碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第9話 第5の使徒

 

 

 

 前回と違ってシンジは学校で孤立していなかった。とはいうものの、人気者というわけでもない。第4の使徒を倒してから3週間が経過したが、クラスメイトはトウジやケンスケを除いて遠巻きに見ているだけだ。

 

 シンジは視線が痛いので、昼休みは屋上で昼食をとり、食べ終わると寝っ転がって音楽を聞いている。筋肉痛も酷く、リツコにもらった薬で少しは楽になっているものの、やはり身体が軋む。

 

 目を瞑って音楽を聞いていると、頭の近くに誰かの気配があった。

 

「非常呼集。行きましょ」

 

 レイだ。

 イヤホンを取って起き上がるシンジ。

 

「わかった」

 

 チラリとレイを見ると、怪我は完治しているようだった。シンジの記憶にあるのは次の使徒が来ても包帯を巻いているレイの姿だったが、よく考えると第4の使徒戦から結構経っていたのを思い出す。出現時期も変わっているのだろう。

 

 また、このタイミングで呼ばれたということは使徒が来たという事。2人の間に会話はなかったが、走ってNERV本部まで向かって行った。

 

 そして第1発令所では、海から来る正体不明の飛行物体を捕捉していた。

 

「謎の物体を光学で確認」

 

 シゲルが目標をモニターに捕らえる。

 

『偵察機も対象を確認』

 

「分析パターン、青。間違いなく第5の使徒よ」

 

 モニターの情報を確認したリツコが、ミサトへ振り返る。

 

「総員、第一種戦闘配置!」

 

 ミサトの号令で主モニターの表示が次々に切り替わった。

 

「了解、第一種戦闘配置。地対空迎撃戦、用意!」

 

 指示を受けたマコトがさらに号令を掛ける。

 

「第3新東京市、戦闘形態に移行」

 

「中央ブロック、収容開始」

 

 第3新東京市の高層ビルが足元のロックが解除されると地下に収納されていく。また、それと入れ替わるようにして、迎撃用兵器を搭載した兵装ビルが次々と地上に準備されていく。

 それ以外にも列車砲や山肌に隠されたVLSも姿を現した。

 

「中央ブロック、及び第1から第7管区までの収容完了」

 

 ジオフロントの天井に収納されたビルが伸びていく。

 

「政府、及び関係各省への通達終了」

 

 オペレーターの通知に続いてシゲルが報告を入れる。

 

「目標は依然侵攻中。現在、対空迎撃システム稼働率48%」

 

「非戦闘員及び民間人は?」

 

 ミサトが最終的な確認を済ませる。

 

「既に退避完了との報告が入っています」

 

「よろしい」

 

「国連軍が攻撃を開始!兵装ビル群も攻撃を開始します!」

 

 発令所のパネルには国連軍や兵装ビル群が様々な火砲で使徒を攻撃しているのが映し出されている。

 列車砲やミサイル、速射砲。誰が作ろうと言い出したのかがわからない46cm三連装砲といった旧式兵器群。それにVTOL攻撃機も第5の使徒を遠距離から攻撃しているが、やはり効果はない。

 

「全く。税金の無駄遣いね」

 

 リツコは全く効果がない行為に嫌味を言う。

 

「この世には弾を消費しとかないと困る人たちもいるのよ。期限切れの弾薬ならまだしも新品よ?そんなに金が大事かしら」

 

 だがその困る人達は国連にも強い影響を及ぼしている。なので一応、仲良くしておかなければならない。ミサトはひとまず関係者が気が済むまで黙って攻撃させることにした。

 

 しかしそんなに持たないはずだ。

 そうミサトが思っていると、オペレーター席に電子音が鳴った。

 

「日本政府からエヴァンゲリオンの出動要請が来ています」

 

 早速シゲルから報告が入る。

 

「うるさい奴らね〜。言われなくても出撃させるわよ。初号機移動開始。レイは予備として待機させておいて」

 

 腕を組んで立っていたミサトは、低い声で愚痴をこぼす。

 

 その頃シェルターでは――

 

『小中学生は各クラス、住民の方々は指定された各ブロックごとにお集まりください。第7管区迷子センターは、第373市営団に設置してあります』

 

 避難所に集まった住民の中にトウジとケンスケの姿があった。ケンスケは持っていたビデオカメラでテレビから情報を得ようとするが、非常事態宣言発令中の画面に切り替わったままでうんざりしていた。

 

 本日午後12時30分、日本国政府より特別非常事態宣言が発令されました。新しい情報が入り次第お伝えいたします。

 

 と、画面には映し出されている。

 

「うぅっ、まただ!」

 

 ケンスケはビデオカメラに付いた小さなモニターをトウジに向けて見せる。

 

「なんや、文字だけなんか?」

 

「見ろよ、報道管制って奴さ。僕ら民間人には見せてくれないんだよ!こんなビッグイベントなのに!」

 

 別にビッグイベントではないのだが。

 というか負けたら人類滅亡という最悪の結末が待っている。最終手段として、NERV本部や第三新東京市を巻き添えとした自爆攻撃も用意されているが、もちろん一般市民は何も知らない。

 いや、知らない方がいい事もあるのだろう。

 

 ケンスケはアンテナを伸ばしてあちこちに向けているが、やはり何も映らない。ハッキングという手段も彼の頭に浮かんだが、それを行うための機材がないし、第1そんな事をしていたら怪しまれる。

 

「な、なぁトウジ?」

 

「あかんで」

 

「え?」

 

 意を決してトウジに話しかけるが、内容を言ってもないのに拒否される。

 

「ケンスケの考えている事くらいわかるわい。シンジの言うてた事忘れたんか?」

 

「で、でも」

 

「実物を見せるって約束してもらったやろ?それでええやないか」

 

 ケンスケの頭の中に学校で3人で話した内容が浮かぶ。確かに自分達がいてはシンジは戦いづらいだろう。そして互いの命も危うい。

 自分の欲を取るか、自分達の命を取るか、選択肢は2つに1つだ。

 

 そしてケンスケには前者を取るという非情な真似はできなかった。

 

「わかったよ。大人しくしてる」

 

「せやせや。シンジが帰ってきたら色々聞いたらええ!」

 

「しーっ!」

 

「あ、スマン委員長」

 

 トウジとケンスケがわいわいやってる一方、シンジは初号機の中にいた。時々聞こえてくるオペレーターの声から察するに、既に使徒は第3新東京市の上空にいるらしい。

 

『シンジ君出撃よ。いいわね?』

 

 エントリープラグ内でぽけーっとした顔をするシンジの元へミサトからの通信が入る。

 

「はい」

 

『いい?敵のATフィールドを中和しつつ、ガトリングの一斉射。練習通りにね』

 

 リツコはシミュレーションで教えた通りやればいいと指示を出す。今回は様々な武器の中から、エヴァンゲリオン専用のガトリング砲が選択された。

 

「了解です」

 

『では、発進!』

 

 ミサトの号令で、初号機は地下発射台から打ち上げられた。Gがシンジを襲う。

 

 第5の使徒は攻撃ではない何か大きな音が近くのビルからしたのを感じると、その方向を向き光る鞭をうねうねさせてじっと待った。

 初号機は地上に到着し、ビルの影から出るとガトリング砲を一斉射した。狙いはコアや頭の部分だ

 

「中和してるのに効かないや。ん・・・・・・?うわっ」

 

 ことごとく弾丸・・・・・・いや、砲弾を弾き返した第5の使徒は、鞭を振って初号機に襲いかかる。

 初号機はガトリング砲を下ろし、なんとか躱す。鞭は後ろのビルを真っ二つに切断した。

 

「ミサトさん!もっと軽い銃を!」

 

『わかったわ』

 

 シンジがミサトに新しいライフルを要求する。ガトリング砲もいい武器ではあるのだろうが、いかんせんデカくて重いのだ。鞭を高速で操って襲ってくる使徒に対しては、初号機の移動を制限され上手く行動できない。

 

(なんか武器が後出しジャンケンになってる気がするなぁ)

 

 そうシンジが思っていると、すぐ横の兵装ビルのシャッターが開き、アサルトライフルと換えの弾倉が姿を現した。

 アサルトライフルを手に取り、移動しながら発砲を続ける初号機。弾倉を交換して攻撃を再開してもやはり傷がつく気配もない。

 

 発令所の方からは何も指示がない。ひとまずシンジにやらせてみようという事か。

 

(槍は切断されそうだし・・・・・・やっぱり接近戦でやるしかないか。痛いのはやだなぁ)

 

 このままではジリ貧だ。シンジは意を決すると、使徒の裏側に回って単発射撃。使徒が攻撃するのをジャンプで避け、肩からナイフを取り出した。

 

『シンジ君!?』

 

 ミサトの驚く声が聞こえる。

 

「遠距離攻撃じゃ埒が明きません!近距離戦に切り替えたいんですけど」

 

『で、でも・・・・・・』

 

『かまわん。やれ』

 

『司令?』

 

 渋るミサト。すると意外にもゲンドウが許可してきた。

 

『やれるのならやらせろ。我々の目的は使徒殲滅。手段は選んでいられん』

 

『・・・・・・わかりました。シンジ君、聞こえたわね?』

 

「はい。ありがとうございます」

 

 シンジも内心びっくりしていた。まさかあの父親が許可を出すとは思っていなかったからだ。もちろん人類補完計画を実行するためなのだろうが、これは予想外だった。

 

 ともかく許可は取ったので命令違反というわけではなくなった。

 シンジは攻撃を避けながら再びガトリング砲の置いてある場所に戻ってくるとガトリング砲を持ち上げ、煙で互いが隠れるまで斉射。見えなくなるとナイフに持ち替えてジャンプ。後ろから突き刺したが甲羅のような物に弾き返された。

 

 使徒はくるりと向きを変えると初号機へ向けて鞭を繰り出す。

 

(中和したのに弾かれるなんて!こうなったら!)

 

 シンジは覚悟を決めると左腕を曲げて前に突き出して突進した。

 鞭が初号機を攻撃する中、シンジはその1本を掴んだ。とてつもない熱さがシンジを襲う。

 さらに掴んだ手を離させようと、使徒は腕に鞭を突き刺した。前回腹を突かれたので予想はしていたが、やはり貫通性もある鞭だった。

 

『シンジ君!』

 

 ミサトの悲鳴が聞こえる。

 しかしシンジはこの攻撃を待っていた。

 腕を貫通する鞭を力を入れて抜けなくしたため、左腕で2本の鞭を封じてしまえた。

 

「ぐ・・・・・・!はぁぁっ!」

 

 痛みに耐えながらシンジはナイフをコアに突き刺した。火花が散り、使徒が逃げようと動き回る。ATフィールドは上手く中和しているようだ。

 

(い、痛い・・・・・・けど!)

 

 シンジは右腕に意識を集中し、思いっきり力を込めて操縦桿を前に出した。するとナイフがコアに刺さり始める。

 

 あと少しといったところでシンジはナイフから手を離して使徒の胴体を掴み、足をナイフに向けて蹴った。

 ナイフはコアの中心まで到達。コアは砕け散り使徒は動きを止めた。そしてコアと使徒は破裂し、大量の血を噴き出し初号機とその周囲を赤く染めた。

 

 血の流出が収まると、初号機は出てきたビルまで戻り、格納庫へ帰って行った。アンビリカルケーブルが切れなかったのが幸いだった。でなければ自分で帰還する事はできなかっただろう。

 初号機から出てきたシンジは医療施設へ運ばれ検査を受けた。被害は左手と左碗部の火傷だけだった。また、鞭が貫通した左腕が痛むため痛み止めを貰い、念の為1晩入院することとなった。

 

 その頃、ゲンドウと冬月が司令室へ消えた第1発令所では、ミサトとリツコがコーヒーを飲んでいた。

 

「はぁ・・・・・・」

 

「ミサト?」

 

「今考えると遠距離攻撃の作戦は良くなかったなーって」

 

 ため息をつきながらコーヒーを机に置いたミサト。

 

「ミサトの場合は私恨が邪魔しているのよ。作戦課長がそんな事では困るわ」

 

「・・・・・・そうねぇ」

 

「まぁ今回の戦闘で保有している遠距離武器の威力の無さはいいデータになったし。別に悪くはなかったわよ」

 

「・・・・・・」

 

 ついには黙り込むミサト。オペレーター達も何も言えない。

 

「うじうじしてないで!次の作戦でも考えなさい!」

 

「わかったわ。シンジ君に無理はさせらんないもんね。よーし、やるか!」

 

 そう言ってミサトは発令所を出ていった。

 

 一方、司令室でもゲンドウと冬月が今回の戦闘映像を観ながら話し合っていた。

 

「お前の息子は予想以上に使えるな」

 

「ああ。今度は次の使徒が来る前にレイに接近させる」

 

 ゲンドウは落ち着いた雰囲気で冬月の声に答える。彼らのシナリオはゼーレの物と同じ路線を走っているが、着実に分岐点に近づきつつあった。

 

「14年前から運命を仕組まれた子供達・・・・・・か。過酷だな」

 

 冬月はそう言って将棋の本を開いた。




特報3見ました。
お揃いのプラグスーツを着てたのには驚きましたね。あと10号機(零号機がベース?)が動いてるのはなんか感動しました。
あの映像が使われるのか使われないのかはさておき、1人のエヴァファンとして来年の映画を楽しみにしています。

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