碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第46話 姫の目覚め

 

 

 シンジ達パイロットに緊急の連絡があったのは、最後に見舞いに行ってから3日後の事であった。

 ミサト宅で朝食を作る準備をしていると、突然自室からミサトが飛び出してきたのだ。

 

「シンちゃん!アスカが目ぇ覚めたって!」

 

「本当ですか!?」

 

「今からNERV本部に行くけどシンちゃんはどうする?」

 

「行きます!」

 

 それを聞いたシンジは、朝食の材料を冷蔵庫に戻した後、部屋に戻って貴重品だけ持って既に玄関から出ているミサトに続いた。

 

 2人はエレベーターから降りると急いで車に乗り込み、できるだけ人のいない道路を猛スピードで走り抜けた。普段ならミサトの危険運転を注意しているのだが、今回にいたってはそれどころではなく、むしろもっと速くと言いたいほどだった。

 

 車や荷物を運ぶための専用エレベーターから出ると、ミサトはすぐに駐車場に車を停めた。そして2人は小走りでNERVの中に入り、すれ違う職員に挨拶しながらアスカのいる病室へと向かった。

 

 病室前は人の出入りが多く、医療チームと技術部の職員がいつも以上にいた。

 さらには完全武装の警備員もおり、短機関銃を抱えて病棟ごと警備していた。シンジとミサトが病棟に近づこうとすると警備員は顔を引き締めるが、こちらに来ているのが誰だかわかった瞬間警戒を解き、敬礼して2人を出迎えた。

 

「葛城一佐、碇特務一尉。お待ちしておりました。病室は変わりませんのでどうぞ」

 

「ご苦労!」

 

「ありがとうございます」

 

 2人は隔離された病室が見える部屋に入る。中では白衣を来た職員が色んな機器を使ってアスカを検査していた。

 ちなみに2人が入ってくる少し前まで、アスカはスッポンポンの状態であちこちを見られ触られ、とても恥ずかしい思いをしていた。今は服を着た状態でもできる検査をしている。

 

「来たようね」

 

 部屋に入った2人を迎えたのはリツコとマヤ、カヲルだった。

 

「アスカはどう?」

 

「今のところ問題なし。渚君にも診てもらったけど使徒は消えたみたいよ」

 

「カヲル君、それ本当?」

 

「ああ。彼女の中にいた使徒は消えたよ。僕が言うんだから間違いないさ」

 

 カヲルは涼しい顔で言う。

 

「ただ」

 

 それにリツコが付け加えるように口を開く。

 

「アスカの精神と肉体は不安定な状態よ。一応彼女希望で2週間で退院できるようにこちらも努力するわ」

 

「そっか・・・・・・ん?彼女の希望って・・・・・・まさか言ったの!?」

 

「ええ。軽い説明だけど、本人は聞いたら張り切っちゃって」

 

「エヴァに乗れなかったのが効いてるようね」

 

 2人は周囲に聞こえないように声を最低限小さくして話している。まだ職員に知られるわけにはいかないからだ。

 

「一応今日は様子を見て、大丈夫だったら明日にでもアスカちゃんの病室を一般の所に移す予定です」

 

「あらよかったじゃない。じゃ、明日もう一回来よっか」

 

「はい」

 

 この日、シンジはアスカを見るだけで会う事はなかった。

 しかし隔離病室にいるアスカはいたって落ち着いており、たまに辺りを見回すだけでおかしな行動は取っていない。精神面は酷くはなってないようだ。

 

 だがこれはシンジ達が見えなかった(・・・・・・・・・・・)からであり、見えたら違う反応があっただろう。実はこの隔離病室の窓、これはマジックミラーなのだ。だから向こうがこちらを見ても、視界に映るのは自分自身というわけだ。

 

 相変わらず人の出入りが多い病棟を抜け出したシンジとミサト。ミサトは仕事があったが、一方のシンジは少し迷った。

 このまま家に戻るという選択肢もあったのだが、せっかくなので訓練をすることにした。

 

「おやシンジ君」

 

 トレーニングルームに入ると、保安部の連中に稽古をつけている小林一尉がシンジに気がついた。

 

 シンジがNERVに来て既に半年近くになろうとしており、彼とよく会う職員は、彼の事を名前で呼ぶようになっていた。まぁ単純にゲンドウと苗字がかぶるからという理由だが、それでも前よりはNERV職員との交流は盛んだとシンジは思っている。

 

「どうした?今日の訓練はなかったはずだが」

 

「いえ、アスカが目を覚ましたって聞いたのでミサトさんと来てたんです」

 

「そうか式波君が・・・・・・」

 

「でも今日はまだ会えないらしくて。帰るのもなんですし、トレーニングでもと」

 

「ふぅん・・・・・・」

 

 小林はシンジをジロジロ観察する。なんだか居心地が悪い。

 

「シンジ君、やっぱり帰りたまえ」

 

「え?」

 

「今の君は訓練に集中できない。頭のどこかで式波君の事を考えているからね。変に怪我されても困る」

 

 ハテナマークを浮かべるシンジをロッカールームまで連れていく小林。まぁ確かにシンジはアスカの事が頭の中から離れない。というか使徒の侵食を受けた彼女を心配しない方がおかしい。

 それにもう1人のシンジが見たアスカも使徒に心を壊された。ああなってしまうのが怖いのだ。

 

「いいかい?集中できない訓練はやる意味がないんだよ。だから今日は家でもできる事をしてるんだ。読書でも勉強でもなんでもいいから」

 

「・・・・・・わかりました」

 

 そう言った小林はロッカールームの前でシンジと分かれ、トレーニングルームに戻っていく。

 シンジもNERVの制服に着替え、コンフォート17へ歩きで戻って行った。

 

 ミサト宅へ帰ると、シンジはなにか気を紛らわすような事をし始める。最初は本を読んでいたが、1冊を読み終わらないうちに断念。次に勉強を始めた。世間はもう冬休みで、メールでヒカリから聞いた話によると、年明けにテストがあるとの事。なのでこれまでの復習を始めたのだった。

 

 夕食の準備を始めるまで勉強を続け、夕食後はお正月に食べるおせち料理を作るか否か検討し、ミサトとも話した結果、今回は取り寄せでおせちを頼む事に決まった。

 

 翌日。今度こそシンジとミサトはアスカがいる病室へ向かった。

 扉をノックすると、「はーい」というアスカの声が聞こえる。

 

「あ!」

 

 2人の姿を見たアスカは一瞬嬉しそうな顔をするが、直ぐに難しそうな顔をして携帯ゲーム機に視線を戻した。

 

「あーら元気そうじゃない」

 

「アスカ!大丈夫!?どこか怪我してない!?」

 

 なぁんだ、という風に腰に手を当てたミサト。だがシンジは駆け寄って、上から下までアスカの身体をよーく見た。

 

「な、なによ。どこも怪我してないわよ」

 

「で、でも使徒に侵食されたし!」

 

 シンジのあまりの心配っぷりにアスカは少し呆れてしまった。ミサトも面白いものを見つけたような顔をしている。

 

「よかったじゃないアスカ。この際色々お世話してもらいなさいよ」

 

「バカ言わないで。それどころじゃないってことはリツコから聞いてるし。これくらいどーってことない――わわっ!」

 

「アスカっ!」

 

 元気なところを見せようとベッドから立ち上がったアスカだったが、しばらく動いていなかったためにバランスが取れず、頭から床に落下するように見えた。

 

 だが、とっさにシンジが駆け寄ってアスカをキャッチ。落下の反動で2人はゴロゴロ転がって壁に激突。しばらく痛そうなうめき声を出していた。

 

「あ、ありが――」

 

 身を呈して助けてくれたシンジに礼を言おうとしたアスカ。ところが自身の身体にどこか違和感を感じ、その違和感を確かめるため30cmほど視線を下に下げた。

 

 その光景にアスカはピシッと固まった。

 

「アスカ?」

 

 黙ってしまったアスカにシンジは心配して話しかける。まさかどこか痛いのか、気分が悪いのか。

 そんな事を考えていると、ふと右手に慣れない感触があるのを自覚し始めた。

 

 ――ふにっ

 

 こんな感触。

 思春期男子なら1度は考えた事があるあれ(・・)だ。ところがシンジはそれどころではなく、エヴァで使徒と戦い、学校で勉学に励み、NERVで訓練を受けるという、普通ではない生活をしているためにそういった事への知識や興味は今はあまりない。

 

 それでも感じたことの無い感触にシンジは「ん?」と思って、アスカ同様視線を30cm下に向けた。

 すると視界に入ってきたのは、アスカの胸を掴んでいる自分の手であった。

 

(ヤバい。殺される)

 

 そう判断したシンジ。謝ったら手加減してくれるかな?と思いながら、視線を元に戻す。

 

「あーらあらら?もう2人共・・・・・・まだ昼間よん」

 

「―――――――――ッ!」

 

 ところがここで邪魔が入る。黙っていればいいものを、ミサトはいつもの感覚でからかい始めた。

 しかも突っ込むところはそこじゃないだろうに。夜だったらいいのかいな。

 

 まぁ相変わらずのミサトだが、彼女のいつもの調子にアスカも思考が追いつき、声にならない悲鳴を上げた。

 

(お、遅かった)

 

 みるみるうちに顔が真っ赤になるアスカ。

 これは羞恥というより怒りの方。いや、もしかしたら両方かもしれないなぁとシンジは考えた。もう現実逃避だ。

 

「こっ、この・・・・・・・・・バカシンジィッ!!」

 

 パアァン!!

 

 アスカの叫び声と共に病室に響く引っぱたく音。グーでなかったのが幸いだが、さすが小さい頃から軍事訓練を受けてきたアスカだ。威力が半端ない。

 一方シンジはこの一撃をあえて受けた。今のアスカのビンタを止める事など造作もないが、ここは甘んじて受けた。止めたり避けたりしたら男としてダメな気がしたからだ。加持がいたら褒めてくれるだろう。

 

 強烈なビンタを受けて吹っ飛ぶシンジ。すぐそこが壁だったため、両生類のようにペタリと張り付いてしまった。そしてその衝撃で彼の意識は何処かへ・・・・・・。

 

「おー、いい一撃」

 

 それを見ていたミサトは、また余計な事を言った。あんた保護者だろうが。

 

「はーっ、はーっ、はーっ」

 

 久々の一撃でアスカは息が整うのに少し時間がかかった。

 

 床に伸びるシンジをチラリと見たあと、アスカはぷりぷりしながらベッドに戻った。今度はミサトが椅子を持って近づいてくる。

 

「ま、ホントに元気そうでよかったわ。ごめんね、まさか使徒がいたなんて」

 

「何言ってんの。ミサトの責任じゃないわよ」

 

「そう。ありがと」

 

「それよりこれからの事よ。リツコから簡単に説明してもらったけど、何?次の敵はゼーレな訳?」

 

 冷静に聞いてくるアスカにミサトは彼女がいなかった時の事を語った。

 

 NERV

 ゲンドウとユイ

 人類補完計画

 綾波レイ

 第12の使徒

 etc……

 

 ミサトが説明している間、アスカは何も言わずに聞いていた。14歳だが、こういった所に関してはエリートの軍人レベルの分析能力があった。

 

 その中でも1番驚いたのが、レイの事だった。自分とは違い、魂が使徒の物であったとは夢にも思わないだろう。ちなみにレイがクローンである事は既に知っている。だが詳しい事までは知らないのだ。

 

「ふぅん。まさかエコヒイキが使徒のねぇ」

 

「聞いた時は私もびっくりしたわよ。ていうかクローンなんていたんだなって」

 

 そう言うミサトにアスカはズキリと胸が痛んだ。騙しているわけではないが、ミサトはアスカがクローン体で、多くの自分と戦い生き残った1人である事を知らない。そもそもアスカは自分がクローンである事を話さずにいたのだ。

 ミサトと初めて会ったのは、今のアスカ以外のクローン体が消え、1人になった時だった。

 

 今さらそれを説明するつもりはないし、今後も教えようとは思わない。この事実を知っているのはNERVのトップと、どっかのいけ好かないメガネだけ。アスカはこの事を墓場まで持っていく事を決意していた。

 

「ま、それでも扱いは変わらないわ。レイはレイだもの」

 

「そうね。あいつの中身がなんであろうとも」

 

「・・・・・・あ、私この後仕事なのよ。シンちゃん置いてくからね。バァーイ」

 

「え、あ、ちょ」

 

 何を思ったのか、ミサトはアスカに有無を言わせないまま退出し、気絶したシンジを残して行ってしまった。

 

 だがアスカはミサトが何をしたかったのかがわかる。シンジと2人きりにさせたかったのだろう、と。

 いつもなら鼻で笑ってシンジを放置していただろうが、オリジナルアスカと使徒との戦いでシンジの事を再認識したため、まるで恋する乙女のような感情が生まれた。

 

 しばらくモジモジしていると、ベッドの下からうめき声がした。

 

「う、あれ?僕は一体・・・・・・」

 

「あたしに張り倒されたのよ」

 

「アスカ!あ、あれは違うんだよ!わざとじゃない!」

 

「はいはい、わかってるっての」

 

 必死に弁明するシンジ。一方のアスカは内心を悟られないように顔を背けて答える。

 このまま出てってくれたら有り難かったが、突然アスカの身体を何かが包む。

 

「え?」

 

 驚いたアスカの視界には、自分を抱きしめているシンジの姿があった。

 

「よかった。本当によかった」

 

「な、なによ」

 

「だって助けるためとはいえシンクロ中に腕折ったり色々傷つけちゃったし」

 

「・・・・・・あのねぇ。あたしも第11の使徒の戦闘記録を見せてもらったけど、あの場面では最もな選択よ。あんたにしてはね」

 

 シンジとミサトが来る少し前、アスカはリツコに頼んで第11の使徒との戦闘が記録されている報告書を特別に読ませてもらった。写真付きで大変わかりやすいもので、あの時3号機の中にいたアスカでもわかるように書かれていた。

 

 エヴァンゲリオンのパイロットとして軍事訓練を受けてきたアスカは、本職の方の知識も持っており、シンジの行動は決して間違いとは思わず、彼を責める事はしないと誓っていたのだ。

 

「まぁ確かに痛かったけどあたしは助かったの。ありがとね、シンジ」

 

「アスカ・・・・・・」

 

 抱きしめられているアスカもそう言うと、身体の向きを変えてシンジの身体に手を回した。

 

(・・・・・・これが男の人の身体か。何年ぶりだろ)

 

 アスカはシンジと抱き合っていると、この行動が久々だったのを思い出す。

 確か最後にこうしたのはオリジナルアスカがまだ元気だった頃。そう、母親が事故に遭う前、家族3人で笑顔で暮らしていた時だ。

 

 あの時はまだ父が大好きだった。

 頭を撫でられ、身体を抱きしめられ、少し苦しい時もあったが、それが心地よかった。

 だがあの事故以来こうした行動はしなくなり、異性と抱き合うという事すら頭から離れていた。

 

 今アスカはその時の事を思い出していた。あの時はよかったな、と。

 もう少しこのままで。

 そう思った矢先、いきなり病室のドアが開かれた。

 

 

 

 

 

「姫ーーーー!おっはよーーーーっ!」

 

 

 

 

 

 突然現れたマリ。

 

 ノックくらいしてはどうか。

 普段ならこんなツッコミを入れるだろうが、固まってしまった2人には、それは難しい注文だった。




最近暑くて身体がだるいです
こんな時はプールだけどコロナだからなぁ・・・・・・
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