碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第16話 ベタニアベース


 

 

 ロシアNERV所属ベタニアベース。ここは旧北極に位置する所に建てられている。

 基地要員は主にロシア人で構成されているが、発令所は半分がロシア人、もう半分はアジア人以外の外国人が配置されていた。司令部もドイツ、アメリカ、ロシア国籍の3人が存在している。

 

 また、基地内はロシア語が飛び交っているが、発令所内は英語で話す事が義務づけられている。発令所に欧米系の外国人がいるのはゼーレの意向であり、ある計画の遂行のためゼーレの手の者が送り込まれたのだ。

 

 そんな陰謀渦巻く基地の中、運命を定められた1人の少女はエントリープラグの中にいた。頭にはバイザーが被せられ、顔のほとんどが隠れてしまっている。

 

『Start entry sequence.(エントリースタート)』

『Initializing L.C.L. analyzation.(LCL電荷を開始)』

『Plug depth stable at default setting.(プラグ深度固定、初期設定を維持)』

『Terminate systems all go.(自律システム問題なし)』

 

 オペレーター達は次々に報告を入れる。

 

『Launch prerequisites tipped.(全て正常位置)』

『Synchronization rate requirements are go.(シンクロ率、規定値をクリア)』

『Pilot, Please specify linguistical options for cognitive functions.(操縦者、思考言語固定を願います)』

 

「えーっと、初めてなんで日本語でお願いします」

 

『ラジャー』

 

「うっ、くぅっ・・・・・・」

 

 少女はプラグスーツが合わないのか、身体を伸ばして無理矢理馴染ませようとしている。

 

『よう。新型のプラグスーツ、間に合わなかったな』

 

 そこへSOUNDONLYの通信が入る。加持だ。

 

「胸キツイ。苦しいんだけど」

 

『それに急造品の機体で初陣。申し訳ない』

 

「でもやっと乗せてくれたから、いい。だからこれでチャラね」

 

 少女は嬉しそうに言う。

 

『問題児め。まぁいいさ、頼むよ』

 

 通信が切れる。

 少女は楽しそうにコックピットの計器をいじり始めた。模擬操縦室と同じ作りだが、どこか違う感覚にテンションは上がりまくりだ。

 

 一通りいじった後、少女は前へ向いて気合いを入れた。

 

「よし、行くか!エヴァンゲリオン仮設5号機、起動!」

 

 少女の声に反応したバイザーからEVANGELION-05の文字が発光し、同時に仮設5号機の目に光が灯る。

 

 仮設5号機の現在地からかなり離れた地下通路の中では、巨大なゲートが閉められるが中心部が徐々に融解して爆発。首長竜の骨のような使徒がぐねぐね身体を動かしながら前進していた。第3の使徒である。

 その第3の使徒と並走するように、ベタニアベース所属のT80戦車隊が砲撃を続けているが効果はなく、発令所の中では司令官が焦った様子を見せていた。

 

「Defend the Limbo Area at all costs! We cannot allow it to escape from Acheron!(辺獄エリアは死守しろ!奴をアケロンに出すわけにはいかん!)」

 

「How can a containment system as secure as Cocito be neutralized・・・・・・(まさか封印システムが無効化されるとは・・・・・・)」

 

「It was within the realm of possibility.(あり得る話ですよ)」

 

 激を飛ばす三人の司令官たちの前に加持が現れる。この男は現在仮設5号機を動かしている少女の護衛という名目でここにいるらしいが、こうやって気配すら感じさせずに後ろに現れる事が多い。警戒すべき男だ。

 

「On its own,humanity isn't capable of holding the angles in check.(人類の力だけで使徒を止める事は出来ません)」

 

 パネルに映し出される映像を観ながら、加持は流暢な英語で話し続けた。

 

「The analysis following the permafrost excavation of the 3rd Angel was so extensive all that was left were some bones and that was the conclusion.(それが永久凍土から発掘された第3の使徒を細かく切り刻んで、改めて得た結論です)」

 

 加持はそう言ってジェット機用のヘルメットを被ると、さっと手を上げてその場を去る。あっという間に来てあっという間に去る。嵐みたいな男だった。

 

「That said.Gotta run!(てな訳で、後はヨロシク!)」

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 加持が発令所を去った頃、仮設5号機は火花を散らしながら走行していた。

 このエヴァは肩から伸びているパンタグラフのような物体から電気が送られており、脚も人間のそれではなくアニメに出てくる多脚戦車のような4本脚だ。

 

「しっあわっせは〜、あーるいってこぉない、だーから歩いてゆくんだねぇ〜。いっちにっち一歩。みーっかで三歩。さーんっぽすっすんで二歩さがるぅ〜」

 

 少女は機嫌よく歌っていた。少々懐かしい曲だが、少女は気にしていない様子。それどころか曲に合わせて仮設5号機の両腕を前後に動かしていた。

 

「じーんせいは、わんつー、ぱんち・・・・・・お、来たぁ!フィールド展開!」

 

 使徒を目視で確認した少女はATフィールドを展開する。

 

「Target inbound! EVA Unit-05 is about to engage the hostile.(目標接近。エヴァ5号機会敵します)」

 

 発令所内も緊張した空気に包まれる。

 

「おぉーりゃっ!」

 

 仮設5号機は接近と同時に、スピードをゆるめることなく装備されている大型の槍を思い切り前に突き出した。

 

 しかし使徒はATフィールドで上手く槍をそらし、自身もするりと身体を捻って仮設5号機を交わした。そして仮設5号機と対峙することなくそのまま走り去って行く。

 一方仮設5号機はその勢いを殺せず、ブレーキをかけても全然スピードが落ちない。

 

「う、動きが重い!」

 

 少女が手元のスイッチを押すと、仮設5号機の胴体下から2つのドリルが現れ、地面に突き刺さる。この急ブレーキによりなんとか止まることができた。

 

「こりゃ力押ししかないじゃん!」

 

 仮設5号機は逆回転すると、全速力で使徒を追いかけた。

 

 使徒は広いトンネルまで来ると光の輪を頭上に展開させ、天井にくっつけた。

 すると天井が切り取られ、円柱状の柱のような物体がゆっくりと降下して来る。使徒はそれを光の輪で支えながら上昇していった。

 

「Upper outer wall integrity compromised.(上部外壁破損)」

 

「The final seal is about to be breached.(最終結界が破られます)」

 

 オペレーションルームの女性オペレーターが使徒の状況を伝える。また、使徒は何層にも重なった天井を押し出して、外へ出るとそれをいとも簡単に切断し、上空へと上っていく。

 

「Target has broken through Limbo area!(目標は辺獄エリアを突破!)」

 

「Now moving into Acheron!(アケロンへ出ます!)」

 

 オペレーターが報告する状況に苛立ち、1番高年齢の司令官の一人が声を上げる。

 

「Get Unit 5 to do something!(5号機は何やっとる!)」

 

 仮設5号機はようやく使徒が空けた縦穴の真下に到着すると、下部のロケットエンジンを点火。勢いよく外へ飛び出した。

 

「逃げんなー!」

 

 そして仮設5号機が突き出した槍は見事使徒に命中。使徒は柱に串刺しとなった。

 

 ぐったりとなる使徒。

 しかし一瞬で状態を取り戻し、ぐねぐね暴れた後に目から光線を仮設5号機に発射した。光線は仮設5号機の肩を掠める。

 

「くっ、いったーい!痛いけど、痛いけど・・・・・・面白いから、いい!」

 

 肩を抉り取られるような痛みが少女を襲うが、少女は笑っていた。

 

 少女はもう片方の腕を振り上げ、使徒のコアに掴みかかる。しかしこの時仮設5号機の活動限界まで30秒を切っていた。

 

「時間がない・・・・・・機体も、持たない。腕も義手を無理矢理シンクロさせてるから、パワーが出ない!」

 

 使徒にも余裕ができたのか、今度は仮設5号機の4本脚を切り取りにかかる。

 切断された脚は落下し、下に落ちる前に爆発した。両足に鋭い痛みが走る。

 

「くっ、しゃーない・・・・・・腕の1本くらい、くれてやるっ!」

 

 少女は槍を持っていた腕を槍から引き抜き、今度は両腕でコアを潰しにかかる。

 

「こんのぉっ、くたばれぇーーーーーっ!」

 

 少女は渾身の力を込め、両手で操縦桿を押し出した。

 使徒のコアがジリジリと光を失っていく。そしてガラス玉が砕けるような音を立て、コアが握り潰された。

 

 使徒のコアから血が噴出すと同時に、少女は仮設5号機の脱出ポットのロックを外す。するとエントリープラグが射出され、背中に付いていた脱出ポッドのジェットが点火された。

 少女の乗ったプラグはその場から上空へ高く飛ばされ、仮設5号機は使徒殲滅と同時に自爆し、巨大な爆発で施設ごと吹き飛ばしてしまった。

 

 光に包まれるベタニアベース。そのはるか上空には加持が乗った航空機が光を背に飛んでいた。

 

『Target obliterated.(目標消失)』

 

『Unit Five has been vaporizerd.(5号機は蒸発)』

 

『Pilot appears to have ejected.(操縦者は脱出した模様)』

 

 機内にオペレーターの通信が飛び交う。

 

「仮設5号機の自爆プログラムは上手く作動したな。でも折り込み済みとはいえ、大人の都合に子供を巻き込むのは気が引けるなぁ。そう言えば初号機パイロットも活躍しているらしいし、会ってみたいもんだ」

 

 加持は窓から海面を眺めて仕組まれた事故の事を思う。得意分野の仕事だが、過去の事もあり極力子供は巻き込みたくなかったのだ。

 また、緊急脱出した少女はエントリープラグごと海に不時着していた。

 

「うっ、やっぱ痛いわ。エヴァとのシンクロって聞いてたよりきついじゃん」

 

 少女は、プラグのハッチから出ると、ヘルメットを脱いで長い髪を風に当てる。息苦しさから解放され、視界には真っ赤な海が広がっていた。

 

 ふと頭に違和感を感じ、手を額にやると頭部から出血していた。しかし少女は、真希波・マリ・イラストリアスは血に濡れた手を見て微笑を浮かべる。

 

「ま、生きてりゃいいや。自分の目的に大人を巻き込むのは気後れするなぁ」

 

 そしてプラグの上に立って戦闘跡地に高く上った光の十字架を眺める。そしてマリは使徒と共に散った愛機にこう呼びかけた。

 

「さよなら5号機。お役目ご苦労さん」

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 数時間後、NERV本部司令室。

 

「碇。ゼーレからの連絡は聞いたか?」

 

「ああ。仮設5号機による第3の使徒の殲滅。上手くいったようだ」

 

 冬月とゲンドウは外を見ながら話していた。第3の使徒の殲滅は先程ゼーレによって報告されたのだ。

 NERV本部による関与も疑われたが、証拠がないためゼーレや国連は何も言えなかった。

 

「マルドゥック計画は頓挫だな」

 

「あの計画は私にとって邪魔な存在だった。これで老人達も動きにくくなっただろう」

 

「サンプルがないのだからな。全く、上手くやったものだよ」

 

 それからも悪い大人達の話は続く――




破章に入りました。
更新スピードは少しの間遅くなります。ごめんなさい。
でもしばらくしたら元に戻すので、よろしくお願いします。

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