目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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しお身さんが書いてくださいました!フィアラたんです!
 
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 うわーい!作者好みの不良娘だ!ちょくちょく再現絵あるの嬉しさの極みです。ありがとうございます!



フェルト√ 出来すぎた茶番

 フェルトが帰路にたどり着いたのは、もう日が暮れたほどの時間のことだった。

 

 夕日に照らされていた街並みはその色を失い、暗い陰鬱な姿に形を変える。フェルトは光のないその道を、とびきり遅い歩みで進んでいた。

 

 フェルトの全力を出せば、数分とかからないであろう道のり。いつも歩く、勝手の知った進みやすい道。それをのろのろ、のろのろと。歩いているかもわからない歩幅で、一歩ずつ踏み締める。

 

 

 

『フェルちゃん。───大好き』

 

『──バイバイ』

 

 

 そう言い残して、温もりは消えた。唇の感触も、清涼な果物の香りも。確かに覚えていた。確かに得たはずだ。けれど今残っているのは、手が届かなかった無力感だけだった。

 

 フィアラは、連れて行かれた。抵抗もできた。逃走もできた。撃退もできた。フィアラが一人だけなら、いくらでもそう(・・)ならない方法はあったろう。

 

 しかし、フィアラはそのどれもを選ばなかった。フェルトというちっぽけな少女を庇って、何をすることもなく自縄した。

 

 守って。庇って。庇った気になって。自己満足に浸って。その末に、勝手に捕まったのだ。フェルトは、それを望んでなどいなかったというのに。

 

 握りしめた腕に、爪が食い込んで傷をつけていく。少し日に焼けた肌に、紅い粒が五つ浮かんで。

 

 こんなことになっても。フェルトの体は綺麗だった。

 

 フェルトを押さえつけていた男たちは、フィアラの回収を確認すると、フェルトに一切の危害を加えることなくあっさりと解放した。あまつさえ、簡易とはいえ治癒魔法をかけ、男の膝蹴りの痕すらも消されてしまった。フェルトがどれだけ暴言を吐いて引き止めようが、相手にもせず一蹴して。

 

 だからこの体は、全く汚れていない。砂と埃まみれなだけ。いつも通り。フェルトが今つけたもの以外は、傷の一つだってない体だ。

 

 ──本当に、綺麗なのか。

 

 フィアラを犠牲にして。殴られることも、蹴られることもなく。無意味に無傷で返ってきたこの体が、綺麗。

 

「───は」

 

 あまりの馬鹿馬鹿しさに、思わず口から声が漏れた。

 

 フェルトだってわかっている。わかっていた。あの場でフェルトの身の安全を考えるなら、あれ以外の手段などなかったことも。フェルトを人質に取られれば、フィアラがそうするしかないことも。

 

 フェルトは、弱い。

 

 あの場面で、一番の荷物だったのは間違いなくフェルトだ。ゴロツキの男どころか、見下していたあの店長の男よりも、フェルトは弱かった。フィアラに守って貰わなければ何も出来ないくせに、威勢だけはいい餓鬼。それこそが、フェルトという少女の正体だった。

 

 だからこそ、フェルトは逃げるべきだった。フィアラに全てを任せて、逃げ足に物を言わせて、尻尾を巻いて逃げ出せばよかった。

 

 そうすれば、フェルトが人質に取られることもなかった。あのままフィアラが男たちを制圧して、何事もなく事は済んだだろう。

 

 知っていた。ああ、知っていたとも。

 

 それでも、認めたくなかった。あの不思議な魅力を持つ子供に、自分は守られているだけだと。自分に甘えてくるフィアラに、自分が劣っているという事実を。どうしても、認めたくなかった。だから、フェルトは逃げられなかったのだ。あそこで背を向けることは、フィアラに頼ってしまうことになるから。

 

 で。その矮小な自尊心が招いた結果が、これか。

 

 フィアラは連れ去られ、フェルトを人質に鎖に囚われた。フェルトは傷ひとつなく、どころか人質、商品(・・)としての価値すら見出されずに放免。おそらくは、フィアラがそう懇願でもしたのだろうが。

 

「──なんだ。一番汚ねぇの、アタシじゃねーか」

 

 そう自覚して。ふと、足の力が抜けた。そのまま地面にへたり込み、道の真ん中でフェルトは天を仰ぐ。

 

 守られていたことを、駄々をこねる童のように認めず。それ以前に、自分勝手に傷つけて、勝手に飛び出して。招いた厄災に、家族を巻き込んだ。それを生贄に、逃げ延びたとも。

 

 愚かな行動。振り返って、どれかひとつでも改めれば、今回の最悪の事態は招かなかっただろう。

 

 フェルトが自分の弱さを認められていたら。フィアラに変な意地を張らなければ。

 

 否。そもそも、フェルトがフィアラに暴言を吐かなければ。自分勝手に蔵を飛び出さず、謝罪していれば。路地に迷い込まなければ。

 

 どれかひとつでもなければ、フィアラが連れ去られることはなかった。フィアラに。あんな悲しい顔で。あんな悲しいことを、決意させなくて、済んだかもしれないのに。

 

「………は?」

 

 冷たい感覚があった。あるはずのない、あってはならない感触があった。握りしめられた拳の上に、水滴が落ちていたのだ。

 

 一粒、二粒。雨が降っているわけでもないのに、ぼとぼとと落ちていくそれが、フェルトの手と、硬い地面を濡らしていく。視界がぼやけて、すぐに粒がいくつあるのかすらも、わからなくなって。

 

「……なん、で……だよ……!アタシに、泣く………資格なんて、もう………!」

 

 我慢していたはずなのに。フィアラがあんなにも気丈に振る舞って。涙ひとつさえ流さなかったのに。どうして。

 

 フェルトの何倍も怖くて、嫌な思いをしたはずのフィアラが、泣かなかったはずなのに。

 

 擦って、擦って。そんなものはなかったのだと、否定するように。腕で目を押さえて。指で目を押さえて。必死に、その事実を隠そうとする。

 

 こんな自分勝手な泣き方が、許されるはずがない。何も痛くないのに。何も苦しくないはずなのに。泣くだなんてことが、許されるはずがない。

 

「止ま、れ……!止まれ……!止まれよ……!止まれぇぇっ……!」

 

 叫んだ。乾き切った喉で、必死に目頭を押さえながら喚いた。それでも、滴り落ちていく涙は止まらなくて。溢れ出る感情の渦も、後悔の念も、無力感も、罪悪感も。ありとあらゆるものが、決壊したように溢れ出した。

 

 もう、フィアラには会えないだろう。

 

 なんとなく、そんな予感がしてしまった。遠く、遠く。手の届かない場所にフィアラが消えてしまう。そしてそれが現実になるであろうことも、フェルトは確信していた。

 

 一度掴んだフィアラという極上の獲物を、きっとあの男たちは逃さない。

 

「なぁ、教えてくれよ……」

 

 泣いて掠れた声が、譫言のように言葉を紡ぐ。虚空に響く声を、聞く存在はいない。

 

「なんで、アタシを……アタシなんかを、助けてくれたんだよ。フィー……」

 

 こんな。こんな、価値のない自分に。痛くも苦しくもないのに、泣いてしまうような弱い自分に。どうして。どうして。あんな優しい言葉をかけて。ずっと、守ってくれていたのだろう。

 

 問いは届かない。あの時と同じように。答えも当然、返ってこない。

 

 虚無と無力が、フェルトをゆっくりと腐らせていった。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 光の一筋も差し込まない暗がりの空間。とある地下の一室。冷たい石造の部屋の中。少しの音すら大きく響く部屋の中。一定のリズムで、何かがしなる音と、男の荒い息遣いが響いていた。

 

 はーい、どうも。僕です。

 

「ほらほらぁ!鞭の味はどうかな、フィアラちゃぁん!」

 

「…………」

 

 半裸に剥かれて絶賛鞭打ち中だよ。

 

 暇。

 

 僕だ。

 

 うん。暇。

 

「痛くてもう声も出せないかなぁ?水もずっと飲んでないもんね。ねぇ、欲しい?」

 

 違ぇよ。呆れて声が出ねぇんだよ。

 

 あの。僕、一応この世界で最高峰の拷問受け続けてたんですよ?多分最悪レベルの。四肢の切断くらいは当たり前。耳剥がしとか血のマニキュアとか散々やられて。まぁ、拷問は軽くトラウマなんだけども。

 

 拷問と聞いて待ち受けていたのが、まさかの鞭打ち。淡々と、暗い室内での鞭打ちだ。

 

 効くわけないよなぁ!?拷問童貞に拷問(被害者)のプロは負けねぇんだよ!

 

 断水だってたかが丸一日程度。熱い地下でいくら喉が渇こうが、カペラに一ヶ月1万円生活のノリで一週間水無し生活を強要されてきた僕にとっては大した苦痛ではない。

 

 気分はゾルディック家編のキルアである。俺、家庭の事情で痛みとかに慣れてんだよね。………実際実家殺し屋みたいなもんだし、あながち間違ってない気がする。僕はキルアと幼なじみだった……?(経歴詐称)

 

 拘束されて鞭打ちとか、ひたすら暇。しかも拘束の緩いこと緩いこと。鉄の金輪とはいえ、これなら結び方が特殊な荒縄の方がまだマシ。誇張なしでいつでも抜けられる。許されることなら拷問ながらスマホしたいぐらいだ。

 

 縄抜けの技術も、最高峰の妓女になるなら必要になる。拘束プレイとかから主導権握る時とかに使うからね。おかげで全身の関節は外したい放題だ。

 

 てか、見た感じフェルちゃん一緒に拘束してないのはズブの素人だからなのか?お?もう人質いないから脱走するぞ?しかも娼館の場所バレてるんだし、せめて適当なところに移転しろよお前ら。悠長に餓鬼嬲って楽しんでんじゃねぇよ。金あるだろ。それなりにこの店にくれてやったぞ。

 

「なぁ、旦那。そろそろ変わってくださいよ。ウチの奴らだってコイツにこっ酷くやられてんだ。俺らにも面子ってもんがある。このまま放免じゃアイツらも納得しねぇんだ」

 

「その分金を弾んでやっただろう!ダメだ!フィアラちゃんは俺の物だ!誰にも手出しさせん!」

 

 うわ、何この誰も得しない三角関係。キモっ……

 

 てか君ら、拷問知ってる?拷問じゃなくても折檻とかさ。多分知らないんだろうけど。

 

 ひたすら鞭打ちって、もう馬鹿なんじゃないかな。せめて拷問の手段を変えろよ。それに口論で休む暇与えてどうするんだよ。せっかく精神追い詰めるチャンスがあるのに逃すなぁ!

 

 つーか、さっきから表面上の痛みだけで何やりたいんだよ!目的意識に欠けてるんだよ!現代にありがちな若者か!?

 

 ただ苦痛やら痛み与えたいなら指もぎもぎからが本番なんだよ!あれ堪えるからな!関節外れると痛みは倍だし!指がなくなるのはその後の想像が勝手に膨らむし!なんなら髪でもいいぞ!皮膚ごと持ってくからかなり痛い!

 

 ───なんで拷問してくる相手に拷問の講義をせにゃならんのだ。

 

 わざわざ口に出して自分の状況を不利にしたくないけど、あまりの下手さに口を挟みたくなる。これはあれだ。スポーツとかで自分に有利な判定を審判がしたけど、実は間違ってると言いたくなるアレ。フェアプレイの精神というやつか。拷問にフェアプレイってなんだ。

 

「……から!こっちも面子ってもんが……」

 

「………金……何とか……!」

 

 あ〜眠。あくびを噛み殺すのに苦労するわね。大人って大変だ。仲裁してあげたいなぁ。絶対火に油だけど。

 

 にしてもまぁ。存外上手く行くものだ。予定通りすぎて怖いくらい。独占欲が強いそこなデブハゲに『傭兵を雇い、包囲網を敷いてかかった子供を人質にすれば僕が帰ってくる』という内容の手紙を匿名で出して、フェルちゃんを煽って僕を傷つけさせ、盗品蔵から外に出す。そしてその場所に誘導して、庇うフリをして捕まる、と。

 

 簡略化して説明してみたが、ここまでの流れはまさに描いた台本通り。最後のフェルちゃんの顔は多分一生忘れられないだろうし、満足これ極まりない。拷問も緩いし、得た報酬にはお釣りが来るくらいだ。

 

 店長が僕に執着しているのを知っていた。フェルトが自分に性欲紛いの恋心を抱いているのを知っていた。ロム爺がティフィについて調べてくれているのを知っていた。どうすればどんな行動を取るか、どこに行くか。おおよそ予想がついた。

 

──この世界で得た不思議な力、加護。『慧眼の加護』は、僕に全てを伝えてくる。

 

 この力を意識したのは、いつのことだったか。多分、初めてフェルトに会った頃にはもう使えるようになっていた。

 

 目を合わせると、相手の思考が流れ込んでくる。相手の考えがわかる。相手の欲求がわかる。『慧眼』の名に恥じない観察眼を得るこの加護は、このストーリーを組み上げる上で重要な要素になってくれた。

 

 この『遺産』によって、店長の欲望を知った僕は、それを利用して、僕はフェルトと自分自身を引き離した。………多少なり趣味入っていなかったと言えば嘘にはなるが。おおよその目的は果たせたといえよう。

 

 ここでフェルトと別れることは、僕にとっては最重要課題だった。

 

 このまま行けば、恐らく3、4年後。この世界は『ナツキ・スバル』という異物を迎え、エミリアという少女たちを中心として時間を進めていく。その中心に、フェルトを巻き込んで、だ。このままいけば、僕もその中に混じることになる。

 

 そんなことがあってはならない。僕という存在が。この空虚な生き物が。彼らと関わるなど、あってはならない。

 

 液体一つで化学反応が起こらなくなるように。僕という奇妙極まりない歯車が加わることで、彼らの人生は大きく歪むかもしれない。或いは何処かで歯車が狂い、いつかの世界線のようにルグニカ全土が深刻な被害を被る可能性もある。

 

 フェルトは暫くは落ち込むかもしれないが、しかし僕とはたった一年程度の付き合いだ。多少引きずることはあっても、数年も経てば忘れよう。

 

 ……欲を言えば永遠に引きずっていて欲しいが。それには共に過ごす時間が足りなかった。本来ならあの別れ方をもう一年は過ごしてからやる予定だったが、本当の目的のタイムリミットが迫っていたから、別れざるを得なかったのだ。

 

 

 僕の本当の目的。

 

 

 カペラの元に、帰るための。

 

 

 

 




 はじめてのごうもん。てんちょうくん、じょうずにできるかなぁ?

 ちゃんと過去の話に、フィアラちゃんが慧眼の加護受け継いでるっぽい描写散りばめてあるから、暇な人は探してみてね。
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