碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第32話 最初の分岐点

 

 

 3号機の起動実験のパイロットがアスカに正式決定された日。シンジはNERVのジムで身体を鍛えながら考え事をしていた。

 

(やっぱり無理だった。ミサトさんも頑張ったようだけど)

 

 ミサトはゲンドウに3号機をよく調べてから起動実験を行うべきだと進言していた。それには珍しくリツコも賛同し、正式な書類で司令室に送っていた。

 

 だが返ってきたのはこの結果。

 新造したばかりの3号機に何かあるわけでもない。

 第2支部を吹き飛ばされたアメリカが工作を行うのは不可能に等しい。

 仮に何かあったとしてもその時は3号機を破棄すればよい。というのがゲンドウと冬月の結論だったのだ。

 

 この決定にアスカは動揺せず、ただ従っていた。自分の力ではどうにもならない事を実感したのだろう。

 

(アスカが3号機に乗らないようにするのは無理。あ、ダミープラグって手もあるけど・・・・・・起動実験だからこれも無理か)

 

 シンジは色々と別案を考えているがどうもいい案が浮かばない。

 

(となると暴走する3号機にアスカが乗るのは確実。ならどうやってアスカを助けるかだね)

 

 これ以上考えても埒が明かないので、シンジはアスカをどう救出するかを考え始めた。

 3号機のエントリープラグは排出しようにも、青い物体(寄生した使徒の一部)によってうなじ辺りを覆われており、信号での強制射出はできなかった。となると無理矢理エントリープラグを引き抜くしかない。

 

 また、前回は初号機だけで対処したため、レイの援護はない前提で作戦を考える必要がある。

 

(1人でやるのか・・・・・・いや、やるしかないよね)

 

 それに次の使徒は侵食型。レイが傷つくのは見たくない。

 シンジが気をつければいいのは、近接戦による侵食。ATフィールドを張れば無効化できない事はないだろうが、侵食によって腕や脚をパージする覚悟はしておいた方がいい。

 

 さらにアスカを救出できたとしても、エントリープラグを庇いながらの戦闘は不可能だ。零号機もいないとなると、3号機を吹き飛ばしてからアスカのエントリープラグをできるだけ遠くに置き、3号機が体勢を立て直す前にこちらから3号機に向かうのが良作だ。

 

 それにしても使徒に侵食されたエヴァはどう止めればいいのだろう。コアを潰せばなんとかなるのだろうか。シンジはできるだけ3号機は残しておきたかったが、再利用する可能性は低いため、破壊するしか方法が考えられなかった。

 

(そもそもエントリープラグに寄生している可能性だってあるよね。だからダミープラグはエントリープラグも破壊したんじゃないかな)

 

 シンジの予想は当たっていた。

 侵食型の使徒はコアに寄生する。だがエヴァンゲリオンのコアは初号機を除いてただの器。そこへ入るパイロットにこそ使徒は寄生するのだ。

 だからシンジはそれも考慮してアスカの救出を考えなければならなかった。

 

 その頃エヴァ初号機のケイジ内。

 ゲンドウと冬月は新たに導入されるダミーシステムを検分していた。ミサトはまだ詳細を明かされていないそれを見下ろしている。

 

「あれがリツコが開発したダミーシステムか」

 

「あくまでパイロット補助との名目ですが、単独での自立制御だけでなく無人状態でのATフィールド発生まで可能。子供に操縦させるよりは人道的だそうです」

 

(人道的ねぇ。制御が難しい子供よりは扱いやすいだろうけど・・・・・・)

 

 マコトの説明を聞きながら、ミサトはなにか嫌な予感を覚えじずにはいられなかった。

 

 ダミープラグの開発が完了したその日の夜、ミサトは珍しく加持と居酒屋に来て酒を飲んでいた。ミサトは既に相当酔いが回っている様子で、加持に愚痴をこぼしていた。

 

「あの新型のダミーシステムってやつぅ?なーんかいけ好かないんだけどぉーっ?」

 

 ミサトはテーブルを酒瓶の底で叩いて鬱憤を晴らしながら、正面に座っている加持の方に身を乗り出す。

 

「ゴルゴダベースからの厳封直送品だからなぁ。得体は知れないままだ」

 

 加持は感情的になるミサトを上手いことあしらって、マイペースに飲んでいる。長い間付き合ってきた彼にとって、このミサトは慣れっこなのだろう。

 

「そんな危なっかしいものにエヴァを預けるなんて、気が知れないわ!暴走した時の対処考えてんのかしら」

 

 ミサトは頬杖をついて右手で焼酎の入ったグラスを摘むようにして持っている。

 

「人間だからあのエヴァを任せておけるってことか?信用されてるなシンジ君達は。いや、彼らだからこそか」

 

「・・・・・・それよりさ、ゼーレとかいううちの上層組織の情報、もらえないかしら」

 

 ミサトはその事について一瞬考えていたが、話題を変えて再度身を乗り出す。

 だが――

 

「例の計画を探りたいのなら止めておけ。消されるぞ」

 

 加持は声のトーンを落としてミサトに顔を近づける。その顔には珍しく真面目な表情を浮かべている。

 

「でもねー、彼らの目的である人類補完計画?気になるじゃない。NERVは裏で何をしようとしてるの?」

 

「それは・・・・・・俺も知りたいところさ」

 

 加持は大きくため息をついたあと、ぐったりと背もたれに寄りかかる。それを聞いてミサトもがっくりと肩の力を落としてお尻を席に戻す。

 

「なぁ。久方ぶりの食事だってのに、仕事の話ばかりじゃないか」

 

 運ばれてきた焼き鳥を食べながら、加持は少し不満そうな表情をする。

 

「学生時代とは違うわよ。色んなことも知ったし、背負ってしまったわ」

 

「お互い自分のことだけ考えてるわけにはいかないか・・・・・・」

 

「それに、私達よりシンちゃん達の方が背負っているものは大きいわ」

 

「だな。子供には重過ぎるよ。それでも俺たちは彼らに頼るしかない」

 

 2人はしばらく無言になる。

 再び話始めたのは10分後。頼んでいた料理が届いた時だった。2人は昔の話で盛り上がり、先程の重い空気を消そうと躍起になった。

 

 無論これが現実逃避だと言うことはわかっている。しかし使徒を倒して人類を救う事はシンジ達にしかできないのだ。自分達は自爆装置付きの基地から指示しているだけ。NERV職員は子供に戦わせているという罪を背負って生きていかなければならない。

 

 数時間後、居酒屋から出た2人は真っ直ぐコンフォート17へ向かった。途中加持が自分の家にミサトを誘ったが、軽くあしらわれてしまう。だがそんな事も慣れてるのか、加持はミサトを家に送るまで二度と同じことを言わなかった。

 

 翌日、ようやく3号機が松代の起動実験場へ到着した。各輸送機は轟音を響かせながら、慎重に高度を下げていく。

 

 ちょうどその時、NERV本部内の検診室でリツコは電話をしていた。

 

「そう。アスカの準備はできたのね。ええ、私は最後の便で松代に向かうわ。あとはお願いね。マヤ」

 

『はい先輩』

 

 どうやら3号機の実験のパイロットの件を聞いたようだった。正直アスカは抵抗するだろうと思っていたが、あっさり引き受けてくれた。おそらく同棲している少年と何かあったのだろう。

 

「あの、赤木博士」

 

 ベッドで服を着ていたレイが、ボタンをとめながら電話を済ませたリツコに話しかける。

 

「2号機の子に伝えたいことが。手元に携帯端末が無くて」

 

 リツコが見るレイはいつもと少し違う様子だった。というか最近のレイはどこか生き生きとしている。リツコにとってレイは外から魂を入れた人形でしかない。しかし、ここ数ヶ月間の間(正確に言えばシンジが来てから)、人間らしさを求めるようになってきた。

 

 本来ならばそんなのはいらないはず。リツコも最初はそう思っていた。だがシンジと交流するレイの記録や、その光景を見るたびに別の事が頭に浮かんだ。

 

 このままレイがシンジやアスカと生活していったら、彼女はどうなるのだろう。

 

 職業柄そういうのは結構気になり、面白さを感じるようになっていた。

 リツコは面白そうに携帯端末を操作し、アスカの番号を表示した。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 機械や警備隊が乗ったトラックと共に車で現地へ移動中だったアスカは、携帯に留守電が入っていることに気付いて再生する。番号はリツコの物だ。何か伝え忘れた事でもあったのだろうか。

 

『一件の新しいメッセージがあります。一番目のメッセージです』

 

 音声ガイダンスが流れた後にリツコの声が聞こえる。

 

『レイ。話していいわよ』

 

 どうやら用があるのはレイの方らしい。

 アスカはレイが話し始めるのを待った。

 しかし、受話器の向こうからは全然声が聞こえてくる様子はない。いつまでも続く無音の通話に、アスカは苛立ち始める。

 

 いい加減もう切ってしまおうかと思ったその時、レイの細い声が受話器の向こうから聞こえた。

 

『頑張って』

 

 この言葉が流れた後、電話は切られた。まさかこれだけのために電話したのか。

 

 たった一言だけだった。

 レイの珍しい言葉にアスカは一瞬驚いた。しかし、何だか全てがどうでも良くなったような清々しい気持ちになって携帯を閉じる。

 

「ふん、バッカじゃないの!私がエヴァに乗りたいだけなのに」

 

 アスカは助手席から外の景色を眺めて、運転しているミサトに言う。だがその顔は不満そうではなく、微笑みを浮かべていた。

 

「ミサト、私が3号機を気に入ったら赤く塗り替えてよね。あたしのカラーなんだから」

 

「ええ。もちろんよ」

 

 不器用なアスカを見て、ミサトは優しく微笑む。彼女の母として、姉として接しているため、素直になるアスカの成長が嬉しかったのだ。

 

 一方、この日シンジは学校だったが、起動実験が失敗する可能性もなくはないため、本部にて待機という命令が下された。

 シンジと検診室から戻ってきたレイは、プラグスーツの上にNERVの制服を着込んで、発令所の一角に置かれたパイプ椅子に座る。

 

 そして――

 

「これより3号機の起動実験を開始する」

 

 ゲンドウの低い声が発令所に響き渡った。




さて。エヴァのチケットが販売開始しました。
皆さんは座席取れましたか?無論私は取れました。

東京とかの都市部にある映画館って座席半分以上埋まってたりするんですかね。
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