ある日、久しぶりに学校へ来ていたシンジは1人屋上で昼寝をしていた。今日はレイがNERVへ、アスカがなんだか知らないけど体調不良で休み。トウジとケンスケは昼食争奪戦で購買に行っていたため、シンジは1人で昼食を食べていた。
しばらく空を眺めていると、飛行機が通り過ぎた後に小さい点のような物が落ちてくるのが見える。その点は少しずつ大きくなり、シンジはそれがパラシュートであるとわかった。
(あれ?確か・・・・・・)
シンジは前回もこんな事があったのを思い出す。
「どいてどいてぇー!」
屋上へ落下してきた少女。シンジは素早く彼女を避けた。反射神経も良くなってきているため、これくらい朝飯前だ。
また、シンジは知らなかったが、降りてきた少女は真希波・マリ・イラストリアスという。5号機のパイロットだった者だ。
マリは5点着地で無事に着地したが完全には勢いを殺しきれず、メガネが吹っ飛んでしまった。
「いてて・・・・・・あれ見えない。メガネメガネっと・・・・・・」
四つん這いになってメガネを探すマリ。シンジはスカートの中を見ないように目を背ける。
ようやくメガネを見つけたマリは、制服の汚れを払いながら立ち上がった。見慣れない制服だ。
「ごめんね。大丈夫だった?」
「は、はい大丈夫です」
シンジに近づくマリ。身長はマリの方が高く、制服のデザインから見るに高校生なのだろう。
しかしなぜパラシュートで降下を?
予想外の出来事にシンジは唖然てしていた。
すると突然マリがシンジの首元に顔を近づけ、臭いを嗅いだ。
「えっ!?」
「君、いい匂いがするね。L.C.Lの匂い」
「なっ!」
L.C.Lと聞いてシンジは後ろに下がり警戒するような目でマリを見た。NERV以外の人間がL.C.Lという言葉を知っているのはおかしいからだ。普通の人間が知ることはまずない。まぁパラシュートで降りてきた少女が普通の人間であるとは思えないが。
「警戒しなくてもいいよ」
「でもあな――」
シンジが問いただそうすると、チャイムが鳴る。昼休みが終わってしまった。
「ほら行って。私の事は誰にも言っちゃダメだよ。NERVのワンコ君」
「そのつもりですよ」
言っても信じて貰えそうにない。ミサトやリツコに言えば怪しんでもらえそうだが、不思議とシンジはマリの事をバラそうとは思わなかった。
シンジはマリの声を学校以外のどこかで聞いたような気がした。それはサードインパクトが起きた世界ではなく、シンジが前回いた世界。でも思い出せなかった。
実は第10の使徒戦の時、2号機に乗っていたのがマリだ。しかしあの時はそれどころではなかったため、記憶に残らなかったようだ。
また、シンジを見送ったマリは、バックパックの中から携帯を取り出し、パラシュートを片付けながら電話をかけた。
「あ、もしもし?」
『どうした。目的の場所にはいないようだが』
電話の相手は男のようだ。
「ごめん。風に流された」
『誰にも見つかってないだろうな?』
「エヴァパイロットと話した。でも大丈夫。彼は誰にも話さないだろうから」
『しょうがないな。じゃあ予備の待ち合わせ場所に来てくれ』
「りょーかい」
電話を切るマリ。そしてパラシュートを全て袋の中に突っ込み、誰にも見つからないように学校を出た。授業中であったとはいえ、敷地から出られたのは奇跡に近い。
無事誰にも見つからずに敷地から出たマリは、シンジがいるであろう教室の方向へ視線を向ける。
「先輩に似て可愛いじゃない。またね、ワンコ君」
♢ ♢ ♢ ♢
マリが日本に訪れてから数日後。アスカの体調不良がようやく治り、今朝は2人で登校していた。さらに、学校でシンジたちのいるクラス、2年A組に異変が起こる。
「おはよう」
久々に学校へ来たレイは、教室の入り口で一旦足を止めると、中に向かって声を掛けてから入って行ったのだ。
「綾波!」
シンジが驚いて振り返る。
「あいさつ、だと?」
「あの綾波が・・・・・・」
「びっくりした」
教室にいたクラスメイトがどよめく。失礼なもの言いだったが、それだけレイの言動が珍しかったのだろう。
「綾波、NERVの用事はもういいの?」
シンジは席に着いたレイに駆け寄る。
「ええ」
レイはシンジを見上げていつもと変わらない様子で話す。
「あ、どうしたのその手?」
シンジはレイの手を見て指に絆創膏が巻かれていることに気づく。
「さっき赤木博士が巻いてくれたの」
レイは右手で左手を隠すと、柔らかい表情でそれを見つめる。まさかとは思うが包丁を使っていたのではないだろうか。家で料理を作っているシンジはそう思った。
「そうじゃなくて、何してたの?」
「秘密。もう少し上手くなったら話す」
レイはそう言ってシンジに微笑み掛ける。その表情を見てシンジは安心した。
一方、アスカは2人のやり取りが気になってしかたがなかった。遠くから見ていても分かるくらいにレイが変わったことに驚く。それでも、そんな2人を自分が気にしていることに気付いてムッとした表情になる。
その1日、アスカはずっと不機嫌なままだった。それにレイが何をしているのかにも気がつく。あれは料理の練習をしていたのだと。いくらアスカでもそれくらいはわかる。
あのレイが料理を・・・・・・。
アスカは焦り始めた。
同時刻、ミサトは車を走らせながら助手席のリツコに話を振っていた。
「変わったわね。レイ」
「そうね。あの子が人のために何かするなんてね。何が原因かしら。包丁で切った手を見てびっくりしたわよ」
リツコは最近のレイの行動を不思議がる。そんなに珍しいのか。
「愛、じゃないの?」
ミサトが冗談混じりで言う。
「そんな事は・・・・・・ないはずよ、ええ」
リツコを家まで送ったミサトは、まっすぐコンフォート17へ帰っていく。
ミサト宅のキッチンには、珍しくアスカが立っていた。今日、シンジはトウジとケンスケの3人で外食してくるらしい。ならちょうどいいとアスカは家に帰るとさっそく料理の練習を始めた。米とおかずは冷蔵庫に入っていたので、汁物を作ることになる。
アスカはダシの入った鍋に火を掛けながら味見をした。
「うーん、シンジはもう少し薄味のほうがいいのかな?」
お玉を持った手を腰に当てて口をもごもごさせるアスカ。その時、玄関が開く音がして一瞬身構えるが、その後のミサトの声に力を抜いた。シンジだと思ったのだ。
「ただいまー」
「あれ?早かったわね」
「いんや、すぐ本部へトンボ帰りよ。風呂と着替えに帰ったの。夕飯はいらないわ」
ミサトが肩に掛けたスポーツバッグを抱え、重い足取りでダイニングに入って来る。ということは今日は帰ってこない。もしかすると明日の夜までいないかもしれない。
ミサトはそのまま通り過ぎようとしたが、アスカがキッチンで料理をしていることに気付いて引き返す。
「ほほーう、これはこれはぁ、アスカもシンちゃんに料理ご馳走するのん?」
ニンマリとしたミサトに図星を突かれたアスカは、取り乱して料理の痕跡を隠そうとする。しかし、キッチンに広がった道具や野菜の切れ端を体一つで隠せるはずがなかった。
料理に慣れていないアスカは、とりあえず必要になるかもしれない食材や調味料を全部出していたため、隠せないほど散らかっていたのだ。
「ち、違うわ!えっとクラスメイトの・・・・・・そ、そうヒカリ、ヒカリよ!」
アスカはまな板の上をひっくり返しただけで苦しい言い訳をする。だがアスカの倍以上生きてきたミサトにその手の言い訳は通用しない。
「ふっふっふー。レイといいアスカといい、急に色気づいちゃってもー」
「エコヒイキと一緒にしないで!」
アスカはお玉をぶん回しながら叫ぶが、ミサトはニヤニヤしながら部屋に戻っていく。完全に遊ばれていた。
イライラしながら鍋の中に具材を放り込み、しばらくお玉でぐるぐる掻き回していると、ミサトが部屋からリビングに戻ってきた。
「多分だけどレイはシンちゃんにお弁当作ろうとしてるんじゃないかしら。アスカもどう?」
「だから違うってば!」
「でもシンちゃんに話しちゃダメよ。秘密にしておきたそうだったから」
ミサトはアスカの心境を察しながら、砕けた態度でウィンクをして見せる。
「話すわけないでしょっ!この私が」
アスカは一瞬ムッとしてから、ミサトにお玉を向ける。その指には絆創膏が巻かれていた。
自分でも驚くほどの慌てっぷりだったが、アスカは本気で否定しているのではなく、照れ隠しで騒いでいるだけ。本人もそれを自覚している。
そんなアスカをからかったミサトは、とっととNERVへ戻って行く。結局アスカは夕飯を1人(ペンペンは自室にこもったまま)で食べた。
そして少し作りすぎたよくわからない汁物をたいらげ、シンジが帰ってくる前に無事自分が料理の練習をしていた痕跡を消すことができた。さらには換気扇や扇風機をガンガン回し、窓を開けて部屋から匂いを排除。
これで一件落着である。
さーて、マリはどんな風に書こうかな〜