歓声を上げるNERV職員と第3新東京市市民。
今回は外へ避難場所を設けていたため、一般人にもよく見えたのだ。
一方で片膝をつく零号機。そしてそのままかと思いきや、ゆっくりと倒れてしまった。
「綾波!」
前よりダメージは少ないはずたが、初の実戦というだけあって疲労が生じたのだろう。
レイも震える手でエントリープラグの排出装置を押し、零号機の外へとエントリープラグを出した。
ゴトリと地面に転がるエントリープラグ。
シンジは初号機から降りて零号機の元へ向かった。ミサト達には連絡して救護班を呼ばせてある。
零号機のエントリープラグの周りには排出されたL.C.Lが溜まっており、地面はぬかるんでいた。ハッチのロックも開けられているが、レイは出てこない。
「綾波?」
シンジはものすごく熱いハッチを全開にして開け、中を覗き込んだ。
「碇君・・・・・・」
「よかった」
どうやらレイはハッチのロックを外すのが限界だったようだ。
「本当によかった」
シンジは自分のせいで第10の使徒への特攻を許してしまった事を思い出し、自然と涙が出た。
「ごめんなさい。こんな時どうすればいいのかわからないわ」
「笑ってよ。生きて戻ってこれたんだからさ」
困惑するレイに、シンジは手を差し伸べながらそう言った。
この時レイは自らの中に沸き起こる初めての感情に驚きながらも、優しい笑みを浮かべてシンジの手をとった。
エントリープラグの外へ出ると救護班が到着しており、ミサトも慌てた様子で駆けつけていた。
2人はミサトにもみくちゃにされながら病院に運ばれ、翌日までゆっくり疲れを癒した。
そして2人が寝ている頃、地球の衛星である月で1人の少年が棺桶の中で目を覚まし、上半身を起こす。月面に置かれた9つの棺の内、4つは開かれ少年は5つ目の棺から体を起こしていた。
その少年の前にゼーレのモノリスが現れる。
「分かっているよ。あちらの少年が目覚めたのだろう?」
棺から起き上がった少年・渚カヲルは、宙に浮かぶモノリスを見上げる。
「そうだ。死海文書外典は掟の書へと行を移した。契約の時は近い」
月面に佇むカヲルを見下ろしていたのは、ゼーレの一人、キールのモノリスだった。
また、カヲルの目の前には巨大な穴が掘られ、仮面をつけた使徒らしき巨人が人為的に寝かされていた。
「また3番目とはね。変わらないな君は。逢える時が楽しみだよ、碇シンジ君」
カヲルは地球を見上げて不敵な笑みを浮かべた。
♢ ♢ ♢ ♢
日本中の電力を使った決戦から1週間。
シンジとレイは特別に休暇をもらい、自由に過ごしていた。休暇中、学級委員長のヒカリから連絡があり、次の日に学校へ行くと教室に入った2人を待っていたのはクラッカーの嵐だった。
「「「おめでとー!」」」
「え?」
「シンジ!ようやった!」
肩をバンバン叩くトウジ。
なんとこの日はクラス総出で勝利を祝ってくれるらしい。担任も許可しているらしく、いつも真面目なヒカリもこの祝賀会を楽しんでいた。
祝賀会は2時間ほど続き、担任が終了を宣言したところでお開きとなった。
帰りはレイと一緒にスーパーで買い物をした。約束通り、ミサトの家で食事会を開くのだ。
「ただいまー」
「おかえりシンジ君。レイもいらっしゃい」
「お邪魔します」
初めてだからか、レイはミサトの家にキョロキョロしながら入る。一応前日に掃除をしておいた。ちょっと目を離すとすぐ汚くなるこの家は、定期的に掃除しなければ生きていけない(家主以外)のだ。
「今日のご飯は何?」
「豆腐をメインにしようかと思います。綾波がお肉食べれないので」
「オッケー」
台所に向かったシンジは、スーパーの袋から豆腐や野菜を取り出して切る、切る、切る。
その時ミサトは2本目のビールを開け、レイはテーブルの椅子に座りながらシンジを見ていた。
ちなみにシンジはまだ食事のメニューのレパートリーは増やしていないため、作れるものは限られる。そのため、今日は野菜と豆腐を入れたうどんを夕食とした。
うどんを茹でている最中は別の料理を作っていた。簡単な豆腐料理をいくつか作り、シンジとミサト用に鶏肉を蒸した料理を作った。
料理を作り終わると、ミサトがテーブルに次々に料理を並べ、普段めったに埋まらないテーブルの上は皿で埋め尽くされた。
「「「いただきます」」」
3人はようやくできた料理にありついた。
ミサトは何本目かわからないビールをあおり、レイは豆腐をちまちまと食べ、シンジは真剣な顔で料理を採点していた。
「さぁーて。改めて2人とも、よく頑張ったわね」
「はい。ありがとうございます」
「シンジ君、ありがとね。レイもよくシンジ君を守ってくれたわ」
「いえ、碇君がATフィールドを張っていてくれたので」
「ふうん。シンジ君がねぇ」
ビール片手に顎をもう片方の手に乗せニヤニヤとシンジを見るミサト。
「な、なんですか?」
「シンジ君はレイの王子様ってことね」
「そっ、そんなこと」
慌てるシンジ。いくら前回の経験があっても、こういった浮いた話についてはまるで耐性がない。というかそんな事をしてる暇はなかったのだ。
14歳の中学生らしい反応に、ミサトはますます調子づく。
「ふっふっふ。よかったわねー、レイ」
「・・・・・・?」
レイは意味わからんといった顔でシンジとミサトを見つめた。だが、シンジに対して何かしら自分に変化があったのは気がついていた。
(何?この感情。碇君といると身体が暖かくなる)
しかしそれに気がつくのはまだ先の話。
この日は食後もミサトがベロベロに酔っ払うまで3人で話し、ミサトがテーブルに突っ伏すと、そろそろお開きにしようか、とシンジとレイは外に出た。
ここから綾波の住んでる場所までは意外と距離があり、いくら保安部の護衛がいてもこんな夜に1人じゃ危険だ。シンジは途中まで送っていく事にした。
「別に大丈夫よ」
と、レイは言ったが、シンジは無理矢理送っていった。
2人に会話は無かったが、丁度半分の距離に来た時、レイはくるりとシンジに向き直った。
「ここでいい」
「いいの?」
「碇君が帰れなくなる」
「僕そんな方向音痴じゃないけど・・・・・・わかった。じゃ、またね」
「ええ。また・・・・・・」
シンジは無理にはついて行かなかった。レイがここまででいいと言うならいいのだろう。それに、彼女が別れ際に言った「また」という言葉。いつもなら「さよなら」で済んだのに、今日はこの言葉だった。順調に関係が進んでいってる証拠。シンジは嬉しかった。
これでレイに関してはこのままのペースでもいい。だか問題はアスカだ。アスカはおそらくシンジの実力(エヴァ限定)にショックを受けてしまうだろう。つらい訓練の結果手に入れたものを、たった1回で手に入れられてしまったからだ。さすがに格闘ではまだ勝てる気がしない。
初乗りのシンクロ率は当然アスカには伝わっているはず。なので初めて会う時は最悪の挨拶になるかもしれない。
(アスカは変にプライドが高いからなぁ)
だがシンジもアスカの気持ちがわからなくもない。母を失った自分に残されていたのはエヴァだけ。父親は新しい女と再婚し、親子の絆は無いに等しい。
小さい頃からエヴァだけに打ち込んできたが、突然自分を上回る少年が現れた。嫉妬と怒りが現れるのも無理ない。
だからアスカが1番難しいのだ。
それからは再び訓練の日々が始まった。学校にも行っており、たまにトウジやケンスケと学校帰りに遊んだりしていた。
訓練でも坂本一尉や小林一尉ら教官達に叩きのめされながら、着実に戦闘能力を上げていき、射撃もマコトの監督の下、なんとか当てられるようになった。
「シンジ君。これを」
マコトは小さなプラスチックケースをシンジに渡した。
「これは・・・・・・銃?」
ケースを開けると、一丁の拳銃と3つの予備弾倉が中に入っていた。見た目でグロックシリーズというのはわかるが、シンジは銃は詳しくないのでわからない。ケンスケに見せればわかるのだろうが。
拳銃をケースから出してみると、今撃っていたグロック19よりも小さいのがわかる。
「これはグロック26だ。グロックシリーズのコンパクトモデルさ」
「すごい小さいですね」
「それがこの銃の凄みさ。でも小型の拳銃は危険度が高くてNERVには支給されなかったんだ」
グロック26は子供でも服の中に隠せるくらい小さい。大人が持ってもまずわからないだろう。だがマコトの言う通り、小型拳銃は暗殺に使われる可能性があり危険度は高い。それに対使徒のNERVには必要ないだろうという事で支給されなかった。
それだけ国連がNERVを恐れているのがわかる。
しかしなぜここにあるのだろう。
そうシンジが思っていると――
「これは君達パイロット専用、一応護身用だ。中学生の君達に普通の拳銃は大きすぎるだろ?グロック19でも君が持ったらグロック17に見えるんだ」
それほどなのか。
シンジはグロック19と26を比べて構えてみる。それと同時にマコトもグロック17を構えてくれた。
なるほど。確かに中学生の自分が持ってもグロック19が大きく見える。
「でも日向さん。これはNERVにないはずじゃ?」
「ああ。だからパイロットのみの契約をしたんだ。パイロットが増えるたびに1人一丁支給される。僕達には回ってこない」
「なるほど」
本当にシンジ達専用らしい。
まぁコンパクトになるのなら文句はない。最悪学校にも持って行ける。
その後はグロック26で射撃練習を続け、なんとなくコツを掴んでから、今日の訓練は終了した。
ロッカー室から出ると、ミサトが壁に寄りかかって待っていた。
「ミサトさん?」
「シンジ君。見せたいものがあるの」
そう言ってエレベーターへ向かう2人。
その顔はいつものおちゃらけたものではなく、真剣な表情だった。
エレベーターに入ると、ミサトはIDカードを差し込む。すると階数ボタンの下がストンと開き、何個かのボタンが出現する。
ミサトはその1番下のボタンを押した。
2人に会話はない。しかしシンジはこれからどこへ行くのかなんとなくわかってきた。
そして扉が開く。前へ進み、重厚な扉の前まで来るとミサトは再びIDカードを差し込んだ。すると扉のロックが解除され、重々しい音を立てながら開き始めた。
「シンジ君」
ミサトが目の前に現れた光景に目を向けながら話しかける。
「ここはセントラルドグマ。そしてあれが私達の守っているものよ」
「・・・・・・使徒?」
目の前には貼り付けにされた白い巨人がいた。もちろんそれがリリスであることも知っている。
「そう。第2の使徒リリス。これに使徒が触れるとサードインパクトを起こす。NERV本部は最終手段として自爆装置も備えているわ」
「命懸けなんですね。でもなんで僕に?」
「実は碇司令の命令なのよ。パイロットにはリリスを知る権利があるって」
意外だ。まさかあの男がそこまで考えているとは。だがそれもシナリオに必要な行動なのかもしれない。必要のない事はしないのが碇ゲンドウだ。
「だからシンジ君。これからも頼むわね」
「はい!」
シンジとミサトはがっしり握手をし、改めて勝利を誓い合った。そしてその光景を、司令室でゲンドウは見ていたのだった。
グロックシリーズは完全に趣味です。
ちなみに1番好きなのが、ジョン・ウィックのグロック34カスタムです。