いきなり病室に入ってきたマリ。気を抜いていたシンジとアスカは、抱き合ったまま首だけをマリに向けた。
「ありゃ、お取り込み中だった?」
「「違う!」」
慌ててパッと離れる2人。
シンジは壁に寄りかかり、アスカは乱れた患者服を整えた。ここだけ見れば2人がそういう事をしていたようにも見えなくはない。
そしてシンジが離れた事でベッドの周りが空いたのを確認したマリは、今までで1番速いのではないかと思われるスピードでアスカに突進した。
「姫〜、会いたかったよーん!」
一応怪我人だという事がわかっていたのか、さすがに飛びつく事はせず、シンジのようにそっと抱きしめた。まぁシンジは頬ずりはしなかったけど・・・・・・。
「は・・・・・・そうよ!コネメガネ!あんたなんで日本にいるのよ!あとあたしの2号機!」
アスカはひっつくマリを引き剥がしながら疑問と文句をぶつける。
「え?2人は知り合い?」
目の前の惨事(?)よりも、2人が互いを知っていた方に驚いたシンジ。窓際から2人に近づいた。
「うん。姫と私はユーロNERVで一緒だったのよん。でもベタニアベースに移動になってからは会ってないんだ〜」
「相変わらずあんたは変わらないわね。呪いってのは厄介すぎるわ」
「あれ、やっぱり真希波さんのねん――」
ビシッ!
言葉を最後まで言い切る事なく、シンジはマリによってデコピンされてしまう。当然の制裁だ。
「ワ・ン・コ・君?」
「ゴメンナサイ」
やはりシンジの周りに普通の女性はいないのだろうか。
クラスメイトのヒカリは真面目で面倒見がいいのだが、妄想や思い込みが激しく、シンジとアスカの同棲がバレた時も、しばらくは「フケツフケツ」とブツブツ呟いていた。
NERVの女性オペレーター、マヤも普通の女性かもしれないが、男性と関わりをほとんど持たず、職場でも1部の男性職員としか話していない。近頃はとある同性の上司と仲がよろしいらしい。この2人、実は相性よかったりしないだろうか。
「てかあたしの2号機!裏コードも使っちゃって!」
「ごめんて。でもあの時はこーするしかなかったんだよ。姫だって同じ選択をすると思うよ?」
「くっ・・・・・・」
頬ずりしながら話すマリにアスカは何も言い返せずに歯ぎしりしている。
「あ、あのさ」
ふいにシンジは話しかけた。
「何?」
「なんで真希波さんはアスカの事を姫って呼んでるの?」
「「・・・・・・・・・」」
マリがアスカを『姫』と呼ぶのにはもちろん理由がある。あるにはあるのだが、その事実を知っている者は指で数えられる程度しかいない。
マリは冬月の研究室でとあるテーマを研究していた。それは【人体の複製】である。むろんゼーレの意向を受けたテーマで、表向きは医療に使える技術だったが、その裏では魂を新しい身体に移し替えるという事を研究していた。
だが翌年、事故にあったマリは冬月の研究室からゼーレの施設へ移され、1人で研究を続けるはめになった。
ユイやゲンドウといった天才達がいない部屋はとても寂しく、孤独を感じながらもクローン体の研究成果が出始めたのは2002年の春であった。
そしてその情報は2003年にゲヒルン所長のゲンドウの下へと伝わり、2005年には予算と人員が増加。2010年に日本とユーロで2種類のクローンが誕生した。それが綾波シリーズと式波シリーズだった。
それを命名したのはマリ。クローンを自分の子供のように、大事に大事に可愛がってきた彼女は、いつしかアスカの事を【姫】と呼ぶようになったのだ。
しかしその事実をシンジに言うかどうかは迷った。
2人はシンジを信用していないわけではない。だが、今はそれどころではないというのが結論だった。
「そりゃ姫が小さーい頃から見てきたからね。娘みたいなもんよ」
「そっか、娘か」
あまり納得していないようだったが、それほど怪しむ様子ではなかった。実際シンジは2人が何かを隠しているのに気がついたが、今は再会を祝う場だから後ででもいいや、と思った。
「やぁやぁ。みんな揃ってるね」
すると病室のドア付近から声がした。
「・・・・・・綾波、カヲル君」
そこにはレイを連れたカヲルが立っていた。
「エコヒイキ・・・・・・と、あんた誰よ」
「初めまして2号機のパイロット。僕は渚カヲル。最初にして最後の使徒さ」
もう何度目かわからない自己紹介。シンジは聞き飽きたが、初めて聞くアスカはどうなのだろうか。
「渚・・・カヲル?あ!」
「そう、僕は使徒だ。それにもう綾波レイの魂がリリスなのは知ってるんだろう?」
「ふん・・・・・・まさか使徒だとはね。まぁいいわ、あんたは敵なの味方なの?」
「味方さ」
「ゼーレのスパイなんじゃないでしょーね」
アスカはやはり信用していないようだ。それを見たシンジは慌てて話を切り替える。
「そ、そう言えばさ。ゼーレで思い出したんだけど!カヲル君が裏切った事は気が付かれないの!?」
「老人達が気がつくまで後1週間ちょっとかな。本来なら1週間かけて行う作戦だったんだ」
作戦。それはつまり人為的にサードインパクトを発生させるということ。まさかそこまでゼーレが考えていたとは・・・・・・。
「よーし。あたしの退院と同時に忙しくなりそうね」
アスカは楽しそうに言う。
実際彼女の気持ちが分からない訳でもない。最強の使徒との戦いに参加出来なかったのが相当残念なのだろう。
「それでカヲル君、何か用があって来たんじゃないの?」
「ん?ああ、そうだった。一応言っとくけど、第12の使徒との戦いを終えてパイロット全員がエヴァの呪いを受けた。だからもう身体は成長しないだろう」
「私は慣れてるからいいけどにゃ〜」
「・・・・・・僕は困るかな。学校に行けなくなるし」
「あたしは・・・・・・別にいいけど、シンジが嫌なら嫌」
エヴァの呪い。なんと忌々しいものだろう。身体の成長は止まり、うかつに外を歩けなくなってしまった。学校にも行けず、学友にも会えず、彼らに真実を話す事さえできない。
シンジはともかく、アスカは正直どうでもよかった。エヴァに乗れればそれでよかったのだが、それ以上にシンジと一緒にいたいという思いが勝り、呪いを拒絶した。
「ふむ。では呪いを解く方法があると言ったら?」
「「「え?」」」
カヲルとレイを除いた3人は驚く。
「呪いを解く、と言うよりは全てを元に戻すと言う方が正しいかな。赤い海や地軸が元通りになるのさ。僕達の成長もね」
「その方法って一体・・・・・・」
「でも今はダメだ。老人達との決戦が迫っている」
「そうね。身体を戻す前にあたし達の安全を確保しないと」
シンジもその方法が気になったが、アスカやカヲルの言う通り、ゼーレとの戦いに勝ってからでないとその作業もできないだろう。
「そっか。そうだよね。ミサトさん達も頑張ってるみたいだし」
現在NERV本部は外にバレない程度に離反の準備を進めている。対人戦や対エヴァ戦。それに戦略自衛隊との関係強化。やる事は多い。
その後シンジ達は、定期検診に来た職員に追い出されるようにしてアスカの病室から出ると、そのまま対人訓練をするために射撃場へ向かった。
もちろん子供だけではなく、小林一尉が見ている中での訓練だ。
「よう来たか」
射撃場につくと、テーブルの上にグロック26が3つ置いてあった。入ってきたシンジ達に気がついた小林一尉は、10発入りのマガジンに弾薬を詰めている。
「まったく・・・・・・パイロットが一気に2人も増えたなぁ。ま、戦力が増えるに越したことはないがな。それと誰か1人はグロック19でいいか?1人分足りないんだ」
そう言えばそうだ。
パイロットは5人。その内アスカは入院しているため一丁余る。それでも一丁足りない。いきなりパイロットが増えたため、グロック26が支給されないのだ。
「じゃあ私がやるよー。こんなかじゃ1番オトナだしね」
「大人・・・・・・?まぁいい。じゃあほれ」
「サンキュ〜」
マリはグロック19を受け取ると、そのまま射撃位置に着いた。
「ふっふーん。いっくよ〜!」
1発、2発、3発と発砲。
そしてシンジ達が見る中、マリは1マガジンを使い切り、拳銃の中に弾が入っていないのを確認して台に置いた。
そこへわらわらと集まるシンジ達。マリは得意げな顔で的を指さした。
「どうよ!」
「こ、これは・・・・・・」
なんとマリが撃った的には見事な星が描かれていた。
「真希波特務一尉・・・・・・遊ばないでくれよ」
「いやでも凄いですよこれ!」
ため息をついた小林だったが、一方のシンジは素直に感動して拍手までしていた。いくらやり直していても中身は中学生のまま。だからこういう事には素直になるのだ。
「おおワンコ君!」
マリもシンジの反応に目を輝かせている。
「ほら、もういいだろ。それでは各自訓練開始!」
半分ヤケになった小林一尉の号令で、シンジ達は各自の持ち場に着き、マガジンを拳銃に押し込んで射撃を始めた。
すっかり馴染んだグロック26はシンジのもう1つの相棒だ。そんな相棒でしっかり的を狙い、一定間隔で発砲、そして発砲。
ふとここでシンジの頭に不安がよぎる。
自分は人を撃てるのか、と。
これまで撃ってきたのは全て的、つまり生き物ですらない。エヴァに乗ってればそんな不安はない。だが降りている時、はたして撃てるのだろうか。
そう思っていると、シンジは自分が全ての弾を撃ち切っているのに気がついた。
「うむ、まぁまぁだな」
小林一尉が的を見て呟く。シンジも的を見ると、放った弾丸は一応命中しているものの、半分が端っこの所に当たっていた。
さて、他の2人は――
「お?君たちはなかなかじゃないか」
レイとカヲルの的には、全ての弾がほぼ中心を捉えていた。レイはまだわかる。だがカヲルがここまで射撃が上手かったとは・・・・・・。
その後、シンジ達は訓練を続け、満足のいく結果になると今日は解散。それぞれ自宅へと帰って行った。