は、こうやって確認してたんだね」

 

「そうそう〜。ここは、ちょっとだけでもお日様の光が届くから〜」

 

 そういうティフィの横顔は、月光すら届かない地の底ではよく見えない。口調はいつも通りのように思えるが、顔が見えないことが僕に少しばかりの不安を感じさせる。

 

 

 ──こんなシチュエーションで、一体何を話したものか。

 

 

 月が綺麗ですね?何が悲しくて妹同然の子に告らねばならんのだ。そもそも月は見えない。

 

 今日はいい天気だね?天気デッキはもはや研究し尽くされてる。あれは逆転一発狙い以外は下策と知っているはず。ロマンチックさもかけらも無い。発する勇気はありません。

 

 どうしろと。くそぅ!こんなときイケメン主人公なら気の利いたことが言えるだろうに。レベルが足りないぜ全く。

 

 頼む助けてくれ僕の脳内ギャルゲ主人公。お前だけが頼りなんだ。

 

「…………エルザが帰ってくるのは、今日だっけ」

 

「……女の子と二人っきりで、ほかの女の話題はどうかと思う〜」

 

「早すぎる教育!?」

 

 エルザか!?エルザが教えたのかそんなセリフ!ダメ!おっとり可愛いティフィがそんな言葉覚えたらギャップ萌えで同年代の子達の初恋が根こそぎ奪われちゃう!

 

「リルかソアラ以外に言っちゃダメだから!死人がでちゃうっ!」

 

「そう?なら、そうしようかな〜」

 

 ほっ。これでひとまず、ティフィ姫化は避けられたぞ。

 

 ティフィには『俺、実は昔ティフィが好きだったんだ』『あ、俺も』『俺も。ティフィ人気だったもんなぁ』って同窓会で十人くらいに言われる程度のモテ度であってほしいんだ……奪い合いが発生するレベルの魔性には目覚めないでくれ……頼む。

 

「おかしいな〜。リルはわたしが育てたはずなのに、わたしよりいろんなこと知ってて。こののーさつ台詞も、この間エル姉に教えてもらったばっかりなのに〜」

 

「………そう?」

 

「わたし、リルのおしめ代えたことあるし〜なんなら、リルのおち…」

 

「淑女がそんなこと言っちゃいけません」

 

 ぐぬぬ………黒歴史が思い出されるぜ……やっぱり転生してから最初にぶつかる難所はそこだな……意識がある状態で子供に面倒見られるのは本当に堪えた。成長が早くてよかったよほんと……

 

 それと無知シチュは勘弁。ロリにそう言うこと言わせて興奮するタチの人がいるのは知ってるが、僕はそんなことはない。

 

 ………ティフィは可愛いから、外に出るときはロリコン撃退装置を持たせなきゃだな。投擲型クレイモアとか。エルザに言えば作ってもらえるだろうか。

 

 僕の言い分に軽く首を傾げ、ティフィは膝を抱えて座り直す。その頃には僕も夜目が利き始めていて、ある程度彼女の表情が窺えるようになっていた。

 

 そうして垣間見える彼女の表情は、決して芳しいものではなかった。不安だとか、辛さだとか。そう言ったものを孕んだ、いつも朗らかに笑っている彼女からは想像もできない顔をしていた。

 

「ティフィ……?」

 

「…………あのね。昨日の話、覚えてる?」

 

「昨日の話って……ソアラの夢の話?」

 

『お金バリバリ稼いで孤児院開くぜ!ついでにママ(カペラ)を嫁にするぜ!』という、まぁ意気込みに意気込んだ末に設置された富士山より高いハードルを思い返す。

 

 彼の理想では、僕とティフィはその孤児院で働くことになるそうだ。まさかの就職先の決定に苦笑いしたのは記憶に新しい。

 

「そう。……リルには、あるの?夢〜」

 

「……どうして?」

 

「何が?」

 

「どうして、そんなこと訊くの?あの時、無いって会話をしたと思ったけど」

 

 確かに、そこでお互いの話はし尽くした筈だ。僕もティフィも夢はなく、なら結局ソアラに付き合うと言う流れになって、話は終わった。それを、どうして今になって蒸し返すのだろう。それがわからない。

 

 真面目な表情で問うた僕に対し、ティフィはなんでも無いように言葉を返す。

 

「だってリル、ソアラに遠慮してたし〜」

 

「………よくわかったね」

 

「わたし、人の顔を見るのは得意なんだ〜。ずっとそうしてきたから、嘘ついてるのはなんとなくわかっちゃう〜」

 

 なんと。まさかまさかの九歳児にバレるほどわかりやすかったとは。

 

 けれど、言われてみれば。確かにティフィは度々、性格からすれば考えられないほど勘が良かったり、疑り深く追及してくることがあった。それが結構な頻度で触れられると嫌というか、後ろめたいことだったから困ったりもしたのだったか。

 

 大人よりも優れた洞察力。彼女の異様な勘の鋭さは、まさしくそれが成させるものなのだろう。

 

「……別に、ソアラに気を遣ったわけじゃないよ。ソアラくらいしっかりした夢じゃなかったから言いづらかったんだ」

 

「じゃあ、それって〜?」

 

 畳み掛けてくるティフィ。いくら僕でも『お前ら二人を庇って惜しまれながら死んでいくことだよ』とは言えない。かと言って嘘をついても見破られる。

 

 仕方ない。ここは高等テクニックを使うとしよう。

 

「教えない」

 

 開き直る。

 

 へっへーん!どうだ!これなら嘘も何もないだろやーい!大人はズルい生き物なんですぅ〜!子供になんて負けないんですぅ〜!勝ち〜!はい勝ち〜!

 

「………この間リルが寝てるエル姉のお腹に落書きしてたのを話していい〜?」

 

「靴でもなんでも舐めますティフィ様!」

 

 敗北した。

 

 いや、違うじゃん……あんなに白いお腹晒してたら描きたくなるじゃん、色々さ……こう……ね。例のマークとか。そう。例の取れなくなる淫なアレ。最終的に気づかずに帰ってたけど大丈夫なのかなあの人……

 

 ぐぬぬ………逃げ道が塞がれた……こうも綺麗に詰ませられるとな……。ちくせう。恥ずかしいからこの手は使いたくなかったんだが。

 

「ティフィとソアラを、その……守ってあげたいなあって。それだけ。ホントに、それだけ」

 

 はい。僕の羞恥心を生贄にして『部分的な真実を話す』を使用。嘘は言ってない。嘘は。その先で死にたいまで言わなければ、単なる恥ずかしい話で済む。

 

 ぐむぅ………にしても恥ずかしい……こんな夜中にする話じゃ無いぞ……

 

「…………そっか。わたしと一緒だ〜」

 

「ふぇ?ティフィも?」

 

「違う〜ソアラみたいにしっかりしてないから話さなかったってところ〜」

 

 ほう。つまりアレか。ティフィにも夢の一つや二つがあると言うことか。へっへっへ……ええやないの……お兄さんに話してみんさい……悪いようにはせんでぇ……

 

 と、僕が枕仕事をさせるPか何かをイメージするも、真剣そのもののティフィは緊張の面持ちで。

 

「わたしね〜お姫様……に、なりたいんだ〜」

 

 恥ずかしそうに頬を赤らめ、どこか茶化すように呟いた。

 

 ほうほう。お姫様。お姫様ねぇ。

 

 …………お姫様?

 

「そ、それ、それ、それは……さ、サークルの姫的な意味で……?」

 

「……リルの言ってること、時々わかんな〜い。お姫様って、お城のお姫様以外に何かあるの〜?」

 

 で、デスヨネー。

 

 それにしてもお姫様か。いや、ティフィの歳からしたらちょっと遅いが、結構まともな方じゃなかろうか。大体小学生低学年くらいなら、一人くらいいてもおかしくない。ソアラみたいに、ママを嫁にするとか言ってるのは幼稚園児くらいしか知らないけど。

 

 うんうん。考えてみれば、インパクトは酷かったが、可愛らしい夢じゃないか。

 

「それにしても、なんでお姫様?」

 

「だってお姫様は、宝石とかでいっぱい着飾れるし〜美味しいご飯も沢山食べれるし〜」

 

「割と即物的!?」

 

 結構シビアな願いだった。

 

 けれど確かに、ここはオシャレとか豪華とか、そう言う言葉とは無縁だ。プライバシーもへったくれもないし、カペラとエルザが不在なら男所帯。歳頃の女の子からしたら辛いものがあったりするのだろうか。

 

 いや、既にその片鱗が見え始めていたり……

 

「ティ、ティフィ……その……せ、洗濯物とかお風呂は今日からどうしたら……」

 

「何の話〜?」

 

 ホッ。そう言うことではないのか。ふぅ。危ない危ない。お兄ちゃん汚い!とか言われたら自殺するぞ僕。イケメンなソアラは残り湯だろうと高値で売れそうだが、僕はそこまで自分に価値があるとは思えない。将来言われないように今のうちから思いやりを学ばせねば。うん。

 

「………わたし、ママみたいになりたいの〜」

 

「ほうほう………ほう?」

 

 やめろ。お前まで身投げをするつもりか。ダイナミック自殺もいいところだ。

 

 憧れは理解から最も遠い感情だけどそもそもアイツ相手に抱いていいもんじゃない。逆に君らの目にはアイツはどう映ってんだよ。

 

「ママは、ずっと綺麗で〜……あの金色の髪も、真っ赤な瞳もそうだし〜ママは、ママにしかないもの。自分だけの武器と、自分らしさを持ってるの〜」

 

 ひ、否定はしない。

 

 確かに『色欲』の権能はオンリーワンだし、自我と個性の強さで大罪司教に勝てる奴とかいたら逆に見てみたいレベルだ。

 

 こうして見てみると、まぁ、確かにそういう意味での良さはあるかもしれない、うん。ああなりたいかと言われれば捻れるくらい首横に振るけど。

 

 ティフィの髪は茶髪で、有体に言えばありふれている。もちろん、だからこそその整った容姿が際立つし、たおやかさや穏やかさと言った、カペラにはない彼女ならではの武器があると思う。てか、人間大体カペラに比べればマシよ。容姿面はカペラが圧勝しても、人間面で審査から弾き飛ばされるわあんなもん。

 

「ティフィは、綺麗だよ」

 

「……ありがとう。でも今のわたしは、どうしてもママに負けちゃう。だから、お姫様になりたいんだ〜。お姫様になるなら、今のわたしからずっと努力しなきゃだから〜。お姫様になったわたしは、今よりずっと、もっと輝いてる。ママにも負けない、立派なレディだも〜ん」

 

 その夢は、夜の中で輝くほど眩しく思えた。

 

 お姫様、というのは。あくまで彼女にとって、目標点にしか過ぎない。そう言うゴールがあって。本当の目的は、そこにある自分。運ではなく、純粋な努力と実力で姫の座を勝ち取れるほど成長した、彼女自身なのだ。

 

 夢を夢で終わらせない。そんな執念すら感じさせる願いは、僕の心を感動でチリチリと焦がした。

 

「それに、お姫様は王子様と結婚できるでしょ〜?わたし、恋してみたいから〜」

 

「あ、そこは普通なんだ」

 

「わたしも女の子〜失礼〜」

 

 呑気に言い切った彼女は、理想を抱えるお姫様候補から、再び小さな子供に戻った。途端、凄まじいほどの緊張が、僕の心臓を煩いくらいに鳴らしていた。

 

 間違いなく。彼女には、そう(・・)なれるだけの器がある。夢が、夢で終わらないだけの何かがある。

 

 人を見る目がそこそこあるつもりの僕でも、そんな考えを抱かずにはいられなかった。

 

「だからリルは、大変だね〜」

 

「え?」

 

「だって、リルはわたしとソアラを守るんでしょ〜?なら、リルには騎士になってもらわないと〜」

 

 はい?

 

「いやいやいやそんな……えっ?マジ?」

 

「夢は叶えるものだし〜明日からとっく〜ん。エル姉に鍛えてもらわなくちゃね〜」

 

 え、えぇ………そんな、僕、割と将来に絶望してるんだけど……暗殺者的な立場になってスバル君とかと戦うんだろうなぁ的な思考を抱いてたんだけど……騎士ぃ?

 

 ガラじゃねぇ……うわっ、気持ち悪っ。

 

「そ、そこはその……影武者とかで、一つ」

 

「この間エル姉のナイフに落書きしてたの話してもいい〜?」

 

「精進します……」

 

 強かだぁ……どんだけ僕の弱み握ってんだよこの子……しかも大体エルザ関連……

 

 いや、違うんですって……能登……能登ボイスだから……持ち手に凶れ(マッガーレ)☆って書いただけなんですぅ……対橋宝具とか書きまくっただけなんですぅ……どうせ読めないと思ってぇ……勘弁してくださぁい……

 

「それじゃあ、戻ろ〜小さな騎士様〜」

 

「……お、お手を拝借します、お姫様」

 

「わ〜、それっぽ〜い。でもこの穴、一人しか通れないから意味ないね〜」

 

 清々しい笑顔で毒を吐くティフィ。………なんだか、この数時間で彼女の印象がちょっと変わった気がする。元からこんなだった気もするけど。

 

 こうして。なんとまぁ、僕の浅はかな言動のせいで、将来の就職先二つ目が決定してしまったわけである。

 

 まさかのダブルブッキング。どうしよう。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 そして、そんな平和な日々から、三ヶ月後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は、ティフィ達を皆殺しにした。

 

 

 




 約束のネ(鬼が人間を殺す的な意味で)
 オリジナルキャラの名前とか覚えなくていいです(数話後に死ぬから)

 

 いやぁ〜w盛り上がってきたwww

 作者のTwitterアカウントです。更新予定やらは大体こっちで呟いてるので是非是非。ハーメルンなら引っかかる感想もここでならオールフリー。

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