目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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久しぶりの支援絵のご紹介です。
うちの子を描いてくださってありがてぇ……
白鬼/さんからいただきました。
悪役顔リル君。これは大罪司教ルート待ったなしですね……

ぼかしてはありますが、少々残酷な描写があるのでご注意ください。具体的ではありませんが性転換描写もあります。苦手な方は自己防衛のため、ブラウザバックをお願いします。

深夜31時にやってた子供向け某カードゲームアニメがこれと同レベルのエグい話題を出してたので平気です。


フェルト√ リ:ゼロカラハジメルイセカイセイカツ

 

 

 

 その日から、カペラによる『教育』は始まった。茫然自失が許されたのは、ほんの数時間だけ。目覚めた血生臭い石造の部屋が、そのまま躾の部屋として充てがわれた。

 

 男のまま、服を脱がされた。

 

 恭順させられた。服従させられた。屈辱と辛酸の中、自らがいかに弱い存在なのかを知った。『色欲』のまま、力づくで組み伏せられた。痛みと圧迫感に苦しんで。体が、心なんかよりずっと痛かった。

 

 女になった。『色欲』の権能は、あっという間に性別を変えさせた。

 

 凌辱された。屈服させられた。恥辱の限りを尽くされ、自らがいかに脆い存在なのかを知った。『色欲』のまま、体の全てを貪られた。絶望と恐怖に包まれて、心が、体なんかよりずっと痛くて。

 

 次に目が覚めた時には、注射器のようなもので体に何かが入ってきていた。抵抗することすらできず、血の中に何か悍ましいものが混ざる。

 

 それは、言語を忘れさせた。

 

 それは、理性を忘却させた。

 

 それはただ、人間から知性といったものを奪う媚薬だった。

 

 知らない場所に連れて行かれた。

 

 そこには、たくさんの大人達がいて。

 

 たくさん、の。

 

 たくさん。

 

 嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 苦しい、怖い、痛い。辛い、寒い、熱い、気持ちが、悪い。

 

 知らない。こんなものは、知ってはならない。こんな恐ろしいものに、触れてはならない。警鐘を鳴らすのに、どう足掻いても逃れることはできない。

 

 体に力が入らない。それをいいことに、周囲の大人たちはひっきりなしに迫ってきた。

 

 何度も、何度も。何度も何度も何度も何度も。寝る暇すらなく、夜通し肉に囲まれ続ける。

 

 逃げる場所が、逃げる先がない。逃げ場がないということは、苦しみがずっと続くということ。恐怖がずっと蔓延するということ。痛みが、ずっと消えないということ。

 

 嘔吐することすら、涙することすら許されない。それは文字通り、人間としての扱いを受けない『運用』だった。

 

 疲れようと、気絶しようと、絶えず自分の体は使われる。

 

 そうして壊れかけた時。決まって現れるのがあの女だった。痛みと疲労で正常な思考すら保てない体を、女は指先一つで元通りにした。倒れることすら、壊れることすら。許されない地獄が始まった。

 

 何かが、軋んだ音を立てた。体だろうか。この小さな、あの女によって好き勝手に弄られた身体だろうか。クスリに浸かっておかしくなった、この肉の塊だろうか。

 

 それならきっと、壊れてもまた治されるのだろう。だから、死ぬことすら許されない。救いにはなり得ない。

 

 男に戻った。今度は、より幼い姿。その容姿で自分を売るよう、あの女に言われた。

 

 精一杯媚びて、名前も知らない男に春を売った。焼かれるような苦痛と、息もできない絶望と。最後に言いようのないやるせなさを覚えて、ぎゅっと。深く、深く目を瞑った。

 

 捨てることを覚えた。忘れることを覚えた。目を逸らし、無心になることを覚えた。

 

 すぐに、それができないほどの濁流に流される。逃げた先に、次の行き止まりが立ち塞がる。どれだけ現実から逃避しても、苦痛と恐怖が簡単に人格を引き戻す。

 

『色欲』から逃げることを、あの女は許さなかった。

 

 また、軋轢に体が軋む音が聞こえた。だんだん大きくなるこの音が、これ以上大きくなってはいけない気がして、身体を包帯でぐるぐる巻きにしていく。そんなものは無意味なのだと、心のどこかで知っていた。

 

 

 

 音は、日に日に大きくなる。

 

 

 女になった。男になった。女になった。男になった。女に男に女に男に女に男女男女男女男女に。性別という概念が意味をなさないほど肉体を弄ばれた。

 

 元々僕は、私は、リルは。■■■は。男だったのだろうか、女だったのだろうか。僕というから、男だったのか。いいや、どうだったろう。どちらかだった気がするし、どちらでもなかった気もする。もしかしたら両方だったのだろうか。

 

 もう、元の性別すら思い出せない。昔のことを思い出そうとすると、どうもモヤがかかる。変わり続ける体に引かれて、ついに脳まで変わったのだろうかと笑った。

 

 笑った。久しぶりに、楽しかったようだ。

 

 何が楽しかったのだろう。わからない。

 

 最近、以前の自分と比べて差異が増えたと思う。以前の自分がどうだったかだとか、そんなことはわからない。興味も失せた。昨日の自分は、こんなことを考えていただろうか。そも、自分は昨日生きていたのだろうか。

 

 あとは、何か。

 

 何か、大切なものがあった気がしたのだけど。

 

 悲しくなって、冷たくなって、それは思い出せなかった。

 

 わけのわからない液体と、絶えず打ち込まれるクスリで死と生の狭間を迷いながら、そんな思考をするのが常になった。

 

 

 自分は、誰なのだろう。

 

 

 音は、耳元で聞こえるようになった。

 

 

 あの女に会った。そういえば、会うのは久しぶりだった気がする。一ヶ月ぶりくらいだろうか。彼女の顔以外は、やたらと記憶に残らない印象がある。

 

 金の髪、真紅の瞳。見飽きたはずのソレに対して飽きるという感情を持てることを、少しだけ好ましく思った。

 

 

 ああ、雨が、降っている。

 

 雨は好きだ。ベタついた体を洗い流してくれるから。雨は好きだ。乾きを潤してくれるから。雨は好きだ。雨は、雨は、雨は。

 

 雨はいつも、何もかもを流し去ってくれる。

 

 冷たい水をかけられて、目が覚めた。いつものことだ。夢を見ることすら、誰も許してはくれない。

 

 起きがけに気分が悪くて、胃の中身を吐いた。まともに固形物なんて食べていないから、白っぽい変なものがたくさん出てきた。体も怠い気がするし、妙に体が重い。本格的に風邪でも引いたろうか。なんにせよ、この状態でいつもの一日を過ごすのは憚られた。いっぱい吐いて、吐いた。涙なんて毎日のように流していたのに、それ以上の量の液体が簡単に出るのが滑稽だった。

 

 

 ───妊娠している、と伝えられたのは、ソレの翌日のことだ。

 

 

 なんとなく気づいていた事実に、へぇ、くらいの感想を抱いた。死ぬことは許されていない。そうなると、産むことになるのだろうか。頭が回らないから、よくわからないけど。そもそも、誰の子なのだろう。思いつく相手なんて、多すぎて顔もわからない。

 

 そういえば、顔ってなんだったろう。目と鼻と口と。観察したこともないし、思えばずっと誰かの顔を見たことなんてなかった。

 

 あの女性の顔を見た。美しい顔立ちだった、と思う。ソレが顔というものなのだろうと、なんとなく学習した。ずっと知っていたものをもう一度知るという感覚は、不気味の一言に尽きた。

 

 暫くして、腹が少しだけ膨らんだのに気がついた。栄養もなく凹んでいた腹が、軽く平坦気味になっていた。

 

 何を思っただろう。多分、あまり意味はなかったはずだ。

 

 その次の日。あの女はあっという間に、生まれてすらない子供を殺してみせた。特別、体を切り開く必要もない。体を女のものから男のものに変えるだけでいい。たったそれだけで、必要な機能のない体から子供は生まれなくなる。育つことすらなくなる。無意味な肉の塊になる。

 

 その事実に、一体何を思っただろう。でも、やっぱりソレに意味なんてなかった気がする。

 

 その日。僕は初めて舌を噛んだ。溺れるような苦しさと、熱と、近づく死という安らぎに焦がれて。

 

 一瞬で、癒された。

 

 

 音が、次第にいくつも聞こえるようになった。

 

 

 牢に繋がれていた。自由を奪われるのはいつものことだ。寧ろ繋がれているなら、鎖が擦れてシャラシャラと鳴るのが気晴らしになる。このまま弄ばれると言う趣向なのだろうと、特に驚くこともなかった。

 

 違った。

 

 今度与えられたのは、混じりっけのない純粋な苦痛だった。心を屈服されることで生まれるソレとは全く違う。人間が発する危険信号を、痛みという記号に変えて。

 

 絶叫、させた。

 

 髪は痛い。脳は痛い。目は痛い。歯は痛い。首は痛い。腕は痛い。手は痛い。指は痛い。爪は痛い。胸は痛い。腹は痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い。

 

 体のありとあらゆる部分に痛覚がある。そしてどうすればそれらが最も痛むのかを、彼女は完璧に理解していた。人間のありとあらゆる部位は、突き詰めれば致命傷となる傷を負えることを知る。

 

 拷問は、彼女の力とあまりにも相性が良かった。傷つけては直し、傷つけては直す。それは、死という救いが、気絶という安らぎが訪れることのない無間地獄。否。地獄だろうが、この苦痛に勝りはしないだろう。もう少しでも、温情というものがあるはずだ。

 

 腸が漏れようと、皮膚が裂けようと、四肢が引きちぎれようと、部位を抉り出されようと。体のどこかが壊れたって、数時間後には傷一つない体が返ってくる。汚れて穢れた、穢らわしいこの体が。

 

 

 音が、致命的に大きくなった。

 

 

 暗い密室の中、自分の血で溺れた。そうして死にかけになった時、僕は初めて抵抗した。必死に暴れていたら、何故か鉄の拘束具が外れた。それは自分が初めて得たかもしれない、たった一時の自由だった。

 

 そのまま本能の赴くまま暴れて………どうしたのだろう。

 

 気がつけば、再び牢に繋がれていて、今度は視界を奪われていた。

 

 視界だけではない。そこには、音も、温度も、感触も、何もかもがなかった。自分の声すら、出したのかどうかすらわからない。

 

 最初のうちは平気だった。けれど、一時間、二時間と時間が経っていくにつれ、心の不安は肥大化していく。

 

 暗闇とは、恐怖そのものだ。人の永遠に理解できないもの。だからこそ、火という文明で人間は闇を克服した。その文明を取り上げられれば、そこに残ったのは小さく丸まって震えるただの小動物だった。

 

 狂う。先の見えない世界に、時間を感じられない自分に、浮遊感に、明けぬ暗闇に。狂う。

 

 叫んだかもしれない。悶え苦しんだかもしれない。自分の体を痛めつけて、痛みを感じようとしたかもしれない。全て、感じられなかった。

 

 自分とは何だったのだろう。世界とは何だっただろう。そもそも、世界なんてものがあったのだろうか。

 

 自分と周囲の境界が曖昧に消えていく。深く深く深く、その一体感に溶けていく。闇に混ざり合って、そのまま自分の存在がどんどんと希釈され、そうして。

 

 突如、闇は晴れた。

 

 灯と、明るさと、ずっと無くなっていた五感が戻ってくる。ずっと忘れていたそれを、思い出す。壊れかけの頭が、ぼんやりと現実を認識し始めた。

 

 視界に映ったのは、金。そして、紅。それが救いなのだと、脳は認識して、焼きつけた。まるで雛鳥の刷り込みのように。暗闇が晴れて初めて見えたそれを。ずっと何かを欲していた頭は、救世主か何かとして信じ込んだ。

 

 鮮烈な色。圧倒的な存在感。

 

 もう、何も感じない。もう、彼女以外の何も考えられない。

 

 

 音は─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ます。少しだけ、大きなあくび。起きる時間を覚えているから、■は呆気なく寝床から離れる。母さんが躾けてくれたおかげだ。

 

 最近は、母さんもずいぶん優しくなったと思う。眠らせてくれるなんて、なんて親切なのだろう。母からの愛をひしひしと感じる。

 

 朝がけに母に出会うと、機嫌が悪かったのか獣の手で右腕をズタズタに引き裂かれた。仕方のないことだ。そんなことより、母の苦悩を察して自らの■を差し出せなかった自分が恥ずかしい。一瞬でも痛みを感じて顔を顰めるなんて、子供失格ではないだろうか。

 

 そうやって笑顔を崩さないでいると、母さんは決まって■■を褒めてくれる。綺麗な顔を保っているのが好きな母さんに褒めてもらえるのは、これ以上ないくらいに嬉しい。

 

 今日も母さん好みの子供であろうと心から誓う。そのことが、きっと人生で一番大切なことだった。母からの贈り物でもある。

 

 母さんの言いつけで大切なパーティーに出ることになった。大人達がたくさん集まって、僕を見に来てくれるそうだ。■が震えてしまいそうになるが、誤魔化して笑っていた。それじゃあ、母さんの子供としては相応しくない。

 

 震えている。どうして、震えているのか。

 

 嬉しいはずだ。母さんの役に立てて。母さんにこの■を捧げられて。なのに、どうして。

 

 どうして、こんなに悲しい。

 

 大人たちはひしめき合っている。蟻のように■■に群がって、けれど昆虫のように協調性すらなく、我先にと先走る。

 

 その姿があまりにもおかしくて。

 

「あは、あははっ、あははは!」

 

 誰か、笑っていた。誰だったのだろう。みんな笑っていたけど、その声はやけに鮮明に聞こえた。開いた口も、しばらくすれば塞がれた。

 

 おかしくて、おかしくて。何か震えていたが、あまりよくわからない。

 

 こんな世界に、救いなどないことを知った。世界というものが、どれほど汚れているのかを知った。助けだとか救いだとか、求めていたソレが、なんと的外れなモノだったのかを知った。

 

 

 音が、響く。ずっと聞こえていた音が、ついに巨大な崩壊音となって耳の中にこだましていく。

 

 心が、暗闇に犯されていく。ずっと守っていた最後の何かにヒビが入って。透明な何かが漏れ出して、代わりに油のような黒めいた何かが入り込む。

 

 

 ああ。なんて、なんて。

 

 

 

 

 

 ────人生って、下らない。

 

 

 




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WARNING!! WARNING!! WARNING!! WARNING!!
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警告
あたらしい データ で はじめる と 

いぜん の データ が うわがき されます。


Wouldn't you regret if you did it?








 リル編、完結。
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