外からの使者がNERVを訪れてから5日後。
回答期限まで2日となった頃。
NERVでは職員達が忙しそうに走り回っていた。パイロットも例外ではなく、以前よりも人間を相手にした訓練の時間は多くなっていた。
なんの異状もなしに退院したアスカも完全ではないが8割ほど回復し、訓練に精を出している。
「チッ、まだ回復してないわね」
「姫〜、それだけ動けるならいいと思うよぉ〜」
「あんたにならまだしもシンジに倒されるなんて恥よ!」
そう言ったアスカは再びマリに掴みかかる。
だが「シンジに」とは言ったものの、実はシンジと対等以上に戦えるのは中学生いっぱいだと予想している。いくら格闘訓練を積んでいても絶対に越えられない壁があるのだ。それは性別。
パイロット達は不本意ではあるがエヴァの呪縛を受けて成長しない体となった。しかし渚カヲル曰く、その呪縛は解く事ができるそうな。
もし成長しないならばアスカはシンジに勝てるかもしれない。だがアスカはこの呪いが嫌だった。ちゃんとしたヒトとして人生を終えたかったのだ。
そのため元の体に戻ると普通の人のように成長していくだろう。アスカは女性らしく、シンジは男性らしく。
男性と女性では身体の作りが異なる。今の実力が拮抗していても、高校生にもなれば自分とシンジの戦闘能力は少しずつ離れてしまうだろう。男性より強い女性もいるが、アスカから見てシンジの格闘センスはいいため、同じ訓練内容だと抜かされる。
「やぁやぁやってるわね」
そう言ってトレーニングルームに入ってきたのは、ロシアNERVの作戦課長カリーナ・ヴェンスキーとロシア軍のレイラ・ミノロフだった。
「え、なんであんた達が・・・・・・?」
「諸君!これからは我々が訓練に付き合って上げよう!」
パチン!と指を鳴らしたカリーナ。
すると2人の後ろから数人の軍人が姿を現した。
訓練を手伝ってくれるというがどういう事か。それは来る決戦の日に備え、冬月がロシアと交渉してスペツナズの1個小隊を配備するという約束を取り付けたのだ。
向こうも条件として、衣食住・武器弾薬をNERVが準備し、決戦後の世界においてロシアを優遇するという事があげられ、冬月がそれを呑んだのだった。
それからエヴァパイロットはレイラ達にコテンパンにされ、ムキーッと怒るアスカを引っ張りながら訓練を終えた。シンジは疲れ果て夕飯は簡単なものになってしまう。
ここでミサトに頼らないのは、彼女の料理の腕と舌を信用していないという事の現れだろう。シンジはミサトが作った栄養ドリンク入りのカレーを忘れていない。
♢ ♢ ♢ ♢
翌日、NERVの技術部にて――
「おおっ!やりました!」
「よ、ようやく!」
「やりました先輩!」
今彼らが行っている最大の研究。S2機関。それがついに完成したのだ。
無事完成したS2機関。当初はコアユニットと同じ大きさと予定していたが、S2機関の搭載によって少し大きくなってしまった。だがエヴァの巨体からすればあまり支障はない。
「まずは零号機のコアユニットとS2機関搭載のコアユニットを直ちに交換します。渚カヲル君、君もいいわね」
「ああ。しかしリリンもやるね。完全では無いとはいえ、僕達の生命の実を作り上げてしまったのだから」
カヲルの言う「完全では無い」というのは、リツコらが開発した生命の実は使徒のそれとはワンランク下がったものであるということ。初号機は使徒のコアを取り込んだために完全な存在となったが、それ以外(Mark.06を除く)のエヴァはある機能が低い。それは再生機能だ。もちろん軽い傷ならほっときゃ治るというのがデータ化されており、ゲンドウもリツコも問題ないという決断になった。
ちなみになぜカヲルがここにいるのかというと、エヴァにS2機関を搭載する試みはNERV本部では初めての事。ヒトであり使徒であるカヲルは何かあった時の保険だ。
「それはそうと、あなたのMark.06。あれはなぜS2機関を搭載しているのかしら?」
「それは内緒さ。あなたほどの人間なら、知ってはいけない事があることくらいわかるだろう?」
リツコはMark.06の事を聞いたがあっさり返された。他のエヴァと共にゲージへ収容されたMark.06。一応全てのエヴァを診たリツコだったが、Mark.06だけが違ったので驚いた。永久機関が初めから搭載されていたのだ。
その事をゲンドウにも報告したが、ゼーレのエヴァを解析するのは安全性を考慮してダメだと言われてしまった。ゲンドウもあの会議でMark.06を解析しろと言ったのだが、後に危険と判断して止めさせたのだ。
まぁNERVのエヴァとゼーレのエヴァ。両方にS2機関が搭載されているならどちらを解析したいと聞かれれば、誰でもNERVと答えるはずだ。
「ま、いいけどね。じゃあ始めるわよ」
「わかったよ」
なんだかNERV本部に来てからこき使われているような気がする。
そうカヲルは思ったが、それもシンジの幸せのための割り切ってコアユニットが持ち上げられている零号機を見つめた。
さて、場所は地上の第3新東京市に移る。
第3新東京市は第12の使徒の影響によって至る所が破壊され、人が住む家やビルを建て直すスピードは遅かった。(原因は特殊装甲板の修理を優先させているため)
第壱中学校では各クラスで今後の事を生徒に説明していた。
「あの化け物との戦闘で第3新東京市は多大な被害を負い、学校は都市の復興に時間がかかると予測したため皆さんには疎開をしてもらいます」
「疎開?」
「センセ、なんやそれ」
2年A組では疎開という聞きなれない単語にハテナマークを浮かべている生徒が多数見受けられた。
「疎開とは都心から田舎などへ移動してもらう事です。対象者は僕が呼んだらプリントを取りに来てください」
担任は名簿から名前を次々に読み上げる。その中にはケンスケやヒカリの名前もあった。
「今呼ばれなかった人は他に行く場所がない人です。その人にはNERVが支援を約束していますので、無理に移動しなくても結構。ですが疎開できそうなら別のプリントに書いてください」
この疎開はNERVが学校や市に仕組んだもの。初めは疎開しなくても全員をシェルターに避難させれば大丈夫だと思っていたが、もし長期戦になった場合市民を多く抱えているぶん不利になると考えたのだ。
第12の使徒の攻撃は1部を除いた被害範囲は意外と広い。第壱中学校の校庭にコンクリートの塊が落ちていたり、校舎の一角になんかの破片が突き刺さっていたりと、崩れはしなかったが、無傷というわけではなかった。
2年A組で名前を呼ばれなかった人はトウジを含めた約3分の1。彼らは有事の際、ジオフロントのシェルターに避難することとなっている。
「先生!碇君達はどうなるんですか!」
ヒカリが手を挙げてから問う。
「碇、綾波、式波の3人は避難しない。というか皆彼らが何者か知ってるでしょ?逃げたくても逃げられないんだよ」
その通り。シンジ達はエヴァのパイロット。逃げる事は許されない。
「じゃあ僕は職員室で会議だから、皆どうするか話し合ってくれ」
そう言って担任は教室を出ていく。
彼が退出すると、教室の中は一気に騒がしくなった。少しの間とはいえ、別れる事を惜しむ者、他のクラスの友人を自分の疎開先に誘う者、行動は人それぞれだ。
「鈴原、あんた大丈夫なの?」
「委員長・・・・・・オヤジ達がここの研究所に務めててな、ここにしか住めへんのや」
「・・・・・・わかったわ。じゃあ妹さんも一緒でいいから私の家に来なさい」
ヒカリは腰に手を当て、ため息をついてからそう言った。
「ええんか!」
「私の疎開先はお父さんの実家なの。田舎だから家も大きいし、2人くらいだったら大丈夫」
「トウジ、よかったじゃんか」
「ああ。委員長、世話になるで」
結果、トウジはヒカリの疎開先におじゃますることになった。これが他人の家だったら遠慮していたのかもしれないが、トウジの事をよく知っている人だったらわかる。彼は妹の事を思って決断したのだと。
ヒカリの家なら女性はいっぱいいるし、田舎だから攻撃も何か無い限り受けない。妹の安全を考えた良い決断であった。
トウジは教卓の上に置いてある別のプリントを取り、パソコン生活であまり使わなくなった鉛筆を手に、必要な記入欄にせっせと書き込み始める。
それを見ているケンスケは、少し複雑な気持ちでそれを見ていた。
(今回の疎開・・・・・・使徒じゃなくて人と戦うのに備えてなんだぜ、とは言えないよなぁ)
ケンスケは真実をトウジやヒカリに言いたくなったが、さすがに止めた。昨日の夜、父親に今までデータを覗いていた分も含めてこってり叱られたからだ。
彼の父親はミサトから「息子さんがあなたのPCから組織のデータを見ている」と言われ、慌ててその夜に叱ったのだ。また、それと同時にある程度の事実も息子に話した。これ以上の介入を防ぐために。もちろんミサトの許可はとってある。
現在ケンスケが知っているのは、使徒は倒し終わったが外部勢力がNERV本部の技術を狙っている事だけ。だがそれだけでも情報を漏らす事は禁じられた。
これがトウジだったらポロッと言ってしまうだろうが、軍や政治に興味を持つケンスケは、知ってはいけない事、話してはいけない事をよくわかっていたため、一般人のクラスメイトには何も話さなかった。
第3新東京市で疎開が始まっている中、NERVには次々に物資が運び込まれていた。
「ねえアスカ、あの荷物はなんだと思う?」
「さぁね。うちの司令官は世界に喧嘩売ったんでしょ?回答期限は明日だし、物資が届かなくなる前にできるだけ運び入れようとしてるんじゃないかしら。中身は知らなーい」
その光景をシンジとアスカはジオフロントにある歩道に設置されたベンチに座りながら見ていた。この日は訓練が無く暇ではあるが、パイロットはジオフロントから出る事を禁じられたためにここをぶらぶらするしかなかったのだ。
2人はさながらカップルのようにも見える。ところが実際はそうではない。互いに意識しているものの、恋愛関係の話題には一切触れず、仮に話したとしてもモジモジするだけだった。
この光景をユーロNERVの職員が見たらなんと思うだろう。乙女なアスカに驚くだろうか・・・・・・。
「あ、お昼だ。食堂にでも行く?」
「行く!」
ピョンッとベンチから立ち上がるアスカ。食欲がいいのは変わらないようだ。
そして大勢の職員がいる食堂で定食を食べていると、急に放送がかかった。
『碇だ。これより職員全員に報告すべき事がある』
いきなりの放送にびっくりした。まさかゲンドウ自ら放送を行うとは思っていなかったのだ。その証拠に、大人しそうな女性職員は驚いた衝撃で味噌汁を零してしまった。
『現在、我々NERVは国連と日本国政府による干渉を受けている。彼らは――』
ゲンドウは真実に嘘を混ぜた情報を職員に話し始めた。今その話をしたと言う事は、現在ジオフロントにいるのはNERV関係者だけという事だろう。
話される真実(?)に職員達は何名かは混乱し、何名かは頷いていた。
『だが我々は要求に応じるつもりはない。使徒を倒した今、エヴァで世界大戦を起こしてはならないのだ。あと1時間後に回答を国連に発する。諸君には国連軍や戦略自衛隊と戦闘になる事を覚悟してもらいたい』
ブツっと放送は終わる。
シンジは最初職員らが騒ぎ出すと思っていたのだが、現実はそうではなかった。
「・・・・・・やっぱり」
「俺警備局だし真っ先に死ぬのかな?」
「遺書書いとこ」
どこか落ち着いた雰囲気を出す男共。
「あたしまだ死にたくないよ」
「何言ってんの。外からの干渉があるっていうのはあんたが良くわかってたじゃない」
「結婚したかった・・・・・・ぐすっ」
なぜか諦めたような感じの女性陣。
だが騒ぎ出す者はいなかった。現実を理解しようとしていないのか、受け入れているのかはわからない。それでもシンジには彼らがパニックを起こさない事を意外に思っていた。
1時間後、国連と日本国政府に全ての要求を断るという結論を突き出した。
そろそろ次章にも取り掛かろうと思います。
本編はこの章で終わりです。次章は後日談のようなものですが、まだまだ終わりませんよ。
一応次章は数話完結の短編集です。
そこで、今回から次章でどんな話を書いて欲しいかを募集します。私も考えている話がいくつかありますが、読者の意見も聞こうと思いました。
シンジ達の高校生からの話を募集します。
あくまで参考なので皆様のお考えと一致しない可能性があります。ご了承ください。
これからもよろしくお願いします!