翌朝、浅間山。
浅間山の山頂近くには仮設指揮所が設けられ、初号機は火口付近で待機していた。一方2号機は空中の巨大VTOL機にぶら下がっている。
「では無人機降下!」
ミサトの号令で無人機が下ろされていく。しかし未確認物体を発見した深度までたどり着いたものの、それらしきものは確認できなかった。
「いませんね」
「もっと下げて」
「ええ!?これ以上は機体がもちませんよ!」
「いいわよ。どうせうちのなんだから」
「・・・・・・了解です」
さらに深度を下げる無人機。指揮所の中には「どうせいないだろ」という空気が流れていた。
すると、無人機が何かを発見した。
「み、見つけました!」
「近づいて。反応は?」
「・・・・・・・・・パターン青!使徒です!」
「よし!アスカ!」
『聞こえてるわよ。降下!』
使徒発見により作戦は決行。無人機と入れ替わりで、2号機はVTOL機からするすると下ろされていく。しかし格好が格好なため、人類を命運がかかっているとは思えない。
捕獲装置を持った2号機がマグマに触れる瞬間、シンジのところにアスカから通信が入った。
「シンジー、見て見て。ジャイアントストロングエントリー!」
正しくはジャイアントストライドエントリーだが、もちろんシンジがそれを知る訳もなく、NERV職員でその知識を持つ者だけが頭の中でツッコミを入れた。
ゆっくり、ゆっくり2号機が下ろされていく。異常を知らせるアラームが鳴らないことから、2号機の耐熱防護服はしっかり機能を果たしているようだ。
数分後、2号機は限界深度まで到達した。ここから十数m下に使徒がいるはず。アスカは目を凝らして下を見渡した。
「使徒はっと・・・・・・・・・いた!」
『よし!捕獲して!』
ミサトの指示でアスカは捕獲装置を下に下ろす。マグマの中は常に動いているため、捕獲のチャンスは1度きり。アスカは慎重に狙いを定め、そっと捕獲装置を近づけて使徒を捕獲した。
上手くいってホッとする一同。
だが突然、指揮所に警報音が鳴り響いた。使徒が羽化を始めたのだ。
捕獲装置は内側からの圧力に耐えきれず破壊されてしまう。
『ミサト!使徒が!』
「作戦変更。使徒を殲滅して!」
『りょーかい!』
アスカは肩からプログレッシブナイフを取り出し、使徒へ突き出した。しかしマグマを透さない身体を持つ使徒にナイフが効くはずもなく、簡単に弾かれてしまった。しかもコアが見つからないため、どこを狙えばいいのかわからない。
次はこっちの番だと言わんばかりに、使徒は2号機をさらに下へ引きずり込もうとする。これ以上は耐熱防護服がもたないため、ここで倒すか深度を上げるかしないと2号機はぺしゃんこだ。
「ぬぬぬ・・・・・・どうすれば」
アスカは再度ナイフで攻撃しているが、やはり効いていない。使徒は口を開けて2号機に食らいつこうとする。
『アスカ!熱膨張だよ!』
「熱膨張・・・・・・?そっか!」
シンジの言葉をアスカはすぐに理解し、防護服についていた冷却液のチューブを切断して使徒の口へ突っ込んだ。
次に使徒の口を両手で閉じる。少しすると使徒は苦しみ始め、大きく口を開けながら自ら2号機から離れた。
その時アスカは口の奥に赤い何かを見た。そしてそれがコアだと信じ、ナイフを突き刺す。
アスカの予想は大当たり。使徒のコアは突き刺さったナイフにより砕け散り、身体も破裂した。その衝撃はマグマの中のため緩和されていたとはいえ、2号機が後ろへ大きく下がってしまうほどの威力。2号機をぶら下げている特殊なワイヤーも数本が切れてしまった。
『ミサトさん!アスカを!』
「わかってるわよ!作戦終了!2号機を回収!」
「了解」
VTOL機はワイヤーを巻き取り、2号機を上昇させていく。しかしワイヤーや防護服の耐久力の状態から、シンジやミサトは少し焦っていた。
そしてようやく2号機が火口から姿を表す。シンジは2号機を引っ張りあげたいのを我慢し、はらはらしながら回収作業を見守った。
2号機は無事山頂に姿を表し、このまま無事に終わると誰もが思った瞬間、限界だったワイヤーが切れてしまった。2号機の足元はまだ火口。落ちたらまずい。
「アスカ!」
シンジはそう叫んでATフィールドを展開。2号機を斜め下から吹き飛ばした。
かなり危険な方法だが、シンジにはこれしか思い浮かばなかった。おかげで2号機は山の麓までゴロゴロ転がらなくてはならなかった。まぁマグマに落ちるよりはマシだろう。
しかしこのまま転がっていても周囲の被害が増すだけ。それにこうなった責任はシンジにある。初号機はアンビリカルケーブルを外し、山の斜面を駆け下りた。
「ごめん!すぐに止める!」
2号機に追いついた初号機は、再びATフィールドを展開。転がる2号機を停止させた。
「大丈夫!?」
『なかなか強引じゃない・・・・・・』
「ごめん」
『いいわよ。死ぬよりは斜面を転がった方がいい。無様だけどね』
意外と怒ってなさそう。
一応アスカも軍人だ。彼女も機体の回収が優先されるなら、マグマで溶かすより吹き飛ばして地面へ落とす方法を選ぶ。
『シンジくーん』
ミサトから通信が入る。
『防護服の接合部分が溶けてこちらからだと外せないの。だから無理矢理ひっぺがしちゃって』
「わかりました」
シンジは初号機を操って防護服に手をかけた。まず2号機の身体を起こし、ヘルメットとの接合部分にナイフを当て、てこの原理で隙間を作っていく。
隙間ができるとそこへ指を突っ込んで引き剥がし、さらに隙間ができると全部の指を入れてひっぺがした。
ヘルメットを地面に置いた初号機。すると2号機からエントリープラグが排出され、初号機はそれを抜き取りそっと地面に置いた。
「ミサトさん。終わりましたよ」
『オッケー。じゃあシンジ君も出ていいわよ』
そこからアスカが出てくるのを確認したシンジは、自身もエントリープラグを排出し、外へ出た。
「シンジ!」
地面に降りたシンジにアスカが駆け寄ってくる。
「な、何?」
思わずシンジは身構える。吹っ飛ばしたのが悪かったか。
だがアスカの口から出たのは予想外の言葉だった。
「ありがと」
「え?」
「ありがとって言ったの!ほら行くわよ!」
アスカはミサト達がいる方向へ歩いていく。シンジも後を追いかけた。しかしわからないものだ。あのアスカが素直に礼を言うなんて。お弁当の時といい、デレの割合が大きくなってきているのではなかろうか。
少し歩くと、ミサトが高機動車に乗って迎えに来てくれた。
「2人ともお疲れ様。今夜は温泉よ!」
ミサトのテンションは高かった。そりゃ望んだ温泉にはいれるのだからそのテンションはわかる。でもはしゃぎすぎじゃないだろうか。まぁシンジもアスカも温泉は楽しみだったので、はしゃぐ気持ちはわからなくも無い。
指揮所へ着くと、シンジとアスカは仮設更衣室へ、ミサトは指揮所へ行く。既にエヴァ両機の回収作業は始まっており、数機のVTOL機が初号機を持ち上げていた。
2人が私服に着替え終わると、外にはミサトとマコトが待っていた。
「じゃあ行くわよ。日向君、後はよろしく」
「了解です」
「え、ミサトさんはいいんですか?」
「私は2人の護衛で着いてくの。決して私利私欲ではないわ」
「「・・・・・・」」
空いた口が塞がらないとはまさにこの事。さすがのアスカも呆れてものも言えなかった。
だが言ってしまえばこちらのもの。結果ミサトの行動は認められた。
そして3人は高機動車に乗り、近くの温泉へ向かった。現地へ到着し、建物の中に入ると広々とした空間が広がっており、豪華な作りとなっていた。
シンジはのれんの前で2人と別れ、更衣室へ入っていく。
服を脱ぎ、タオルを手に温泉へ続くドアを開けた。そこには誰もいない貸切状態。おそらくNERVが貸し切ったのだろう。しかし、身体を石鹸で洗っている最中、シンジは思った事を口にした。
「いくら貸切でも無防備すぎるんじゃないかなぁ」
「その通り。だから俺が来たよ」
「か、加持さん!?」
いつの間にか後ろに加持が立っていた。もしこれが暗殺者なら今頃シンジは殺されていただろう。
「ミサトはこういうとこは詰めが甘いんだ」
加持はよっこいしょと隣に座り、同じく身体を洗い始めた。おちゃらけているようにも見えるが、実は周囲に気を張っている。さすがは加持だ。
身体を洗い終えた2人は、露天風呂へ向かった。せっかく温泉に来たんだから外で入ってみたかったのだ。
「ふーー」
「今日の戦いは見てたぜ。ナイスフォローじゃないか」
「え?僕戦ってませんけど」
「2号機の救出さ。戦いってもんは前だけじゃダメなんだ。後方支援も立派な戦力だよ」
どこに加持がいたのだろう。指揮所に加持がいたらミサトがうるさいはず。となると誰にも見つからない場所に隠れていたか、指揮所のモニターをハッキングして作戦を見ていたか。どちらにせよミサトは怒りそうだ。
2人で空を見上げながら温泉に浸かっていると、隣の女湯の扉が開く音がした。
「おっ、来たか」
「え?」
ここにいるのはNERV関係者。つまり隣にいるのは・・・・・・。
「いいじゃなーい。景色最高!」
「アスカ、あんまりはしゃがないの」
「何言ってんの。ミサトが1番楽しみにしてたくせ・・・・・・あ!なにカップ酒持ってきてるのよ!勤務中でしょ!?」
「今日はこのまま帰りだし。もう退社扱いだもーん」
ミサトは本気で酒を飲むつもりらしい。帰りの車はどうするのだろうか。
そして2人が温泉に浸かる音がする。
「おーい。シンジ君の護衛がいなかったぞー!1人にさせておく気かー!」
加持が叫ぶ。
「保安部が見張ってるから大丈・・・夫・・・・・・え!?加持!?」
「おう」
「なーんであんたがここにいるのよ!」
酒を飲むどころではなくなったらしい。隣でザバァッ!という音がするのが聞こえるため、ミサトが温泉から上がって壁の前まで来ているのだろう。
「なんでって、俺も温泉に入りたかったんだ。いいじゃないか」
「はぁ・・・・・・」
ため息をつくミサト。その夜、アスカに聞いたのだが、ミサトはカップ酒を開けずに温泉に浸かっていたらしい。加持の登場で飲む気が失せたようだ。
何はともあれ、帰りの車もミサトが運転する事になり、シンジ達は無事ミサト宅に帰ることができた。
お土産で購入した温泉まんじゅうをレイに渡すと、一緒にいたアスカに羨ましげな視線を向けていたのだった。
はい。てなわけでサンダルフォンでした。
あいつ強いですよね。マグマに耐えるほどの堅牢さ。地上に出たらとんでもない事になるはず・・・・・・。
で。
エヴァンゲリオンが延期にぃっ!
仕方ないとはいえ少々苦しいものがあります。Twitterで見たのですが、本来なら2008年に今作が公開予定だったとか?さすがにホントだとは思えませんが、もし真実だとしたら今年で13年。来年まで延期になったら「あれから14年経ってるってことよ」がリアルに言えますね。
延期といえば、このままだとコナンもまた延期ですかね?私は劇場版コナンの毎回違うオープニングが楽しみです。ちなみに1番好きなのは「純黒の悪夢」。