ゲンドウに指揮権が渡る少し前、幹部達が本部と連絡をとっている頃、シンジとミサトはNERV行きの貨物列車に車ごと乗っていた。
下へ行くアナウンスが流れると、重い扉が自動で閉まる。対戦車ミサイルでも持ってこない限り破られないだろう。
「ねぇシンジ君。お父さんの仕事って知ってる?」
ミサトはハンドルに両手を乗せてシンジの方をチラッと見た。
「NERVという場所で働いていると聞きました」
「そうよ。NERVは国連直属の非公開組織なの。知らないのも無理ないわ」
「・・・・・・やっぱり父のとこに行くんですか?」
前はどんな事を自分で言っていたかを思い出し、シンジはなんとかミサトと会話を続けた。この時はまだNERVの事を何も知らないため、下手に会話ができないのだ。
ちなみに、シンジは父親であるゲンドウにこだわるのを止めている。両者ともただ不器用だっただけ。それにゲンドウはユイに会いたいがために何もかも犠牲にしてきた。今まで拒絶してきたが、こちらから歩み寄ればなんらかの反応があるはずだ。
「ええ。確かID貰ってるはずなんだけど、持ってない?」
「ええっと、これです」
シンジはバックの中を漁ってIDカードを取り出した。ちなみにそのIDは紙にクリップで止められており、その紙にはゲンドウの字でただ一言
『来い』
と書かれていた。
ここはやり直す前と何も変わっていない。
ミサトにカードを手渡すと、『ようこそNERVへ』という分厚いパンフ(?)を渡された。
前はあんまり読んでいなかったが、2回目となると少し余裕もあるのでシンジはパンフを開いた。
数分後、シンジは外が明るくなるのを感じてパンフから外に目を向けた。
「すごい・・・・・・」
シンジの目に入ってきたのは緑豊かなジオフロント。まだ第10の使徒の侵攻を受けていない綺麗な状態だ。森があり、湖があり、天井からはビル群が突き出していた。
改めて見る平和なジオフロントに、シンジはここを守るという覚悟が自分の心に芽生えたのを感じた。
「でしょ?ここが私達の基地。NERV本部よ。そして人類の希望でもあり、最後の砦でもある。外のデカブツ・・・・・・使徒から守るの」
ミサトはいかにここが大事かシンジに説明した。もちろんシンジはそんな事耳が痛くなるほど聞いてきたのでわかっている。
貨物列車が到着し、駐車場に車を停めてエレベーターに乗り、再び地下に降りていく。地下8階を過ぎた頃、チンと音を立てて止まったエレベーターに1人の女性が乗り込んできた。
「あ、あらリツコじゃない」
「到着時刻を12分オーバー。全く・・・・・・葛城二佐、私達には時間がないのよ?」
「ごめん!」
その女性は毅然とした態度でミサトに接する。数回のやり取りの後(ミサトが謝ってただけ)、リツコという白衣を来た女性はシンジに向き直った。
「で?この子?」
「そっ」
「私は特務機関NERVの技術局第一課・E計画担当責任者、赤木リツコ。よろしくね」
「はい。こちらこそ」
パラパラと資料の大事な部分だけを読んでいたシンジは一旦視線をリツコに向け、その目をしっかり見て挨拶をした。
第1発令所では・・・・・・
「冬月、ここを頼む」
「ああ」
副司令の冬月にそう言った特務機関ネルフの総司令、碇ゲンドウはシンジに会うため、1人用の小さなエレベーターに乗って地下へ降りていった。
「・・・・・・3年ぶりか」
冬月は複雑な心境でゲンドウが降りていったエレベーターの扉を見つめた。
シンジを暗い部屋の中へ案内したリツコは、部屋の照明のスイッチに指を置いた。
「碇シンジ君。見せたいものがあるわ」
そう言ってスイッチを入れる。
明かりがつくと、シンジの目の前にエヴァンゲリオン初号機の頭が浮かび上がった。
別に初号機は見慣れていたのでさほど驚かなかったが、不審さを感じられる前にシンジは口を開いた。
「こ、これは・・・・・・」
「(・・・・・・何か変ね)これは我々NERVが開発した汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオン初号機よ。人類最後の切り札。希望と言ってもいいわ」
リツコはその鋭い洞察力で何か違和感を覚えながらも、得意げに初号機を説明した。
「これで父の指揮の下さっきの使徒を倒すんですか?」
『そうだ』
上から声が聞こえる。
その方向を見ると、ゲンドウがゲージの上にある部屋からシンジ達を見下ろしていた。
「・・・父さん」
『久しぶりだな』
前のシンジはこの時目を逸らしていた。自分を捨て、今になってこんな場所へ呼びだしたゲンドウを見たくなかったのだ。
だが今回は違う。シンジは強い眼差しでゲンドウを見つめた。綾波ごと零号機を飲み込んだ第10の使徒を倒すために初号機のケージで「乗ります!」と叫んだあの時のように。
一瞬ゲンドウはその眼差しに眉をピクリと動かしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「ふっ。出撃」
やはりそうだ。前と変わらないじゃないか。
シンジはそう思った。
「出撃!?司令!零号機は凍結中なんですよ!?」
急な出撃命令にミサトはゲンドウに向かって叫ぶ。
「問題ない。初号機がある」
「なっ・・・・・・まさか!」
言葉に詰まるミサト。
「ミサト。もう他に道はないの」
「リツコまで・・・・・・」
「シンジ君」
「はい」
「あなたが乗るのよ」
リツコはミサトからシンジに向き直って間髪いれずにそう言った。
まぁ何回も出撃しているシンジにとってはあまり驚くことではないのだが、以前の自分を思い出してセリフを選んだ。
「これに僕が?これに乗って使徒と戦えって言うんですか?」
「そうよ」
「リツコ!シンジ君は何も知らないし訓練も受けてないのよ!?」
そりゃそうだ。
今は違うがあの時のシンジは何も知らない14歳なのだ。
「時間がないの。それを1番よく知ってるのは作戦課長の貴女でしょう」
リツコの言葉は正しい。使徒が来た時の戦闘指揮はミサトがとっている。すぐそこまで使徒が迫ってきている以上、1秒でも時間が惜しい。だがなんの訓練も受けていない14歳の少年を戦場へ送るのは抵抗があるのだろう。まだ納得していない様子だった。
すると使徒の攻撃だろうか。
NERV本部全体が揺れるほどの衝撃がシンジ達を襲う。どうやらここに気がついたらしい。
『第1層の第8装甲板損壊!』
『Dブロックに火災発生!』
『何をしているシンジ。乗れ』
「・・・・・・わかった。乗るよ」
『ならば後は赤木博士に聞け』
そう言ってゲンドウは部屋から出ていく。
「シンジ君。本当にいいの?」
「はい。理由もなく呼ばれるわけが無いと思ってましたから」
「そう」
「じゃあシンジ君。私とミサトは作戦を指揮する場所、発令所に行くわ。君はあのエントリープラグの所に行きなさい」
「はい」
ミサトとリツコは走ってゲージから発令所に戻る。シンジも整備員に案内され、ハッチが空いているエントリープラグの所まで駆け上がった。
整備員はインターフェイス・ヘッドセットという頭につける機械をシンジに渡し、エントリープラグに入るよう促した。
エントリープラグに入ったシンジは、初戦で緊張感溢れるこの場の雰囲気を懐かしんでいた。
(懐かしいな。あの時のシンクロ率は50%にも満たなかったけど、今はどうなんだろ)
そして発令所ではオペレーター達がディスプレイに映し出される事をミサト達に報告していた。
「第3次冷却終了」
「補助電圧、異常なし」
「停止信号プラグ排出終了」
また、他のオペレーター達より1段上に座っているマヤ達も現状況を報告していた。
「エントリープラグ挿入。エヴァとパイロットとの接続準備」
「精神汚染値は許容範囲内」
「エントリープラグの固定完了」
全ての報告を受け取ったリツコは次の指示を出した。
「では、第1次コンタクト開始!」
「了解。L.C.Lを注水します」
エントリープラグ内にオレンジ色の液体、L.C.Lが満たされていく。
『え、え、これはなんですか!?』
「安心しなさい。その液体が肺を満たせば直接酸素を供給してくれます」
シンジにとってL.C.Lも慣れたものだったが、初見で謎の液体が迫ってくるのを驚かない人間はまずいない。シンジは驚いたフリをした。
そしてリツコの説明の後、いつも通りに肺をL.C.Lで満たした。何度やっても気持ちいいものではない。
「主電源接続完了」
「第2次コンタクト。インターフェイス接続」
「思考形態は日本語で統一。初期コンタクト全て異常なし」
「よろしい。ではシンクロ開始!」
(来た!)
リツコの声にシンジは意識を初号機に集中した。そうしていると、母親・ユイが自分を包んでくれている感じがした。
(あったかい。そう言えば母さんが中にいるんだっけ。お願い!力をかして!)
「シンクロ率出ました!シンクロ率・・・・・・」
「どうしたのマヤ。早く言いなさい」
「は、はい!シンクロ率、85%です!」
さすがに逆行で初回のシンクロ率が90%いくのもどうかと思ってこの変の数字にしました。エリートのアスカでさえも初回は50%いかなかったらしいですし。
ちなみに今作ではエヴァは2号機以降誰でも乗れるようにしました。新劇場版とほぼ同じですね。しかし零号機と初号機は専用機とします。
零号機はコアのシステムが未完成のため。
初号機は碇ユイの魂で不可能のため。
コアの書き換えについては新劇の初号機は不可能でしょう。そもそも碇ユイがいるんですもん。
しかし逆にシンジとレイは他のエヴァ(初号機以降)に乗ることができます。めったにそんな事あるとは思えませんが・・・・・・。