シンジ達がスペツナズから訓練を受けること1週間。なんとかシステマを一通りできるようにはなっていた。向こうからすればまだまだらしいが、彼らはずっとここにいるわけではないため、さっさと覚えてもらいたいらしい。
自衛隊格闘術とは違う動きに苦戦しながらも、パイロットの中で1番の才能を見せていたのはシンジだった。
アスカとレイよりも経験がないため、新しい事を吸収しやすいそうだ。
とは言っても学校は通常通りあり、今日も軋む身体に鞭打って勉学に励み、気がついたら下校時刻になっていた。
「おばちゃん!これ3つくれ!」
そして珍しく学校帰りに駄菓子屋に寄ったシンジたちは、買ったアイスを食べながら夕日に染まる道を歩いていた。
「珍しいね。トウジの奢りなんて」
シンジはアイスを食べながら少し前を歩くトウジに言う。
「ワイも、真面目なシンジが買い食いつきおうてくれるとは思わんかったわ」
「何言ってんのさ。普段世話になってるから奢りたくなったくせに」
そうケンスケがからかう。
「うるさいわい!余計なこと言わんでもええ!」
寂れた倉庫の前にあるグラウンドで、トウジはバスケットゴールに向かってなんとなしにシュートをし、シンジとケンスケは、それを見ながらアイスの残りを食べていた。
「なぁ碇。3号機、日本に来るんだって〜?」
ケンスケは独自に仕入れた情報について、シンジから何かを聞き出そうとする。そろそろミサトに何か言っといた方がいいのではなかろうか。
しかしシンジはケンスケの情報源よりも、彼の言葉に内心ハッとした。そうだ、時期はズレたけど第8の使徒を倒したのだからいつ3号機が来てもおかしくはなかったのだ。予想外の使徒が2体来たために感覚が狂っていたようだ。
なんとかアスカを乗せないようにしなければ。シンジは動揺しないようにケンスケに答える。
「そうなの?聞いてないよ?」
「いきなり起動実験込みで、アメリカから押し付けられたっぽいぜ。でも末端の搭乗者は知らなくていい情報か。なぁ!パイロットは誰かしらないか!?」
ケンスケはニヤニヤといやーな顔でシンジに近づく。
「知らないよ」
「いいなぁパイロット!俺も乗ってみたい!」
「僕に言われてもね。でも無理だよ」
目をキラキラさせるケンスケにシンジはキッパリと言う。
「なんで!?」
「バチカン条約、知ってるでしょ?」
「・・・・・・そうだった」
さっきまでのケンスケはどこへやら。
バチカン条約の事を思い出すと一気にテンションが下がってしまった。シンジでも知らない事を知っているのだ。バチカン条約を知らないはずがない。
バチカン条約によりエヴァは3機まで。つまり現在日本にあるエヴァの内1機は封印されてしまうため、結果的にエヴァが余ることは無いのだ。
トウジはシュートを何回か成功させた後、口に咥えたアイスの棒を引き抜いてぱっと見ると不機嫌そうな顔をする。
「ちっ!ハズレかいな」
♢ ♢ ♢ ♢
その頃ゼーレの会合にて、ゲンドウと冬月はモノリスに囲まれて座っていた。
「エヴァンゲリオン5号機は失われた」
「そして4号機も・・・・・・」
「両機の損失は計画の遂行に支障をきたすのでは?特に5号機は予想外だ」
「修正の範囲内だ。問題はなかろう」
「3号機は米国政府が是非にと君へ差し出した。君の国の政府も協力的だ」
「最新鋭機だ。主戦力に足るだろう」
ゼーレの面々が一通り言い終わる。
ちなみにアメリカが日本に3号機を差し出したのは好意ではない。ゼーレに対しての恐れからエヴァを手放したのだ。4号機が消滅させられたとなると、3号機も同じようになるかもしれない。そうなると国民が黙ってはいないだろう。
選挙が近いアメリカ政府は、これ以上支持率を下げないために第1支部に圧力をかけ、3号機を日本に送らせたのだ。
次にゲンドウがNERVの要求を告げる。
「使徒殲滅は現在も遂行中です。しかし、試験前の機体は信頼に足りません。他のエヴァの予備パーツ追加補正予算を承認頂ければ」
ゲンドウはそう言うが簡単に要求は飲まれない。
「否、我々は別のところに金を使っている。そこまでは出せん」
「然様。優先すべき事柄は他にある」
「我らの望む真のエヴァンゲリオン。その誕生とリリスの復活をもって契約の時となる。それまでに必要な儀式は執り行わねばならん。よいな」
「・・・・・・分かっております。すべてはゼーレのシナリオ通りに」
ゲンドウがそう告げると、モノリスは消滅した。そして暗闇に光が戻るとブルースクリーンの何もない空間が広がる。
「真のエヴァンゲリオン。その完成までの露払いが、初号機を含む現機体の勤めというわけだな」
ゲンドウはゼーレの要求にどう動くかを考える。
「それがあのMark.06なのか?偽りの神ではなく、遂に本物の神を作ろうというわけか」
冬月もゼーレの真意について考えを巡らせる。月で見た異質なエヴァをゼーレは絶対に完成させたいようだった。
「ああ。初号機の覚醒を急がねばならん」
そう言って2人は部屋を出る。シンジの力が及ばないところで事態は着々と進みつつあった。
翌日、シンジとアスカはリビングに呼び出された。もちろん相手はミサトだ。
ミサトはゲンドウから伝えられた事を2人に話す。内容は3号機の事だった。
「え!?2号機を封印!?」
「アメリカから来るエヴァ3号機と引き換えの条件よ」
(しまった。遅かった)
シンジの危惧していた通り、話の内容はアスカにとって辛いものだった。
「なんでですか?エヴァ自体の性能は2号機がトップじゃないですか」
ミサトに質問するシンジ。
「バチカン条約のせいよ」
「「それは知って(ます)る」」
2人は仲良くハモる。いつもならアスカは噛み付いてくるが、今回はそんな反応はない。今は彼女にとって非常事態なので、いちいち気にしていられないのだ。
ミサトもからかおうと思ったが、2人の真剣な表情を見て止めた。今は真面目に話す時だ。
「ああ、なんで2号機かってことね」
「そうです。普通なら零号機が対象なんじゃ・・・・・・」
シンジの言葉にアスカはブンブンと首を縦に振る。
「そ、普通ならね。でも2号機のパスはユーロが保有してるの。だから向こうが封印すると判断したら私達じゃ止められないわ」
「じゃあ2号機はお預かりしてるだけってことなんですか?」
「何よそれ!本部はここでしょ!?ここが最高指揮権を持ってなくてどうするのよ!」
ついには机を叩き始めたアスカ。実際彼女の言うことにも一理ある。あるのだが、そんな上手くいかないのがこの世の中だ。
「それにあたしはどうなるの!?まさか3号機?」
「・・・・・・っ」
そうだ。2号機が封印されるとなると、アスカの乗る機体が無くなってしまう。
「3号機だって最新鋭機よ。上層部のほとぼりが冷めるまで我慢して」
「むぅ・・・・・・」
アスカは頬を大きく膨らませてミサトをじーっと見た。
「起動実験もやるからよろしくね」
「ミサトさん、僕が起動実験をしちゃダメなんですか?」
「うん、私も最初はそう思ったのよ。パイロットの中で1番エヴァと合っているのはシンジ君だもの。でも司令とリツコがダメだって」
「父さんが?」
「何かあった時に3号機を止められるのは初号機に乗ったシンジ君だけって思われてるみたい」
全くあの親父は余計な事をしてくれる。3号機を止める?違うだろう。アスカやトウジが乗っていても平気で殲滅を命令する男がシンジを信頼するような事を言うはずがない。
おおよそ、ゲンドウの計画にシンジが不可欠だから無駄な事をして駒を失いたくないのだろう。
ゲンドウやリツコに直談判して自分を起動実験に使ってもらう事も考えたが、あの父親は絶対に許さないだろうし、リツコもシンジとアスカならシンジを取るはずだ。
そもそも子供のわがままだと思われて相手にされないかもしれない。
「・・・・・・あたし、寝る」
不機嫌になったアスカは自分の部屋に戻って行った。どうやら、自分はそこまで重視されていないただのパイロットなんだと思ってしまったらしい。
「あらま」
「ミサトさん。エヴァってどんな感じに暴走するんですか?」
「ん?こちらからの制御が効かなくなるくらいかな。暴走したデータが少ないから詳しい事はわからないのよ」
確かにそうだ。
初号機は1度も暴走したことがないからデータが少ないのも頷ける。
「ねぇシンちゃん。何かあったの?」
「いえ・・・・・・ちょっと夢で」
「夢?」
「はい。夢でエヴァが使徒に乗っ取られるのを見たんです」
「エヴァを使徒がねぇ」
シンジはさりげなくミサトに使徒の事を伝える。信じてもらえそうにはないが。
「いやぁさすがにそれは・・・・・・ないわよ、多分」
予想通り冗談だと思われたが、絶対の自信ではなさそうだ。
ミサトの頭の中ではシンジの言葉がどうにも冗談に思えないでいた。これまでの使徒は二足歩行や正八面体、昆虫といった様々な形態があり、決まった形態は存在していないように見えた。ならば微生物やウイルスなどの小さなもので急襲するという事もないわけではない。
だがこれまでの使徒はそんな小さな個体はなかったため、細菌みたいな使徒はないだろうという考えも残っており、ミサト1人では判断できなかった。
「シンちゃん。ちょっちNERVに行ってくるから先に寝てて」
ミサトはジャケットとバックを掴んで自宅から出ていった。その顔は真剣そのもの。どうやら使徒の形態に疑問を持ってくれたようだ。
(さすがに夢は無理があったと思ったけど、なんとかなるものだね)
そしてシンジは洗い物を済ませ、部屋をささっと片付けた後、自室に戻る前にアスカの部屋の扉をノックした。さすがにこのままだと寝れないからだ。
もしかすると寝てるかも。それ以前に相手にされないかもしれないが、何もしないのはシンジは嫌だった。
「アスカ、起きてる?」
「何よ」
むすっとした顔のアスカが出てくる。
「2号機の件なら閉めるわよ」
「あ、ちょ!確かにそうだけど、アスカはこのままでいいの!?」
閉まる扉を慌てて掴んだシンジ。鍛えているお陰で、単純なパワーはアスカと同じくらいになっていた。
シンジの言葉に固まるアスカ。彼女が力を抜いたため、閉めようとしていた扉は再び開かれた。
しばらく沈黙が続く。
そして――
「あたしの・・・・・・あたしの居場所は2号機にしかないの!2号機でしかあたしの存在価値を認めさせられないの!あんたにはそれがわかる!?」
アスカはいきなりシンジの服を掴んで壁に叩きつけた。そして目に涙を浮かべてシンジを睨みつける。
「あたしはあんたと違って小さい頃から頑張ってきたの!エヴァに乗るために・・・・・・!それなのに皆あたしを見てくれない・・・・・・どうしてなのよっ!」
(そうか。アスカも・・・・・・)
ミサト宅に響くアスカの本音。シンジは初めてぶちまけられたアスカの感情に驚いていた。
目の前の少女もまた、孤独を生きてきた。母親が死んだあの日から、父親がすぐ再婚したあの日から、アスカはシンジと同じく家族愛に飢えていた。
そしてシンジは自分と似たような境遇の少女を抱きしめる。
「シン・・・・・・ジ?」
「僕も1人だったよ。でもミサトさんや綾波に出会ってから1人じゃないって実感できた。だから頼っていいんだよ。アスカには僕達がいる」
「・・・・・・」
アスカはシンジの意外な言葉にびっくりしながらも、彼の暖かい心に自分の冷たい心が溶かされていくのを感じた。
(あたしは1人じゃないんだ)
胸の中でそう思ったアスカ。気がつくと涙は止まっていた。
「・・・・・・わかった。もう少し皆を信用してみる。ありがと」
シンジから離れたアスカはそう言うと、今度は彼の首に腕を回してこちらから抱きついた。そしてパッと離れるとすぐに部屋に戻って行く。
しばらく呆けた後、部屋に戻ったシンジは自身の行動やセリフが恥ずかしく感じ、布団の上でゴロゴロ転がっていた。加持ならこんな風にするだろうな〜と思ってやった行動なので、急に恥ずかしくなったのだ。あんなの僕じゃない、と。
翌朝、互いの絆が深まった2人にNERV本部からの通達があった。
式波・アスカ・ラングレー特務一尉。
本日付で2号機パイロットを解任。3号機パイロットを任命する。
したがって、後日の起動実験に参加されたし。
エヴァの上映が来月に決まりましたね!
もう嬉しくて嬉しくて。感動しすぎて観てもいないのに泣きそうになってしまいました。
コロナ対策も万全な状態で映画館に足を運びたいですね。
興行収入はいくらかなぁ。個人的には50億は軽く超えると思う。