碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第37話 真実を


 

 

 

 NERV本部会議室。

 ゲンドウの命令により、NERV本部にいる一定の者が集められた。

 現在会議室にいるのは、以下の通り。

 

 総司令官 碇ゲンドウ

 副司令官 冬月コウゾウ

 戦術作戦部作戦局第一課長 葛城ミサト

 技術開発部技術局第一課長 赤木リツコ

 メインオペレーター

 日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤ

 エヴァンゲリオンパイロット

 碇シンジ、綾波レイ

 

 まさにNERVの主力といった面々だった。

 一応発令所には日向達の代理を務めるオペレーターを配置して、いつでも使徒が来ていいように警戒態勢をとらせている。

 

 突然集められたシンジ達は、困惑した顔を浮かべながら椅子に座っている。本来ならばアスカも呼ばれるのだろうが、現在彼女は使徒による侵食で治療を受けている最中のため、この会議には参加できない。

 

「さて」

 

 落ち着いたところで冬月が口を開く。

 

「君たちに集まってもらったのは他でもない。真実を話す時がきたのだ」

 

「副司令!?」

 

 リツコは慌てた様子で立ち上がる。

 

「座れ」

 

 しかしゲンドウの低い声がそれを遮る。リツコはピタリと固まり、大人しく座った。

 そしてゲンドウはそのまま話し始める。

 

「これから話すのは機密情報のため、ここにいる者以外に話すのを禁ずる。破った場合、保安部を向かわせる」

 

「「「・・・・・・」」」

 

 会議室の空気が凍りつく。

 

「我々NERVは、いや、ゼーレとNERVは人類補完計画という計画のため動いている」

 

 ここでシンジ達の反応はバラバラだった。

 リツコはため息をつき、ミサトは目を見開く。オペレーター達は頭に?マークを浮かべ、シンジとレイは無表情でゲンドウを見ていた。

 

 無表情だったシンジは、内心ではとても驚いていた。まさかゲンドウが人類補完計画をミサト達に話すとは思わなかったからだ。

 

「人類補完計画とは人類を、完全な単体としての生物へ人工進化させる計画だ」

 

 ゲンドウは淡々と人類補完計画について話し始める。

 

 使徒が持っているのは永遠に生きられる生命の実。

 方や人類の持つのは知識を得る知恵の実。

 人類が持っている知恵の実だけでは永遠に生きることが出来ない。

 知恵の実を持つ人類に使徒が持つ命の実を与え、人類が個を捨てて1つとなることで知恵を持ったまま永遠の命を得ることができる。

 

「なんですかそれ!私達はその計画のために動いてきたのですか!?」

 

「そうだ。全ては南極で白き月が発見されてから始まった。セカンドインパクトもシナリオ通りの事だった」

 

 ミサトは床に崩れ落ちる。まさか自分の父親の命を奪ったセカンドインパクトが、人類の半分を死なせたあの厄災がゼーレの計画だったとは思わなかったのだ。

 

「計画は原案を私の妻、ユイが考案し、それを元に私が今の計画を立て、ゼーレに発案したのだ」

 

「では使徒も!?」

 

「ああ。奴らの殲滅も計画遂行に必要なものだった」

 

「そ、そんな・・・・・・私達のしてきた事って」

 

 マヤは震えながら言う。

 

「マヤ、どの道使徒を殲滅しなければサードインパクトで人類は滅びるのよ。人類に残された道は2つ。使徒に滅ぼされるか、使徒を滅ぼして新たな生命体を生み出すか」

 

「リツコっ、あんたまさか!」

 

 ミサトは予想以上に冷静なリツコに、1つの結論が出た。そしてそれを肯定するように冬月が口を開く。

 

「この計画を知っていたのは人類補完委員会、碇、私、そしてリツコ君だ。国のトップは知らないがな」

 

「な、なぜ・・・・・・」

 

「使徒を倒すためにエヴァンゲリオンが作られたのだ。その開発主任が知らないはずがあるまい」

 

 マヤはショックで何も言えず、ミサトは愕然とした。まさか夫婦で人類を1つにまとめる計画が立てられていたとは。

 それから会議室は静かになる。ゲンドウや冬月も自ら動こうとせず、受け身となっているようだ。

 

 5分ほど経っただろうか。

 ミサトが真剣な顔でゲンドウを見た。

 

「司令。ではなぜ我々にその話をしようと思ったのです?」

 

「この計画を中止するためだ」

 

「「「!?」」」

 

 ここにいるほぼ全員が驚いた表情を浮かべた。特に驚いていたのはリツコ。母親から仕事を受け継いで、計画を進めてきた彼女が1番驚くのも無理はない。

 

「使徒は殲滅する。だが計画は発動させん。本来は初号機を依代にし、ロンギヌスの槍と一体化させる事でアンチATフィールドを展開するはずだった。そのためにダミープラグを作っていたが失敗に終わった」

 

「ダミープラグはそのための物だったのね・・・・・・」

 

「ミサト。碇司令は失敗と仰ったけど、その原因は初号機がダミーシステムを拒絶したからよ」

 

 リツコはミサトに先の使徒との戦闘を改めて説明する。

 

「でも急に中止するなんて・・・・・・」

 

 最後にリツコはそう言ってゲンドウを見る。計画よりも重大な事が起こったのですね?という視線で。

 

「ああ。昨日私は初号機のコアに触れた。そこでユイと会ったのだよ」

 

「母さんと!?」

 

 会議室の端っこで大人しくしていたシンジは、ゲンドウの言葉に驚いてついそう叫んでしまう。レイはそんなシンジを不思議そうに見つめていた。

 

 だがゲンドウは気にせず話を続ける。

 

「ユイは初号機にダイレクトエントリーをして失敗。取り込まれてしまった。だから彼女は初号機と共にある」

 

「そっか、だからシンちゃんと相性がいいんだ」

 

「初号機の中で私はユイの願いを聞いた。それが人類補完計画の中止というわけだ」

 

 ゲンドウは冬月に話した通りにシンジ達にも説明する。技術者であるリツコは、ゲンドウが体験した非科学的な事に対し、なぜか違和感を覚えなかった。

 

 それはなぜか。ふとリツコはシンジがNERVへ来た時の事を思い出す。あの時、シンジは初号機の中で母親の事を感じていた。

 実験の失敗で初号機の中に取り込まれたユイ。それに干渉できたシンジとゲンドウ。とてもではないが、それでも「ありえない」とは言えなかったのだ。

 

「先程も言ったがこの情報はここにいる者だけにとどめろ」

 

 ゲンドウは続ける。

 

「他の職員や世界中の人々には真実に嘘を混ぜた情報を発する」

 

「し、司令。それでは!」

 

「葛城一佐。貴官の怒りもわかる。だから、最後は我々2人で責任をとるつもりだ」

 

 ミサトの言葉を遮るように冬月が言う。子供のシンジでも、彼の言葉の意味はわかってしまう。それはつまり――

 

「つまりお2人は死ぬつもりだと?」

 

 そうリツコが問う。

 

「ああ。だがそれまでにやる事はやるつもりだ」

 

 ゲンドウと冬月はどこか吹っ切れたような雰囲気を出していた。まさか本当に死ぬつもりか。

 

 

 

 

 

「ダメだよ父さん!」

 

 

 

 

 

 シンジは立ち上がってゲンドウに詰め寄った。止めるものは誰もいない。

 

「・・・・・・シンジ?」

 

「ダメだよ。死ぬなんて言わないでよ!初号機の中で母さんと話したんでしょ!?母さんは父さんに死んで欲しいなんて思ってないはずだよ!」

 

「だが私達は億単位の人を殺している。それにNERV職員の命も危険にさらしているのだぞ。お前のためでもある」

 

「それでもいやだ!」

 

 ここで父親の性格が現れたのか、シンジは引かない。

 

「母さんが初号機に取り込まれて・・・・・・僕は父さんまで失いたくない!」

 

「シンジ、お前・・・・・・」

 

「司令」

 

 呆然とするゲンドウに、ミサトはシンジの頭を優しく撫でながら話しかける。

 

「私は父を殺したあなた方を恨みます。許せる罪でもありませんし。でも私は司令や副司令に生きて欲しいと思います。生きて自分の目で、未来を見てください」

 

 まさかミサトからもそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。親友であるリツコは何回目かわからないくらいの驚いた表情で彼女を見る。

 

「では君達はどうなのかね?」

 

 急に冬月がオペレーター達に問う。

 

「僕は・・・・・・葛城さんと同じです。司令には司令として最後まで職務を全うしてほしいです」

 

 とマコト。

 

「俺は嫌です。それに2人の命で償える罪じゃない」

 

 とシゲル。

 

「私は・・・・・・わかりません。でも人が死ぬのは好きじゃありません」

 

 しゅんとして言うマヤ。

 3人共言ってる事は違えど、意味は同じだ。2人に死んで欲しくない。それがオペレーター達の結論だった。

 

「碇。どうやら我々は一生縛られそうだな」

 

 冬月は笑いながらそう言う。

 そして相変わらず手を組んでいるゲンドウに視線が集まる。

 

「・・・・・・そうですね。なら生きましょう。ユイの分まで」

 

(父さん・・・・・・)

 

 ゲンドウは生きると決めた。ならば冬月も同じだろう。

 これでいいのだ。

 

 しかし――

 

(後は使徒とゼーレをどうするか・・・・・・だね)

 

 

 

 

 




シンエヴァのBlu-rayはいつ頃でるんだろ。初回限定盤があったら買いたい。

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