長野県松本市にある第2新東京市。その一角の建物の地下にて、高そうなスーツに身を包んだ男達が話し合っていた。
「先日の一件、どう思う?」
「NERVと戦自の共同訓練か?戦自共はいい経験ができたと喜んでいたが・・・・・・」
「それが問題なのだよ」
「確かに。NERVの影響力が戦略自衛隊に及ぶのは危険ですね」
「それにだ!」
リーダーっぽい男が机をガン!と叩く。
「NERVはロシア軍との交流もあったそうじゃないか!奴らは危険すぎる!」
「使徒とやらを全て倒した後、世界の覇権を握るのはゼーレでもNERVでもない。我らだ。その邪魔はさせん」
「その通りです!」
「いざとなれば戦自は私が止めるさ」
「頼むよ」
暗がりで顔は見えにくかったが、彼らは焦っているように思える。それもNERVへの対抗心丸出しで、だ。
「ではNERVになんらかの工作をするか?破壊工作とか」
「いや、まずは小手調べだ。停電させるだけでもいいだろう。それから次の手を考えればいい」
「そうですな。ではさっそく戦自に」
「戦自は信用できん。内調を使え」
「なるほど。了解です」
「あの男はどうする?」
「これまでの事を直接報告させるためにここへ呼ぶ。奴にも連絡しろ」
「よーし、後は結果を待つだけだ。そろそろ解散とするか」
そう言って男達は立ち上がって部屋を出ていく。
そんな会話がされているとは思ってもいないNERV職員らは、ジオフロントに向けて出勤していた。
制服のクリーニングを終えたリツコ、マヤ、シゲルは大量の制服を抱えてモノレールに乗り込む。すると目の前の座席には、冬月が新聞を読みながら座っていた。
「あら副司令。おはようございます」
「「おはようございます!」」
「ん、おはよう」
一同はそのままNERVへ向かう。しかし冬月だけは評議会に行くとかなんとかで途中下車した。
NERVに到着したリツコ達は制服をカウンターに預けた後、個人ロッカーで制服に着替えた。この日はシンジ達が学校だったため、リツコは実験場でエネルギー兵器の実験を行っていた。
さぁ始めようとリツコがスイッチを押した瞬間、実験場は暗闇に包まれた。
「わ、私じゃないわよ?」
リツコは暗闇の中、実験場にいたスタッフの視線が自分に集まるのを感じる。いや、スタッフもリツコが原因では無い事くらいわかっているのだが、そのタイミング故につい彼女を見てしまったのだ。
「わかってますよ。しかし直りませんね。非常用電源も入っていないようだ」
スタッフの1人がそう呟く。
「何かおかしいわね。私は発令所に行くからあなた達はエヴァをいつでも動かせるように準備しておいて」
「「「はい」」」
エレベーターが使えないため、リツコは階段を使って発令所に向かった。
発令所に到着すると、ミサトとマコト以外は全員席に座っていた。
コンソールが操作できるのを見る限り、全ての電源が落ちたわけではなさそうだ。
「司令!」
「赤木博士、現在葛城一佐がここにいないため、彼女の代わりに職務を全うせよ」
「はい」
「では残っている全ての電力はセントラルドグマとMAGIに回せ」
ゲンドウの命令で、NERVの残っている電力は指示された先へ回された。無論停電の原因を探るため、オペレーター達のコンソールはいじれるようになっている。
一方、学校にいるシンジ達は停電後、NERVと連絡が取れない事に疑問を持っていた。些細なことでもNERVから連絡が入るようになっているのにだ。
第壱中学校では各教室に備えられたクーラーが止まってしまった。さらにテレビや蛍光灯のスイッチを押しても反応はない。先生達は一旦職員室で話し合いをすることになった。
「ねぇ、おかしくない?」
NERVに連絡を取ろうと色々やっているシンジに、アスカが席を離れて話しかけてきた。
「うん。NERVから連絡がないね」
「全く、ミサトは何をやっているのかしら」
「碇君、2号機パイロット」
今度はレイが双眼鏡を持ってシンジの席にやってきた。なぜそんな物持っているのか。
「多分、街中が停電してる。見て」
レイが指さす方向には、モノレールがポツンと線路上で止まっていた。他の原因で止まっている可能性もあるが、今回はタイミングが良すぎた。
「第3新東京市は停電しても直ぐに復旧するようになっているわ」
「何かあったのね」
「アスカ、綾波、NERVに行こう」
シンジは席から立ち上がると必要な物だけ鞄につめて帰り支度を始めた。アスカやレイもそれに習う。
「碇君達どこ行くの!?」
「ごめん委員長!僕達緊急の用事!」
そう言ってシンジ達は教室を飛び出し、学校からNERVまで走り始めた。
学校から1番近い入口にたどり着いたシンジ達。しかしIDカードをかざしても扉が開くことはなかった。
「あれ?開かない」
「ここで止まってる暇はないわよ!緊急用の入口から入るわよ!」
アスカが近くの建物の路地へ行き、壁をぺたぺた触り始める。
「違うわ。ここよ」
なかなか見つけられないアスカにごうを煮やしたレイは自販機の下にあるボタンを押す。すると自販機から何か外れる音がした。レイが横にスライドさせると、頑丈そうな扉が現れた。
しかし扉は開かない。開けるには電力が必要らしい。今は停電中のため、備え付けてある緊急用の発電機(手動)を動かさなくてはならなくなった。
(なんで僕だけ・・・・・・)
女性2人に男性1人。こういう時発電機を回すのは男の役目だと思われるが、アスカとレイは十分な訓練を受けてきているのだから少しくらい手伝ってくれてもいいんじゃないだろうか。
さらにシンジは思い出す。もう1人の自分の世界でも同じような事があったと。あの時は使徒が来ていた。今回もそうとは限らないが、警戒する必要がある。
数分後、ようやく電気が溜まり、IDカードを差し込むと扉のロックが外れた。トレーニングしていてよかった。
シンジ達は中に入ると自販機を元に戻し、扉をしめた。
「じゃ、行くわよ」
「道わかるの?」
「わかるわよ!」
一同はアスカを先頭に暗い道を進んで行った。
そしてできれば使徒は現れないで欲しいというシンジの願いは叶わなかった。第3新東京市に巨大な物体が移動しているのを戦略自衛隊のVTOL機が発見したからだ。
「機長!あれは!」
「使徒とかいうやつだな。NERVと通信をとろう」
巨大なザトウムシのような見た目の使徒はゆっくりと第3新東京市へ向かっている。しかしNERVの妨害は無い。
「おかしい。NERVと連絡がとれない」
「それどころか第3新東京市と連絡がとれません」
「まずいな。念の為に拡声器で呼びかけるぞ!」
そう言って機長は備え付けてある拡声器のマイクに手を伸ばした。
『こちらは戦略自衛隊です!巨大生物が接近しています!直ちに避難してください!繰り返します――』
その声は第3新東京市に響き渡り、住民達は避難を開始した。停電で混乱しているところに使徒が来た。慌てずにはいられない。そんな彼らを地上で見ていたマコトは、交差点で止まっていた選挙カーに目をつける。やっと移動手段が見つかった。
選挙カーは緊急事態のため、NERVの権限により接収されると、戦略自衛隊と同じように住民に避難を呼びかけた。だがその間にも使徒は接近を続け、ついには第3新東京市に侵入して来た。
その頃、暗い通路を進んでいたシンジ達は道に迷っていた。アスカが先導して歩いているものの、まだ到着していない。それどころか下っている感じがしないため、ジオフロントにすら入っていないのではないか。
「あ!光が見えた!」
アスカはそう言うと光が漏れている扉に近づき、思いっきり蹴り飛ばした。
「あ、あれ?」
しかし出たのは地上。シンジとレイはジト目でアスカを見る。すると地響きと共に、ビルの影から使徒が姿を表した。側面と下部に目のようなものがある使徒。
シンジ達は使徒と目(のような模様)が合ってしまった。
「「うわっ!」」
慌てて扉を閉めるシンジとアスカ。そして3人は何事もなかったかのように歩き始める。今度はレイがダクトを伝っていくという案を進言し、アスカは渋々了承した。
ダクトを進んでいくと、巨大な線路の上に出る。地上と地下を行き来する列車の線路だ。シンジ達はそこを伝ってジオフロントまで歩く事にした。
地上にいるマコトも、そろそろNERVへ戻ろうと思い、運転手にゲートへ向かうように指示する。同乗している女性には悪いが、ここは我慢してもらうしかない。
シンジ達とマコトが乗った選挙カーがNERV本部へ到着したのはほぼ同じタイミングだった。マコトは拡声器を持って走り回る。
「非常事態!使徒が第3新東京市へ出現した!エヴァンゲリオンの出撃を要請する!」
使徒接近の情報は瞬く間にNERV全体に広がり、発令所でも職員が動き回っていた。シンジ達もプラグスーツに着替えるため、一度ロッカーへ向かった。
ちなみに作戦課長様はどこにいるのかというと、エレベーターの中で1人膝を抱えて座り込んでいた。
「くそぅ。なんでこんな時に加持のやろーがいないのよー」
はい。てなわけでマトリエル戦です。他にも使徒あるやろ!と思った方もいると思いますが、こいつは後の話の構成に必要な使徒なので取り入れました。
一昨日も投稿しましたが、少し余裕があったのでこの話も投稿しました。投稿頻度は週一でなんとかやっていけてるので、これからも週二の時があるかもしれません。
そして金曜ロードショーで新しい予告が出ましたね。2号機の腰辺りについていたエントリープラグがなんなのか気になるところですが、シンジ君が初号機にもう一度乗りそうなので、そこは嬉しく思います。
ていうかアスカ達はどこで回収されるんだろう。あと回収されたらシンジ君誰かに殴られそう。