怪我も治り、訓練も順調に進んでいたシンジは学校へ来ていた。
元々学校へは行くはずだったのだが、やはりいつ来るかわからない使徒に対してはそのスケジュールが狂ってしまう。使徒戦後も色々と検査しなければならないのだ。なので学校に来たのは10日ぶりだった。
しかし、怪我や使徒以外の出来事がシンジを襲う。
(いたた・・・・・・まさか筋肉痛に悩まされるなんてなぁ)
NERVへ所属してから約1ヶ月が経ち、シンジはようやく新しい暮らしにも慣れてきた。ほぼ毎日のように訓練や筋トレに励み、細く柔らかかった腕も少しだが脂肪が落ちてきたと思う。身長も成長期らしく伸び始め、体重も少しずつ増えてきている。
だがその度に筋肉痛や成長痛に悩まされるとなるとさすがに嫌になってくる。使徒に攻撃されて苦痛を味わうよりはましなのだろうが・・・・・・。
勉学もなんとか追いつけるようになり、これなら問題はないと思われた。
再び訓練を再開し、教官の坂本に対して何発か攻撃を入れられるようになってから1週間後、第3新東京市上空に巨大な飛行物体が現れた。
まるで著名な者が作った彫刻のように正確な正八面体をしたその形状は、ゆっくりとジオフロントがある方へと近づいて行く。発令所では【分析パターン:青】を確認し、第6使徒として認定していた。
『監視対象物は、小田原防衛線に侵入』
『未確認飛行物体の分析を完了。パターン青。使徒と確認』
オペレーター達が報告する中、そこへゲンドウと冬月がブリッジに乗って上がってくる。
「やはり、第6の使徒だな」
冬月が言う。
「ああ。初号機を出撃させる」
ゲンドウは、そう言って指で眼鏡を上げる。
だが――
「待ってください!」
「葛城二佐?」
「敵の能力が不明のまま出撃させるのは危険です。威力偵察を進言します」
これはミサトが考えた案でもあった。
これまでの2体の使徒は、その形状や事前攻撃で攻撃方法が確認できた。しかし今回の使徒は全く予想できない。物理攻撃なのかレーザー攻撃なのか、近接戦なのか遠距離戦なのか、何も知らないのはまずい。パイロットを失ったら元も子もないのだ。
発令所の職員はミサトの発言に驚いていた。彼女の性格を表わすのなら【猪突猛進】。
とりあえずやってみるか。というのがミサトだった。しかし、今回は作戦課長という肩書きが似合うような発言をしていた。
司令台のゲンドウと冬月もミサトの意見具申に内心驚いていたが、表情には出していなかった。
「目標は芦ノ湖上空へ侵入!」
シゲルが状況を伝える。
時間がない。判断が迫られる。
「よかろう。やりたまえ」
「ありがとうございます」
ミサトは一礼すると正面に向き直る。
「それでは威力偵察開始!列車砲用意!」
「第1、第2列車砲を出します」
マコトが現場要員に指示を出すと、トンネルから列車砲が出撃する。
「諸元入力よし!」
「発射!」
列車砲から砲弾が発射された。
その光景は格納庫にいるシンジにも見えていた。
(よかった。今回はいきなり出されなくてすんだ)
またあの荷電粒子砲の前に立たされると覚悟していたが、正直出たくはなかった。ATフィールドでどれだけ無効化できるのかもわからない攻撃を受けるのは嫌だったからだ。
安堵しているシンジを他所に、2発の内1発の砲弾が使徒に命中する。
一見効果はないように見える。それは想定内だったが、使徒がその形を変え始めるのを見て発令所内は驚きの声に包まれた。
「何あれ変形するの?」
「第6の使徒は何で出来ているのかしら。サンプルが欲しいわね」
一方でのんきに話す女性2人。
「目標内部に高エネルギー反応!」
「は!?」
マコトの言葉に一変して驚くミサト。机から身を乗り出してパネルを見た。
次々に変形していく使徒。
コアが現れそこに光が集まったと思ったら、高エネルギーの荷電粒子砲を砲弾が飛んできた方向に向けて発射した。
発射された荷電粒子砲は2つの内1つの列車砲をトンネルごと吹き飛ばした。残る1つも爆風で脱線してしまった。
「列車砲消滅!」
『一部防衛システムに不具合発生!』
「復旧、急いで」
攻撃を終えた使徒は元の八面体に戻り、再び移動を開始した。
「予想以上の威力ね」
「どうします?これでは初号機も零号機も出せませんよ」
悩む一同。
その頃、使徒はゆっくりと飛行しながらジオフロントの真上まで侵攻していた。
地下のNERV本部がある位置で停止すると、正八面体の地面に最も近い部分をドリル状に変化させて地面に突き刺した。地面に突き刺さったドリルは、そのまま地下を目指して掘り進んで行った。
警報音が発令所に鳴り響く。
『使徒が装甲板へ侵入』
『ATフィールドを展開して降下しています』
「葛城二佐」
「はい」
ゲンドウはいつものポーズを解くと、冬月とエレベーターの上に立つ。
「作戦を考えたまえ。私は一旦司令室へ戻る」
「了解です」
2人が出ていった発令所の空気は少しだけ軽くなった。
ミサトは戦術作戦部作戦局第一課の職員を別室に招集し、使徒殲滅に向けた作戦会議を行い始めた。パイロットはプラグスーツ着用のまま待機させてある。
「現在目標は我々の直上に侵攻。ジオフロントに向けて穿孔中です」
「狙いはネルフ本部への直接攻撃か。では各部署の分析結果を報告して」
「先の戦闘データから、目標は一定距離内の外敵を排除するものと推察されます。また、受け身であるため向こうからは攻撃しないでしょう」
男性職員がパソコンに出したデータを見ながら報告する。使徒は一定範囲内の物体を敵と認識すれば攻撃してくるが、何もしないと襲ってこないのだ。
「エヴァによる近接戦闘は無理というわけね。ATフィールドはどう?」
ミサトがマヤの方を見る。
「健在です。おまけに位相パターンが常時変化しているため、外形も安定せず中和作業は困難を極めます」
リツコの隣に座ってノートパソコンを開いているマヤは、ミサトの方に体を向けて分かっている事を告げる。続いてミサトの後ろに立っていたマコトが発言する。
「MAGIによる計算では、目標のフィールドをN2航空爆雷による攻撃方法で貫くにはネルフ本部ごと破壊する分量が必要との結果が出ています」
「松代のMAGI2号も同じ結論を出したわ。現在日本政府と国連軍がネルフ本部ごとの自爆攻撃を提唱中よ」
リツコは眼鏡を掛けてデータの書かれた紙をめくる。
「対岸の火事と思って無茶言うわね。ここを失えば全てお仕舞いなのに」
ミサトは上を向いて愚痴をこぼす。最近上層部に対しての愚痴ばかりだが、何も知らない連中なのでそこまで強く言えない。
「しかし、問題の先端部は装甲複合体、第2層を通過。すでに第3層まで侵入しています」
机の真ん中に座っている男性職員が伝える。
「今日までに完成していた22層の全ての複合特殊装甲体を貫き、本部直上への到達予想時刻は、明朝0時06分54秒。あと10時間14分後です」
既にカウントダウンが始まっているモニターの光に照らされながらシゲルがミサトを見る。
「遠距離戦もダメ。近接戦もダメ。八方塞がりか・・・・・・」
「白旗でもあげますか?」
「まさか。でもちょーっちやってみたい事があるの。戦自研の極秘資料あったわよね?」
「ええ・・・・・・まぁ」
会議室にいる全員を強い眼差しで見つめるミサト。言葉ではあまり感じられないが、その目からはまだ諦めていないという強い意思を感じた。
数時間後――
「しかしまた無茶な作戦を立てたものね、葛城作戦課長さん?」
ミサトとリツコは、新たな作戦の準備のために早速現地へと飛んだ。パイロット2人には仮眠を取るように言ったため、今はまだ寝ているだろう。
「無茶とはまた失礼ね〜。残り9時間以内で実現可能、おまけに最も確実なものよ?」
ミサトはヘルメットを被って建設中の作戦現場を進んでいた。そして列を成す大型ダンプカーの間を通って目的の場所へと向かう。
そこには山を削り、鉄骨鉄筋コンクリートで段々に作られた施設があった。
「ヤシマ作戦。その名のごとく日本全土から電力を接収し、戦自研が極秘に開発中の大出力陽電子自走砲まで強制徴発。未完成で自律調整できない部分はエヴァを使って精密狙撃させる。国連軍はいいとしてよく戦略自衛隊まで説得できたわね」
ミサトとリツコは次々と資材が運ばれる現場を確認しながら歩く。
「ま、いろいろと貸しがあるから」
そして2人は高台に上ると湖の向こうに見える使徒の姿を捉えた。本作戦はこの場所から決行される予定になっていた。
高台からはこちらに向かってくる車や列車が光の列になって動いている。
リツコはその光景を見てつぶやく。
「蛇の道は蛇ね」
『今夜、午前0分より未明にかけて全国で大規模な停電があります。皆様のご協力をお願いします。繰り返します。午前0分より未明にかけて、全国で大規模な停電があります。皆様のご協力をお願いします』
市街地では至るところで市民向けのアナウンスが繰り返されていた。同時に第3新東京市の市民達はリュックやバッグを持って避難を開始している。
トウジとケンスケは避難所に向かう前に、公衆電話である場所に電話をかけようとしていた。
「じゃ、いくで」
「ああ」
第3新東京市に設置してある旧式兵器群は一部を覗き撤去する予定でいます。大和砲とかね。