碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第29話 第10の使徒

 

 

 

 マコトが「使徒接近!」とマイクで叫んだことにより、NERV内はすぐさまエヴァの発進準備に取り掛かった。

 

「司令!エントリープラグを持ち上げる電力がありません!」

 

「慌てるな。手動で持ち上げろ、手の空いている者は格納庫へ」

 

「「了解」」

 

 放送が使えないため、オペレーター達は無線で指示をした。

 

「赤木博士、私も格納庫へ行く。ここは頼んだ」

 

「は、はい」

 

 ゲンドウは発令所をリツコに任せ、格納庫へ向かう。まさか作業を手伝うつもりだろうか。リツコやマヤは意外そうな目でゲンドウを見送った。

 

 一方、シンジ達はプラグスーツに着替えて格納庫へ走っていた。

 

「格納庫どこだっけ!」

 

 走りながらシンジが叫ぶ。

 

「そこを右に曲って」

 

「暗くて道なんてわからないわよー!」

 

 レイの案内でシンジ達はなんとか迷わずに格納庫へ向かっていた。生まれてからずーっとここで生活しているレイにとって、NERV本部は家みたいな所。停電だろうがなんだろうが、その構造は頭の中に入ってるため迷わないのだ。

 

 それから何回曲がっただろうか、シンジ達はようやく格納庫へ到着した。上の方を見ると、NERVのスタッフがロープでエントリープラグを持ち上げている。その中にはあのゲンドウの姿も・・・・・・。

 

「あっ!パイロット到着!パイロット到着!」

 

 シンジ達に気がついた整備員はメガホンで声を上げた。

 他の整備員はその声に気づき、何名かシンジ達に近づいてきた。

 

「よくきたね。さぁ、走って!発進の用意はできてるから!」

 

 整備員の言葉から、時間がないのを悟ったシンジ達はそれぞれのゲージへと走り、人力で持ち上げられていたエントリープラグに飛び込んだ。

 

 パイロット達がエントリープラグに入り、ハッチが閉められた事を確認した整備員は、ディーゼル発電機もってエヴァにエントリープラグを挿入した。

 

「エントリープラグ挿入完了!」

 

「エヴァンゲリオン起動せよ」

 

 ゲンドウの号令で、シンジ達はそれぞれのエヴァを起動させる。シンクロが完了すると、エントリープラグ内は周囲の風景を映し出した。

 

 そしてリツコから通信が入る。

 

『3人共、いいこと?停電で射出ユニットが使えないからメインシャフトを伝って地上に出て』

 

「わかりました」

 

『ロック解除、発進!』

 

 エヴァを仕切る格納庫の壁は収納され、広々てした空間が出来た。これでメインシャフトに移動できる。

 

 だが、発進するタイミングは少し遅かった。使徒が溶解液でメインシャフトの入口を溶かし、侵入しようとしていたのだ。

 これではメインシャフト内が戦場となるだろう。シンジ達は移動しながら作戦練った。もう1人の自分が体験した戦闘と同じだったため、シンジは2人に似たような作戦を進言する。

 

 シンジの案を含め少し話し合った結果、シンジがディフェンス、アスカとレイがオフェンスとなった。作戦内容は簡単、ATフィールドを張った初号機が使徒の溶解液を防ぎ、その後ろから零号機と2号機がパレットライフルで使徒の目を撃ち抜くというものだ。

 

 シンジは最初、アスカが「1人でやる!」と言うかもしれないと思っていたが、意外にも3人で協力して使徒を殲滅する案に賛成していた。何か心の変化でもあったのか、それとも何か変な物でも食べたのか。そういえば昨日の夕食のカレーにミサトさんが栄養ドリンク混ぜて、それをアスカが味見してたなぁ、とシンジは思い出した。

 

 使徒の溶解液は装甲板を溶かし、メインシャフトの穴が地上から見えてしまった。そして使徒は先程よりも大量の溶解液を流し始める。本格的に動くつもりだ。

 

「シンジ!早く!」

 

「うん、フィールド展開!」

 

 初号機は横穴から勢いよく飛び出し、身体をメインシャフトに固定してATフィールドを展開した。

 装甲板をも溶かす溶解液が降ってくるのはあまり気分がいいものではないが・・・・・・。

 

 しかし溶解液はATフィールドに阻まれ、別の横穴に流れ込んだ。穴の先に何があるのかはわからないが、下に流れるよりはマシのはず。

 

「アスカ!綾波!」

 

 シンジが合図を出すと、2号機と零号機はパレットライフルの一斉射撃で使徒を攻撃した。

 何発かは溶解液に阻まれたが、それでも2丁分の弾丸は溶解液を出している目に直撃。中にあったコアにも当たったのだろう。使徒は動きを止め、身体が膨らんだと思ったら爆発。爆風と血が第3新東京市とNERV本部へ流れ込んだ。

 

 下にいるシンジ達にも血が降り注ぎ、機体が真っ赤に染まってしまう。だか使徒は倒せた。発令所にはホッとした空気か流れている。よくもまぁ停電(こんな)時に使徒を倒せたものだ。

 

 それに今回の使徒は弱かった。下が弱点なだけの気もするけど・・・・・・上部はそれなりに固いのかもしれない。

 

「一応殲滅ね・・・・・・」

 

「先輩、溶解液が流れた横穴は開発中の場所に通じていました。損害は軽微です」

 

「そう、許容範囲内ね」

 

 人的損害は無く、整備員がこけて骨を折ったくらいだった。

 

 そして使徒を殲滅してから1時間後、ようやく電気が復旧した。明かりがつくとゲンドウは直ちに修復作業に入れと命令し、自身は冬月を伴って司令室に戻って行った。

 

 シンジ達も自力で格納庫に戻り、エントリープラグから出てロッカーへ戻った。

 わたわたしていた発令所も、今では事後処理にまわっている。

 

「ところでミサトはどこにいるのかしら?」

 

「葛城一佐ですか?えっと・・・・・・いました!エレベーターの中です!」

 

「すぐに誰かを向かわせて」

 

「はい」

 

 エレベーターの中に閉じ込められていたミサトは、電力が復旧した事で元気を取り戻し、階数ボタンや開閉ボタンを適当に押した。するとエレベーターは動き出し、近くの階に止まると扉が開かれた。

 

「や、やっと出られた・・・・・・」

 

「葛城一佐!」

 

 通路に座り込むミサト。そこへ保安部に所属している男達がやってきた。

 

「ご無事で!」

 

「お怪我は?」

 

「大丈夫。それより何かあった?」

 

「それが――」

 

 保安部の男がミサトに先程の出来事を説明する。

 

「使徒ぉ!?指揮は誰がとったの!?」

 

「赤木博士です」

 

「リツコが?」

 

「ええ。損害は軽微。エヴァは装甲が少し溶けたくらいでした」

 

「そっか・・・・・・それより停電の原因は?」

 

「現在調査中です。しかし第3新東京市全ての電源が落とされていることから人為的な停電である事は間違いないですね」

 

「人為的なですって・・・・・・?あいつに聞いてみるか。私は発令所に戻るわ。ご苦労さま」

 

「「はっ」」

 

 NERVの諜報員達は、停電の原因が人為的なものであると既に気が付いていたが、誰がやったのかまではわかっていなかった。

 

 ミサトが保安部の男達と別れて発令所に向かっている一方、シンジ達はロッカールームから休憩室に移動し、自販機で買ったお茶を飲んでいた。

 

「今回の使徒は弱かったわね〜」

 

「うん。まさかライフルの斉射で終わるなんてね」

 

 アスカがペットボトルを空中へ投げてはキャッチを繰り返しながら呟く。

 

「上とか横からだと弾かれてたかもしれないわ」

 

「何言ってんのよエコヒイキ。終わったんだしいいじゃん」

 

「それにしてもさ、この停電はおかしくない?綾波はNERVが長いよね。どう思う?」

 

 シンジは慌ててレイに聞く。2人が口論になるのを防ぐためだ。口論と言ってもアスカがギャーギャー騒ぐだけだろうけど。

 

「ここは複数の電源があるわ。だから停電しても問題ないの・・・・・・だから今日はおかしい」

 

「ふん。じゃあなーに?意図的に誰かがやったっての?」

 

「・・・・・・僕もそう思う。あ!こういう時は加持さんに聞けばいいんだ!」

 

 シンジはあの得体の知れない男の事を思い出す。

 

「でも見てないわ。ここにはいないのかも」

 

 レイの言う通り、加持はここにはいない。第2新東京市に呼び出されたのだ。直接呼び出されるのは珍しいため、加持も不思議に思いながら長野に向かっていた。

 

 加持が帰った後、NERVに工作員を送り込んだ男達は前と同じ部屋で話し合っていた。

 

「内調からの情報だ。結果、第3新東京市とNERVは麻痺。完全に機能しなくなった」

 

「ではこれから本格的に?」

 

「いや、第3新東京市があれだけ機能しなくなる事がわかれば十分だ」

 

「ああ。タイミング悪く使徒が来たからNERV側も怪しんでいるそうだ」

 

 今回の停電で第3新東京市の機能が麻痺したが、タイミング悪く使徒が出現したためにサードインパクトが起きる可能性があった。NERVも全ての電源が切れるとは予想していなかったので、人為的な停電ではないかという意見が出てきていた。

 

 結果使徒を殲滅出来たとはいえ、かなり危ない状況だった。これが第6の使徒だったらと思うとゾッとする。

 

 停電による被害は意外にも大きく、第3新東京市は交通機関の麻痺、兵装ビルの展開不可、NERVもほぼ全ての機能が停止してしまった。

 

「これでもしもの時は安心だな」

 

「うむ。第3新東京市の防衛力は侮れない。だが停電させてしまえばこっちのものよ」

 

 男達は今回の結果に満足する。

 日本の闇がNERVに近づきつつあった。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

「失礼します」

 

「帰ったか」

 

 NERVの司令室に先程帰ってきた加持が入ってくる。ゲンドウに呼び出されたのだ。

 

「聞きましたよ。停電と同時に使徒が来たらしいじゃないですか」

 

「どうせ内調の人間だろうよ。全く・・・・・・人類同士でやりあってる場合か・・・・・・」

 

 冬月が呆れたように言う。

 

「加持、今回は関与していないのだな?」

 

 ゲンドウは鋭い目つきで加持を見る。

 

「ええ。時限式で停電させることはできますが、今回は別の者です。既に絞り込めているのでご安心を」

 

「そうか。ならいい」

 

「碇、停電させた男にはそれ相応の代償を払ってもらう必要があるのではないか?」

 

「いや、事を荒立てる必要はない。加持、ご苦労だった」

 

 冬月の意見に即座に反対するゲンドウ。無論やろうと思えばやれる。しかし今はその時ではないのだ。

 

 司令室を出た加持は軽食を頼みに食堂へと向かう。するとテーブルの上に突っ伏しているミサトを発見。いつものようにからかいに行ったのだった。




ちょーっと遅れました。ごめんなさい

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