暗く何もない空間に浮かび上がる7つのモノリス。ゲンドウはゼーレの会合にて、円を描くようにして並んだそれらのモノリスに囲まれていた。
「第4の使徒襲来とその殲滅、そして3番目の子供の回収、及びエヴァ初号機の初起動。ここまでは予定通りだな」
モノリスに刻まれた番号01、キールが現状を口に出す。
「第3新東京市の修理費は予定外だがね」
「凍結された零号機と比べれば・・・・・・まぁさして問題ではあるまい」
「その通り。初号機も軽傷ですんだらしいではないか」
「軽傷なのはパイロットだろう?初号機は大火傷だ」
ゲンドウは手を組んで座り、ゼーレらの声を無言で聞いていた。
「して、君の息子・・・・・・碇シンジと言ったか?」
「は・・・・・・?」
キールの予想外な質問にゲンドウは間抜けな声を上げる。
「使徒殲滅の映像は観た。発令所からの指示があったとはいえ・・・・・・少し出来すぎではないかね?」
「確かに。初陣で初めてエヴァンゲリオンに乗ったにしては上手く戦っていた」
「碇。何か知ってるのかね?」
「わかりません」
ゲンドウもシンジの戦いぶりを見て同じような感想を抱いたが、計画に支障なしと判断して気にもしていない。
そんな落ち着いた様子にキール達も深くは追求しなかった。
「まぁよい。次の第5の使徒が出現した時も役立てばな」
キールが今回の件について言及する。
「ご心配なく。初号機の実戦配備に続き、弐号機とそのパイロットも現在ドイツにて試験中です」
そうゲンドウは答える。
「よろしい。では参号機以降の建造も計画通りにやりたまえ」
「NERVとエヴァの適切な運用は君の責務だ。くれぐれも失望させぬように」
「左様。使徒殲滅はリリスとの契約のごく一部に過ぎんのだ。人類補完計画・・・・・・その遂行こそが我々の究極の願いだ」
モノリスから発せられる一通りの意見を聞いたゲンドウは、落ち着いた態度でそれに答える。
「分かっております。全てはゼーレのシナリオ通りに」
その頃、調査のために使徒との戦闘現場に来ていたマヤは、自分と同じ防護服に身を包んだミサトに報告を入れていた。
「エヴァ初号機の回収作業は終了しました。現在第6ケイジにて待機中。本日午前10時より修理開始の予定です」
「初号機内の記録は?特にATフィールドの部分」
ミサトは双眼鏡で使徒の爆心地を眺めながらマヤに話しかける。爆心地から数百mのところは真っ赤に染まり、衝撃波で家やビルが倒れている。
「記録に異常はありません。暴走した形跡もありませんでした」
マヤはタブレット端末を片手に持ってデータを参照する。
「暴走ではない。だとしたらシンジ君が自分の意思で操縦していたってことか」
「やはり本人に聴取する必要があるわね」
双眼鏡を下ろしたミサトは怪訝な表情を浮かべる。リツコも同様だった。
「しっかし・・・・・・・・・」
「「?」」
「すんごい光景ね。まさかここまで爆発するなんて」
ミサトが呆れたように呟く。
「おかげでサンプルは取れず。なんとかならないものかしらね」
残念そうなリツコ。
「それに血の池地獄みたいで嫌な感じです」
そしてマヤは爆心地を見て眉をひそめた。
♢ ♢ ♢ ♢
「・・・・・・知ってる天井だ」
シンジは前回とは違い、知っている天井を見つめていた。
先日の戦闘の後、初号機から回収されたシンジはミサトに有無を言わさずNERV直属の病院に連れて行かれた。
到着するとストレッチャーに乗せられたシンジ。病院で処置や検査を受けるそのままと個室へ運ばれ、ベットに横たわると疲労と睡魔に襲われて寝てしまい今に至る。
ミサトは多分この後来るだろう。
シンジはとりあえず今後の事を考えた。
まず頭の中を整理し、必要な事をピックアップした。
1、レイとの関係
2、アスカとの関係
3、S2機関の研究
4、戦略自衛隊、ゼーレへの対応
5、今後の使徒
と、まぁこんなものだろう。
特にレイとアスカと仲良くなる事は急務と言ってもいい。
S2機関は前の世界で搭載されなかったが、シンジの記憶の中には第14使徒(ゼルエル)を食べてS2機関を取り込んだもう1人の自分があった。だができれば・・・・・・いや、正直使徒は食べたくない。
なのでリツコを筆頭とする技術者達に頑張って開発してもらうしかない。
NERVに乗り込んで来る戦略自衛隊に対しては、NERV本部の防御力を上げるしかないだろう。そもそも特務機関NERVは本職の軍ではないのだから実力の差は明らか。他国の軍隊か戦略自衛隊の1部を
使徒に至ってはよくわからない。もしかすると、前とは違う使徒が出てくる可能性があるからだ。
この世界は前と同じ感じではありそうだが、あの公園にいたもう1人の自分の記憶。信じられないくらいの力を持つ使徒の対抗策は、その記憶から得ればなんとかなる・・・・・・はずだ。
(綾波はどこにいるんだろう?怪我してたはずだけど)
確か初陣の時には出撃を嫌がってなかったため、ストレッチャーに乗せられたレイとは会っていない。
この病院のどこかにいるのだろうか?
「シンジ君!」
「っ!?」
スパーン!と開けられた病室のドア。いきなり来たのでシンジはビックリしてしまった。
が、犯人であるミサトは悪びれもなくベッドに近づいてきた。
「や、起きた?」
「ええ、まぁ」
「じゃあ医者に診察してもらう前に、ちょっちいい?」
「はい」
「シンジ君、あなたエヴァに乗った時どうだった?」
「どうとは?」
「みょーに戦いなれてる気がしたのよねぇ」
来た。
さすがに細かい指示無しで倒したのはまずかっただろうか。しかし使徒はこちらの都合に合わせてくれないため、こっちは本気でやるしかないのだ。
「き、気のせいですよ。イメージしたら倒せたんです(ちょっと無理があるかな)」
「ふ〜ん」
シンジに疑いの目を向けたままのミサト。彼女でこれだ。もしかするとリツコも怪しんでるのでは?とシンジは思った。
「まぁいいわ。もっと詳しい事とかは訓練の時に説明するから。とにかく今は退院ね」
「もういいんですか?」
「そろそろ医者が来るはずだから、それが終わったらね。多分問題ないわよ。あとリツコも聞きたいことあるって言ってたから、近いうちにリツコの部屋に行きなさい」
ミサトの言う通り、医者は直ぐにやって来た。約3分間の診察を終え、シンジは退院を許された。
また、リツコの部屋へ呼ばれた事に関しては、ほぼ予想通りの展開だ。
病院で帰り支度をしているシンジ。その傍らにはミサトともう1人、医者と入れ違いでNERVの職員が病室を訪れていた。
内容はもちろん、シンジの家についてである。
「1人暮らしですか?」
シンジの滞在場所を聞いて驚くミサト。
「そうだ。彼の部屋は第6ブロックにある。ジオフロントも近いから問題はない」
ミサトより階級が上なのだろう。彼女に対して敬語を使わずに話している職員は規定事項を告げる。
「僕は構いませんが・・・・・・」
「え、それでいいの!?シンジ君」
ミサトはシンジを心配して表情を窺う。
14歳の少年を一人暮らし。色々心配事はある。レイは別として、シンジは来たばかりだ。しかも家族とはあまり仲がよろしくないという自分と同じ境遇の少年に、ミサトはどこか親近感を覚えていた。
「いいんですよ、一人のほうが」
と、シンジ は言ったが、本当はミサトとアスカと3人で暮らしたあの家が恋しかった。あれほど温かい家は初めてだったからだ。
そんなシンジを見て、少し考えたミサトは決心する。
「よーし。なら・・・・・・」
ミサトは職員から電話を借りるとある所へ電話をかける。用件を伝えると、電話をかけられた相手の声が電話越しに聞こえた。
『何ですって!?』
その声から察するに相手はリツコだろう。研究室でペンを握っていた彼女は受話器越しに聞こえた内容に耳を疑う。
「だからぁ、シンジ君はあたしんとこで引き取ることにしたの!上の許可も取ったし。それに、心配しなくても子供に手ぇ出したりしないわよん」
やはりシンジはゴミ屋敷、もといミサトの家に住むことになりそうだ。
むろん嫌ではない。シンジはあそこで育ったのだから。
『当たり前でしょうっ!全く何考えてるの!あなたって人は――』
ミサトの冗談(?)に反応してリツコが大声を上げる。ミサトは耳から受話器を外して苦笑いをする。
「相変らずジョークの通じない奴ねぇ」
本気なのか本気じゃないのか。リツコの口調から察するに、怒鳴られてるのは普段の行いのせいだろう。シンジとNERV職員はそう思った。
シンジにとってコンフォート17は実家のようなものなんでしょうね。ミサトはシンジの良き姉であると同時に母でもあると思います。