目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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 原作(クソデカ主語)再現に気がつかれた方がいるみたいなのでネタばらししますが。

 八つの枢要罪である『虚飾』は、七つの大罪に変化するにつれて、ある大罪に吸収される形で消滅しました。

 作者は知らないんですが………主人公の『愉悦』とは、七大罪でいえば、いったいどの罪にあたるんでしょうね。


※うちのリル君は、愉悦のためなら腕の一本や角の二本は惜しみません。そんな病み気味主人公です。





止まるんじゃねぇぞ、と団長に言われたので止まらずに書いてみた

 はい。

 

 普通に死ぬレベルの重傷を負ってます。リルです。

 

 パンドラを殺して『虚飾』の権能をゲットしたまではいいけど……マジで歩くのが辛ぇ。ロズっちのところまで歩くのも一苦労です……死んで『見間違え』にするのは経験がなさすぎて怖いので最終手段にとっておきます。

 

 と、遠目で道化服が見えました。これで助かっ…………どうしよう。増援に現れた頭のおかしい魔女教にしか見えねぇ……まぁ某魔人の格好真似てるからしょうがないんだけど。

 

 コレに声をかけるのは流石に憚られるし、襲い掛かるフリしとこ。

 

「……リル!?」

 

「おやぁ?君の仲間かなーぁ、ラム。………ほう。既に全身がボロ雑巾だぁーねぇ」

 

 こちらに気がついたのか、下姉様が僕の名前を呼ぶ。……そして僕の惨状を見て、小さく悲鳴を上げた。

 

 あっ、そんな顔しないで。すごい重傷だから。興奮して血がいっぱい出ちゃう。というか血が目に入って見辛ぇ!!くそぁ!許さんぞペテルギウス!!そしてなんでワイパーを備えつけておかなかったんだ僕の両目!!

 

 ………にしても、実際に聞くと死ぬほどムカつくなロズっちの口調。ボロ雑巾呼ばわりとは。命に関わりそうな傷負ってるから尚更なのかもだが。

 

 と、その腕には上姉様がお姫様抱っこされている。未来の上姉様が見たら歓喜しそうな光景だ。はたから見れば幼女の誘拐犯にしか見えないけど。

 

「……姉様を……返せっ!!魔女教徒ぉっ!」

 

 ついでにお宅で雇ってくださいっ!!

 

「やれやーれ。子供にこんなことをするのは気が進まないんだがぁね」

 

 ボロボロの状態で勝てるわけがないだろ!馬鹿野郎俺は勝つぞ!!

 

 まぁ、勿論こっちが勝つ気もないので速度やら何やらも完全に向こうが上です。

 

 視界いっぱいに蒼が広がる。水のマナですね。あっ、なんか体があったか───

 

( ˘ω˘)スヤァ………

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 知らない天井だ。

 

 嘘だ。

 

 視界が真っ暗なので、天井が見えないのです。

 

 ゆっくりと体を起こす。何やらベッドに寝ているようだが、視界が塞がれているためどうしても確証を持てない。

 

 そろそろ目に触れるか、と思っていたところ、扉を開く音とともに少しハスキーなボイスが聞こえてくる。

 

「おや、起きられましたか。安堵」

 

 ありゃ、この特徴的な喋り方は………

 

「ここは……」

 

「ここは辺境伯様の別邸にございます。説明。あなたは鬼族の村で焼き討ちにあい、そこをロズワール……辺境伯様がお助けした形になります。覚えていらっしゃいますか?質問」

 

 あぁ、うん。間違いない。見えないけど、この独特すぎる喋り方からして。

 

「あなたは……」

 

「名乗るのが遅くなりました。私、このミロード家にて下男として働かせていただいております。クリンドと申します。恐縮」

 

 うん。やっぱり潜在的変態(ロリコン)執事、クリンドさんだ。

 

 外見ではなく内面でもなく、相手の魂を見てロリか否かを判断するアルティメットにハイスペックな変態さんである。変態不審者さん!!

 

 ロズワール家の分家であるミロード家では、いずれ家令にまで出世する男なのだが、どうやら今はまだ下男らしい。

 

「……クリンドさん……この目は……」

 

 言いながら、ペタペタと自分の目を両手で触………ろうとして、片手がないことに気がつく。仕方なく左手で触れると、なにやら布っぽい何かに触れた。

 

「ええ。目の上に傷を負っていたようですので包帯を。我々が治療を担当したのですが、その場所は魔法よりも自然治癒が望ましいものでして。辺境伯殿のお力で治させていただだきます。解説。幸い、今夜にでも帰還してくださるそうですので、申し訳ありませんが、それまでその状態でいていただきたく。懇願」

 

「…………そう、ですか……ありがとうございます」

 

 うん。視力がなくなったわけじゃないのはなんというか、ホッとするよね。どうやら今日中には見えるようになるらしい。最悪また『見間違え』にしなきゃいけないところだった。

 

「………治らないものもあります故、お礼は結構です。謙遜」

 

 治らないもの。そう言われて感じるのは、やけに軽くなった右肩と、力が抜けていくような感覚。……やはり、腕と角は治癒魔法では戻らないようだ。『虚飾』の権能を使ってもいいが……

 

「姉様達は?」

 

「……レム様は既にお目覚めに。今はラム様の様子を見ているご様子です。ラム様も、そろそろ起きる頃でしょう。観測」

 

 クリンドさんがいうならそうなんだろうな(適当)観測って言ってるあたり明確な根拠があるんだろう。………腕と角、やっぱ戻さなくていいかな。

 

 それにしても。……うむむ……憤怒状態になっている自分を見て驚く姉様方もいいのだが…

 

「クリンドさん……もし、姉様がリルに会いたいと言っても、断っていただけませんか」

 

「…………意外ですね。驚愕。目が覚めたら真っ先に姉君へ向かうだろうと、辺境伯様はご予想になられていましたが。的外れ」

 

「……二人の無事は、確認できているようですから。ならちゃんと、目が見える状態で会いたいんです」

 

 初対面の愉悦は逃せません!とんでもない罪悪感を抱えてる二人を目の前にして目が見えないとか、普通に拷問でしかない。

 

「いささか、我々を信じすぎでは?疑問」

 

「クリンドさんが、嘘をつくようには思えませんから。……目、見えないので……勘……ですけど」

 

 左様ですか、とクリンドさんが一言呟き、沈黙が流れる。

 

「………おや。どうやら、ラム様が起きられたようですね。フレデリカが私を呼んでいます。呼応」

 

「………今ほとんど物音すら聞こえなかった気がするような?」

 

 多分(心の中で)呼ばれたんだろうなぁ……この人どんだけ……ホントそういうとこだぞ。

 

「暴れられても大変ですので、いまからその旨を伝えてまいりましょう。伝言。何か他に言い残したことは?問いかけ」

 

「……じゃあ、『上姉様、下姉様が無事でよかった』と」

 

「………承知しました。憂鬱」

 

 では。と、一例した気配とともに、扉が開く音が響く。コツリ、と言う足音が、部屋から出る前で止まる。

 

「あぁ、それと。…………その虚飾(セカイ)は、いかがですか?」

 

 言葉の最後がなく。あくまで普通の人間らしく、クリンドはそう問いかけた。

 

 ………思わぬ、とはいえない問いかけに、少し憂鬱げに吐息を漏らす。ここで答えてしまっても、今後に支障はきたさないのだろうか。彼相手ならば、大丈夫そうな気がしないでもないけれど。

 

「…………それは、ロズワールが?」

 

「いえ。これはミロード家の者としての言葉ではなく、一個人としての言葉です。ロズワール(・・・・・)は知りませんよ。あくまで、同じ時代を生きた者としての、ほんのちょっとした好奇心からの質問です」

 

 その返答に安堵し、質問に答えを返す。

 

 今感じている、その全てを。

 

「……全く以って落ち着きませんよ。まるで──」

 

 

 

──好きな女に、ずっと抱かれてるみたいで。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 さて。クリンドさんが部屋を出て行って一人きりになった。

 

 

 

 

 

 ────ヒャッホォォォォウ!!!!

 

 

 

 

 権能!!権能!!権能だ!!しかも『虚飾』の!!今まで現実感がなかったが、手に入れたのだ。

 

 強力無比!!唯一無二!!強靭!無敵!最強っ!!

 

 喜ぶなと言う方が無理な話だ。男なら一度は憧れる特殊能力が今この手に!!よっしゃぁぁぁっ!!

 

 そりゃ落ち着かないわ!!ワクワクドキドキなんてもんじゃない!!冷静になれば果てしなく夢とロマンにあふれた状況だ!!パンドラに抱きしめられてるって表現もあながち間違い………

 

 

 間違いだ。きっと間違いだ、うん。あいつに抱きしめられたくらいで別に興奮したりしないし。発言を撤回する。そんなことはない。

 

 

 とりあえず、この権能に名前をつけよう。いつまで経っても『虚飾』の権能だけでは不格好だ。ペテルギウスの『見えざる手』ほどわかりやすくてはいけないが、レグルスの『獅子の心臓』やカーミラの『無貌の花嫁』ばりにかっこいい名前は欲しい。

 

 ………が。

 

 なかなかいい名前が思いつかない。どうも、僕には昔からネーミングセンスがないのだ。上姉様の極滅刀も、あれはあれでどうかと思うが。………そういえば、極滅刀が今手元にないけど、どこいったんだろ。

 

 いっそのこと特徴から見て大嘘憑き(オールフィクション)にしようかと思ったが、肉体が雑魚と呼ぶには魚に失礼なレベルに弱くなりそうな上に『』(カッコ)つけることになりそうなのでやめておいた。

 

 その他にも色々と現実改変に沿った名前を考えていたが、これがどうもうまくいかない。『獅子の心臓』と『小さな王』をモデルにもしてみようかと思ったが、あれは星系に詳しいスバル君だから持っていた知識だし、そもそも僕の名前は星じゃない。

 

 ………いっそのこと、アイツの名前からつけてやろうかと思った。死ぬ寸前まで笑っていた、嘘つきな虚飾の魔女の名前から。

 

 パンドラという名前から一番最初に思いつくのは、やはり神話の『パンドラの箱』だろう。確か絶対にあけてはならないとされた箱をパンドラという女が開けてしまい、世界に絶望やら不幸やらが溢れ出したとかいう。最後に箱に残っていたのは、ほんのちっぽけな希望だった、というので話のワンセットだ。

 

 ………あの女、神話でも余計なことしかしてなくないか?

 

「…………やめやめ。同一人物ってわけじゃない。別に、アイツからとってくる義理もないわけだし」

 

 思考を止め、一旦休憩する。

 

 そうして静かな部屋でぼうっとすると、思い浮かぶのは眠る前の記憶。

 

 

『………ふふ、ふふふっ……そう、ですか。終わり。……終わり、ですか……あぁ、はは。いざ迎えてみれば、なんとまぁ、呆気のない………』

 

『…………いいでしょう。パンドラの名において、あなたの強い意思、決意………そう見えるもの(・・・・・)に、『虚飾』の座を与えましょう』

 

『………私たち、互いを……愛しているのでしょう?』

 

 

 ───そっか。僕、アイツを殺したのか。

 

 落ち着いてくると、改めて実感する。彼女に渦巻いていたものが、今確かに自分に根付いている。それこそが、彼女を殺した証。

 

 脳裏に蘇るのは、恍惚と、全身の熱。そして、虚飾だらけの世界と。……人の肉を裂く、嫌な感触。

 

 人を殺したのは、昨日で九人。だが、魔女教徒を初めて殺したことより。大量に殺したことより。パンドラを殺したことの方が、よっぽど鮮明に記憶に残っている。

 

 後悔がある。

 

 アイツを殺したことじゃない。そうしなければこちらがどんな目に遭っていたかわからないし、どちらかといえばアイツはそれを望んでいた節があった。

 

 そうではなく。

 

 どうせ殺すなら。なんで、僕は。

 

「あんなチンケな鋼じゃなく、手で絞め殺さなかったんだろうな」

 

 自分は愛に狂っている、と、怠惰なる狂人(ペテルギウス)は叫んだ。好きな女を殺してやる、と、僕は叫んだ。

 

 …………どちらにせよ、狂っている。

 

 アイツは死んだ。間違いなく、僕が殺した。

 

 ………なんで、他の方法で殺さなかったのだろう。

 

 あの女の全ての感情を。ありとあらゆる悲鳴を。苦痛を。全て並べて、味わって。潤して。ずっと彼女の死に浸っていられるように手と目と体にその感覚を焼き付けて。それができた。『虚飾』を使えば、出来たはずなのだ。

 

 そうしてから、どうして。僕は………

 

 

 

 

 

 

 ────あ、この思考、ヤバイ。

 

 

 そう気がついた瞬間。僕は、自分で自分を殴りつけて無理やり思考を停止させた。

 

 鈍い痛みが体に走り、頭が一度真っ白になって、正常な思考が蘇る。

 

 今のは、なんだ。

 

 自分が自分でなくなったようだった。ただ体が乾いて、潤すために、何かが必要で。そう。パンドラ。あの女を、死んだはずのあの女を。どうしても、殺してやりたくなった。

 

 奪って、泣かせて、すべてを嬲り尽くしたくなったのだ。

 

 ………もしかすれば、自分はもうとっくに。あの女と出会った、その瞬間から。

 

「………うっそだろ、あの女」

 

 狂って、いるのかもしれない。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「おやおーやぁ?ずぅーっと起きていたのかぁーな」

 

 かなりの時間が経ってから、扉を開く音と共にそんな声が響いた。

 

 かなり元の調子を取り戻して、次こそは権能の名前を考えてやると意気込んでいたところにだ。

 

「………あなたが、ロズワールさん?」

 

「あぁ、話はクリンドから聞いているようだぁーね。全く、今回のことは災難だった。君には同情するよ」

 

 目が見えないのでなんともいえないが。少しばかり本物の同情の色を見せて、彼はこちらに近寄ってくる。………重ねて、いるのだろうか。500年前、魔人に敗れた彼と、今の僕を。

 

「いえ。助けてくださって、ありがとうございます」

 

「………ふぅーむ。もうすこぉし気にすると思ったんだがぁね」

 

「………姉二人が、リルにとってはたった二人の肉親でした。あの二人が助かったのなら、それ以上の幸福はありません。………改めて、感謝を」

 

 こればっかりは本当だ。もし二人が死んでいたら、僕が生きている意味は無くなってしまう。最悪『見間違え』にして蘇らせることもできるが、それは僕の知る未来と、大きく差が出ることになってしまう。

 

「………ほう。ラムと、同じことを言うんだね。……けれど君のは違う。君はどこか……割り切っている(・・・・・・・)。自らの幸せというよりも、在り方を定めるように」

 

「リル自身のちっぽけさは、今回のことでよくわかりましたから。身の在り方を、深く考え直しました」

 

 ………そう。この世界が現実か、偽物なのかなんて、正直もうどうでもいい。僕は、僕の目標を達成する。それだけでいい。

 

「……嫌いではないよ、その考え方は。さぁ、傷を治そう。それが約束だ。───星々の加護あれ」

 

 体に、じんわりと熱が伝わる。おお、なるほど。角に直接マナを流して、鬼族の自然治癒能力を活発化させてるのか。なかなかの力技だ。………ちょっと心地よくて、上姉様ばりに声が漏れてしまったのは内緒である。

 

 およそ5分程度で治療は完結した。自然治癒を使えば本当にすぐだったのだろう。……そこで目を残したところに、ロズワールか運命の悪意を感じざるを得ないが。というか、確実に恩を着せるためにやってるんだろうな。魔法よりも自然治癒の方がいいなんてこと聞いたことないし。

 

「さぁ、目を開けてごらん。恐らく、何もないと思うのだけれど」

 

「………はい」

 

 ゆっくりと、瞳を開く。……部屋は、少し豪勢な客室のように見えた。ベッド、テーブル、椅子、ドレッサーと必要最低限のものがあり、ちょっといいところのホテルくらいの広さだ。うん。特に異常はない。目の前には道化服を着込んだ怪しい男が座っている。うん。異常だらけだ。

 

「特に異常はありません。重ね重ね、ご厚意に御礼を」

 

「………聞いていた通り、その年で礼儀正しいことだ。子供らしくはしゃがれるくらいが、こちらにしてもわかりやすくていいのだけれどね」

 

 ようやく見えた視界に少しだけ安堵を覚えつつ、目の前のロズワールを観察する。道化師の格好。頭がおかしいとしか思えないピエロのメイク。

 

 ………ん?僕、この世界に来て頭がおかしい大人にしか会ってなくないか。子供を排斥する両親や大人に、出会って速攻で土下座をキメる族長。愛だ愛だと煩いペテルギウス、そもそも存在が破綻しているパンドラ。ついでに変態不審者さんクリンドさんと目の前の男。

 

 あっ、この世界リゼロだったわ。納得。

 

「それで?聡い君は、一体これからどうするつもりなのかなーぁ」

 

 真剣な表情を崩し、再び間延びした喋り方でロズワールは話し始める。うん。なんでこんな超イケメンな子安ボイスが、途端に胡散臭く感じるのだろう。

 

「ロズワールさん……いいえ。ロズワール様。この行為が、なんの裏付けもない無償のものではないことは理解しております。対価として釣り合うかはわかりませんが。このリルの忠誠は、あなた様に預けましょう。小間使いでも、愛玩奴隷でも、如何様にもお使いください」

 

「話が早くて助かるねぇ。あぁ、釣り合うとも。君がそうしてくれるなら、姉二人もこちらに取り込みやすい……と、言えば。君は怒るのかなぁー?」

 

「いえ。姉二人も、同じ選択をするでしょう。我らは身寄りのない身。必然、あなた様を頼らざるを得ませんから。……愛玩奴隷は、リル一人で勘弁していただきたく」

 

「そんなことはしないとも。三人には、これから別の場所で働いてもらおうと思っていてねーぇ」

 

 別の場所、というのは、ロズワールの別邸……魔女教に襲撃され、ペテルギウスに襲われ、パックによって倒壊し、エルザに襲われ、メイリィに襲われ、ぶっちゃけここ警備大丈夫?なロズワール邸、ということだろう。

 

 とりあえず、一段落ということだ。……僕は、第一の目標を達成したことになる。

 

 それにしては、物語の完結レベルに頑張った気がしないでもないけれど。

 

「はい。ロズワール様のご随意に」

 

「いい子だ。…………それにしても。今までは血に塗れて見えていなかったが、綺麗な目と髪をしているね」

 

 む。そういえば僕の目は、左が水色、右がピンクのオッドアイだ。ラムレムのちょうど中間のようで気に入っている。確かに、右と左で青と黄色のロズワールに似通って綺麗ではある。

 

「本当に………綺麗な色だ」

 

「はぁ……」

 

 なかなか熱烈な視線を向けられ、僕としては首を傾げるしかなくなる。確かに自分の髪色は、精々ユリウスと若干キャラが被るなぁと思ったことがある程度で悪く思ったことはないし、目の色は好きだが。……そんなに言うほどだろうか?

 

「あぁ、本当に───彼女に似て(・・・・・)、とても綺麗だ

 

 ぞわり、と。背筋に嫌な感じが走る。

 

 待て。待て待て待て待て。ここでいう彼女、というのは。そもそも、ロズワールがそんな曖昧な呼び名で呼ぶのは。十中八九、上姉様(ラム)下姉様(レム)のことではなく。

 

「…………ロズワール様。失礼ですが、自分の姿を見直したく。お鏡を貸していただいても?」

 

「あぁ、いいとも」

 

 ウインクをする余裕たっぷりなロズワールに反応することすらなく、ベッドから起き上がって小さめのバスローブ擬きを着たまま、ドレッサーへと向かう。腕が欠けたことで若干バランスがとりにくいが、それでもゆっくり、ゆっくりとそこに近づき。

 

 ───ウッソだろ、あの女!!

 

 鏡に映った自分の姿を見た瞬間、僕は心の中で悪態を溢さずにはいられなかった。

 

 

 

 だって。そこに、映っていた自分は───

 

 

 

 

 とても美しい、()()()()()()()()()()()()を覗かせていたのだから。

 

 

 




朱雀紅華さんからいただいた挿絵です。

【挿絵表示】


新たな愉悦の予感。

そして溜めきった愉悦が爆発する。

次回、下姉様編。

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