碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第20話 日本海洋生態系保存研究機構

 

 

 

 社会科見学といっても、シンジ、アスカ、レイの3人だけでは寂しいため、トウジとケンスケ、ついでにペンギンをさそった計5人と1羽は、ここ【日本海洋生態系保存研究機構】を訪れていた。

 

 ついた途端にケンスケはテンション上がりまくりで、写真を撮りまくっていた。

 

「すごーい!凄すぎる!赤い海を戻し、さらには失われた海洋生物の永久保存といった神のごとき大実験計画を担う禁断の聖地!その1部だけでも見学できるとは!」

 

「ホンマやで。持つべきものは友達やな。感謝すんでぇ」

 

 トウジもシンジの肩に腕を回して満足げな顔をしている。まだなにも見ていないのに、中に入ったら発狂するんじゃないだろうか。

 

 そんなクラスメイト2人を見るアスカは、一部の業界でしか需要が無さそうな目をしていた。レイは相変わらずぽーっとしている。

 

 シンジは大きなバッグを持っており、その中には全員分のお昼が入っている。昨日の夜から作り始めたものもあるため、手間はかかっているが味には自信があった。

 

「お礼なら加持さんに言ってよ、ほらあそこ」

 

 一同が巨大なゲートの横に視線を向けると、ガラス張りになっている所で手を振っていた。

 

『よぉ、皆来たか。実はこっからが大変なんだ。ちょっと我慢してくれよな』

 

(あ!)

 

「「「は?」」」

 

 シンジは忘れていた。ここからがめんどうなのだと。

 軽い気持ちで見学に来た一同を出迎えたのは、ある意味手荒な歓迎だった。

 

 ・長波放射線照射式滅菌処理室

 まず最初に一同は下着姿にされ、レントゲンのようなフラッシュを浴びる。次に熱蒸気による滅菌室に入れられ、噴射する高熱の蒸気から逃げ惑っていた。ペンペンも暴れている。

 ↓

 ・有機物電離分解型再浄化浴槽式滅菌処理室

 続いて一同は巨大な水槽に張られた液体の中に放り込まれる。それが終わると、隣の部屋にて低温による滅菌処理で寒い思いをさせられた。先程と違って極寒の部屋で下着姿のため、ものすごく寒い。

 ↓

 ・有機物電離分解型再浄化浴槽式滅菌処理室

 再度水槽の中へドボン。そして巨大な送風機が壁を埋め尽くす部屋で強風に晒される。さすがのアスカも弱音を吐いた。

 ↓

 ・有機物電離分解型再々浄化浴槽式滅菌処理室

 再々度水槽の中。正直つらい。つらすぎる。ケンスケなんて水槽の底へ沈んでしまった。

 

 そして――

 

 まるで電子レンジで料理が出来上がったかのような音が鳴ると、パネルにこういった表示が出た。

 

 全滅菌処理工程完了

 人間 5名

 鳥 1羽

 入室可(第3段階滅菌区域まで)

 

 病院服のような服を着させられた一同。滅菌処理というのはわかっているのだが、ここまで来るとぐったりとしてしまう。

 

 しかし、扉が開くとその疲労が無くなるくらい美しい光景が目の前に広がった。もうこの世界では普通に見る事の出来なくなった生物が水槽の中を泳いでいたのだ。

 

「「「おぉー」」」

 

 思わず声を上げる一同(レイ以外)。

 

「デッカイ水槽やなぁ!」

 

「クエッ!」

 

 トウジとペンペンは、はしゃいで水槽に近寄って中を覗き込む。ケンスケもさっそくビデオカメラを取り出して撮影を始めた。

 

 水槽の中には色とりどりの魚を始め、イルカやクジラ、亀にサンゴといった生物が生きていた。前にも見たが、これがセカンドインパクト前の海の世界なのだとシンジは感動していた。

 

 巨大な水槽から離れた場所にある別のガラス張りの部屋。ここにはペンペンと同じような見た目のペンギンがいた。

 ペンペンもそれに気がつくと、ぺたぺたと近づく。

 

「クワーーーッ!クワッ!」

 

「「「クエッ!クエッ!クエッ!」」」

 

 なんて言ってるのかはわからかいが、ペンペンは中のペンギン達から拍手喝采を受けていた。

 

「生きとる!生きとるで!」

 

「ホントに凄い!」

 

「背中になんか背負ったモンもおるで!」

 

「亀だよ。図鑑で見た事ある」

 

 トウジとケンスケははしゃぎっぱなし。先程の疲れはどこへやら。

 

 はしゃぐ2人に不機嫌そうな視線を向けるアスカ。そして1人で水槽の縁に座り、携帯ゲーム機を取り出し電源を入れた。

 

 また、シンジは円柱型の水槽を見ているレイに近づいていく。

 

「綾波?」

 

「・・・・・・碇君」

 

「今日は来れてよかったね。父さんの許しが出たんでしょ?」

 

「ええ。司令も副司令も許可してくれたわ」

 

 レイは第3新東京市の中でしか生きられない。そんな彼女に外出許可を出すという事は、これもシナリオに該当する行動なのだろう。これはシンジも知らない事だが、ゲンドウはシナリオを進めるためにシンジとレイとの交流を増やし、互いに意識し合うようにさせたのだ。

 

 しかし、レイは少しずつゲンドウから離れつつある。ゲンドウも冬月も、この事は知らなかった。

 

 2人で水槽を見ている光景は、服装を除けばデートみたいなものだった。たまたま見える位置に座ってしまったアスカは、チラチラと目に入る光景に苛立ちを覚えていた。

 

 なぜ自分ではないのか。

 なぜ人形のような女に構うのか。

 これまでエリートとしての誇りを持ってきたアスカは、シンジに話しかけられるレイに嫉妬していた。

 

 ユーロでも自分の外見や能力を見てくれる大人はいても、中身までしっかり見てくれる人間はいなかった。ユーロ空軍の式波大尉ではなく、ただの式波・アスカ・ラングレーとして見て欲しかった。

 それに、これまで言い寄ってきた男は、アスカの外見だけを求めてきたのが丸わかりで、そのたびにアスカは拒絶してきたのだ。結果、残るのは孤独だけだった。

 

(私を見なさいよ。エコヒイキより全然いいじゃない・・・・・・)

 

 見学は昼まで続き、12時30分になると加持が迎えに来た。

 一同は滅菌済みの服に着替えると、職員がくつろぐ広場に移動し、昼食のためシートを下に敷いた。

 

 シンジは次々に重箱を広げると、感嘆の声か上がった。

 

「「「いただきまーす」」」

 

 弁当に最初に手をつけたのはアスカだ。アスカはおもむろにおかずを箸で掴んで口に運ぶ。

 

「んむ!」

 

 目を見開くアスカ。トウジやケンスケらも続いておかずを食べる。

 

「「美味い!」」

 

「やっぱり美味しいわね」

 

 これまでシンジの作る食事を食べてきたアスカだったが、気合いの入った弁当はいつもより美味しかった。

 

 トウジやケンスケは見事にシンクロしている。あの加持でさえ、うんうんと頷きながら弁当を食べている。

 

「9割人造肉がここまで・・・・・・」

 

「隠れた才能やな!」

 

「ミサトさん料理しないから、僕がやってるんだ。ね、式波?」

 

「え!?そ、そうね!」

 

 まさか話がふられるとは思わなかったのだろう。アスカは慌ててシンジの問いに答える。加持はミサトのだらしなさを知っているため、これ以上彼女の印象を下げまいと何も言わなかった。

 

 ちなみに、シンジとアスカが同棲している事は既にクラス中が知っている。というのも、シンジとアスカの弁当箱の中身が毎日同じなのをヒカリが不思議がり、アスカに聞いてみた。

 その時アスカは考え事をしており、そこまで気が回らず、つい「だって同じとこに住んでるもん」と答えてしまった。

 

 それから芋づる式にアスカの正体がバレてしまったが、今ではその話題さえ出なくなっている。みんな慣れたのだ。

 

 弁当も半分くらいまで減った頃、シンジは思い出したようにバッグから紙コップと水筒を取り出した。

 

「お味噌汁も作ってきたんだ。加持さん、どうぞ」

 

「お、すまないね。しかしシンジ君、台所に立つ男はモテるぞ〜」

 

 加持がニヤつきながらシンジに言う。

 

「だとさ、トウジ」

 

「ぐ・・・・・・いや、ワシは立たんぞ!」

 

「前時代的。バカね」

 

「なにいー!?」

 

 トウジの考え方は確かに昭和チック(?)なものなのだろう。常に先をゆくアスカはトウジに軽蔑するような目を向ける。

 

 少しの間睨み合っていた2人だが、そこからは目を合わさずに食事を再開した。

 

 シンジはトウジに個別の弁当箱を渡すと、チラリとレイの方を見る。レイの弁当は野菜料理が入っており、彼女でも食べられるようになっている。そのかいあってか、レイは箸を止める事無く野菜を口に運んでいた。

 

「どう、綾波。今日は春雨を使ってみたんだ。それも食べれるでしょ?」

 

「ええ。お肉じゃないから」

 

「じゃあはい、お味噌汁。豆腐とワカメ」

 

「ありがとう」

 

 シンジから味噌汁の入った紙コップを受け取るレイ。そしてシンジがアスカやケンスケにも味噌汁を配るのを見ながら一口飲む。

 

「あ、美味しい・・・・・・!」

 

 レイにしてはハッキリとした声だったが、周囲がガヤガヤしていたため、誰も聞くことはなかった。だがレイはそんな事を気にせず、味噌汁をじーっと眺めた。

 

 一方、シンジから弁当箱を受け取ったトウジは、その弁当を狙ってくるペンペンから死守しながら食事をしていた。

 

「やめーや!この弁当はワイのじゃ!このアホ!」

 

「アホーー!!」

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 昼食も終わり、シンジ達は外にある巨大な水門に来ていた。シンジ以外は展望台のような場所にいるが、加持とシンジは下で話をしていた。

 

「僕が生まれる前って本当にこんな色だったんですか?」

 

「ん?ああ、そうさ。昔は【青い海、白い砂浜、そして輝く太陽の光】っていうフレーズがあるくらいだったんだぜ?」

 

 加持がタバコをピコピコ動かしながら言う。

 

「この匂いもな」

 

「匂い・・・・・・ですか?」

 

「海の生物が腐った匂いだ。君らは臭いと思うだろうが、俺達にとっては懐かしい匂いなんだ」

 

「懐かしい、か。ミサトさんは何故来なかったんです?」

 

「思い出すからな。セカンドインパクトを」

 

 加持は語る。

 15年前に起こった悲劇を。

 15年前、南極で巨大な災害が発生した。地軸が傾き、異常気象も発生。世界で20億人もの人々が亡くなった。後に【セカンドインパクト】と呼ばれる災害である。

 

 ここからは加持がミサトから聞いた話だ。

 

 ミサトはあの時、たまたま南極にいた。つまりセカンドインパクトを目の前で目撃した証人であり、ただ1人の生き残りでもある。

 

 突如現れた4体の天使のような巨人と4本の槍。ミサトの父親は怯えるミサトを無理やり脱出カプセルに放り込み、身につけていたペンダントを彼女に託すと、爆風で吹き飛ばされてしまった。カプセルは荒波にもまれながら南極から離れ、波が少し落ち着いた時、傷だらけのミサトは南極が消滅しているのを目撃してしまった。

 

「あいつは家族より研究を優先している父親を憎んでいた。君と同じさ」

 

「僕と・・・・・・」

 

「だからシンジ君、ミサトを信用してくれ。これからも」

 

「はい」

 

 シンジにミサトの事情を話す加持の目には、どこか悲しげな雰囲気があった。セカンドインパクトを生き抜いた人しかわからない事もあるのだろう。

 

 そして再び口を開こうとした加持。

 しかし、突然両者の携帯端末に緊急の連絡が入った。




9割人造肉ねぇ。
そんな時代も来るのだろうか。

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