碇シンジはやり直したい   作:ムイト

15 / 64
第14話 勝利の余韻

 

 

 

 歓声を上げるNERV職員と第3新東京市市民。

 今回は外へ避難場所を設けていたため、一般人にもよく見えたのだ。

 

 一方で片膝をつく零号機。そしてそのままかと思いきや、ゆっくりと倒れてしまった。

 

「綾波!」

 

 前よりダメージは少ないはずたが、初の実戦というだけあって疲労が生じたのだろう。

 レイも震える手でエントリープラグの排出装置を押し、零号機の外へとエントリープラグを出した。

 

 ゴトリと地面に転がるエントリープラグ。

 シンジは初号機から降りて零号機の元へ向かった。ミサト達には連絡して救護班を呼ばせてある。

 

 零号機のエントリープラグの周りには排出されたL.C.Lが溜まっており、地面はぬかるんでいた。ハッチのロックも開けられているが、レイは出てこない。

 

「綾波?」

 

 シンジはものすごく熱いハッチを全開にして開け、中を覗き込んだ。

 

「碇君・・・・・・」

 

「よかった」

 

 どうやらレイはハッチのロックを外すのが限界だったようだ。

 

「本当によかった」

 

 シンジは自分のせいで第10の使徒への特攻を許してしまった事を思い出し、自然と涙が出た。

 

「ごめんなさい。こんな時どうすればいいのかわからないわ」

 

「笑ってよ。生きて戻ってこれたんだからさ」

 

 困惑するレイに、シンジは手を差し伸べながらそう言った。

 この時レイは自らの中に沸き起こる初めての感情に驚きながらも、優しい笑みを浮かべてシンジの手をとった。

 

 エントリープラグの外へ出ると救護班が到着しており、ミサトも慌てた様子で駆けつけていた。

 2人はミサトにもみくちゃにされながら病院に運ばれ、翌日までゆっくり疲れを癒した。

 

 そして2人が寝ている頃、地球の衛星である月で1人の少年が棺桶の中で目を覚まし、上半身を起こす。月面に置かれた9つの棺の内、4つは開かれ少年は5つ目の棺から体を起こしていた。

 その少年の前にゼーレのモノリスが現れる。

 

「分かっているよ。あちらの少年が目覚めたのだろう?」

 

 棺から起き上がった少年・渚カヲルは、宙に浮かぶモノリスを見上げる。

 

「そうだ。死海文書外典は掟の書へと行を移した。契約の時は近い」

 

 月面に佇むカヲルを見下ろしていたのは、ゼーレの一人、キールのモノリスだった。

 また、カヲルの目の前には巨大な穴が掘られ、仮面をつけた使徒らしき巨人が人為的に寝かされていた。

 

「また3番目とはね。変わらないな君は。逢える時が楽しみだよ、碇シンジ君」

 

 カヲルは地球を見上げて不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 日本中の電力を使った決戦から1週間。

 シンジとレイは特別に休暇をもらい、自由に過ごしていた。休暇中、学級委員長のヒカリから連絡があり、次の日に学校へ行くと教室に入った2人を待っていたのはクラッカーの嵐だった。

 

「「「おめでとー!」」」

 

「え?」

 

「シンジ!ようやった!」

 

 肩をバンバン叩くトウジ。

 なんとこの日はクラス総出で勝利を祝ってくれるらしい。担任も許可しているらしく、いつも真面目なヒカリもこの祝賀会を楽しんでいた。

 

 祝賀会は2時間ほど続き、担任が終了を宣言したところでお開きとなった。

 帰りはレイと一緒にスーパーで買い物をした。約束通り、ミサトの家で食事会を開くのだ。

 

「ただいまー」

 

「おかえりシンジ君。レイもいらっしゃい」

 

「お邪魔します」

 

 初めてだからか、レイはミサトの家にキョロキョロしながら入る。一応前日に掃除をしておいた。ちょっと目を離すとすぐ汚くなるこの家は、定期的に掃除しなければ生きていけない(家主以外)のだ。

 

「今日のご飯は何?」

 

「豆腐をメインにしようかと思います。綾波がお肉食べれないので」

 

「オッケー」

 

 台所に向かったシンジは、スーパーの袋から豆腐や野菜を取り出して切る、切る、切る。

 その時ミサトは2本目のビールを開け、レイはテーブルの椅子に座りながらシンジを見ていた。

 

 ちなみにシンジはまだ食事のメニューのレパートリーは増やしていないため、作れるものは限られる。そのため、今日は野菜と豆腐を入れたうどんを夕食とした。

 うどんを茹でている最中は別の料理を作っていた。簡単な豆腐料理をいくつか作り、シンジとミサト用に鶏肉を蒸した料理を作った。

 

 料理を作り終わると、ミサトがテーブルに次々に料理を並べ、普段めったに埋まらないテーブルの上は皿で埋め尽くされた。

 

「「「いただきます」」」

 

 3人はようやくできた料理にありついた。

 ミサトは何本目かわからないビールをあおり、レイは豆腐をちまちまと食べ、シンジは真剣な顔で料理を採点していた。

 

「さぁーて。改めて2人とも、よく頑張ったわね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「シンジ君、ありがとね。レイもよくシンジ君を守ってくれたわ」

 

「いえ、碇君がATフィールドを張っていてくれたので」

 

「ふうん。シンジ君がねぇ」

 

 ビール片手に顎をもう片方の手に乗せニヤニヤとシンジを見るミサト。

 

「な、なんですか?」

 

「シンジ君はレイの王子様ってことね」

 

「そっ、そんなこと」

 

 慌てるシンジ。いくら前回の経験があっても、こういった浮いた話についてはまるで耐性がない。というかそんな事をしてる暇はなかったのだ。

 

 14歳の中学生らしい反応に、ミサトはますます調子づく。

 

「ふっふっふ。よかったわねー、レイ」

 

「・・・・・・?」

 

 レイは意味わからんといった顔でシンジとミサトを見つめた。だが、シンジに対して何かしら自分に変化があったのは気がついていた。

 

(何?この感情。碇君といると身体が暖かくなる)

 

 しかしそれに気がつくのはまだ先の話。

 この日は食後もミサトがベロベロに酔っ払うまで3人で話し、ミサトがテーブルに突っ伏すと、そろそろお開きにしようか、とシンジとレイは外に出た。

 

 ここから綾波の住んでる場所までは意外と距離があり、いくら保安部の護衛がいてもこんな夜に1人じゃ危険だ。シンジは途中まで送っていく事にした。

 

「別に大丈夫よ」

 

 と、レイは言ったが、シンジは無理矢理送っていった。

 2人に会話は無かったが、丁度半分の距離に来た時、レイはくるりとシンジに向き直った。

 

「ここでいい」

 

「いいの?」

 

「碇君が帰れなくなる」

 

「僕そんな方向音痴じゃないけど・・・・・・わかった。じゃ、またね」

 

「ええ。また・・・・・・」

 

 シンジは無理にはついて行かなかった。レイがここまででいいと言うならいいのだろう。それに、彼女が別れ際に言った「また」という言葉。いつもなら「さよなら」で済んだのに、今日はこの言葉だった。順調に関係が進んでいってる証拠。シンジは嬉しかった。

 

 これでレイに関してはこのままのペースでもいい。だか問題はアスカだ。アスカはおそらくシンジの実力(エヴァ限定)にショックを受けてしまうだろう。つらい訓練の結果手に入れたものを、たった1回で手に入れられてしまったからだ。さすがに格闘ではまだ勝てる気がしない。

 初乗りのシンクロ率は当然アスカには伝わっているはず。なので初めて会う時は最悪の挨拶になるかもしれない。

 

(アスカは変にプライドが高いからなぁ)

 

 だがシンジもアスカの気持ちがわからなくもない。母を失った自分に残されていたのはエヴァだけ。父親は新しい女と再婚し、親子の絆は無いに等しい。

 小さい頃からエヴァだけに打ち込んできたが、突然自分を上回る少年が現れた。嫉妬と怒りが現れるのも無理ない。

 だからアスカが1番難しいのだ。

 

 それからは再び訓練の日々が始まった。学校にも行っており、たまにトウジやケンスケと学校帰りに遊んだりしていた。

 訓練でも坂本一尉や小林一尉ら教官達に叩きのめされながら、着実に戦闘能力を上げていき、射撃もマコトの監督の下、なんとか当てられるようになった。

 

「シンジ君。これを」

 

 マコトは小さなプラスチックケースをシンジに渡した。

 

「これは・・・・・・銃?」

 

 ケースを開けると、一丁の拳銃と3つの予備弾倉が中に入っていた。見た目でグロックシリーズというのはわかるが、シンジは銃は詳しくないのでわからない。ケンスケに見せればわかるのだろうが。

 

 拳銃をケースから出してみると、今撃っていたグロック19よりも小さいのがわかる。

 

「これはグロック26だ。グロックシリーズのコンパクトモデルさ」

 

「すごい小さいですね」

 

「それがこの銃の凄みさ。でも小型の拳銃は危険度が高くてNERVには支給されなかったんだ」

 

 グロック26は子供でも服の中に隠せるくらい小さい。大人が持ってもまずわからないだろう。だがマコトの言う通り、小型拳銃は暗殺に使われる可能性があり危険度は高い。それに対使徒のNERVには必要ないだろうという事で支給されなかった。

 それだけ国連がNERVを恐れているのがわかる。

 

 しかしなぜここにあるのだろう。

 そうシンジが思っていると――

 

「これは君達パイロット専用、一応護身用だ。中学生の君達に普通の拳銃は大きすぎるだろ?グロック19でも君が持ったらグロック17に見えるんだ」

 

 それほどなのか。

 シンジはグロック19と26を比べて構えてみる。それと同時にマコトもグロック17を構えてくれた。

 

 なるほど。確かに中学生の自分が持ってもグロック19が大きく見える。

 

「でも日向さん。これはNERVにないはずじゃ?」

 

「ああ。だからパイロットのみの契約をしたんだ。パイロットが増えるたびに1人一丁支給される。僕達には回ってこない」

 

「なるほど」

 

 本当にシンジ達専用らしい。

 まぁコンパクトになるのなら文句はない。最悪学校にも持って行ける。

 

 その後はグロック26で射撃練習を続け、なんとなくコツを掴んでから、今日の訓練は終了した。

 ロッカー室から出ると、ミサトが壁に寄りかかって待っていた。

 

「ミサトさん?」

 

「シンジ君。見せたいものがあるの」

 

 そう言ってエレベーターへ向かう2人。

 その顔はいつものおちゃらけたものではなく、真剣な表情だった。

 

 エレベーターに入ると、ミサトはIDカードを差し込む。すると階数ボタンの下がストンと開き、何個かのボタンが出現する。

 ミサトはその1番下のボタンを押した。

 2人に会話はない。しかしシンジはこれからどこへ行くのかなんとなくわかってきた。

 

 そして扉が開く。前へ進み、重厚な扉の前まで来るとミサトは再びIDカードを差し込んだ。すると扉のロックが解除され、重々しい音を立てながら開き始めた。

 

「シンジ君」

 

 ミサトが目の前に現れた光景に目を向けながら話しかける。

 

「ここはセントラルドグマ。そしてあれが私達の守っているものよ」

 

「・・・・・・使徒?」

 

 目の前には貼り付けにされた白い巨人がいた。もちろんそれがリリスであることも知っている。

 

「そう。第2の使徒リリス。これに使徒が触れるとサードインパクトを起こす。NERV本部は最終手段として自爆装置も備えているわ」

 

「命懸けなんですね。でもなんで僕に?」

 

「実は碇司令の命令なのよ。パイロットにはリリスを知る権利があるって」

 

 意外だ。まさかあの男がそこまで考えているとは。だがそれもシナリオに必要な行動なのかもしれない。必要のない事はしないのが碇ゲンドウだ。

 

「だからシンジ君。これからも頼むわね」

 

「はい!」

 

 シンジとミサトはがっしり握手をし、改めて勝利を誓い合った。そしてその光景を、司令室でゲンドウは見ていたのだった。




グロックシリーズは完全に趣味です。
ちなみに1番好きなのが、ジョン・ウィックのグロック34カスタムです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。