ここは2号機を封印した巨大な空間。そこではしばらく開かないと思われていた封印扉がゆっくりと開かれていた。
その近くでは、いつの間にかNERVに入り込んでいた真希波・マリ・イラストリアスがピンクと白のプラグスーツに着替えるため、すっぽんぽんになって足を通している。
「うぅーさむ」
マリの吐く息は白い。日本ではほとんど見られなくなった現象だ。
「やっと新しいの着れた。ピッタリピッタリ」
♢ ♢ ♢ ♢
警報音が鳴り響く中、NERV本部発令所にシンジやミサト達が駆け込んできた。
「日向君!使徒ですって!?」
「はい!現在も進行中で既に旧小田原防衛戦を突破されました!戦略自衛隊や国連軍は航空機での攻撃を開始しています」
「しかし効果は認めず。依然進行中」
マコトの言葉をシゲルが繋ぐ。
モニターには第3新東京市が戦闘モードに移行し、戦略自衛隊と国連軍のVTOL攻撃機が使徒を攻撃している光景が映し出されている。
この使徒のスピードはこれまでの個体と比べて恐ろしく早く、あっという間に第3新東京市へ到着してしまった。
使徒は第3新東京市の兵装ビルから砲弾やミサイルが大量に浴びせられるも効いているそぶりを見せず、逆に放った光線が兵装ビルに直撃してしまう。その威力は予想以上で、ジオフロントに瓦礫が落ちてきているほどだ。
発令所には次々に被害報告が送られる。
『第4地区に直撃!』
『兵装ビルの1割が使用不能!』
『第1から第24の地表装甲システム融解!』
「う、嘘だろ・・・・・・」
「24もある特殊装甲が一撃!?そんな馬鹿な!」
マコトは使徒の攻撃に唖然とした。N2兵器を大量投入しなければ破られないはずのジオフロントの装甲板がたったの一撃で破られてしまったからだ。リツコも特殊装甲の作成に一枚かんでいたため、その衝撃は大きい。
「第12の使徒。破壊力は第6の使徒と同程度・・・・・・いやそれ以上か」
さすがの冬月も唸る。
「総力戦よ!NERVの全兵器を奴にぶつけて。戦自と国連軍にも伝えて!」
「はい!」
ミサトの命令にマコトが変事をして、各方面に命令を伝達した。すると直ぐに要塞都市の兵器という兵器が使徒に攻撃を初め、国連軍の大型機からは多数のミサイルが放たれる。
使徒は攻撃があった方向に光線を乱射し、少しだけ進行スピードが落ちた。
すると――
「先輩!2号機が移送されています!」
マヤがリツコに2号機の事をほうこくする。
「なんですって!?誰が乗ってるの!?」
「不明です!そもそも封印していたのに!」
「司令!?」
リツコはゲンドウの方へ振り返る。まさかこの男が?いや、しかしパイロットが・・・・・・。いろんな考えが彼女の頭の中を巡る。しかしゲンドウから返ってきたのはある意味納得できる応えだった。
「たった今ユーロNERVからの連絡で2号機の封印を解くとあった。パイロットは向こうから来日した者らしい」
そうか、2号機のパスを持っているのはユーロNERV。彼らが良いよと言えば出すことができる。とはいえバチカン条約は無視できないため、これはゼーレの鶴の一声でもあるのだろう。リツコはそう考えた。
2号機は移動用列車に移動し、地上まで続く線路を走る。その線路には大量のミサイルや砲弾が地表に運ばれている。NERV全ての兵器を使った総力戦だった。
「シンジ、レイ」
ゲンドウは司令の椅子から2人に話しかける。
「出撃だ。ジオフロントで待機せよ」
「「はい」」
シンジとレイはゲージに向かって走り出し、ロッカーでプラグスーツに着替えた後、それぞれのゲージに到着した。
やはりこの世界でもジオフロントが戦場となるようだ。まぁあの使徒を止められるような兵器は無いし、第一第3新東京市で戦うにしてもいつくるかわからない相手に常時ピリピリするのは精神的に疲れる。
シンジにできるのは使徒を倒すことだけだ。
『パイロット両名搭乗完了。発進シークエンスへ』
『国連軍がN2兵器による攻撃を始めました!』
ゲージが動いてエヴァンゲリオンが発進の準備を進めている頃、地上では世界最強の兵器、N2ミサイルが使用されていた。
大量のN2ミサイルが使徒に命中するが、全く効果を見せない。というかATフィールドすら展開していないように見えた。
また、爆発によって生じた爆風で避難中の市民に火の粉が降りかかる。そこにはトウジやケンスケといったシンジのクラスメイトの姿も・・・・・・。
使徒の予想外の進行速度に、慌ただしさを増していく発令所。
『目標健在』
『第2波攻撃、効果なし』
「いいから、市民の避難が最優先だ!今度こそ巻き込まれるぞ!」
避難を担当しているシゲルが電話口に叫ぶ。
「N2誘導弾の第3波を許可する!直援に回せ!」
マコトが追撃を指示する。
「日向君、2号機もジオフロントに出せる?」
「え、ええ。コースはこちらでいじれます」
「やって。3機で倒すのよ」
ミサトの命令でマコトは2号機が乗っている車両の行先をジオフロントに変更した。また、エヴァが装備できる銃火器をジオフロントに運び込み、ライフルやロケット砲、その弾が地面に並べられた。
一方、使徒を食い止めているはずの第3新東京市は破壊し尽くされていた。兵装ビルは85%がその機能を失い、山や丘、崖に設置されていた砲台やVLSも光線により消し炭となっていた。
国連軍や戦略自衛隊も相応の損害を負っており、戦闘に参加した航空機の内半分が撃墜又は消滅してしまった。
大穴が空いた第3新東京市。
使徒はシュルシュルと布のような音を立ててジオフロントに突入して行く。
「使徒がジオフロントに突入しました!」
その情報は直ぐに発令所に流れ、再び警報音が鳴った。
「やはりジオフロント配備は正解だったな」
「ああ。エヴァンゲリオンを地上に上げるのは愚策だった」
発令所でオペレーター達の声が木霊する中、エヴァンゲリオンに乗ったシンジとレイは、先に到着していた2号機に近づいていた。どうやら発令所と通信していないらしく、腰に手を当てて突っ立っている。
「あの!」
『・・・・・・ん?お、ワンコ君じゃん!』
「え?」
『私だよ。ほら、屋上で会った』
「・・・・・・ああ!」
シンジは学校の屋上で空から降ってきた少女の事を思い出した。前回瀕死の2号機を操って建物からシンジを引っ張り出した声の主もあの少女だったということも。
あの時の少女がユーロNERVがパスを持つ2号機に乗っているのならシンジの事を知っていたのも納得できる。でも彼女は中学生というより高校生に見えた。どういう事だろうか。
『私は1人でやってみたいんだけどさ。そっちはどうする?』
「き、危険ですよ!」
『なら援護してよ。武器はいっぱいあるから』
「・・・・・・・・・」
シンジは目の前の少女が自らの主張を曲げるとは不思議と思えなかった。むしろ1人で戦う事を楽しんでいるように思える。
『碇君』
黙ったシンジにレイが話しかける。
今回の使徒は今までで1番強力だ。それに時間がない。ならば――
「・・・・・・わかりました。綾波、2号機を援護しよう」
『わかったわ』
『2人ともありがとね。じゃあ配置につこうか』
マリの言葉にシンジとレイは頷いて各々の武器を持ってミサトから指定された場所に向かう。
これで使徒を迎え撃つ準備はできた。マリは新しいプラグスーツの感触を確かめて、コックピット内で深呼吸する。
「うーん、他人の匂いのするエヴァも悪くないね。さてさて?使徒は第5次防衛線を早くも突破。そっこーで片づけないと本部がパーじゃん!」
そう言ってマリは2号機の両手に装備させたパレットライフルを天井に向かって乱射する。ジオフロントの天井からは、ぬっと使徒が顔を出していた。
使徒は地上にいた時とは違うフォームでジオフロントに降りてくる。まるで神の使いであるかのように体の1部を靡かせて。
「硬いなぁ。ATフィールドが強すぎる!こっからじゃ埒があかないじゃん!」
マリは弾切れになったパレットライフルを後ろに放り投げると、次の武器を準備する。
「よっ!ほっ!はっ!」
2号機の足で武器コンテナを開くと、銃剣のような近接武器を手に取って走り出す。
「2人とも援護よろぴく!おりゃ〜っ!」
助走を付けて高く舞い上がった2号機は、使徒の頭上からて奇襲を仕掛ける。その間初号機と零号機はロケット弾で使徒に攻撃をしかけ、爆煙で2号機の姿を隠した。
動きが止まる使徒。その隙を逃さず2号機は武器を使徒に叩きつけた。今度は命中したようだ。
「ゼロ距離ならばっ!」
戦艦の装甲板のように硬いATフィールドに武器を突き立てたマリは、2号機の肩に付いているウエポンボックスを開いてニードルガンを連射する。
しかし、使徒は全ての攻撃を完全に防ぎ、ATフィールドで逆に2号機を遠くまで吹き飛ばしてしまう。
「痛ってて・・・・・・」
天井から落ちてきたビルの残骸に叩きつけられた2号機は、ひっくり返った姿で足止めを食ってしまった。
使徒は休む暇を与えずに第2波を放ってくる。シンジはマリに向かって警告した。
『2号機!あぶない!』
「え・・・・・・やばっ!」
マリは素早い判断でバク転をし、使徒の攻撃をかわす事に成功する。攻撃が当たった所は爆弾でも落ちたのかというくらい陥没していた。
「にゃろ〜、なんてやつ」
『どうしますか?』
シンジとレイは攻撃を避けながら銃弾を叩き込んでいる。
「うーん、今のままじゃ勝てないね。よしっ!試してみっか!」
使徒から少し間合いを取った位置に待機する2号機。マリは操縦席の上に立って拳をパンッと叩く。
「ユーロNERVの言っていた本当の2号機の力。見せてもらうわ。ワンコ君達は離れてて」
そう言って使徒を見据える。
「モード反転!裏コード、ザ・ビースト!」
N2誘導弾を市街地上空で使ったら下はヤバいですね。
あの使徒の攻撃で何人の民間人が巻き込まれたのだろうか。