碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第27話 戦自、NERVの共同訓練

 

 

 

 9月も終わる頃、ミサト宅ではシンジとアスカにミサトが重要な事を話していた。

 

「「共同訓練?」」

 

「そうよ。しかも大規模のね」

 

 ミサト曰く、明後日に大規模な訓練が行われるらしい。それも戦略自衛隊との共同訓練。

 

 参加部隊は戦略自衛隊第1機械化歩兵師団の第1連隊、第101航空団(VTOL機)だ。戦略自衛隊の師団は諸兵科連合部隊のため、様々な部隊が所属している。基本的に彼らは装輪車を使っており、整地された場所ならどこへでも行ける。

 

 NERVも第3新東京市を戦闘形態へ移行させたり、市民を避難させたりといった仕事がある。こっちはいつもの避難訓練と大して変わらない。

 

「ミサト、NERVと戦略自衛隊って仲いいの?前はそうでもなさそうだったけど」

 

「シンちゃん達の教官が戦略自衛隊でしょ?なんやかんや彼らとの交流もしてるのよ。ポジトロンライフルのデータも渡したし」

 

 まさか共同訓練を行うほど関係が進んでいるとは。戦略自衛隊によるNERV侵攻を知っているシンジにとってはとてもいい知らせだった。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

「諸君、由々しき事態だ」

 

 ある一室でキールが他の人類補完委員会のメンバーと話し合いをしていた。

 

「アメリカの第2支部がS2機関の研究を独自に進めている」

 

「それは本当か?」

 

「マルドゥック計画は頓挫した。ドイツ支部で何とか計画を再開したがアメリカより先に完成させることはできん」

 

「それに第2支部はアメリカ政府の影響が強い。あの国はS2機関が完成したら再び覇権国家を狙うだろう」

 

「我らに逆らう気か」

 

 会議室は不穏な空気に包まれる。

 アメリカの人類補完委員会のメンバーも政府に強い影響力を持ってはいるが、他国ほど恐れられてはいない。資源、土地、金、人が揃っているため、人類補完委員会に縋る必要はないのだ。

 

「どうなのだ?S2機関が完成したら我らと共有できるのか?」

 

 キールがアメリカ代表に聞く。

 

「いや、独占するだろうよ。それどころか歯向かうかもしれない」

 

「それはいかん」

 

「彼国に我らの力を思い知らせる必要があるな」

 

「いかにも。ではS2機関の暴走という形で第2支部を消滅させようか」

 

「NERV本部はどうする?」

 

「本部はそれどころではあるまい。研究している報告はあるが、我らよりも進んでおらん」

 

 そう言ってキールは机に備えられた電話に手を伸ばした。

 

 数時間後、アメリカの第2支部から凄まじい衝撃と共に十字の光が立ち上がった。

 NERV本部でもその光景が衛星から確認されており、深夜担当のNERVスタッフはミサトに電話をかけた。

 

「なんですって!?エヴァ4号機とアメリカの第2支部が消滅!?」

 

 連絡を受けたミサトは慌てて風呂から出て再び制服に着替え始めた。

 自宅を飛び出したミサトはNERV本部へ車を走らせる。そして到着すると全員を会議室に集めた。マコトやリツコ達も到着しており、皆慌てていたのか、制服を気崩している者もいた。

 

「これが衛星から確認した第2支部の爆発直前からの映像です」

 

 会議室のデスクに立体的に浮かび上がった映像を見ながら、先に来て状況をまとめたシゲルが説明する。

 

「何もかもなくなってるのか・・・・・・」

 

 ミサトがつぶやく。

 

「ATフィールドの崩壊が衛星から確認できますが詳細は不明です」

 

 ミサトの後ろに立っていたマコトが報告する。

 

「やはり4号機が原因か。ウチのエヴァ、大丈夫でしょうね?」

 

 ミサトがリツコの方を向く。

 

「もちろん大丈夫。そもそもエヴァ4号機は稼動時間問題を解決するためにS2機関を搭載する計画だったらしいわ」

 

「でもその開発状況は、赤木先輩にも充分に開示されていないんです」

 

 そうマヤが補足する。

 いきなり発生した事故・・・・・・と言っていいのかわからなかったが、情報が少ないためミサト達だけでは判断がしにくかった。

 そして司令室では、冬月が事故データの資料を見ながら状況を確認していた。

 

「S2機関を搭載したエヴァ4号機。次世代型開発データ収得が目的の実験機だ。何が起こってもおかしくはないな」

 

 ゲンドウは、司令席に座って何も言わずに黙ってそれを聞いていた。

 

 また、加持もコンピュータールームのバックヤードで、タバコを吸いながら考え込んでいた。盗聴しているのだ。

 

(事故・・・・・・なのか?)

 

 その後第2支部は独自開発の動力源の実験事故という事で国連が発表。事態を沈静化させた。だが死傷者は数千人にものぼるとされ、アメリカ政府は被害者遺族の対応に追われていた。

 

 事件の影響を考えたミサトは、ゲンドウに戦略自衛隊との訓練を中止すべきだと提案したが却下された。

 

「なぜです?」

 

「そもそも訓練をしようと言い出したのは赤木博士なのだよ」

 

 冬月がミサトに言う。

 

「え?」

 

「その赤木博士が大丈夫だと言うんだ。問題はあるまい」

 

「ああ。葛城一佐、君は共同訓練に備えたまえ」

 

「・・・・・・了解です」

 

 ゲンドウと冬月がそう言うなら仕方がなかった。ミサトは渋々司令室から出ていく。

 

「だが碇、赤木博士は戦略自衛隊と関わりすぎではないか?」

 

「問題ない。シナリオから外れなければある程度の行動は黙認する。それに我々は使徒を殲滅しきれていない。共同訓練は必要だろう」

 

「・・・・・・ふん、裏切られても知らんぞ」

 

 冬月はあまり乗り気ではなさそうだったが、これも計画のためと割り切った。

 

 共同訓練当日、NERVの発令所には戦略自衛隊第1機械化歩兵師団長の荒山陸将率いる師団司令部が訪れていた。

 もちろんシンジ達パイロットもNERVの制服を着て立っている。レイやアスカもだ。黒い下地は同じだが、レイは白と黄、アスカは赤と白のラインが入っていた。

 

「初めまして。戦略自衛隊第1機械化歩兵師団長、荒山であります」

 

「冬月だ。よろしく頼むよ」

 

「碇司令は?」

 

「すまんな。奴は緊急の電話だ。葛城一佐、後は頼むよ」

 

「はっ!」

 

 挨拶を済ますと、冬月は司令塔に登っていく。なぜNERVのトップはこういう挨拶が苦手なのだろう。

 

 荒山は司令塔にいる冬月からシンジ達に視線を向けた。

 

「君達がパイロットか。若いな」

 

「閣下、エヴァは彼らにしか動かせないのですよ」

 

 ミサトが言う。

 

「・・・・・・気にするな。機密だと言う事はわかっている。すまん」

 

 それからNERVと戦略自衛隊は配置についた。今回は相模湾から使徒が襲来する設定だ。N2兵器やポジトロンライフルといった高威力の兵器は無し。実弾は戦略自衛隊の海岸沿い配備の兵器のみ。海に撃つぶんには問題ない。後はシミュレーションで決まる。

 また、今回エヴァンゲリオンは発進しない。NERV本部内のシミュレーションルームでシンジ達は仮想使徒を殲滅する。

 

 1時間後、全部隊及びエヴァパイロットは準備を終えた。

 後はGOサインを待つのみになった時、ゲンドウが上から降りてきた。

 

「碇、せめて最初だけでも言いたまえ」

 

「ああ。総員第一種戦闘配置」

 

「了解、総員第一種戦闘配置!地対地迎撃戦用意!」

 

 ゲンドウの号令で発令所や現地の戦略自衛隊が慌ただしく動き始めた。

 

「葛城一佐。荒山陸将と共に指揮を取れ」

 

「はい。陸将、よろしいですね」

 

「うむ、では始めようか」

 

「第3新東京市へ避難警報!市民は直ちに避難を開始!兵装ビル展開!」

 

 ミサトの命令で第3新東京市全体にサイレンが鳴り響く。市民は直ちにシェルターへの移動を開始。戦略自衛隊員や警察官が誘導の指揮をとった。

 

 そして住居や商業ビルが下に下がり、兵装ビルが地上に姿を表した。さらに山や丘の斜面にはVLSや速射砲が展開される。

 これでNERV側の準備は整った。

 

「敵は相模湾方面から上陸を試みています!」

 

「識別確認。パターン青、使徒です!」

 

 オペレーター達が報告を入れる。

 

「よし。こちら司令部、航空隊は攻撃を開始せよ」

 

 荒山はVTOL攻撃機に指示を出す。

 攻撃機はミサイルポッドからロケット弾を発射した。

 

【結果、効果なし】

 

 MAGIが計算結果をモニターに出す。

 

「やはりダメか。次!沿岸沿いの機動戦闘車及び自走榴弾砲、射撃開始!」

 

 次に戦略自衛隊所属の12式機動戦闘車と14式装輪自走榴弾砲が攻撃を始めた。徹甲弾や榴弾が海に降り注ぐ。

 

 そして再びMAGIが計算結果を出す。

 

【若干侵攻スピードが低下。反撃有り。機動戦闘車14両大破、5両小破】

 

 今度は戦略自衛隊に被害が出た。撃破判定の車両や隊員は訓練範囲より離脱し始める。しかし、使徒は進撃のスピードを落としていた。

 

「陸将、こちらも動きます」

 

「ああ」

 

「エヴァンゲリオン全機発進。零号機は初号機と2号機をカバーして」

 

『『『了解!』』』

 

「エヴァンゲリオンが発進した。総員攻撃しながら撤退、ロケット砲と自走榴弾砲は援護せよ」

 

 シミュレーションルームでシンジ達は発進した。先程も説明したが実際には発進していない。

 

 戦略自衛隊は後退を開始。ロケット弾や榴弾の援護で、機動戦闘車は射撃を行いながら戦闘範囲から離脱した。

 発令所ではシンジ達が見ている光景と実際の光景が両方ともモニターに出されており、どのタイミングで指示を出すかなどと、訓練がスムーズに行えるようになっていた。

 

 数分後、シンジ達は現場に到着した。

 

『ミサトさん着きました』

 

「では攻撃を開始」

 

「航空隊もエヴァンゲリオンを援護せよ」

 

 シンジ達の陣形は、機関銃を持った零号機を後方に、パレットライフルを持った初号機の援護で2号機が前衛に配置されている。

 

 シンジ達はそこに使徒がいるていで攻撃を開始。VTOL攻撃機もエヴァを援護するように飛び回った。ただ、実際エヴァはいないため、何も知らない者が見れば、攻撃機が変な軌道を描きながらぶんぶん飛び回っているだけにしか見えないだろう。

 

 これは補足だが、攻撃機にはデータで使徒の位置を示しているため、見当違いの場所を飛んでいるわけではない。

 

 シンジの援護でアスカは使徒に切りかかる。アスカが下がるとシンジがライフルを3連射、使徒が突破しようとするとレイが狙撃する。使徒の侵攻スピードはさらに落ちていた。

 

「こんのぉっ!」

 

 そして隙を見たアスカは、槍をコアに突き刺した。さらにトドメと言わんばかりにナイフを取り出し、槍とは別の場所に刺した。

 

 使徒は爆発。2号機も爆発に巻き込まれた。

 

【使徒殲滅。VTOL攻撃機3機撃墜、エヴァンゲリオン2号機の装甲板に焦げ】

 

 MAGIは計算結果をモニターに出す。

 

「使徒殲滅!作戦終了!」

 

 マコトがそう叫ぶと、発令所は「ふぅ」という声が多数発せられる。それは荒山も例外ではなかった。

 

「状況終了。シンジ君達もお疲れ様」

 

「葛城一佐、今回はいい訓練だった」

 

「いえ陸将。こちらこそ」

 

 ミサトと荒山は握手をして互いを称えた。

 

「実際、我々の損害は今の倍以上だろう。だが役割としてはエヴァンゲリオンが来るまでの足止め、さらに攻撃中は彼らの援護だったな」

 

「突然現れる使徒には即応で戦える戦自が頼りです。これからもよろしくお願いします」

 

 そうして共同訓練は終了し、NERVが戦略自衛隊との関係を強めた事が世界中に知れ渡ったのだった。




いつも誤字報告ありがとうございます。

気がついたら本作のお気に入り登録者が先週の倍、UAに至っては5倍以上になってました。何があったんだ・・・・・・。
多くの方々に見てもらえるのはとても嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします!

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