シンジ達は2号機が回収される現場にギリギリのところで到着した。
到着するやいなや、ケンスケは興奮しまくり、2号機が運ばれている線路との間に設けられたフェンスにしがみついていた。
トウジもポカンと2号機を見つめている。
「ほえ〜、2号機は赤いんか」
マヌケな声を挙げるトウジ。
シンジはチラリと後ろを見ると、いつの間にかレイも立っていた。レイも2号機をじっと見つめている。
再び視線を前に戻すと、ケンスケはいつの間にかカメラで2号機を激写していた。もちろんミサトが許可済みだし、帰る前に検閲もする。
また、トウジ達の声が聞こえたのか、2号機の上から高飛車な声が響いた。
「違うのは色だけじゃないわ!この機体は零号機と初号機とは違って完成された完璧なエヴァンゲリオンよ!プロトタイプとは比べ物にならないの!」
全員が上を見上げると、2号機の肩に1人の少女が仁王立ちで立ってシンジ達を見下ろしていた。アスカだ。
栗色のロングヘアーに青い目。街中を歩いてたら男共はこぞって振り返るほどの顔立ち。美少女とはこういう事を言うのだろう。
「よっ、ほっ、はっ、と・・・・・・」
アスカはバランス良く2号機から降りると、こちらへ歩いてくる。
「彼女は式波・アスカ・ラングレー特務一尉。ユーロ空軍のエースで2号機パイロットよ」
「ミサト!久しぶり!」
アスカの事を紹介するミサト。アスカは以前から面識のあったミサトに会えて喜んでいた。
だが直ぐに後ろの方にいるレイをミサトの肩越しに見る。
「あれが零号機パイロットのエコヒイキね」
聞こえるように声を大にして言ったのだろうが、レイは意味がわかっていないのか、気にしていないのか定かではないが、アスカの顔を見るとその場を去ってしまった。
「で?どれが七光りの初号機パイロット?」
「「ん」」
アスカの問いにトウジとケンスケは揃ってシンジを指さす。
「ふん、あんたバカァ?肝心な時に戦場にいないなんて」
「違うわアスカ。シンジ君はお墓参りに行ってたのよ」
「オハカマイリ?」
「お母さんのお墓に行ってたのよ」
この時アスカは一瞬だったが苦い顔をした。母親関係で色々あったアスカはこういった会話が苦手だ。別に母親が嫌いだった訳では無い、むしろ逆。しかし他人に話せるような事ではなかった。
互いにそういった事情があるため、アスカは何も言えなくなってしまった。
だが悲しいかな。エリート意識のあるアスカはここで止まれなかった。シンジの足を払おうとしたのだ。
しかし、シンジは前回前々回とアスカに転ばされてきたのでさすがに警戒していた。アスカが足を払う瞬間、素早く後ろに下がる。
「なっ!」
驚くアスカ。
それから蹴りを何発か繰り出すが、ことごとくシンジに避けられる。
「なんで避けるのよ!」
「普通避けるだろ!?」
ここで当たりに行くのはただのMだ。それに訓練を受けている者の蹴りは結構痛い。教官達に扱かれているため、シンジは文字通り痛いほど知っていた。
フーッと睨み合う2人。
アスカと仲良くなるには前回同様時間がかかりそうだ。
様子を見ていたミサトもため息をつきながら割って入る。
「ほーら2人とも、やめなさい。アスカは碇司令に会わなきゃいけないでしょ」
「・・・・・・はーい(チッ、避けるのは上手いのね)」
あまり乗り気ではなさそうだったが、アスカは渋々返事をし、こちらを振り返ることなく去っていった。
ミサトに駅まで送ってもらった3人は、車を見送ってから駅の改札へと向かって行く。
「なんやあのオンナ!」
初見で偉そうな態度が癪に障ったのか、トウジはさっきの光景を思い出し腹を立てる。
「まぁまぁ。にしてもミサトさんの話じゃあの歳で大卒らしいじゃん?凄すぎるよ!」
トウジを宥めるケンスケ。
彼は2号機とそのパイロットを見れただけで幸せいっぱいだった。そのためアスカの態度をものともしていない。
そして改札へ入る前に列車の到着時刻が乗っている電光掲示板を見ていると、横から声がかかった。
「失礼君達」
声をかけてきたのはジュラルミンケースを持った加持だった。
「ジオフロントのハブターミナル行きのホームはあそこでいいのかな?」
「え、はい。4つ先の駅で乗り換える必要がありますけど」
「俺がいない間にここまで開発が進んでいたのか。まるで浦島太郎の気分だな」
加持は電光掲示板や路線図を見ながらしみじみと言った。
「助かった、ありがとう。ところで葛城は一緒じゃないのかい?」
「ミサトさんですか?」
「「え?」」
「あいつの寝相を知っているのは君だけじゃないんだぜ。碇シンジ君」
そう言って加持は改札へ向かって行った。ちなみに加持とミサトは腐れ縁というやつで、一時期は恋人になった時もあったのだ。
今はこうやってチャラチャラしているが、その正体は3重スパイをこなしている凄腕の諜報員だ。今後に備え、絶対に味方につけなければいけないだろう。
「ね、寝相って・・・・・・」
「なんやケンスケ。顔赤いで」
加持の背中をジッと見ているシンジに対し、妄想を膨らませるケンスケ。トウジは加持の言葉の意味がわからなかったようだが・・・・・・。
♢ ♢ ♢ ♢
シンジ達が各自家についた頃、NERV本部にアスカと加持が到着し、アスカは司令室にいた。
「式波・アスカ・ラングレー特務一尉。本日付でNERV本部への配属を命じられました。よろしくお願いします!」
「ああ。期待している」
アスカは元気よく挨拶するが、ゲンドウは変わらずいつものポーズのまま動かない。
「日本に来てそうそう使徒と戦うとはな。今日はもう帰りたまえ。住む場所は下にいる葛城に聞くといい」
「はっ!失礼いたしました!」
軍人らしく、くるりと回って司令室を出ていくアスカ。アスカはゲンドウと会って「怖い」と思った。軍人故に様々な恐怖と向き合ってきたが、ゲンドウのそれは別次元だった。まるで機械のパーツとして見られているような、そんな感じがしたのだ。
アスカがいなくなった司令室では、冬月がゲンドウと話していた。
「あの少女が2号機のか」
「ああ。レイやシンジほど重要人物ではないが、シナリオには必要な登場人物だ」
「碇・・・・・・まぁいい。そろそろ彼が来る頃だな」
何かを言いたそうにした冬月だったが、考え直し何も言わなかった。
数分後、司令室に加持が到着した。
「お久しぶりです」
「上手くやったようだな?」
冬月が加持に問う。
「ええ。第3の使徒の封印解除に仮設5号機の破壊。ゼーレのマルドゥック計画はほぼ停止したと言ってもいいでしょう。先程送ったゼーレの最新情報は・・・・・・?」
「見させてもらったよ。Mark.06は確かに建造されているようだ」
「結構。頑張った甲斐がありました」
そう言って加持は持っていたジュラルミンケースを机の上に置き、大きく開いてゲンドウと冬月に見せる。
「約束の物です。予備のロストナンバー。神と魂を紡ぐ道標だとか」
「ああ。人類補完の扉を開くネブカドネザルの鍵だ」
席から立ち上がり、ケースの中にある頭のない神経組織とカプセルのような物を見て、ゲンドウは不敵な笑みを浮かべた。
「んじゃ、仕事終わったんで好きにさせてもらいますよ」
「ああ。いいだろう」
加持はゲンドウから分厚い茶封筒を受け取ると司令室から姿を消した。再び司令室はゲンドウと冬月の2人となる。
「加持リョウジ。NERV保安部所属の首席監察官。信用できるのかね?」
「・・・・・・今はな」
冬月の問にゲンドウは少し考えてから答えた。この2人には加持の考えている事はわからない。裏でなにかコソコソやっているのはわかっているが、具体的な事は知らない。
しかし、自分の計画の障害にならない限りは好きなようにさせておく予定である。障害となるならば、その場で消す必要があるが・・・・・・。
司令室を出た加持は、少し寄り道した後にリツコの仕事部屋へ向かった。シンジが質問を受けた部屋とは違う部屋である。
この部屋は女性らしい物はほとんど無く、机の上の灰皿には吸殻が大量に入っていた。
「っ!」
「やぁ。痩せたかな、リッちゃん?」
「残念。1570gプラスよ」
いきなり背後から抱きつかれたリツコは身体を固くするが、加持だとわかると力を抜いた。
抵抗しないのがわかったのか、加持はリツコの顔を自分の方へ向ける。
「直接確かめたいんだが?」
「この部屋監視されてるわよ」
「ノン・プロブレム。ダミーを流してある」
「相変わらずね。でもダメ」
リツコは加持の顔を軽く掴んで廊下側へ向けた。
「こわーいお姉さんが見てるから」
「・・・・・・あらま。ま、君が元気そうでよかったよ」
ふんーっ!と鼻息荒く、ミサトがガラスに張り付いてこちらを睨んでいた。
加持は仕方なく抱擁を解きリツコから離れる。何事も無かったかのようにする2人に対し、ミサトは怒りながら部屋に入ってきた。
「ユーロNERVにいるはずなのに、なんであんたがここにいるのよ!」
「特命さ。でも終わったからしばらくは本部付きだよ。また3人でつるめるな」
「連絡もくれないで!それに昔みたいな関係に戻る気ないわよ!リツコ、アスカの件人事部に話通しておいたから!」
ミサトは要件を済ますと、とっとと出て行ってしまう。
「あれは嫉妬ね。まだ勝算あるんじゃない?」
「うーん、どうだろうなぁ」
加持は去っていくミサトを見ながら肩をすくめた。
うーん、最近忙しくなってきましてですね。投稿ペースがまちまちになるかもしれません。週一とか2週に1回とか。