碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第45話 あたしは誰

 

 

 あたしはアスカ。

 

 式波・アスカ・ラングレー。

 

 あなたは誰?

 

 目の前にいるあたしそっくりな娘は・・・・・・誰?

 

 

 

 

 

「・・・・・・はっ!」

 

 

 

 

 

 アスカは目を覚ました。だがそこは病室ではない。

 

「ここは・・・・・・シンジ達と行った施設じゃない」

 

 そう。アスカが目覚めたのは飛来する使徒を受け止める前に行っていた日本海洋生態系保存研究機構にある水門の上だった。

 

 しかし自分は3号機の暴走に巻き込まれたはず・・・・・・。

 

(ならあたしは病院にいるんじゃ・・・・・・?まさかここって!)

 

「そう。ここはあなたの心の中。そしてあたしの心の中でもある」

 

 突然の声に慌てて振り向くアスカ。

 そこに立っていたのは――

 

「あんたは!?」

 

「あたし?あたしはあなた。アスカよ」

 

 なんと、アスカの目の前に現れたのは、ボロボロのプラグスーツを着た彼女そっくりの少女だった。一体なんの冗談だと言いたかったが、それより早く少女が自分の事をアスカだと自己紹介をした。

 

 普通の人間なら自分と同一人物が現れたら混乱する。なぜならありえないから。未来から来たロボットの某アニメのように、過去や未来に行き来できる機械があるなら話は別だが・・・・・・。

 ところがアスカは冷静だった。

 

「・・・・・・ふん。あんたオリジナルね」

 

「そうよ。あたしは式波シリーズのオリジナル、惣流・アスカ・ラングレー。初めまして、あたしの最高傑作さん?」

 

 惣流・アスカ・ラングレー。

 彼女こそが式波・アスカ・ラングレーのオリジナルである。

 

 これはまだオリジナルアスカが小さかった頃、彼女は母親の自殺で自我が崩壊した。

 エヴァンゲリオンのパイロットとして、補完計画の登場人物として選ばれた彼女を失う事は計画の失敗を意味する。それを恐れたゼーレは、とある教授の下で秘密裏に行われていたクローン技術に注目し、ゼーレ側の開発者にそれを創らせ、2010年1月には式波シリーズとして多数のアスカを生み出した。

 

 ちなみに苗字が違うのは、開発者が自分が生み出したクローンには「〇波」と名付けたいと言ったから。

 

 魂はオリジナルの物をコピーして肉体に入れている。無論コピーしてから5年も経っているため、彼女の性格は変化してしまったが・・・・・・。

 そして現在、オリジナルアスカはユーロNERVの地下深くでL.C.L液に浸かっている。

 

「オリジナルがなんの用?」

 

「んー、そろそろ身体を返してもらおうと思って。いろいろあったけどいいかなってね」

 

「はぁ!?何言ってんの!?そもそも今までの記憶がない中でどうやって・・・・・・」

 

「・・・・・・ふっ」

 

「っ!違う!あんたはオリジナルじゃない!」

 

 アスカは目の前のオリジナルアスカの不敵な笑みに全身が凍りつくように固くなり、その意味を悟った。そしてオリジナルアスカも、アスカが発した言葉を肯定するように笑ったままだ。

 

 そう。アスカの自我が崩壊し始めたのは彼女がまだ4歳とか5歳くらいの時。それからアスカは少しずつ自分の意思で行動できなくなっていった。完全に崩壊したのは、2年後の父親が再婚した時。結果、身体を動かす事さえも出来なくなった。

 

 先程も話したが、ゼーレの意向でアスカはクローン体を作り、シナリオに用いるアスカ・ラングレーを複数用意した結果、この式波・アスカ・ラングレーが最終的に残ったのだ。

 

 だがここで疑問が1つ。

 それは記憶だ。

 目の前のオリジナルアスカの記憶や精神年齢は6歳ほどで止まっているはずなのだ。なのに話していると14から16歳くらい、つまり同年齢に思える。

 

「何者?」

 

 アスカはジリジリ離れながら問う。

 

「あたしは惣流・アスカ・ラングレー。それは間違いないわ。でもね?あなたがオリジナルと呼ぶ本体の精神はもういないの。全く、こっちのあたしはヤワいわね。」

 

「え?」

 

「あたしはこの世界の人間じゃない。再構築される前の世界のアスカよ」

 

 アスカはオリジナルアスカの言ってる事が理解できなかった。

 この世界の人間じゃない?

 再構築された世界?

 正直混乱するなという方が無理だ。

 

「びっくりしたもん。半年前だったかな?起きたらL.C.Lに浸かってるし。身体はボロボロだし。状況把握に1ヶ月くらいかかったわ。ま、簡単に言うと身体を乗っ取っちゃったのよ」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

「そんなわけだから、身体返してね。オリジナルのあたしに」

 

「いや!あたしはあたしよ!クローンであってもあたしは惣流・アスカ・ラングレーじゃない!」

 

 オリジナルアスカに抵抗するアスカ。

 

「ふぅん。ところでこの身体、使徒がいるみたいね。侵食された時に1部が残ったみたいよ。ほら」

 

 その答えは予想範囲内だったのか、オリジナルアスカは落ち着いていた。

 

 そして彼女は後ろに振り向き、指でとある空間を突っついた。指が当たった空間は水の波紋のように波が広がると、大きな円形状の窓が現れる。

 そこからは赤いコアのような結晶を黒いモヤが包んでいる様子が見えた。

 

「こいつが使徒?」

 

「そう。今はあたしの力で抑えているけど、あたしがいなくなったらどうなるかしらね〜」

 

 今度は窓を指でなぞるオリジナルアスカ。すると窓にヒビが入ってしまった。

 

「脅す気!?」

 

「まぁこいつが身体乗っ取ってもあたしならなんとかできるし問題ないわね。どうする?譲った方が苦しまないけど」

 

「くっ・・・・・・」

 

「あ、そうそう。シンジの事はまかせてね。世界が違ってもあいつはあたしのだし」

 

 嬉しそうな顔で柵によりかかるオリジナルアスカ。勝利を確信しているのだろうか。それともシンジに会えるのを楽しみにしているのか。

 

「・・・・・・ダメよ。シンジは・・・・・・シンジはあたしのモノよ!あたしを認めてくれる人なんだもん!」

 

「それはクローンに組み込まれた感情でしょ?」

 

「違う!あたしは式波・アスカ・ラングレー。あんたとは違うわ!」

 

 渡したくなかった。

 取られたくなかった。

 自分の居場所を、自分の意志を。

 オリジナルとも他のクローンとも違う、式波・アスカ・ラングレーという人間を。

 

「・・・・・・ま、わかってたけどね。いいわ、使徒が食い荒らした後にまたお邪魔するから。じゃね」

 

 オリジナルアスカは窓に拳を叩きつけた後、空へ消えていった。

 

 一方窓は徐々にひび割れが酷くなり、ポロリと破片が地面に落ちた瞬間、使徒からアスカを守っていた窓は粉々に砕け散った。

 そして黒いモヤは噴き出すように窓の外からこちら側に侵入して来る。

 

「や、やば!」

 

 アスカは慌てて後ずさりをして逃げようとするが、数歩下がると見えない壁に阻まれてそれ以上行けないようになっていた。

 

 立ち止まったところで黒いモヤは止まるわけじゃない。そのまま勢いを殺さずにアスカを飲み込んでしまう。

 飲み込まれて少しした後、アスカは目を開くとそこは先程とは違ってなんの景色もない真っ白な空間だった。

 

「使徒に飲み込まれたか・・・・・・・・・」

 

 辺りを見回すと、数メートル先にコアのような物体が宙を浮いているのが見えた。

 だが破壊しようにも武器がない。そもそも人間の身体で破壊できるような代物ではないだろうが。

 

 しばらくそれを見つめていると、コアは突然動き出してある形に変形した。

 

「やっぱりあたしの形をとるのね」

 

 そう。使徒はアスカの形に変形したのだ。

 使徒はニッコリ笑うと、その手をアスカに伸ばして、肩と心臓のある位置に手を添える。

 

「ふん。乗っ取ろうたってそうはいかないわよ。この身体はあんたみたいな奴に貰われるほど安くないんだから!」

 

 こう叫んだアスカは逆に使徒のコア、つまり使徒アスカの心臓部分に触ろうとした。

 ところが使徒は相変わらず笑ったまま。それどころか余裕すら感じる。

 

「・・・・・・違う!まさかこいつ全身がコア!?」

 

 気がつくのが遅かったが、彼女の言う通り目の前の使徒はコアが変形してアスカの形になった。つまり全身がコアなのである。

 アスカの動きが止まったのを見た使徒は、そのままアスカの身体に手を進めた。

 

 ここでありえない現象が起きる。

 使徒は手に力を入れると、服や肌にめり込むように進み出し、体内に侵入し始めた。目標はやはり心臓だろうか。

 

「は、離して!離せっ!」

 

 アスカは暴れて振りほどこうとするが、ガッチリ肩を掴まれているために離れてくれない。

 

 使徒の手がアスカの中に完全に埋まると、今度は意識が朦朧としてきた。

 

(や、やばい。意識が・・・・・・)

 

 ――ワタセ

 

(え?)

 

 ――カラダヲワタセ

 

 朦朧とする意識の中、アスカは謎の声を聞き取った。

 

(まさか使徒?使徒が意思を?)

 

 ――ワタセ!

 

(嫌だ!この身体は髪の毛1本から血の一滴まであたしのモノよ!あんたなんかに渡さない!)

 

 ――ワタスノダ!

 

(うっ・・・・・・)

 

 使徒の言葉を拒否するごとに頭痛は増していく。殲滅されたとはいえ、ここまでの強さを残していたとは誰も予想できていないだろう。

 

(あたしの居場所を見つけた。あたしを認めてくれる人を見つけた。願いが叶ったのよ。あんたなんかに・・・・・・あんたなんかに渡さない!)

 

 限界まで力を振り絞ったアスカ。

 すると朦朧としていた意識は徐々に回復していき、アスカの中に入っていた使徒は無理矢理追い出されてしまった。

 

 身体から使徒が抜けたことがわかると、視界も開け、しっかりと地面に立つ事ができた。

 

「や・・・・・・やった!」

 

 アスカは息切れしながら辺りを見ると、今度は赤い海の広がる浜辺に立っていた。数十cm前には球体状に戻った使徒のコアが浮いていたが、なぜか動く気配はなかった。

 

「あーあ、残念ね。まぁ弱体化使徒ならこんなものか」

 

「チッ、オリジナル。早くここから出しなさいよ」

 

「そういうわけにはいかないの。もうあたし自らやってやるわ」

 

 するとオリジナルアスカの手の中に1本の槍が現れた。

 

「これはロンギヌスの槍。ATフィールドを無効化し確実に相手を仕留める代物よ。もう見たくもなかったけど・・・・・・」

 

 アスカは最後の言葉は聞こえなかったが、オリジナルアスカはロンギヌスの槍と言ったのは聞こえた。あの槍は昔ユーロNERVでミサトに見せてもらった写真と同じだった。

 

 なぜその槍がここにあるのかはわからないが、とにかくピンチなのには変わりない。

 

(まずいわね。このままじゃ殺られる)

 

「じゃ、行くわよっ!」

 

 オリジナルアスカは鋭い突きを放った。

 だがアスカはギリギリでそれを避け、バックステップで後ろに下がる。

 それから何回かの攻撃を受けたが、それは全てかわせた。そもそも小さい頃から本格的な軍事訓練を受けてきたアスカ達だ。互いの動きは読めるだろうし、オリジナルアスカは訓練をしない期間があったために決着がつかない。

 

 突きの鋭さは中々のものだが、当たらなければどうということはないのだ。

 2人は一旦落ち着くために距離をとった。

 

「あんた訓練を怠っていたでしょ」

 

「言うじゃない。でもね、こっちはそちらとは地力が違うのよ!」

 

 オリジナルアスカはそう叫ぶと、今までで1番の突きを繰り出して突進してきた。

 避けようとしたアスカだったが、砂に足をとられてバランスを崩してしまう。

 

「とった・・・・・・!あ、あれ?」

 

 確実にアスカを貫いたと思ったオリジナルアスカだったが、よく見るとロンギヌスの槍は別のものに刺さっているではないか。

 

「そ、それは使徒のコア!?」

 

「ふっ。使わせてもらうわよ」

 

 まぁとっさに手に持った物がコアだったわけで・・・・・・。

 だが使徒を消し去るのとオリジナルアスカの攻撃から身を守る行動としては1番良かったのではないだろうか。

 

 ロンギヌスの槍が刺さったコアは一瞬赤い光を放つと、液体を入れた風船が割れるかのように弾け、使徒の血液が砂浜に落ちた。

 

「スキあり!」

 

 アスカは呆然としているオリジナルアスカの手からロンギヌスの槍を抜き取り、逆にその槍先を彼女の心臓に突き刺した。

 ズブリと肉を貫く感触が手に伝わる。

 

「うっ・・・・・・」

 

 オリジナルアスカの顔が苦悶の表情を見せる。

 

「クローン・・・・・・ごとき・・・・・・に」

 

「違う。あんたはオリジナルじゃない。それに惣流・アスカ・ラングレーはこの世界にはいらないの。とっとと消えなさい!」

 

 そう言って槍をもう一押しすると、オリジナルアスカに変化が現れた。使徒のコアのように真っ赤に染まったと思ったら、オレンジ色の液体になって飛び散り、濡れたプラグスーツが砂浜に落下した。

 

 使徒の血液とオリジナルアスカが変化した液体(L.C.L)は、混ざり合いながら赤い海へと流れ出ていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

 本気の殺し合いが終わり、軍事訓練を受けていたはずでも、つい息が乱れてしまった。

 

「これで、終わりかな。あれ?どうやって戻るのかしら・・・・・・んんっ!?」

 

 オリジナルアスカと使徒が消えてアスカだけが残った浜辺は、先程の出来事が終えても静かになっただけである。

 しかし直ぐに変化が訪れた。なんと後ろから赤い海の津波がこちらへ押し寄せてきたではないか。高さは軽く2mは超えているだろう。

 

「う、うそでしょ――ガボッ」

 

 あっけなく飲み込まれたアスカ。まぁあの浜辺に逃げ場なんて存在しないのだが。

 

 波に飲み込まれたアスカは必死にもがく。どっちが上でどっちが下なのかもわからずに、水面を求めてバタバタと手足を動かした。

 だがいくら動いても海面にはたどり着けない。ついに息が続かなくなったアスカは、だんだんと視界が暗くなり、考える事もできなくなったのだった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・うっ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 次にアスカが目覚めたのは、辺りを騒がしくしている白衣の者達に囲まれている病室であった。

 




てなわけで久々に登場のアスカ嬢。
LASとか言っておきながら出番が最近なかったっていうね。もし本人がいたら「もっと出番よこせ」って言うんだろうな。
そういえばこの前宮村さんがテレビで言ったアスカのセリフで、しょこたんと同じ反応をした自分はかなりヤバいのかね。むしろそれが普通なのか・・・・・・。


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