第11の使徒。
そう呼ばれた使徒はNERV職員全員を驚愕させるほどのものだったが、まだ誰もその事を知らない。
『エヴァ3号機、有人起動試験総括責任者到着。現在、主管制室に移動中』
発令所にいるゲンドウの号令で、担当のスタッフは慌ただしく動き始めた。
一方リツコは現場で指揮をとるため、ミサトたちに遅れて松代に到着した。白い大きな帽子とサングラスを身に着けたリツコがVTOL機から降り立つ。3号機がある松代の現場では、着々と準備が進められていた。
付近の土地には戦争でもあるのかというくらいの地下指揮所が鉄筋コンクリートによって建設され、なぜか塹壕のような通路も完成していた。
『地上仮設ケージ及び3号機拘束システムのチェックの内容、問題なし』
『アンビリカルケーブル、接続作業開始』
仮設ケージの中にあるクレーンがゆっくりとアンビリカルケーブルを持ち上げて3号機に近づけていく。
『・・・3・・・2・・・1・・・接続を確認』
『主電源切替え終了。内部電圧は規定値をクリア』
『エントリープラグ及び足場を挿入位置で固定完了』
『付近に不審なものはなし。そのまま続けてください』
「了解。カウントダウンを開始」
ミサトは作業状況を確認しつつ指示を出していく。ちなみに現場の総指揮は彼女にある。施設の準備も、警備隊の指揮も全てミサトがやっているのだ。
『カウントダウン開始、地上作業員は総員退避せよ』
『テストパイロットの医学検査終了。現在、移動隔離室にて待機中』
「よーし。あとはリツコに引き継いで問題なさそうね」
地下の指揮所で状況を見ていたミサトが一息つこうと思った時、スカートのポケットから携帯の呼び出し音が鳴った。
「守秘回線?アスカからじゃない」
ミサトは指揮所から出て仮設の橋を渡りながら電話に出た。
「どうしたのよアスカ?」
『何だかミサトと二人で話がしたくってさ』
アスカは真新しいスッケスケのプラグスーツに着替えながら化粧台に置いた携帯に話しかける。
「そっか。あ、今日の事改めてお礼を言うわ。ありがとう」
『礼はいいわ。愚民を助けるのがエリートの義務ってだけよ。あたし人と関わるのは苦手だし、他人と合わせて楽しい振りをするのも疲れるし、他人の幸せを見るのも嫌だった。あたしはエヴァに乗れれば良かったの。元々一人が好きだし、馴れ合いの友達は要らなかったし、私をちゃんと見てくれる人はぜーんぜんいないわ。成績のトップスコアさえあればNERVで一人でも食べていけるしね』
ミサトは静かにアスカの声を聞いている。内容のわりにはどこか楽しそうな声色だったからだ。
『でも最近、他人と居ることもいいなって思ったこともあったんだ』
「それはいい事よ。同年代と話すのは楽しいでしょ?だから今をめいいっぱい楽しみなさい」
ミサトは優しい口調で声を掛ける。
着替え終わったアスカは準備を済ませて背伸びをする。プラグスーツを馴染ませているのだろう。
『こんな話ミサトが初めてね。何だか楽になったわ』
「帰ったらアスカの好きな物をシンちゃんに作らせましょ。だから頑張ってね」
ミサトは丘の上にある3号機仮設ケージの方を眺めて言う。ミサトの場所からは見えなかったが、それでも彼女はアスカを乗せて上昇するゴンドラがあるであろう方向を見ていた。
『うん、そうね。ありがとミサト』
そう言ってアスカは自分の着たプラグスーツをまじまじと見回す。くるくると回り、胸、腰、尻を窓に映して様子を見た。ちょっとマニアックな格好だ。
色は全く問題ないのだ。そう、
『ところでさ、赤いのはいいんだけど・・・・・・このテスト用プラグスーツ、見え過ぎじゃない?』
「別に誰かに見せるわけじゃないでしょー?それともなーに?シンちゃんにでも見せるのぉ?」
『そっ・・・・・・そんなはずないじゃない!!』
そう言ってアスカは通話を切った。ミサトは今夜のいい肴が出来たと思いながら指揮所に戻っていく。
顔を真っ赤にしてぷりぷり怒っているアスカは、ゴンドラが止まるのを感じると、荷物置き場に広げた私物をバッグの中に詰め込んで外へ出た。
完全に緊張がほぐれたのだろう。レイの伝言を聞いた時よりもアスカの心は軽かった。
組み立てられた足場に出たアスカを出迎えたのは、ほとんどが女性のスタッフだった。男性もいたが、少数だったし、配置も端っこの方だった。ミサトとリツコが気を利かせてくれたのだろう。
「式波特務一尉。お荷物はお預かりしますので、エントリープラグへどうぞ」
「ん、わかったわ」
アスカは話しかけてきた女性に荷物を預けると、ひょいひょいっとエントリープラグの中へ滑り込んだ。
NERV本部の発令所では、全ての準備が完了したとの報告が入る。ゲンドウや職員達は表情を変えずに、冷静に起動実験を見守っていた。
ただ1人、シンジを除いて。
シンジはこれから起こることを知っていた。知っていてアスカを危険にさらそうとしている。
アスカだけじゃない。松代にいる職員全員を見殺しにしようとしているのだ。
(これは僕の罪だ。だからこそ助けてみせる。絶対に!)
モニターを睨みつけてそう思うシンジ。
そんな彼をレイは隣で心配そうに見つめていた。
そして、実験が始まる。
「エントリースタート」
リツコの号令と共にテストが開始される。ミサトは彼女の1歩後ろで見守っていた。
『了解。エントリースタート』
『L.C.Lの圧力、正常』
『第一次接続開始』
『プラグセンサー、問題なし』
『検査数値は誤差範囲内。いけます』
「了解。作業をフェーズ2へ移行。第2次接続開始」
エントリープラグ内のアスカの耳にも、リツコの指示する声が聞こえている。
「そっか。私、自然に笑えるんだ」
アスカはコックピットに座りながら、新しく芽生えた自分の気持ちに気付いて微笑む。まだ笑えたんだと。また笑えるんだと。
その時、コックピット内の景色に異常が発生し、外の景色が見えなくなった。
驚くアスカだったが、コックピット内はどんどん変化してゆく。暗くなったと想ったら、血のような赤い色に、その次には濃い青色に。そして突然現れた光の粒と笑い声に包まれたアスカは、精神を犯されて3号機を暴走させてしまった。
指揮所には、異常を知らせる警報音が鳴り響く。
「プラグ深度100をオーバー!精神汚染濃度も危険域に突入!」
女性のオペレーターが後ろに立っているミサトとリツコに報告する。
「そんな!」
ミサトが焦りを見せる。
「パイロット、安全深度を超えます!依然止まりません!」
その報告を聞いてリツコが焦ったような声を上げる。
「引き止めて!このままでは彼女が人でなくなってしまう!ミサト!」
ミサトはリツコに言われるまでもなく、すぐさま手を打とうとする。
「起動実験中止!回路切断!」
「ダメです!体内に高エネルギー反応」
「まさか使徒なの!?」
リツコに嫌な予感が過ぎる。
その予感に答えるように、仮設ケージに拘束されていた3号機が雄叫びを上げると同時に大爆発が起こる。松代実験場は吹き飛んでしまった。
NERV本部発令所では、爆発の衝撃で設置していたカメラが破壊されてしまい、今モニターには何も映っていない。
発令所はパニック状態となっていた。
「被害状況は?」
「不明です。現在衛星から情報を収集中ですが、3号機のゲージが爆心地であると思われます」
シゲルが現状を報告する。
「救助部隊を直ちに派遣。国民にバレる前に全て処理しろ」
冬月が指示を出す。
「「「了解!」」」
「事故現場南西に未確認移動物体を発見!パターンオレンジ。使徒とは確認できません」
「直ちに第一種戦闘配置」
マコトからの報告に、ゲンドウは間髪入れずに戦闘配置を宣言する。
「碇・・・・・・」
「総員、第一種戦闘配置だ。零号機はそのまま、初号機はダミープラグに換装後出撃。戦自に応援要請」
シンジはゲンドウが言い終わる前に発令所を飛び出し、初号機のゲージへ走り出す。レイもその後に続いた。
ゲージへたどり着くと、エントリープラグはダミーシステムの入ったダミープラグに換装されていた。
シンジは階段を上りながら制服を脱ぎ、階段の1番上に到着するとそれを適当な所へ引っ掛けた。普段のシンジからは見られない行動だが、それだけ焦っているのだろう。
エントリープラグに入り込んだシンジ。ハッチが閉められ、初号機の中に挿入されるのを感じる。
『パイロット。エヴァンゲリオン起動せよ』
「はい。エヴァンゲリオン初号機、起動!」
起動する初号機。シンジは起動と同時に、誰かの声を聞いた。
さぁ。アスカちゃんを救いに行きましょう。
シン・エヴァンゲリオン劇場版:||。観てきました。
結論だけ言えば、まぁエヴァンゲリオンらしい結末でした。私が予告映像から考察した事は8割くらいは外れていましたね。
それでも、「なるほど、そういう事だったのか〜」と言える場面だらけで最高に面白かったです。
さて、この物語(SS)はまだまだ続きますので、今後ともよろしくお願い致します。(シンエヴァで描かれた設定は除く可能性大です)