碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第30話 スペツナズ

 

 

 

「今度はロシア軍ですか!?」

 

 ミサト宅のキッチンでシンジは皿を拭きながら、酒を飲んでいるミサトに問う。

 

「この前シベリアで訓練したじゃない?あれがきっかけになったらしくて向こうから誘ってきたのよ」

 

「でも外国の軍隊は日本に入れるんですか?日本とロシア敵対してたって習いましたけど」

 

「私達は一応国連の組織よ。そんなの関係ないわ。それに訪日するのは1個小隊らしいの」

 

「はぁ・・・・・・」

 

 ロシアNERVの警備隊なら話はわかる。だがマジモンの正規軍が来るとは思わなかった。そういえばシベリアで訓練した時は弾道ミサイル攻撃まで受けていた。もしかすると向こうのNERVと政府は仲よくやっているのかもしれない。

 

 ちなみにNERV本部はあまり日本国政府と仲良くない。一国以上の発言力と軍事力を保有するNERV本部が国内にあり、政府の管轄から離れているために警戒されているのだ。

 無論全員が同じ考えではない。シンジは知らなかったが、使徒やゼーレを知っている議員の中でもNERVと友好を深めるべきだという者もいる。

 

「えー、何何?」

 

 アスカが頭を拭きながらリビングに出てくる。できればドライヤーで乾かしてから出てきてほしかった。ああ、床に水滴が・・・・・・。

 

「今度ロシア軍の1個小隊がNERV本部に来るんだって」

 

「ロシア軍?大丈夫なの?」

 

「多分ね」

 

「多分てミサト・・・・・・」

 

「ま、とにかくよろしくね」

 

 そう言ってミサトは部屋に引っ込んだ。シンジとアスカは互いに見つめ合うと、ミサトの適当さにため息をついた。

 

 数日後、第3新東京市にあるビルに設けられた会議室にロシアからの来訪者が集まっていた。シンジ達パイロットを連れたミサトが部屋に入るなり、女性の声が彼女を呼んだ。

 

「ミサト!」

 

「カリーナ?なんでここに?」

 

 カリーナ・ヴェンスカヤ。彼女はロシアNERVの作戦課長で、シベリアで訓練した時はお世話になった。

 

「私が向こうにいても使徒は来ないしね。ミサトよりは自由に動けるのよ」

 

「なるほどねぇ。で、そちらが?」

 

「ええ。ほら挨拶」

 

「はっ。私はロシア連邦軍参謀本部情報総局第5局のスペツナズ所属、レイラ・ミノロヴァ大尉です」

 

「なんでロシアの特殊部隊が!?」

 

 再び驚くミサト。

 

 まぁそれはいいとして、なんと訪日してきた部隊の代表は、シベリアで訓練した時にシンジの部屋に入ってきたレイラだった。

 

 ポカンとしているシンジを見つけたレイラは、フリフリと手を振る。

 

「シンジ、久しぶり」

 

「ミノロヴァ大尉なんですか?というかスペツナズって・・・・・・」

 

「シンジ、この女と知り合いなの?」

 

 アスカはレイラを警戒しながらシンジに問う。アスカは軍歴がシンジよりも長いため、スペツナズがどういう部隊であるのかわかっている。スペツナズは偵察、暗殺、破壊工作、スパイ活動を行っており、あまり関わりたくない者達だ。

 

 関わりたくないが、アスカはシンジとレイラの関係を聞かざるをえなかった。男であるならばそこまで警戒はしないが、レイラは女性、しかもかなり美人なため、アスカの琴線に触れたのだ。

 

「あれ?シンジ君知ってるの?」

 

 ミサトも意外そうな顔でシンジを見た。

 

「え、ええ。シベリアに行った時に会ったんです。その時はロシア軍所属だけしか言ってなかったんですけど・・・・・・まさか特殊部隊だなんて」

 

「あんたそんなのんきな事言ってるけどね、その女が連れてきた小隊で本部は制圧されるわよ」

 

「え・・・・・・」

 

「そ、そうよ。カリーナ、まさかあなた!」

 

 ミサトはハッとなってカリーナに鋭い視線を向ける。その時シンジはミサトの右手が銃のグリップを握るような形になっている事に気がついた。

 

 まぁ特殊部隊を引き連れてやってくれば警戒はする。戦略自衛隊がいれば多少の余裕はあったのだろうが。

 

「違う違う、本当に訓練。内容は室内戦闘と白兵戦闘よ」

 

「私の国には戦略自衛隊がいるんだけど?」

 

「それでも日本国政府のいいなりでしょ?もし攻められたらこちらの戦い方をしっている向こうが有利じゃない」

 

「むぅ・・・・・・」

 

 ミサトはカリーナの意見に反論できなかった。軍歴(?)が浅いシンジでもカリーナの言う事には一理あると思ったくらいだ。

 

「戦い方は複数あった方がいいと思うの。だからスペツナズを連れてきたわ」

 

「碇司令に許可とってるんでしょうね」

 

「少し手間取ったけどなんとかなったわ」

 

 なんと。よくもまぁ許可が出たものだ。

 

「そ。ならいいわ。このビルはNERV本部と似たような構造だからいつでもできるわよ」

 

「じゃあ午後からね」

 

「OK。ところであの娘が隊長?若すぎない?」

 

「こっちも人材不足なの。でも強いわよ〜」

 

 そう言いながらミサトとカリーナは部屋を出ていく。シンジ達パイロットはここからビル内での訓練を見学することになっている。

 シンジは後ろに微かな気配を感じて振り向いた。

 

「ど、どうも」

 

「ずいぶん鍛えたみたいね。気配を消してたんだけど。でもまだまだ」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「・・・・・・」

 

 いつの間にかシンジの後ろに立っていたレイラ。そしてアスカとレイはシンジを後ろに引っ張り、彼を守るように2人の間に立った。

 

「シンジ!油断してるわよ!」

 

「でも殺気もなかったし・・・・・・」

 

「それが普通なの!今のあたし達じゃ束になっても勝てないわ!」

 

 意外にアスカは自分の実力をわかっていた。来日して自分よりエヴァの実力があるシンジにある意味コテンパンにされてから、改めて自身の能力を知るようになった。

 

 それにシンジやミサトもアスカをなんとかフォローしていたので、アスカは人に頼るという事を覚えた。

 

 自分は1人じゃないんだ。

 

 そうアスカに思わせたのだ。

 

「というかシベリアに行った時は彼女の正体知らなかったみたいだけど?」

 

「うん。だってロシア軍所属のレイラしか言ってなかったし・・・・・・」

 

「ねぇねぇ。どっちがシンジの彼女?」

 

 ピシッ。

 

 急なレイラの質問に部屋の空気が凍った。

 

「な、なに言ってんのよ!」

 

 アスカは顔を真っ赤にし、レイはスススとシンジに近寄った。

 

「・・・・・・ふーん。じゃ、訓練の様子をしっかり見る事ね」

 

 レイラは手を振って部屋を出ていく。

 それからシンジはアスカとレイに座らせられ、彼女との関係を質問・・・・・・いや、尋問された。やましい事は何も無いので、シンジはシベリアでの出来事を洗いざらい話した。

 

 そしてアスカのムスッとした表情が治らないまま、NERVとスペツナズの室内訓練が開始された。今回使うのはペイント弾で、ヘッドショットは禁止されている。

 

 訓練のルールは簡単。スペツナズ側は屋上から侵入し、1階の本部を抑えれば勝利。NERV側はスペツナズを全滅させれば勝利だ。エレベーターと爆発物は使用不可となっている。

 

 両者が配置に着くとブザーが鳴り、訓練が開始された。

 レイラ達は屋上から内部へ侵入。無人の部屋を橋頭堡として確保した。そして階下へ繋がる一本道の廊下へ出た途端、NERV保安部警備局第一課所属の警備隊もとい守備隊による射撃が開始された。

 なお、バリケードは無い前提で訓練は行っているため防衛陣地は組めていない。

 

 スペツナズは慌てずスタングレネードを投げる。廊下に響く音と閃光によって守備隊の半分はやられ、彼らは3連射で行動不能にされてしまった。

 

「すごい・・・・・・」

 

 シンジが驚いている間にもレイラ達はその速さで最初の階を制圧してしまった。

 

 その後、スペツナズは数名の死傷者(判定)を出しながら各階を制圧して行く。守備隊は遅滞戦闘に務めながら数箇所に防衛線を設置。スペツナズの侵攻を少しだけ食い止めていた。しかし本職に敵うはずもなく、スペツナズの倍以上の死傷者(判定)を出していた。

 

 近接戦闘でも守備隊は苦戦している。

 懐に飛び込まれた者は一瞬で叩きのめされ、死亡判定を出されてしまった。

 

 開始から1時間後。

 NERV側はほとんどの階を失陥。残るは最下層のみとなった。

 

「警備局の人達もなかなかやるわね」

 

「無理。本職には敵わないわ」

 

「でもさっきよりは動きは良くなってるよ。最下層に戦力が集まってる」

 

「あの場所で抵抗するつもりね。でもいつまで持つかしら」

 

 シンジ達が見る画面には、生き残った人達が最下層に集結して防衛線を築いていた。来る場所は決まっているため、十字砲火を浴びせられるいい陣地を構築できた。

 

 そこへスペツナズが突入すると、ペイント弾の嵐が彼らを襲う。だが、守備隊の抵抗は予想できていたらしく、スペツナズは正確な射撃で守備隊を一人一人片付けていく。

 数分後、守備隊はさらに半分片付けられ、火力は一気に下がってしまった。

 

「・・・・・・ダメね」

 

「ええ」

 

「負けたね」

 

 アスカ、レイ、シンジは守備隊の敗北を確信する。スペツナズは支援射撃で守備隊を牽制し、一部の部隊が突撃を敢行した。

 そして防衛陣地に飛び込んだスペツナズは無敵だった。近接戦闘によって次々に守備隊を無力化し、屍の山を通路に築き上げた。

 

 その後レイラはカメラに向かって手を振ると、目標地点にあるブザーを押した。ブザーが鳴ると、訓練終了の音声が建物に流れる。

 

 10分後、落ち込んだミサトとそんな彼女をニヤニヤ見ているカリーナ、余裕そうな顔をしているレイラが部屋に戻ってきた。

 

「ま、負けた・・・・・・」

 

「へっへっへ。今度奢りなさいね」

 

「だらしないわよミサト!」

 

「なによぅ。アスカのくせに〜」

 

 さっそくアスカがミサトをからかいにいっている。止めてあげればいいのに。

 

「さてと」

 

 カリーナは軽く手を叩いて視線を集める。

 

「今回の訓練でNERV本部の守備隊は再教育の必要性ありと判断するわ。ミサト、明日からスペツナズ全員で訓練してあげるからNERV側の人選は任せるわよ」

 

「・・・・・・はーい」

 

 ミサトはまだへこんでいるようだ。

 

「君たちパイロットにも近接格闘の訓練を受けてもらうわ」

 

「「はい」」

 

「はーい」

 

「では本日は解散!お疲れ!」

 

 そう言ってカリーナはレイラと部屋を出て行った。シンジ達はへこんでいるミサトを引っ張り出して部屋を出る。

 ビルから出ると、ちょうどマコトがシンジ達を迎えにきており、4人は車に乗ってコンフォート17へ向かう。マコトはミサトの状態を見て、そのまま連れて帰らせるようにシンジに言ったのだ。後のことは彼がやってくれるらしい。

 

 その夜、NERV本部の司令室では、ゲンドウと冬月がスペツナズとの訓練映像を観ていた。

 

「やはりこんなものか」

 

「ああ。仕方ないだろう」

 

「だが碇、よくロシア軍がNERVの警備員を鍛えるのに協力してくれたな」

 

 冬月は訓練映像が流れていたパソコンを閉じてゲンドウに問う。

 

「影響力が欲しいのだろう。ベタニアベースを失った奴らにゼーレも見切りをつけている。我々と深く関係を築けば今後影響力が大きくなると思っているのだ」

 

「向こうのNERVと政府はよくやっているからな。国益が優先されるのもわかる。羨ましいかぎりだ」

 

 現在、ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊して誕生したロシア連邦と、第二次世界大戦から世界の覇権を握っていたアメリカ合衆国は、使徒の襲来やNERVという組織などによって影響力が小さくなっていた。

 そのため、言い方は悪いがロシア政府はNERV本部に媚びることで自らの地位を向上させようとしているのだ。

 

「それに比べて我々の政府ときたら・・・・・・ん?碇、それはなんだ?」

 

 冬月はゲンドウの携帯端末に写ったメール画面を覗き込む。

 

「3号機の移送が開始されたとの通達だ」

 

「ここへ来るのか。となるとあの条約が・・・・・・」

 

「そうだ。だいたい予想はつくが、封印されるのは――」

 

 外の星空(作り物)を見ながら2人はここへ来る3号機の事を考えた。

 同時刻、アメリカでは十字架に縛られたエヴァンゲリオン3号機が護衛機を伴って西へ向かい飛び立った。




シン・エヴァの上映時間が2時間30分以上あるってマ?

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