「来た!」
警備局に所属している者がMP5を構える中、味方ではない足音が通路の向こうから聞こえるのを、3ヶ月前にNERVに入った黒野二士は聞き取った。
この場所は20人ほどが防御を固めており、初めての実戦に緊張している者が多数いた。
「まだだ。まだ撃つなよ」
その場を仕切る隊長は冷や汗をかきながら前を見すえる。
「・・・・・・撃てぇ!」
そして戦略自衛隊の隊員が姿を現した瞬間、防御陣地からはセミオートによる射撃が開始された。
今回の戦闘は時間を稼ぐ事が目的だ。
時間を稼げば松本の1師が応援に来てくれる手筈なのだ。
詳しい作戦内容は上層部しか知らないが、荒山陸将と統合幕僚長に有事の際には動いて欲しいとの契約を交わしていた。
そしてその対価として、戦略自衛隊にはS2機関搭載型の潜水艦を提供する事になっている。S2機関はブラックボックス化されているが、原子力よりも小型でメンテナンスするまでの期間も長い。
戦略自衛隊は海中戦力の要求(現在はほとんど海上自衛隊に頼っている)、NERV側は船に搭載したS2機関の研究も進めていたため、両方の事情が合致したのだ。
ということでNERV保安部は時間稼ぎが第一となり、戦自が隠れているならセミオートか三連射、こっちに向かってきたならフルオートで射撃する事が徹底された。
「弾はたっぷりある!落ち着いて狙え!」
硬い障害物で構築された防御陣地、もといコンクリートのブロックは4.73mmケースレス弾と9mmパラベラム弾を見事に弾き、立派に役割を果たしている。
とは言っても、障害物をすり抜けて飛んでくる弾はある。
戦自側にも何発か命中しているはずだが、いっこうに数は減らない。侵入口は2箇所くらいだが、その内部は迷路のように入り組んでいるため、向こうも小隊、分隊に分かれて攻撃しなければならないはずだ。
「ぐっ・・・・・・!」
「負傷!衛生兵!」
ついに警備局の1人が被弾してしまう。被弾箇所は右腕。彼は銃を取り落として通路に転がった。
直ぐに後ろに下がらせて治療を受けさせる一方、負傷した彼の場所には別の者が入ってその穴を埋める。
(やはり本職は強い。まずいな)
ここ以外にも5箇所以上で戦闘が発生しているが、なんとかくい止めている状態だ。
ふと戦自の後ろの方を見ると、約1名が背中に背負った箱を操作しているではないか。おそらくあれは通信機、本部と連絡をとるのだろう。
しばらくすると戦自は影に隠れてしまう。そして2人が何かをこちらに転がしてきた。
それはまるで小さなパイナップルみたいな・・・・・・。
「グ、グレネード!」
その言葉に気がついた者達は慌てて物陰に隠れる。だが本格的な戦闘に慣れていないために、間に合わない者もいた。
爆発する手榴弾。たまに映画で観る派手な爆発はないが、ここではそんなの関係ない。狭い通路で使われてはたまったものではなく、数名の負傷者が出てしまった。
先程通信をしていたのは本部に手榴弾の使用許可を求めていたからだ。
あまり傷つけないで制圧するには爆発物系は使わない方がいいため、突入する当初は銃のみで戦闘を行えという命令が出ていたのだ。
しかし予想以上に防御が硬く、本部もNERV本部内で武器の無制限使用を許可したのだった。
その様子は発令所にも伝えられ、オペレーター達は次々に入ってくる情報を上に報告していた。
「第1防衛線AからJポイントで戦闘発生」
「状況極めて不利。しかしなんとか抑えている模様」
「敵が手榴弾を使いました!C・F・Hの防御が崩壊します!」
他の場所では連続で手榴弾が投げられた結果、8人が死傷する所もあり、負傷者を退避させるための人数を割いて10人以下で戦線を支える事になってしまった。
「武器の制限を解除したか・・・・・・よし、第1防衛線は破棄するわ。第2防衛線まで後退して」
「しかし半数以上はまだ戦えますが・・・・・・?」
「兵力がある内に立て直すのよ。早く!」
「はい!」
マコトはミサトの指示で第1防衛線の破棄を通達。戦線の隔壁が閉鎖され、破られる前に保安部は撤退を始めた。
「リツコ。今度はあなたの出番よ」
「ええ。第2防衛線には遠隔兵器がびっしり。先程以上に耐えられるはず」
第2防衛線は第1防衛線よりも広い。その分遠隔操作の機関銃を配備しているので、人手不足にはならないはずだ。
もともと第1防衛線は突破される前提で作戦を立てていたため、予想外というわけではない。
体勢を整え敵の出方をみる第1防衛線。
敵を完全に足止めする第2防衛線。
練度の低い部隊のいる第3防衛線。
格納庫が間近にある最終防衛線。
一応格納庫前を最終防衛線とし、そこまで到達されたら強制的にエヴァを射出する手筈になっていた。
「ところで格納庫は無事?」
「発進も起動も問題無し。5機全て動けます。ただアスカちゃんが・・・・・・」
ミサトが問うとマヤは少し言いずらそうに答える。
「はい・・・・・・?」
♢ ♢ ♢ ♢
『あーもー!あたしも戦いたーい!』
戦略自衛隊による攻撃が始まってからずっと待機状態のエヴァパイロット達。案の定アスカはギャーギャーと騒ぎ始める。むろん今はエヴァに乗っているため暴れる事はできないが・・・・・・。
「しょうがないよアスカ。僕達出てっても何と戦うのさ」
『そりゃ戦車とか装甲車をぺしゃんこにするのよ』
『姫〜、私達はMark.07と戦うんだよ?今出て疲労を溜めてる場合じゃないって』
シンジとマリはアスカを宥める。空から落ちてきたアイツ以来使徒と戦っていなかったアスカは、今までの鬱憤を晴らしたいのだろう。
しかしいつ量産機が投入されるかわからないのに、わざわざ出撃して疲れる訳にもいかないのだ。
一応ミサトからは危なくなったら射出すると言われたが、そこまで危なくなると詰み状態なのではないだろうか。
一方、レイとカヲルは静かに3人を観ていた。それはまるで親が子を見守るが如く。
『むぅ〜っ!』
アスカは頬を膨らましていた。よほど戦いたいのだろう。
戦闘が始まっているのに何もできない。確かにシンジも戦いたかったが、自分達には自分達にしかできない戦いがある。敵がエヴァを使うのなら、それに対処できるようにしなければならないのだ。
場所は戦場へ戻り――
第1防衛線を破棄して撤退しているとある部隊は、死傷者が出なかったため20人全員が撤退する事ができた。
しかし戦略自衛隊の侵攻は早く、隔壁を閉鎖する前に突破され追いつかれようとしていた。一応その隔壁も閉鎖したが破られるのも時間の問題だろう。
急いで発令所に報告すると新しい隔壁と煙幕が吐き出され、戦略自衛隊の行く手を阻む。だがここで予想外の事が起きた。撤退中、無理やり煙幕を張ったために4人ほどが別の道に入ってしまい、気がついた時には引き返せないところまで来てしまっていたのだ。
「あ、あれ?他の連中は?」
「やばい!別の道に来ちまった!」
4人の目の前には隔壁があり、これ以上進めないようになっている。その奥にはベークライトが注入され、開けても通れないだろう。
『おいお前ら!どこにいる!?』
無線から隊長の声が聞こえた。
「申し訳ないです。迷いました」
『バカ!なんで迷うんだ!全く・・・発令所に知らせるから待ってろ』
そう言われると無線が切られた。
そして発令所にその事が伝わると監視カメラによる捜索が始まる。ブロックは分けられているため、意外と早く見つかった。
「いました。4人います」
「よかった。急いで第2防衛線まで案内して」
「はい・・・・・・大変です!戦自が向かってます!」
「まずい!」
迷った4人の前に現れたのは戦略自衛隊だった。助けにはいけない。いや、今から行っても間に合わないだろう。
4人も足音で気がついたのか、銃口を戦自が来る方向に向け、よく狙いを定めた。
そして戦自が姿を現すと、一斉射撃が始まる。なんとか最初の1人を射殺し次の隊員を負傷させたが、突然の攻撃を受けたにも関わらず戦自は直ぐに体勢を整えて反撃を開始した。
NERV側は先程と違い遮る物が無い通路。戦自側は通路の角で身体を隠している。どちらが有利かは分かりきった事だ。
戦自の正確な射撃で2人が負傷。他の2人も撃っているが、いつ弾が当たるかわからない状況に恐怖で狙いが定まらず、見当違いな場所に命中していた。
続いて手榴弾が投げ込まれる。
退避する場所がない彼らはもろに爆発に巻き込まれ、死にはしなかったものの負傷して銃を撃てなくなってしまった。
床に転がる4人。そこへ戦自は一斉射撃を加え、降伏する時間すら与えず射殺した。
映像には蜂の巣になった4人の側に手榴弾を2つほど転がすと、興味がなくなったかのように後退して別の場所に向かった様子が映し出されていた。
そして手榴弾の爆発で確実に4人の命は奪われ、監視カメラも破壊された。
「こ、こいつら確実に殺る気か」
マコトが呟く。
また、その横ではマヤが目を背けていた。
「・・・・・・犠牲は承知の上よ。早く第2防衛線の完成を急いで」
ミサトは俯いて指示を出す。計算では200人以上の死者を出すとされていたため覚悟はしていたが、映像越しに観るとさすがに胸が苦しくなる。
しかし向こうが降伏も許さないならこちらも戦いを止める訳にはいかない。勝利か死か。NERVの選択肢はこれしかないのだ。
第2防衛線まで下がった保安部は着実に陣地を構築し、戦略自衛隊の襲来に備えていた。第2防衛線の戦力は約400人。NERVの戦力の半分をここに送り込んでいた。それに加え第1防衛線の残存兵力もいるため、なんとか止められるかもしれない。
戦自も手榴弾を使ってきたという事は、バズーカや火炎放射器も使う可能性が出てくる。さっきより激戦になる事は間違いなかった。
火炎放射器って室内で使っていいのだろうか…?