マリの話が終わり、ついにカヲルに話が移った。カヲルは席から立ち上がると口を開く。
「では改めて。僕は【アダムス】。第1の使徒であり、13番目の使徒でもある」
その言葉に全員の顔はこわばった。当たり前だ。目の前に使徒を名乗る少年がいるのだから。普通は違うと一蹴するだろうが、先ほどカヲルが展開したATフィールドを見てしまったので信じるしかない。それに生身の人間にどうにかできる問題ではない。
「僕が今ここに来た理由は2つ。1つはシンジ君に会うため。もう1つはリリスに会うため。リリスというのは君達が考えているモノとは違う。僕がリリスというのは――」
カヲルはある方向に指を指す。
「彼女の事さ」
「・・・・・・レイ?」
「その通り」
「ちょっと待って。リリスがレイ?どういう事よ」
カヲルの言葉にミサトは驚きを隠せない。というか少し混乱している。
「正確には彼女の魂がリリス・・・・・・だよね、リリンの王・・・・・・いや、碇ゲンドウ」
会議室にいる全員の視線がゲンドウに集まる。だがシンジが見る限り、冬月とリツコはあまり動揺していないようだ。
「・・・・・・ああ。レイは人ではない。レイはユイの遺伝子で創った身体にリリスの魂を入れたモノだ」
「そんなっ・・・・・・」
「まぁ彼女も自分の事に違和感を覚えていたみたいだけどね」
「そうなの?」
シンジは隣に座っているレイに話しかける。
「・・・・・・ええ」
レイにも思うところがあったのだろう。1部の記憶が無かったり、自分と他人の身体の構造がどこか違うところを不思議に思っていたり。しかしリツコとゲンドウ以外に聞ける人間がいなかったため、わからないままでいた。
「それで、レイになんの用?」
「そんな難しい話じゃないさ。リリス、君は今後どうしたい?」
「えっ?」
「使徒は後は僕だけだ。でもその前にリリスの意思を聞いておきたくてね」
レイの意思を?
カヲルとレイ・・・・・・いや、アダムスとリリス以外の人間はそう思った。
ここでシンジはもう1人の自分が経験した渚カヲルとの交流を思い出す。
精神を傷つけられ、学友を失い、戦友を失い、大人達に裏切られてきたシンジが出会ったのが渚カヲルだった。自分と歳は同じでもどこか年上の雰囲気を出していた彼は、シンジの全てを受け入れてくれた。
時には厳しい事を言われることもあったが、今思うと彼の言った事は正しかった。
それにさっきはシンジ、そして人類を救ってくれた。ならばレイの回答次第で再び人類は救われるのではないだろうか。
「私は・・・・・・碇君と一緒にいたい。ここで皆と過ごしたい。ポカポカするから」
「レイ・・・・・・」
レイの言葉にリツコは呟く。彼女にとって綾波レイとは観察対象や創られたモノであると同時に、どこか自分の子として見ていた時もあった。
初めてレイは自分の本音を、少人数ではあるが人前で打ち上げたのだ。リツコはそれをほんの少しだけ嬉しく感じてしまう。
また、レイの言葉を聞いたカヲルは、その言葉を予想していたかのような表情になっていた。
「やっぱりね。それは生命の母、リリスの魂が地球上全ての生き物の生涯を見届けたいと思う気持ちと同じさ。そしてリリス、君は全ての生命を1つにまとめるのではなく、個々の生命に世界を託す道を選んだ」
人類補完計画はヒトの中に眠る怒りや悲しみといった負の感情が無い、完全な生命体を創る計画。
しかしリリスはそれとは違う道、負の感情を乗り越えてヒトが成長する道を選んだ。それはつまり、生命の実を持つ側の契約者が契約を破棄する事を意味する。
「なら僕は何も言わない。リリスの想いは理解したからね。じゃあ次、碇シンジ君」
「うん?」
「どうやら君は僕と同じようだ。でも役割が違う。僕は補完へ導く最後の使者。君は未来へ導く希望の使者」
「僕が・・・・・・使者?」
「そう。本来君は僕を殺した後、サードインパクトのトリガーになるはずだったんだ。でも君は別のシナリオを作り出し、違う結果を出している」
カヲルの言う別のシナリオというのは、シンジが人類補完計画のシナリオではなく、それとは外れた行動を取っている事を言うのだろう。
確かにシンジはこれまでレイを、アスカを、ミサトらを救うために行動してきた。ただの中学生故に変えられない事もあったが、それでも前とは違う結果を迎えた。
レイをゲンドウから離れさせ、3号機に乗ったアスカを前回よりは軽傷で済ませ、そしてゲンドウの計画を止めることが出来た。
少なくともこれだけできれば目的は達成されたと言っていいだろう。
「さあシンジ君。君の意思は?君は何を望むんだい?」
「僕は皆と生きていくよ。争いもあるだろうけど、補完計画よりはマシだから」
「そうか・・・・・・君は君の望む幸せを見つけられたんだね」
シンジの言葉にカヲルは納得する。彼にとってシンジが望む世界は破壊の対象ではないのだ。
「2人からその答えを聞ければ十分さ」
「ちょっと待って。あなたはどうするの?」
ミサトが問う。
「僕がここに来たのはシンジ君に殲滅されるためだ。なら僕がここから消えればいい。僕が殲滅されない限り計画は完全に進まないからね」
「・・・・・・待ってよ!」
カヲルが部屋から去ろうとすると、シンジが慌てて呼び止める。
「よかったらここにいない?1人でいるよりずっと面白いよ?」
「シンジ君!?」
「カヲル君が出ていってもゼーレに捕まるだけです。なら第3新東京市に居てもらった方が監視もしやすいし、戦力になります」
そう。シンジが考えたのはカヲルを第3新東京市に留めておいて、来たるゼーレとの決戦に臨むためにカヲルとMark.06を戦力化しようというものだった。
もし量産機が開発されているならその数は9体の可能性がある。現在のNERVの戦力は零号機、初号機、2号機の3機。だがMark.06が加われば4機となり、ほぼ半々なのだ。
「でも使徒以外の敵なんて・・・・・・あ!」
「なるほど?シンジ君はゼーレがエヴァを使って攻めてくると考えたのね?」
さすがは作戦部と技術部を束ねているお2人。すぐにシンジの思っている事に気づいた。
「はい。カヲル君、ゼーレにエヴァはあるの?」
「そうだね。ご老人方の手元にはMark.06の後継機、Mark.07と呼ばれる量産型エヴァンゲリオンが9機建造中だ。多分来年の1月後半には完成するかな」
「9機!?パイロットはどうするわけ・・・・・・?」
「・・・・・・まさかダミープラグ!」
「なるほどな。ならパイロットはいらないか」
リツコ、加持の2人はパイロットの必要のないエヴァの運用方法をすぐに思い出した。それは初号機に無理矢理搭載されたダミープラグである。
エヴァンゲリオンのパイロットは軍隊の兵器とは違い、訓練すればなれるわけではない。シンクロ率という難関があり、いくら才能や戦闘能力が高くてもシンクロできなければ意味が無いのだ。
NERV本部の諜報員から得た情報でも、ユーロNERVが新しいパイロットを補充したという事はなかった。
となれば残るは1つ。ダミープラグだ。
「さすがだね。そう、Mark.07はダミープラグを使った機体。しかも全てにS2機関を搭載予定だよ」
「ゼーレめ、ついに完成させよったか。ダミーシステムとS2機関の組み合わせはやっかいだな」
「ああ。だがこちらにはS2機関を取り入れた初号機とMark.06がある。赤木博士」
「はい」
「直ちに初号機とMark.06のS2機関を分析し、零号機と2号機に搭載せよ」
「了解です」
ゲンドウから指示を受けたリツコは、会議室から出て外部と連絡を取った。相手は技術部の人間だろう。
「それじゃ、僕はここにいる事にするよ。君の言う通り、面白そうだしね」
「カヲル君・・・・・・ありがとう」
第13の使徒、渚カヲルはシンジらと生きていく道を選んだ。そして同時に、人類は使徒との戦いを完全に終えたのだった。
♢ ♢ ♢ ♢
部屋を出たリツコが戻ってくると、いきなりマリが手を挙げた。
「はいはーい。思ったんだけどさー、私のエヴァってどうするの?2号機は姫・・・アスカが使うし」
確かにそうだ。アスカが完治したら2号機のパイロットはマリからアスカに戻るだろう。2号機の封印が解除された以上、もうユーロNERVの権限は薄れたと言ってもいい。
だが今から新しいエヴァを建造しても果たしてMark.07の完成に間に合うかどうか。
「そうね・・・・・・じゃあ3号機を使いましょう」
3号機を・・・・・・使う?
もしかしてマリの機体はシンジが殲滅した3号機を治して使うのか。
「え、リツコそれ大丈夫なの?」
「おそらく。でも使徒がいるかいないかはそこの彼に見てもらえばいいわ」
「確かにそうね・・・・・・」
現在3号機は両手両足はパージされ、胴体とは離されて技術部が研究している。しかし人の目には見えない使徒であったため、その痕跡を探すのは困難だった。
そこでリツコはカヲルの力を借り、3号機に異常はないか確かめるつもりらしい。
「赤木君。3号機の損害は?」
「はい。3号機の1部の骨は初号機によって折られていますが、胴体は無事なため再生は可能。具体的な損傷箇所は両腕、頭部、コアです」
(うっ・・・・・・)
改めて言われると、シンジは少し罪悪感を感じた。量産機が襲来するなら、3号機の被害を少しでも軽くすべきだったのだ。
「しかし修復は簡単です。零号機と2号機の修理も含まれますが、切断された箇所は残っていますので」
「ではそのようにしたまえ」
「はっ」
これでNERV本部にいるパイロット全てに搭乗機が割り当てられた。
零号機・・・レイ
初号機・・・シンジ
2号機・・・アスカ
3号機改・・・マリ
Mark.06・・・カヲル
戦力的には9対5。
さすがにこれだけあれば大丈夫だろう。
「ではこれで解散とする。次の会議は2日後だ。それまで各自情報を集めておく事。いいな」
冬月は大人達にそういうと、ゲンドウと共に部屋を出て行った。それからシンジ達も別れ、カヲルはリツコと、ミサトは加持と一緒に退出する。
さて、残された3人のパイロットはというと・・・・・・。
「じゃ、姫のお見舞いにでも行こっか」
マリの提案により、いまだ隔離されているアスカの病室に向かったのだった。
すいません。44話を間違えて投稿してしまいました。
本当は43話が入ります。