「モード反転!裏コード、ザ・ビースト!」
マリがそう叫んだ瞬間、エントリープラグ内のモニターが落ちて赤く染まる。
そして2号機の肩に装備されていた拘束具がバラバラに吹き飛び、そこから2本の人工的な突起物が出現する。
「我慢してよ、エヴァ2号機。私も、我慢する!」
操縦席の上に立ったマリの目と、彼女が着ているプラグスーツの1部が緑色に染まる。同時に、2号機は前かがみの姿勢になると、背中からさらに突起物を出現させる。
背中から腰にかけて10本以上の突起物が出ると、2号機の姿は少し丸みをおびているように見えた。
「エヴァにこんな機能が・・・・・・」
モニターを見つめるマコトが驚く。
「2号機のリミッターが外されていきます!プラグ内モニター不能!ですが!」
「ええ。恐らくプラグ深度はマイナス値。汚染区域突入もいとわないとはね」
リツコはマヤのモニターに映し出された数値を見て、このパイロットがやろうとしていることを見届けようとする。
「ダメです!危険すぎます!」
マヤは想定の範囲内を超えた数値を見て警鐘を鳴らす。だがリツコは止めようとはしない。職業柄どうしても気になってしまうのだろう。
一方、シンジはプラグ内に映る2号機の姿をじっと見据えている。
(あれが2号機?まるで獣じゃないか)
『碇君。あの人突撃する気よ』
「え!?」
レイの警告にシンジは直ぐ反応したが、遅かった。
マリは拳に力を入れてぐっと身を縮めると、獲物を狩る獣のように目を見開く。
「人の身を、捨てて、こそ。浮かぶ、瀬も、あれっ!」
そう叫んだマリと共に咆哮を放った2号機は、アンビリカルケーブルを引きちぎる勢いで使徒へと突撃していく。
恐ろしいほどの脚力で宙に舞った2号機は、使徒の放ったATフィールドを突き破って目標の懐に迫った。
しかし、使徒はさらに分厚いATフィールドを展開して自分の間合いを死守しようとする。
コーン、コーンと2号機は一旦跳ね返されるが、再度助走を付けて飛び掛ると、強化ガラスを一枚一枚割っていくようにして、ATフィールドに殴りかかっていく。
さらにそこへ貫通力が高い対物ライフルを持った初号機と零号機が援護射撃。少しでも2号機から気を逸らそうとしていた。
「うおおおおぉっ!」
マリは半狂乱状態でATフィールドを破壊し続けるが、使徒は黙って見ている訳ではなかった。
帯状の腕を円柱状に丸めると、それを勢いよく伸ばして2号機に突き刺した。
そして、強力な刃物となって襲い掛かった腕を振り上げた途端に、2号機の左腕は切断。湖に落下する。切り落とされた左腕と、切りつけられた右腹部から大量に血が吹き出した。
「うっ・・・・・・くぅっ」
マリは損傷したところを手で押さえながら呻き声を上げる。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
マリは左腕を押さえながら、丸腰で使徒に突っ込んでいく。雄叫びを上げながら走る2号機。
しかし、使徒は正面から狙い済ましたかのように、2号機の顔面目掛けて帯状の腕を突き出す。
「危ないっ!」
だがシンジはATフィールドを展開し、2号機を射線から弾き飛ばした。
使徒が腕を引っ込めるのを見ると、シンジは2号機の下へ駆け寄り、自分のアンビリカルケーブルを差し込んだ。
『ワンコ・・・・・・君?』
「無茶しないでください!」
『・・・・・・ごめん』
マリの落ち着いた声が聞こえる。どうやら損傷箇所の神経接続が切れたのだろう。発令所は冷静のようだ。
「僕が行きます。あなたはそこにいてください。綾波、援護よろしくね」
『・・・・・・ええ』
シンジが行くと判断したのに対し、レイはあまり乗り気では無さそうだった。まぁ2号機の結果を見ればわかる事だが、あの使徒はとてつもなく強い。それを1人でシンジはやろうとしているのだ。
しかし遠距離攻撃だけで倒せないのも事実。必ず誰かは近距離で戦わなくてはならないのもレイはわかっていた。なのでレイはシンジがピンチになったら助けに行こうと考えた。
「よし・・・・・・!」
シンジは覚悟を決めると走り出す。2度と前回のような惨事を繰り返さないために、皆を救うために。
ふと周囲を見ると砲弾が後方から使徒に向かっていくのがわかる。どうやら戦略自衛隊の機動戦闘車が来てくれたようだ。
初号機が向かってくるのを感じた使徒は、再び腕を丸めて一気に射出した。
「くぅ!」
初号機はすんでのところでそれを回避。2号機が持っていた近接武器と同じ武器にATフィールドを纏わせて突き出した。
激突するATフィールド。次々にATフィールドを生み出し強度を増していく使徒の装甲に、どんどん鋭くなっていく初号機の武器。両者の激突で周囲の木々が吹き飛ぶほどの衝撃波が発生した。
このまま初号機がエネルギー切れで倒れるか。そうシンジが思った瞬間、使徒の目が光り、光線が発射された。
「し、しまっ――」
ただでさえギリギリの攻防。そこへ使徒が威力の高い光線を放ったらどうなるか。結果は見えていた。
シンジはATフィールドで弾こうとしたがタイミングが遅く、近接武器を貫通して左前腕部がもぎ取られてしまった。
「ああああああああああっ!」
激痛が腕に走る。
実際シンジの腕は無事だったが、やはり痛いものは痛い。この世界をやり直してからエヴァで重症を負ったことがなかったため、余計に痛く感じる。
『シンジ君!』
『碇君!』
ミサトとレイの声が聞こえる。
しばらく痛みが続いたが、少しするとスっと痛みが引いた。マヤが神経接続を切ったのだろう。シンジの腕には鈍痛がまだあったが、さっきよりはマシだ。
ここで負けるわけにはいかない。
シンジは左腕をさすりながら初号機を立ち上がらせた。
『碇君下がって』
零号機がこちらに近づいてくる。
「ダメだよ。零号機であいつの防御を突破できない」
『でも!』
シンジはレイの必死な声に驚く。
「・・・・・・じゃあ2人で攻撃しよう」
『わ、私もいるよぉ』
2人の通信にマリが入り込んできた。
シンジとレイは彼女の方を見ると、出血が収まった2号機がどこから拾ってきたのかわからないナイフを手に持っていた。
できれば自分だけでやりたい。でも1人じゃ使徒は倒せない。残念だが全員でやるしかないようだ。
「じゃあ僕が防御します。2人は攻撃を!」
『『わかった(よ)』』
シンジは意識をさらに集中させ、シンクロ率を100%近くまで上げた。発令所でミサトやリツコが何か言っているのが聞こえたが、もうシンジには聞こえない。
また、シンクロ率が高まった事に嬉しさを感じたのか、初号機は大きく口を開き咆哮を上げた。
「GO!」
三体のエヴァは使徒に向かって走り出す。
もう彼らは遠距離武器は持っていない。ナイフ等の近接武器を手に取っていた。
使徒は初号機らを寄せ付けまいと腕を伸ばして切り刻もうとする。その瞬間シンジはATフィールドを展開。攻撃を防ぎきった。
その隙に零号機は上から、2号機は下から使徒に襲いかかる。
だが使徒はATフィールドで両者の攻撃を弾く。それでも先程よりは薄いATフィールドだった。零号機と2号機は使徒のATフィールドで中和し、徐々に近づいてゆく。
また、いつの間に移動したのか、機動戦闘車が使徒の後方に回り込んで射撃を行っている。1点を集中的に狙っているのか、たまに使徒のATフィールドが弱くなる現象がみられた。
(よし、これなら・・・・・・)
そう思ったシンジだったが、残念ながら使徒には近づけなかった。なぜなら光線を放って初号機を足止めしていたからだ。
「2人とも・・・・・・そっち・・・・・・は?」
『私は大丈夫だよー。でも2号機が持たないかも』
『碇君、活動時間が・・・・・・』
そう。問題は使徒の攻撃だけではなく、エヴァンゲリオンの活動時間にもあった。
これだけ激しい攻撃をしかけてくる使徒に対し、アンビリカルケーブルを付けたまま戦闘を行うのはかなり難しいのだ。
シンジは残り時間を見ると、1分を切っている。
ちなみにこの時のおおよその活動時間は
零号機 2分
初号機 1分
2号機 1分半
だった。
『シンジ君!シンジ君!』
「ミサトさん!」
シンジはミサトの呼び掛けに気が付いた。
『活動時間があまりないわ!一旦下がって!』
「で、でも!」
『このままじゃエネルギー切れで動かなくなる!だから早く!』
「・・・・・・わかりました。2人とも、僕がこのまま守ってるから下がって!」
『『了解』』
あと少しという所で、3人は撤退を開始しようとジリジリ下がり始めた。
その時を使徒は狙っていたのだろう。ヒラヒラ動いている身体の1部を円柱状にして再び攻撃しようとした。だがその数は6つに増えていた。
(うそ!2つだけじゃなかったの!?)
驚愕するシンジをよそに、使徒はその照準を零号機と2号機に合わせた。
使徒はシンジが2人に警告する前に攻撃。一機につき3つの刃が彼女達を襲う。
その結果、零号機は右足を失い、2号機は左肩を抉られた。確実に1箇所命中するようにしていたのだろう。
『くぅっ!』
「綾波!」
『碇君・・・・・・私は大丈――逃げて!』
「え!?」
レイの警告にシンジが前を見ると、使徒が6つの円柱を全てこちらに向けているのが見えた。
避ける間もなく、使徒は初号機に向けて6つの刃を放つ。シンジはなんとかATフィールドの強度を高めたが、使徒が中和してしまったため無効化されてしまう。
「うぐ・・・・・・」
初号機は全身に切り傷を負い、首を守ろうとしてとっさに庇った右腕もパックリ割れてしまった。
そして再び光線。その衝撃で3機は別々の場所に吹き飛ばされた。
「痛ったたた・・・・・・あ!皆は!」
シンジが辺りを見渡すと、2号機が落下してきたビルの残骸に突っ込み、零号機は湖のほとりに身体を横たえていた。ちなみに使徒との距離は零号機が1番近い。
使徒はシンジ達をジロジロ見ると、零号機に向けて進み始めた。
(まさか零号機を!?)
やはり前回と同じく零号機を取り込むつもりだ。
またか。またなのか。
後悔の念がシンジを襲う。
「綾波ーっ!」
もう知ってる人が傷つくのはいやだ!
目の前で大切な人が死ぬなんて見たくない!
そう思って立ち上がろうとしたシンジは、そこで意識が途切れた。
第10の使徒の装甲硬すぎぃ!
テレビ番(ゼルエルだけど)でまだ途中の使徒だってんだからヤバいわ。