碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第21話 第8の使徒

 

 

 

 シンジ達に緊急の連絡が届いた同時刻、NERV本部の第1発令所ではオペレーター以外の職員が慌ただしく動き回っていた。

 

「3分前、マウナケア観測所にて目標を確認。現在軌道要素を入力中」

 

「パイロット3名もこちらへ移送中」

 

 マコトとマヤが情報を報告する。

 

「第3監視衛星が目標を補足。最大望遠で出します」

 

 発令所の巨大なモニターに、使徒の姿が映し出された。使徒は黒い球体で、表面には目のような模様がぐるぐる動いていた。

 

 第6の使徒以上に巨大な使徒。職員は思わず息を呑む。

 

「光を歪めるほどのATフィールドとはね。落下予測地点は・・・・・・当然ここよね」

 

「MAGIの再計算!NERV本部直上への命中確率、99.9999%です!」

 

 マヤがMAGIの再計算の結果を報告する。

 

 そして宇宙空間では戦闘衛星から使徒に対して攻撃が始まった。次々に射出されるN2航空爆雷。その数は50を超えていた。

 

「ダメですね。まるで効いてません」

 

 マコトの言う通り、使徒はATフィールドで全ての攻撃を弾いている。ちなみに現在、ミサト達は会議室に移動し、作戦を練っている。

 

「ATフィールドを一極集中して展開していますし・・・・・・これに落下のエネルギーが加算されると凄い威力になります」

 

「使徒自体が爆弾なのね」

 

「結果が出ました。爆砕推定規模は直径42万、ジオイド-15000レベル」

 

「ジオフロントどころかセントラルドグマが丸裸ですよ」

 

「第3新東京市も消滅。芦ノ湖が大きくなりますね」

 

 マヤの計算結果にマコトとシゲルは個人的な意見を付け加える。

 

「ヤバいわね。司令と副司令は?」

 

「使徒の影響で通信不能です」

 

「むう・・・・・・よし!」

 

 現在、地球で対使徒の総責任者はミサトだ。少し考えた後、ミサトは勢いよく立ち上がった。

 

「日本政府に通達。NERV特別権限Dー17を発令。半径120km圏内の住民は速やかに退避せよ」

 

「了解」

 

「ま、問題ないと思いますがね」

 

 ミサトの命令にシゲルは苦笑いをしながら言う。

 

 使徒を補足しているのはNERVだけではない。国連軍もその姿を確認している。そのため日本政府にも情報が渡り、各要人からイナゴの大移動のように避難を開始していた。

 

 上空にはオスプレイを初めとした航空機、海上にはヘリと輸送艦、陸上には車の列など、ありとあらゆる乗り物が第3新東京市付近から避難している。

 第3新東京市の市民もモノレールで避難をしており、持ち物も最小限にするよう通達があった。駅には多くの人が並び、次々にモノレールに乗り込んでいく。しばらくすると、車両基地からはほぼ全てのモノレールが姿を消した。

 

 ミサトの下にそうした避難情報がぞくぞくと集まり、何も問題ない事にミサトはホッとしていた。

 

「避難に問題はなさそうね」

 

「ええ。避難は97%が完了。どうにか間に合います」

 

「MAGIのバックアップは松代に頼みました」

 

「よーしよーし」

 

 これで最悪の事態は免れそうだ。しかしこれからが問題だった。

 

「でもどうするの、ミサト」

 

「空間の歪みで狙撃も不可能です。しかもどこを狙っていいのか・・・・・・」

 

 さすがに優秀なスタッフからも消極的な意見しか出てこない。

 時間がない中、ミサトは意を決して頭の中に浮かんだ作戦を皆に伝える。会議室は驚きの声で埋め尽くされた。

 

 結局ミサトの作戦に決まったため、各員は作業を開始していた。ミサトはさらに細かな作戦案を考えるため、資料室にいた。

 

「あなた本気?」

 

 一緒についてきたリツコが尋ねる。

 

「ええ。これしかないもの」

 

「この作戦だとエヴァ3機を失う可能性があるわ!初号機とリリスの保護を最優先にしないと!」

 

「ならリツコ、あんたならどんな作戦をたてるの?あれだけの質量をなんとかするなんて、2機じゃ少ないわよ。それに、1番高性能なのは初号機なんだから」

 

 わかっている。わかっているが、リツコは納得できなかった。今後の計画のために初号機は必須。だが1番能力が高いのも初号機だ。ここで初号機を失うか、それとも零号機と2号機を失って第3新東京市を壊滅させるか。リツコの頭の中はその選択肢しかなかった。

 

 しかしミサトの脳内には、人類を滅ぼすか使徒を殲滅するかという選択肢しかない。少しでも可能性があるのなら、ミサトはその作戦を選ぶ。

 

「リツコ、初号機と人類。どっちか大事なの?」

 

「・・・・・・わかったわ。葛城一佐、あなたにまかせます」

 

 ついにリツコが折れた。計画の遂行よりも人類の明日を選んだのだ。

 ちなみに言い忘れたが、ミサトは第6の使徒撃滅で得た功績から、階級が上がっていた。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 シンジ達はNERV本部に到着すると、プラグスーツに着替えて集合という命令を受け、さっそく更衣室でプラグスーツに着替えた。

 

 そしてマコトが運転するNERV仕様の軽装甲機動車に乗り込み、外部のエヴァ格納庫へと向かった。

 現場に到着すると、そこにはミサトが転車台に乗って上昇してくるエヴァを見ていた。

 

「葛城一佐!」

 

 マコトが声をかける。

 

「みんな来たわね。これより作戦を説明します」

 

 到着した3人に振り向き、ミサトはホワイトボードを使って作戦を説明する。

 

 そして――

 

「ええっー!手で受け止めるぅぅ!?」

 

 予想通りの反応をアスカがした。

 

「そう。落下する使徒を受け止めるの。もちろんATフィールドを使ってね。ただし、弾道の計算が出来ないから作戦には全てのエヴァを投入します」

 

「何よ!あたし1人で殺れるもん!」

 

「ムリよー。エヴァ単機だけじゃこの範囲を守れないわ」

 

 ミサトはホワイトボードにシュミレーションデータの結果を貼り付ける。落下予測地点は広大だった。市どころではなく県サイズ。ミサトの言う通り、エヴァ単機だけではとてもカバーできない。

 

 軍歴が長いアスカも直ぐに理解はしたが、3人でやる事には抵抗があった。

 

「この配置の根拠は?」

 

「勘よ」

 

 レイの問にミサトがそう答える。相変わらずな性格に、アスカは開いた口が塞がらない。

 

 エヴァ3機の配置は前回と同じ場所だったが、シンジはその配置には何も言わなかった。前回同様なら使徒はシンジの方へ落ちてくるが、絶対そうとは限らない。変に配置を変更するよりは、このまま作戦を始めて臨機応変に動くしかないだろう。

 

「ミサト!人類はあたし1人で救えるわ!」

 

「言ったでしょ?あなた1人では無理なの。作戦を成功させるには3人の力が必要よ」

 

 それから何度かアスカとミサトは言い合ったが、最終的に3人で作戦を決行することになった。アスカには悪いが、生き残るには3人でやるしかないのだ。

 

 作戦の説明が終わると各自エヴァに乗り込み、待機場所に移動していた。初号機はダムの近く、零号機は採掘場、2号機は森の中。それぞれ作戦開始まで集中して待っていた。

 

(使徒がどこに落ちてくるか気になるな。綾波やアスカのとこに来る可能性もあるし・・・・・・)

 

 シンジは頭の中で作戦のイメージを浮かべていた。

 

(やってみなきゃわからないか)

 

 一方で、発令所でも着々と準備が進められていた。

 

「使徒の落下コースを再計算。変わらずここに向かってきます!」

 

「やっぱりおいでなすったわね。エヴァ全機、スタート位置」

 

 シンジ達はクラウチングスタートの体勢を取る。

 

「目標接近、距離2万!」

 

 

 

 

 

 

「みんな頼んだわよ。では、作戦開始・・・・・・発進」




この時のミサトさんはかっこよかった

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