碇シンジはやり直したい   作:ムイト

16 / 64
第15話 ロシアNERV

 

 

Добрый день(こんにちは)碇シンジ。私はカリーナ・ヴェンスキー中佐よ」

 

「あ、はい。こんにちはヴェンスキー中佐(なんだ日本語喋れるじゃん)」

 

「いい子ね。あ、ミサトは久しぶりね」

 

「ええ、半年ぶりかしら?」

 

 今シンジとミサトがいるのは日本から北西に位置するロシア連邦。ロシアにはNERVの支部があり、1つがモスクワ、もう1つが北極になる。

 そしてシンジが今立っているのはシベリアの大地だ。気候変動で海面が上昇してもここだけはセカンドインパクト前と変わらない姿を保っていた。地軸の変化により永久凍土ではなくなってしまったが・・・・・・。

 

 今2人の前にいるのはNERVモスクワ支部の作戦課長カリーナ・ヴェンスキー中佐。NERV支部の中で、数少ない女性作戦課長である。

 ミサトとは同性という事で面識があり、意見交換を行っていたりする。

 

 さて。なぜシベリアの大地にいるのかというと、初号機のテストを行うために訪れたからだった。第6の使徒が倒されてから2週間とちょっと。突然ミサトが「これ読んどいて」と言ってロシア語の教材をシンジに渡した。

 嫌な予感がしてならないシンジは、必死にロシア語を覚え、書くのは無理だが朝昼夜の挨拶と自己紹介くらいはできるようになった。やはり両親の血は健在だ。

 

 それから数日経ち、今に至る。現在NERVには零号機が待機しており、有事の際はレイが出撃し、初号機は空輸で第3新東京市へ戻す予定だ。おそらくアスカみたいな事をやらせるつもりなのだろう。

 

「よーし。じゃ、始めますか」

 

「了解よ。こっちの準備はできてるわ」

 

「あの、ミサトさん。何の訓練をするんですか?」

 

「今回はATフィールドを全開にしてもらいます。ロシア軍にも協力してもらって防御性能を確かめるのよ」

 

 ま、まさか・・・・・・

 

「攻撃を受けるんですか?」

 

「大丈夫よ。ATフィールドがなくてもあんまり効かないはずだから」

 

 まぁいつか戦う戦略自衛隊や国連軍の予行練習と考えればいい方だ。

 よく考えてみて欲しい。ミサイルやロケット弾が自分に向かってくるのだ。確かにエヴァの装甲は貫通されないだろう。しかし中の人間はたまったもんじゃない。

 だがシンジは無理矢理納得した。もうどうにでもなれ、だ。

 

 そして本部のスタッフとモスクワ支部のスタッフの連携で、仮設の指揮所が完成し、ミサトとカリーナはそこへ入り込み指揮を執り始めた。また、指揮所と実験場は10km以上離れており、なおかつ地下に作られていた。

 シンジもプラグスーツに着替えて初号機に乗り込み、アンビリカルケーブルがちゃんと接続されているのを確認する。

 

 今回参加するのはロシア空軍と、陸軍の対地ミサイルやロケット砲車や戦車等々。ロシア軍もいい経験になると喜んで参加してくれた。

 

『じゃあやるわよ。シンジ君、始めて』

 

「はい・・・・・・!ATフィールド、全開!」

 

 初号機がATフィールドを展開させると、周囲の草木は吹き飛び、指揮所にもその衝撃が伝わってきた。

 

「初号機、ATフィールドを展開。シンクロ率は85%をキープ」

 

「いい感じね。それでは攻撃開始!」

 

「ええ。こちら指揮所、全軍Огонь(撃て)!」

 

 初号機の前方からロシアのSu-30が対地ミサイルを発射し、30以上の数が初号機に迫る。

 一応腕をクロスして防御姿勢を取っているが、初号機は動かない。

 

 ミサイルは全弾命中。しかし効果は認められなかった。

 次に来たのは陸軍部隊による攻撃だ。ロケット砲やミサイル、戦車砲などが初号機を襲うが、やはり効果はない。シンジも余裕を感じ、防御姿勢を解いて周囲を見回した。

 

 どうやらロシア軍はミサイルやロケット砲で支援し、戦車部隊で初号機を半包囲しようとしているようだ。本来ならばこの後に装甲車部隊が来るのだが、相手は軍隊ではなくエヴァンゲリオン。歩兵がいても戦力にはならない。

 

『シンジ君、どーお?』

 

 ミサトがのんきな声で聞いてくる。

 

「全然問題ありません。ATフィールドってすごいですね」

 

『中々やるわねシンジ。じゃあ次はこれよ!』

 

『え、カリーナそれって!』

 

 楽しそうなカリーナ。その後ミサトの慌てた声も聞こえる。

 シンジは不思議に思っていると、遠くから10個ほど何かが上がったのが見える。そう。それは宇宙に打ち上げるロケットであるかのような・・・・・・。

 

「え、ロケット?じゃないよね・・・・・・まさか!」

 

 打ち上げられたロケット、もとい短距離弾道ミサイルは高さ40kmまで上昇した後、高度を下げてこちらへ飛んでくるではないか。しかも一定の高度ではなく、それぞれが違った高度を保っている。

 

 これはロシア軍が開発したもので、迎撃が難しくなっているミサイルらしい。セカンドインパクトで人が大量に死に、使徒が来てサードインパクトの危機に瀕しているのに何を作っているのだろうか。

 

 シンジがあれをミサイルだと認識できたのは、最低限兵器の勉強をしていたからだ。軍隊のような組織に配属されている以上、兵器を見分けるために覚える必要があると。

 学校でその事をケンスケに相談すると、「これを貸すよ!」と言って彼が個人的に収集した兵器のデータが入ったUSBメモリを翌日渡された。あれはいい勉強になった。

 

 まぁ、ミサイルと認識できてもシンジに迎撃する手段はない。だが全てのミサイルは初号機の頭上に来る事は予想されたので、上部にATフィールドを集中させた。

 そして――

 

「くうっ!」

 

 全てのミサイルが着弾。効果はないようだが、多少の衝撃はあった。

 

「全弾命中。しかし依然効果なし」

 

「やっぱダメか」

 

「ちょっとカリーナ!弾道弾を使うなんて!」

 

 ミサイルの衝撃で指揮所が揺れる中、ミサトはカリーナに食いかかる。

 

「ごめんね。でも一次攻撃がダメならこれしかなかったのよ」

 

「全くもう・・・・・・シンジ君、大丈夫?」

 

『は、はい。なんとか』

 

「これで一次テストは終わりよ。次は全力ダッシュね」

 

 全力ダッシュ。多分それは第8の使徒の時にやったやつだろう。

 

「アンビリカルケーブルを外した瞬間に走ってちょうだい。内部電源の残り時間が半分になったら指示するから戻ってきてね」

 

『はい』

 

 返事をしたシンジは、初号機をクラウチングスタートの格好にし、スタートの合図を待った。

 

「では、よーい・・・・・・始め!」

 

 ミサトが合図した途端。モニターから初号機の姿が消えた。

 アンビリカルケーブルが外れた瞬間、シンジは全力で走るイメージをしたのだ。すると初号機は地面を大きく抉りながら走り始めた。

 

 平原を抜けたのだろうか、針葉樹がちらほらと見えてくる。初号機の近くにある木は、その衝撃で根っこから抜けた。

 

(まだいけるかな。よーし)

 

 シンジは意識を集中させる。

 初号機はさらにスピードを上げ、ソニックブームを発生させた。その衝撃は凄まじく、数キロ先の木まで吹き飛ばしてしまった。

 

 その様子を見て指揮所内は、驚いた表情の職員で埋め尽くされた。

 

「すご・・・・・・今速度は?」

 

「初号機、現在マッハ1!」

 

「さすがと言うべきか、シンジ君は大丈夫?」

 

「パイロットに異常は見られません。ただ心拍数は上がっています」

 

「それは想定内よ。どう?カリーナ」

 

 ミサトは後ろにいた友人に得意げな顔で振り返る。君の功績じゃあるまいて。

 

「中々ね。でもミサトのドヤ顔で言われたくないわ」

 

 ほら見ろ言われた。

 

「うっさい」

 

 前に向き直ったミサトは、通信機のスイッチを入れる。

 

「シンジ君」

 

『はい』

 

「そろそろ引き返して。あと止まる時は要注意よ」

 

『わかりました。戻ります』

 

 初号機はくるりと回転して着地。だが勢いはまだあるのでそのまま後退。ようやく止まったところで再び走り出した。

 今度はさっきみたいに音速ではなく、軽くマラソンみたいに走っていた。

 

 途中、初号機がソニックブームで吹き飛ばした土地を見回しながら通り過ぎて行った。

 

(木がない。あ、奥に見えるのがそうかな?)

 

 吹き飛ばされた木は遠くに積み上がっており、伐採場のような光景があった。

 

 初号機が指揮所がある場所まで戻ると、地面に置いてあるアンビリカルケーブルを背中に差し込み膝をついた。

 シンジはエントリープラグから出ると、指揮所のミサトの所へ向かった。ふと後ろを見ると、整備員が初号機の点検にかかっている。

 

 指揮所に入ると、ミサトとカリーナが待っていた。

 

「おつかれさま。どう?異常はない?」

 

「はい。どこもおかしくありません」

 

「ならよかった。テストはこれで終わりよ。明日の早朝日本へ戻るから、それまでは休んでていいわ」

 

「わかりました」

 

 時計を見ると、時刻は午後16時を過ぎていた。これから何をしよう。パイロットだから外をぶらつく事もできないし、話し相手のミサトは仕事が残っている・・・・・・。

 

 シンジはこれまた臨時に設けられた仮設の部屋へ行き、私服に着替え終わるとゴロンとベットに横たわった。

 

(こんなに暇なら何か持ってくればよかったなぁ)

 

 こうなったら寝るに限るが、さすがに早すぎる。というわけで、シンジは格闘訓練のイメージトレーニングを始めた。

 

 しばらくやっていると、扉をノックする音が聞こえた。

 

「はい?どうぞ」

 

 扉が開くと、ロシア人の女性が部屋に入ってきた。

 

「え?」

 

「あなたが初号機のパイロット?」

 

「はい・・・・・・」

 

「私はレイラ・ミノロヴァ。一応所属はロシア軍よ」

 

「碇シンジです。よろしくお願いします」

 

 レイラと名乗った女性はスラッとした体型で、髪は後ろに纏めていた。また、戦略自衛隊の教官と訓練してきたシンジには、レイラの戦闘能力がとてつもなく高い事に気がつく。

 

「実は近いうちに日本へ行く事になったの。だから今のうちに挨拶にね」

 

「は、はぁ」

 

「・・・・・・ふうーん」

 

「え、あ、ちょ!」

 

 レイラはスススッとシンジに近づくと、ぺたぺた身体を触ってきた。肩、胸、脇、腹、背中の順にシンジに触る。

 

 身近な女性以外に対する耐性がまだ少ないシンジはいきなりの事で動けない。

 

(戦自に鍛えられてるって聞いたけど、まぁまぁね。それにしても痩せてる。もう少し肉がある方が好みね〜)

 

「あ、あの?」

 

「なんでもないわ。じゃ、また日本で」

 

「はい・・・・・・」

 

 そう言ってレイラは部屋を出ていった。

 

 この時シンジは普通の中学生よりも痩せていた。いくら戦闘訓練や筋肉トレーニングで鍛え、食事で栄養をたっぷりとっても、NERVに来てまだ半年も経っていないのだ。シンジは、この生活の成果が出るのは4ヶ月後だと思っている。

 と言っても格闘術はなんとか慣れてきており、自衛隊格闘術を少しだけ使えるようにはなっていた。

 

 現在NERVに来てから約2ヶ月。訓練と学業に明け暮れる日々が続いており、使徒もなんとか殲滅できているシンジだったが、今後成長痛と筋肉痛が更に多発しひどく悩まされる事になろうとは思ってもいなかった。

 




しっかり運動して、飯食べて、牛乳飲んで、良く寝れば身体は成長します。
私はそうでした。


追加
序章はこれで終わり。次回から破章に入りますが、投稿は来週になる可能性があります。m(_ _)m
まだまだ話は終わりません。これからもよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。